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ぼくは闇の中に光が伸びる風景を見ながら、昨夜の出来事を思い出していた。風の行動はとてもてきぱきとしていて無駄がなかった。それは午前、午後の検査と食事のときの動きのように、同じことを何回も繰り返してきたことを感じさせるような手際の良い動きだった。おそらくこの『真夜中のお散歩』という行為は風の日課にでもなっているのだろう。昨日の夜、あんな遅い時間に風がぼくを見つけたのも、ただの偶然というわけではなかったということだ。
「お散歩、お散歩。ふふ、楽しみだね、猫ちゃん」
風はそんなことを呟きながら、病室の中から顔だけを出して、きょろきょろと通路の両側を確認した。廊下はほとんど先が見通せないほど真っ暗だったので、風のその行為にどれだけの意味があるのかはわからないけれど、少なくともぼくの見た限りでは闇の中に人影は見えなかった。風も同じ結論を出したのだろう。
風はゆっくりと、なるべく音を立てないように廊下に出た。そして妙にこそこそとした態度で慎重に、音がしないように病室の扉をゆっくりと両手で閉めた。それだけ慎重に動いても、立て付けの悪い古い扉は、がらっという音を出した。扉を閉じきった風は数秒間、そのままの姿勢でその場にじっと佇んでいた。
扉を閉じると世界は完全な闇に閉ざされた。
「……一人で、お留守番は寂しいもんね。だけど大丈夫。わたしは絶対に猫ちゃんを一人になんてさせないよ。安心してね」そう言い終わると、風は行動を開始した。




