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 深津茂展示会の目玉の展示として、今回新しく深津先生が描いた七福神の水墨画が中央にどうどうと、七枚が連続して、並んで飾ってあった。(大きな水墨画だったから、七枚の水墨画が壁一面に飾られていて、とても迫力があった)

 深津先生の描いた七福神の水墨画は本当にすごかった。深津先生はかなりの力を入れて、(もしかしたら、この作品が深津先生の生涯最高の代表作になるような)この七福神の水墨画を描いたようだった。(深津先生の画集の表紙とかになるような水墨画だった。下書きは見せてもらったけど、下書きのときから、ずいぶんと水墨画の構図は変わっていた。あれから深津先生はなんども下書きを描きなおしたようだった)

 七枚の大きな紙に描かれている七福神は圧倒的だった。正式な作品名は『七福神図』。恵比寿、大黒天、福禄寿、毘沙門天、布袋、寿老人、弁財天。深津先生の迫力のある(まるで本当にみんな生きているようだった。そこに本物の七福神がいて、硯のことを逆に見ているみたいだった)七福神を一枚一枚じっくりと見て、……、いつかは私も今、私が感じているように、水墨画を見た人が、とても感動するような、ほんの少しでも、その人の人生を豊かにできるような、見た人の心に残るような水墨画が描きたい、と強く、強く、硯は思った。(こんなに自分の心が震えたのは本当に久しぶりだった。なんだか初心を思い出すことができた。本当に今日の展示会にきてよかったと思った)

 硯は今回の展示会に挑戦した、十六歳の記念に描いた風の中にいる子供の龍の水墨画のように、とても可愛くて、なんだか見ているだけで楽しいような、たくさんの幸福を呼び込むような、水墨画を見た人が笑顔になるような、そんなひょうきんで愛嬌のある水墨画をもっともっとたくさん描いていこうと思っていた。(それがきっと、私の水墨画なのだと思った)

 その第一歩となるのが、今日、深津茂展覧会に展示される硯の描いた『風の中にいる子供の龍の水墨画』だった。

 そう。硯の水墨画は、ちゃんと(誓って、身内びいきではない。深津先生はそんなことはしないのだ)審査を通って合格をして、展覧会に展示されることになったのだ。(本当に嬉しかった。合格のことを電話で聞いたときに、久しぶりに大声で、家の中で、やったー、って叫んでしまって、妹の文にお姉ちゃんうるさいって、怒られた)

 それは硯だけではなくて、硯と一緒に深津茂展示会に挑戦した墨の描いた『白い馬の親子の水墨画』もそうだった。

 墨の白い馬の親子の水墨画も合格をした。だけど、展示会に合格したことを墨は嬉しいと思っているとは思うのだけど、硯みたいに顔や言葉にしてわかりやすく、表に出すようなことは全然しなかった。墨はやっぱり、いつもののんびりとしている墨のまんまでなにも普段と変わらなかった。

 そんな墨と一緒に並んで、硯は今、自分の風の中にいる子供の龍の水墨画と、その隣に飾ってある、墨の白い馬の親子の水墨画の二枚の水墨画を、じっと真剣なまなざして見つめていた。

 水墨画の審査をしている審査員のかた数名や一般の展示会におとずれている人たちから、墨の水墨画の前で、驚きの表情と、驚嘆の声が上がった。

 みんなが墨の白い馬の親子の水墨画を見て、驚いている。それは硯も同じだった。

 ……、その墨の描いた白い馬の親子の水墨画を見ている硯の瞳には、純粋な驚きと、大きなあこがれと、……、それから、ほんの少しの恐れの色が浮かんでいた。

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