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「技術的なことであれば問題ないよ。田丸さんはちゃんと成長しているし、これからも成長していくことができる。だから、これは水墨画の問題ではあるけれど、同時に田丸さん自身の問題でもあるんだ。ようやく田丸さんは壁にぶつかるところまできたんだよ。壁を見つけることができた。壁が見えるようになったんだ。自分の前に壁が見えると言うのはね、成長の証なんだ。田丸さんがずっと努力してきたから、真剣に水墨画を描いてきたから、壁が見えるようになったんだよ。それはきっと、とても高い壁だと思うけど、この壁は田丸さんが一人で乗り越えなくてはいけない壁なんだ。この壁は田丸さん自身でもあるんだからね。それはとても大変なことだと思う。でも、この高い壁を乗り越えることができれば田丸さんはもっと成長する。もっと、もっと、伸びるよ。もっと、もっと、自由に、どんな水墨画でも描けるようになる。きっと自分でもすごく驚くくらいにね。僕はそんな田丸さんの水墨画を見ることが、今からすごく楽しみなんだ」となんだか納得していない顔をして、じーっと深津先生を見ていた硯に向かって、深津先生はにっこりと笑って言った。
「私の前にある壁は私自身の壁。私は、その高い壁を自分の力だけで乗り越えなくてはいけないんですね」と深津先生を見て、硯は言った。
「水墨画の画家になりたければね」と硯を見て、にっこりと笑って深津先生は言った。
その深津先生の言葉を聞いて、絶対に私はその壁を(少しでも早く)乗り越えてやる、とその瞬間に硯は心に決めた。
「ありがとうございました。深津先生」と深津先生に深々と頭を下げて硯は言った。




