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 お正月に特別番組をやっていたので、硯はごろごろしながら、その番組を見ていた。

 恋愛のドラマだった。硯と同じ年頃の高校生の(すっごくかっこよくて、かわいいモデルさんみたいな)少年と少女たちの恋愛の物語だった。(絶対感動しないと思ったけど、片思いの少女の告白のところで、二人が付き合うことになって、よかったと思って泣いちゃった) 

 そんなとっても甘いお菓子みたいな恋愛ドラマを見て、みんな恋愛してる。いいな。まあ、正直少しだけうらやましい。でも、いいんだ。私には水墨画(つまり、絶対に叶えたい夢)があるんだからさ。別に全然、恋愛なんてしなくていいんだけどね。そんな暇は私にはないんだから。

 とあったかいこたつの中で、ごろごろとしながら(まるでいつもの縁側に寝そべっている風花みたいだと思った)硯は思った。そんな硯の丸くなっているこたつの上には硯の食べたみかんの皮がだらしなく散らばっていた。

 そんな風に毎年と同じように、今年も年初めの数日の間だけ、硯はだらだらとした寝正月をぼんやりと過ごした。(その日は、そのままこたつで少しの間、眠ってしまった。その夢の中で、硯は子供に戻って、子猫の草花と一緒に遊んでいる、とっても楽しい夢を見た)


 季節は、春になった。

 桜の咲く季節。

 学校の中庭にある、たくさんの桜の木が美しい桜の花を咲かせていた。

 ……、そんな春の日の、幻想的な桜吹雪の風景の中。

「結局、僕は深津茂という水墨画の天才画家の、その大きな名前と、大きな存在と、大きな壁を越えることができなくて、焦ってばかりいたのかもしれない」とそんなことを学校の中庭にあるいつもの白いベンチに座って、一緒にお昼のお弁当を食べているときに、優しく吹いている桜の花の舞い散る風の中で墨は言った。

 中庭にはたくさんの学校の生徒たちがいた。みんながそれぞれ、楽しく笑い合い、美味しいお昼ご飯を食べて、きっと無意識のうちに、お互いの夢を語り合っている。(ほんの少しだけ、桜の木の枝に止まって、つばさを休めながら)

「私、墨の水墨画、大好きだよ。これは深津先生には秘密だけどさ、深津先生の水墨画よりも、ずっといいなって、思うときもときどきあるんだ。今だけじゃなくてさ、深津先生のお弟子になった、初めて墨に会ったころの、小さい子供のときからね」とそんなことを墨のとなりに座っている硯は言った。(その硯の言葉は嘘ではなくて、本当の本当の言葉だった)

 その硯の言葉を聞いて、墨は、じっと少しの間、硯の(とっても優しい笑った)顔を見てから、「ありがとう。硯」と本当に嬉しそうな顔で、にっこりと笑って言った。

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