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番外,魔導士会合にて(アルバート視点)

 魔導士会合ってもう必要ないと思うんだ。



「うん、ワイもそう思う」

「人の心を読まないでください、フランクリン先輩」

「アルバート、お前結構顔に出るタイプやで。自覚しいや」

「見ないでください」

「うんうん、お前はそういう子やわ」



 古代魔法の研究も近代魔術の発表も新しい魔道具の売り付けも、もう全部不要だ。早く家に帰りたい。顔の皺ばかり多い二流魔導士の話程、詰まらないことはない。大きなホールのクッションだけはいい椅子に深く座り込んで聞き流していると、途中参加の先輩に声をかけられた。



「で、どうなん。大丈夫なん?」

「大丈夫にするんですよ」

「おおー、言うやんか」

「じゃないとあんな希少種手元に置いてられません。フランクリン先輩にも覚えがあるのでは?」

「まあなあ、でも、ワイの指揮者殿は自覚あるから」

「指導をして欲しいくらいだ」

「四年もあの学校におって自覚せえへんかったお姫様に何を教えたらええねん」

「全くです」



 面倒な人ではあるが、この人はこの人なりに僕らに情があるらしい。有難いとは思わない。面倒ごとに巻き込まれることもしばしばな上に、僕らをただ自らの楽しみに使うこともある人だ。この会話だって、心配とひやかしの割合は2:8くらいだろう。こういう手合いとは適度な距離感が必要だと、僕はあの学校で嫌という程に学んだ。



「しかし貴方方は同級生だったんですから、もう少し責任を取ってもらいたいものですね」

「いや、あんな、ワイらも相当頑張ったんやぞ、あれ。ワイ正直、あの子のことダリルの前に狙っとったしい」

「は?」

「いやや、最近の若い子ぉ怖いわあ」

「一歳しか変わんないんですよ」

「指揮者で魔力量も多くて状況判断も早くて、何より複数指揮ができてや、それであの物腰の柔らかさはもはや奇跡やぞ。ダリルは色々難しかったからなあ」



 そう、あの人は何かにつけて「ダリルの方がすごいから」と言うが、あの人はもう存在自体が奇跡だ。何故あんなにも自分の価値に無関心でいられるのかが分からない。ただ、まあ、



「ご両親もあんな感じでしたよ」

「ご家庭かあ。……なあ、エステルちゃんって確か兄弟おったよな。まだちっちゃいって」

「僕の弟妹になる予定の子たちに手を出したら、アスピラシオンが総出でお相手しますからね」

「チッ、これやから、古い家は……」

「抑止力は必要ですから」



 エステルさんのご実家は確かに田舎だったが、皆が皆、魔力量がおかしいくらいに多かった。そういう特性を持つ地域なのか、それとも彼らの祖先に高名な魔法使いでもいたのかは分からないが、あそこも異様な場所だった。彼女があんなに吞気なのは、ああいう場所で育ったからだろう。


 魔導士になるには攻撃魔法の適性が必要で、指揮者になるには補助魔法と回復魔法の適性が必要だ。あの地域の人々は魔導士にも指揮者にもなれないが、魔法を使う職業はこの世に溢れかえっている。少し都会に出ればすぐにひと財産を築けるだろうに、彼らはここでの暮らしが気に入っているからと慎ましやかな生活を楽しんでいた。



「でもなあ、あのクソガキが今や立派な後継ぎ様やもんなあ。ワイらはお前が捨てられる方に賭けてたんやけど」

「捨てられたじゃないですか、二度」

「戻って来とるやん、しかも二回とも。ああいうことやないねや」

「僕、愛されてるんで」

「あ、何やろう、素直にムカつく」



 そうだ、僕はあの人に愛されている。自覚はある。なのにどうしてあの人はああなのだろう。奥手だとかそういう話でももうない。僕がこんなにやきもきしながら、各方面に牽制をし続けているのにそれも未だに気づかない。フランクリン先輩は既にダリル先輩とペアを組んでいるので、危険性はそこまで高くないがそれでもあわよくばとは今でも思っているだろう。本当に少ない例だが、一人の魔導士が複数の指揮者と契約することだってないことはない。



「まあ、仲良うやりや。もうお前らがべっちゃべちゃしてるのは慣れてもうたし、ワイらかてハッピーエンドが嫌いな訳やない」

「そうですか、ではそのまま何もしないで見守っていてください」

「またちょっかいかけに行くわ。ダリルも遊びたいって言うとったし」

「来るな」

「おもてなししてなあ」



 やっと訳の分からない発表会が終わり、今回の会合が全て終了した。そもそも会合で発表会をするな。フランクリン先輩は途中参加だった癖に言いたいことだけを言って、我先にと会場を出て行く。はあ、僕も帰ろう。


―――


 屋敷に帰れば、すぐに工房を覗く。僕が一人で外出している時、エステルさんはいつもここにいる。扱いが難しい素材をああも簡単にこねくり回してしまう所があの人だと思う。あれなら確かに魔道具製造士にだってなれただろう。何を作っているのかは全然分からないが、天才とは得てしてああいうものなのかもしれない。


 学校にいた頃から、あの人は天才だった。一年生の終わりに魔力暴走を起こした僕みたいな凡人がペアを組みつづけていいような逸材ではない、なんてよく言われたものだ。それでもあの人は僕から離れていかなかった。ずっと僕の傍にいて、甘やかすだけ甘やかして。それが心地よくて、でも耐え難い屈辱を与えられているようでもあった。それに付け入って紳士と言い難いことをしたことには、多少は思うところもある。結局お互い様なんだ、僕らは。多分。



「エステルさん、帰りました」

「早くない?」

「みっちり二時間やりましたよ」

「もうそんな経った!?」



 正解でなくたってもういい。この人が手に入るなら、何だって構わない。もう二度と手放しはしないし、逃げようだなんて思わせない。器具を片付ける小さな背中を舌なめずりしながら見つめ、幾通りものシミュレーションを頭の中で繰り返しつつ工房の中へ入った。



 読んで頂き、ありがとうございました。

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