訪問と人の良すぎる会頭
さて、今日はいよいよリュース本店にお邪魔する日が来た。あ、そうそう昨日どうしてエピプさんがスキル無しの人に優しいのか聞いてみたんだけど、はにかみ笑いをされてはぐらかされた。その事はおいおいでいいか。
しかも優しいことに夕飯まで分けてもらえる始末。本当に優しいよ。え?何かに利用されているかもって?うーんエピプさんなら利用されてもいい!って思えるわ。マジで。
しかも今日の朝食も分けて貰えたからね。品質はー、お察しください。ぼそぼそのパンと干し肉だったのはまぁ文句は言えねえわな。
そしてようやく俺はこの街に入ることができた。この街はずっと名前が不明だったがようやく聞くことができた。この街はというかこの国は鍛冶の国ミゼルドといってこの国はポッシュという町らしく、流通にかかわる街の一つらしい。
町全体を聞いたところ、南北からくる馬車が四台ほどすれ違えるほどの広さを取った道路が街を分断していて、その中心に大きな丘があり、その頂上に冒険士ギルドがあると説明を受けた。なんとこの街はこの手の小説にはないトンネルという文化があったのだ!もっとよく見たかったがそこは我慢した。
「じゃあ一通りの説明が終わったのでそろそろ行きましょうか。クロスさん」
「おう!大丈夫だ。案内頼めるか?」
と俺は門の横の衛兵詰め所からマキと一緒に出て行った。
「えっとまずは、リュース本店に行く前に先にその身だしなみをどうにかしませんか?」
え?そんなに変か?一応元々来ていた服をバレないように、よく見れば辛うじて補修したように見えるようしたんだけど。
「あ、そうでしたね。ですが一見すると結構ヨレヨレというかみすぼらしいというか個性的で入店をお断りされる可能性がありますので」
あ、はいわかりました。と俺が案内された場所は割とシックな感じの見た目の店だった。そしてそこから数着ほど同じような服を購入してそのまま着てから出て行った。やっぱり新品だからだろうか、少し違和感がある。
違和感を我慢しながら丘のふもとにある大きめの屋敷があり、そこにハンカチに描かれていた紋章がデカデカと取り付けられている。
「ここがリュース家の本店です」
「そう言えば今更なんだが、リュース家って何を売っているんだ?」
「あ、その説明を忘れてましたね。リュース家は魔物の素材から魔道具に武器、果ては家まで扱っています」
広!!範囲広!!何それマジで広いなぁ某通販でもそんなに広くないんじゃないのか?あ、でもちょっと変な物も売っているって聞いたことがあるな。そんなものかな?まぁいいや。
俺がリュース本店の巨大さにタジタジになりたたらを踏んでいると思ったのか、マキさんが迷いなく俺の手を取って足を進めてリュース本店に足を踏み入れた。
「「いらっしゃいませ」」
とかっちりとしたスーツを着込んだ女性たちが最敬礼をしている。おおおーこんな光景ドラマでしか見たことがないな。初めて見たー。
そして大体こんな場合は顔をあげた時に俺たちの身なりを見て苦い見下したような表情を~ってあれ?皆さん俺の顔を見ても何も顔から表情が出てない?何でだ?
「本日はどのようなものがご入用ですか。宜しければご案内いたしますが」
代表して一番古株と思しき白髪交じりの優しそうなお婆さんが前に出て来た。
「こちらの当主に呼ばれました」
目の前の光景に圧倒されながらもなんとか引き出した言葉に、メイドさんたちは眉一つ動かすことなく若い明るい茶髪のメイドに何かを耳打ちして奥に走らせた。
「申し訳ございません。旦那様がご指定成されたお時間よりお早かったので。今向かわせておりますので、どうぞこちらへ」
と俺たちは応接室に通された。
・・・紅茶はちょっと渋い。お茶菓子は何だかおいしくない。確かにクッキーの食感はいい。だけど砂糖を使いすぎて激甘だ。あ、これはもしかして紅茶とお茶菓子を合わせると。あ!物凄い合う!美味しい。
と通された応接室で紅茶を啜っている。
部屋の中と隣にいるマキの顔色を見るに、ここは貴族とか上等な客用の応接室なのだろう。衛兵の詰め所の時より明るい。あの時は蝋燭だったが、ここは違うのかな?と考えているとマキが耳打ちで教えてくれた。
「この灯は魔道具です。魔道具っていうのは魔力を注ぎ込めばいつでもその魔法一つだけ使えるというもので、元々は魔力はあるけど魔法が使えない人が魔法を使うための代用品として開発されたものです」
ちょっと興味があるなぁ。だけど俺じゃあ使えないかもしれない。っと考えていると応接室の扉がコンコンとノックされ、扉からは三日ほど前に会った、男性と女性の二人が幾人かの使用人の方々と一緒に入って来た。
「お待たせして申し訳ない。恩人に対して失礼をした」
と開口一番で言ってきた。随分腰が低いなぁ、だけど。謝るのはそっちじゃないぞー。
「いえいえ。早く来た此方が悪いので。それに私は一旅人です。身分などもないのでそれほどかしこまる必要はございません」
とここは敬語で対応をする。
「そう言っていただけると助かります。私はリュース商会の会頭をしております、ツー・ハン・リュースと申します。ではさっそく本題に入らせていただきますが、よろしいですか?」
と向かいに座り話を始めた。
「今回は先日街に助けを呼びに行って下さったことにお礼をしたいのです。しかし貴方に不要な物をお礼として差し上げるのは失礼かと存じまして。しかし、金を差し上げるのも風情がない。ですので何かご希望の物は御座いませんか?」
変なことを聞いてきたなぁ。こんな時は金一辺倒かなと思っていたんだけど、違うのかー。まぁ俺にとってはそっちの方が助かるな。
「・・・そうだな。どんなものでもいいのか?」
「常識の範囲内ならばよろしいです」
うーん、別にこれ以上荷物が増えるのもなぁ。武器だって今のところ弱牙があれば別に要らないしうーん。あ、そうだ。
「一つ聞きたいんですが、持ち運びができる鍛冶設備みたいなものはありますか?」
と聞いてみた。俺専用の工房さえあれば鍛冶が出来ると考えたからだ。
「持ち運びの鍛冶設備、ですか・・・一応試験的に造った設備がございますが、どうしてですか?」
来た!ここからこの人の人柄が分かる。
「その前にあなたはスキルの事をどのように考えているのですか?特に一から物を作れない人のことを」
と言うと一瞬訝し気な表情をしてから俺を少し憐れむような表情を向けた。
「もしかして。あなたがそうなのですか?」
俺は無言で相手を見つめる。
「なるほど。ですが一つ誤解しないでいただきたいのですが、商人にとって重要なのは本質を見極める事です。スキルはその判断材料の一つでしかありません」
この目を見た時にこの人は信用できると何となく思った俺は、マキに小さく目配せをして、
「実は、俺、自分で作ったものしか扱えないんです。そのせいで鍛冶ギルドや鍛冶師たちから敬遠されていまして工房にも出入りできないんです」
「・・・なるほど。そう言った事情があるのですか。ではこういうのはどうでしょうか。鍛冶セットと同時にこの籠に入る量の素材を差し上げます。そしてあと一つ鍛冶セットに手を加えることができる場所をお貸しいたします」
うーん。至れり尽くせり。けどなんで?
「どうしてそこまで?っというような表情ですね」
「い、いえ」
「フフフ。いいんですよ。こちらは私の趣味のようなものです。工夫する若者を見るのは目の保養ですので」
と人の良さそうな表情をしている会頭。まぁそれならお言葉に甘えようっと。
「ありがとうございます!!すごく助かります!」
と俺は直ぐに会頭の手を握って握手をした。