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墨に展示会の話をしてみると、すぐに「いいよ。僕も描いてみる」と言ってくれた。(そう言ってくれると思っていたけど、実際に墨にそう言ってもらえて、とってもうれしかった)それからちょっと様子をみて、もう少ししたら、二人で深津先生のところに展示会に作品を出展してみたいってお願いをしてみることにした。それまではとりあえず展示会に向けて作品を描いてみる。つまり、高い壁を乗り越えるのだ。(よし、やるぞ)
「硯。なんだか最近ちょっとだけ変わったね」といつものように、深津先生のお家で水墨画を描いているときの休憩の時間に、縁側で都さんが用意してくれたあんこの乗った串のお団子食べながら、あったかいお茶を飲んで、のんびりとしているときに墨が言った。
「そうかな? そんな風には思わないけど、変わったってどのあたりが?」と墨を見てあんこの乗ったお団子を頬張っている硯は言った。
墨の膝の上では、草花がいつものようにすやすやと眠っている。(まったく、のんきなものだ)
でも、草花の気持ちもわかる。
確かに今日は、年老いた猫である草花でなくても、眠たくなってしまうような、そんな、とてもいいぽかぽかしたお天気だった。
「うまく言えないけど、変わった気がする」と草花を撫でながら墨は言った。
「じゃあ、ちょっとは成長できたのかもしれない。まあ、最近は今まで以上に水墨画、頑張っているからね」と嬉しそうな顔で硯は言った。
「それは知っているよ。硯が子供のころからずっと誰よりも努力家だってことはよくわかってる」とあったかいお茶を飲んでから墨は言った。
「本当? ありがとう。素直にうれしい」と縁側に腰掛けていた硯は、子供みたいに足を動かして、はしゃぎながらそう言った。そんな硯の口元には本当に子供みたいに食べたお団子のあんこがちょっと、くっついていた。(墨に言われて、硯はそのちょっと猫に似ている小さな顔を真っ赤に染めた)




