338 にこちゃん。笑って。
にこちゃん。笑って。
高い山のてっぺんのあたりまで、タタたちがやってくると、不思議な声が聞こえた。
なんだろう?
よく聞こえない。
誰の声だろう?
はじめてきく声。
優しい声だ。
「お母さん」とその不思議な声を聞いて、目をつぶったままでにこが言った。
お母さん。
この声はにこのお母さんの声なんだ。
青白い顔をしているにこをみながら、タタは思った。
「カカ。声の聞こえるほうにいこう」とカカの背中の上からタタはいった。
ぐるる、と唸って、カカは不思議な声の聞こえるほうに向かって走った。
にこ。
……、にこ。
どこにいるの? にこ。
そんな声が聞こえる。
それは幻聴じゃない。
幻ではない。
はっきりと聞こえる。
それは、女の人の声だった。
とても優しそうな声。
でも、とても必死になっている、震えている声。
それは、『にこのお母さんの声』だった。(やっぱり、きっと、そうに違いないと思った)
にこのお母さんの声は、必死になって、にこのことを探していた。
どこだろう?
もうすぐ。
このあたりのはずだ。
タタは一生懸命になって、カカの背中の上から、高い山のてっぺんを見渡している。
ここのどこかに、にこをもとの世界に戻してあげるための道があるはずだった。
にこ。
お願い。
にこ。返事をして。
……、『あなたの声をもう一度、聞かせて』。
タタは走っているカカの背中から飛び降りると、そのままカカと手分けをして、雪の積もる高い山のてっぺんを探した。
タタは走った。
少しでも、立ち止まってなんていられなかった。
大丈夫だよ。心配しないでね。にこ。
絶対にあなたを死なせたりはしないよ。
待っていてね。
今すぐに、お母さんのところに、わたしがにこのことを連れて行ってあげるからね。
タタは走る。
そして、ようやく、タタは見つけた。




