表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
386/400

387

「……、はぁー」と硯の吐く息は真っ白になった。もう本当に冬だ。なんだか、あっという間だったな。とそんなことを高い冬の青色の空の中に、すぐに消えていった真っ白な息を見て、硯は思った。

 今年は春からずっと、あったかい日が長く続いていたのだけど、ようやく寒くなってきたと思っていると、本当にすぐに、すごく寒くなった。

「は、はっくしゅっ!!」と思わず硯は、ぶるっと体を震わせながら、大きなくしゃみをした。……、危ない、危ない。油断しないで、風邪をひかないように気をつけないと。もうすぐ深津先生の展示会だってあるんだから、とそんなことを赤い鼻をすすりながら、硯は思った。

 硯は冬の季節になって、いつもの紺色の制服の上にカラフルな赤と黄色の格子柄のふかふかのマフラーと、新しく買ってもらったばかりのお気に入りのからし色の大きめのダッフルコートを着て、素足だった足には黒のタイツを履いていた。(うん。とっても、あったかい)

 そんな風に学校までの道を歩いていると、墨を見つけた。

 墨も冬の格好をしていて、紺色の制服の上に群青色のマフラーと萌木色のダッフルコートを着ていた。(いつもの見慣れた冬の季節の墨の格好だった)

「おはよう、墨」とゆっくりと歩道を歩いている墨のところまで早足で歩いて行って、硯は言った。

「おはよう。硯」と硯を見て、墨は言った。

 それから二人は一緒に歩いて学校まで登校することにした。

 放課後の学校の帰りはほとんど毎日、同じ深津家に水墨画を勉強するために通っているから用事がなければ、一緒に帰るけど、朝の時間に学校に行くときは、墨と一緒に学校に登校しているわけではなかった。

 今日のように、偶然どこかで会えば、一緒に行くという感じだった。(たしか、中学生のときに、硯が恥ずかしがってそうなったのだと思う)

 それからちょっと歩いたところで、墨は硯を見て、「似合ってるよ。硯。その格好。新しく買ったんだね」と、とても珍しく(本当の本当に珍しかった)硯の制服の冬服の着こなしを褒めてくれた。

「……、え、あ、ありがとう」と思わずきょとんとした顔をしながら、硯は言った。

 そんなことを墨から突然言われて、なんだか晴れている青色の冬の空からいきなり雪でも降ってくるんじゃないか、と、空を見て、そんなことを硯は思った。

(……、でも、それからすぐに、ちゃんと硯は嬉しい気持ちになって、その日は一日中、学校でいつもよりもずっと、楽しそうにはしゃいでいた)


「ただいま。もー、寒いー」と言って、学校が終わって、いつものように深津先生のお家で水墨画を勉強してから、遅い時間に田丸家に硯は帰ってきた。(うん。今日も充実した一日だった。外はすごく寒かったけど)

 すぐに制服から部屋着に着替えをして、美味しい晩御飯(コロッケとエビフライと唐揚げだった)を食べて、真っ白な湯気のでているお風呂に入ると、とってもあったかくて、なんだかずっとお湯に浸かっていたい気持ちになった。(ぽかぽかして、気持ちよくて、眠ってしまいそうになった)

「あー。極楽。極楽」

 そんな風にのんびりしながらお風呂に浸かってると、「お姉ちゃん。お風呂長いよ。そろそろ出てよ」と曇りガラスのお風呂場のドアの向こう側から、硯の二つ年下の今年、十四歳で中学二年生のいつも生意気な妹の文にそう言われてしまった。(曇りガラスのところに文の顔の輪郭が、ぼんやりと見えていた)

「はーい。わかった。今、出るよ」と言って、硯は名残惜しいけど、「よいしょっと」と言って、ざばぁーと音を立てて、あったかい温泉のもとが入った緑色のお湯からでると、そのままお風呂場を出ていった。

 するとそこにはお風呂に入る準備をした、いつものようにポニーテールの髪形をしているちょっと怒った顔の文がいた。

「お風呂長いよ。お姉ちゃん。まだこれから、私だけじゃなくて、お父さんもお風呂に入るんだから」と怒った顔のままで、文は言った。

「ごめん、ごめん。お父さんにはちゃんと謝るからさ」と笑いながら文に謝って、硯は言った。

 それから濡れている髪と体をふかふかのバスタオルで拭いて、パジャマに着替えをした硯が「じゃあ、お先」と言ってお風呂場から出でいこうとすると「あのさ、お姉ちゃん。展示会、頑張ってね。今回の水墨画は自信作なんでしょ? いい評価がもらえるといいね」と硯を見ないままで、髪をほどいて、服を脱いで裸になって、体を白いタオルで隠している文は、そう言うと、そのまま曇りガラスのドアを開けて、お風呂場の中に入っていった。

 少しの間、お風呂場のドアを開けたままで、じっとしていた硯は、「うん。ありがとう。文」と小さな声で言って、それから、にっこりと満面の笑みで自然と笑うと、あったかいお風呂上がりで湯気の出ている、ぽかぽかした火照って赤くなった顔で、お風呂場から出て行って、すごく上機嫌な足取りで、お父さんに謝るために、そのまま、田丸家のリビングまで移動した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ