69
発動された魔法は同じくらいの威力の魔法で打ち消され、アルナルドたちに危害を加えず、またエルの腕を捻り上げ、机にうつ伏せた。
「いった……!」
苦しそうに声を上げ、抵抗するが、全く太刀打ち出来ていないようだ。
「え、なっ……カトレアさんとドルソン先生!?」
そこにいたのは、ニコニコ笑うカトレアさんに、エルを机に拘束しているドルソン先生がいた。
え、え、え……? なんでいるの? いや、まぁカトレアさんはアルナルドに会いたいからだろうなぁって推測出来るんだけどドルソン先生はなぜ……?
「アルナルド様大丈夫ですか!? お怪我とかありませんか? どこか異常は?」
とあわあわとアルナルドに話しかけるカトレアさん。うん、いつも通り。
「いったいいたいいたい!」
ドルソン先生に拘束されているエルがそう叫んでいるのを聞き、すぐにそちらを見て慌てて止める。
「せっ、先生! もう大丈夫でしょう! エル様を放してあげてください!!」
そう言うと、先生はチラリとこちらを見て、短く問う。
「その保証は?」
「え……?」
「その保証はあるのか?」
厳しい声でそう言われ、私は言葉を詰まらせる。
保証……確かに私にはそんな保証は出来ない。
知ってるエルであって、知らないエルである今の彼が、暴れない、なんて保証できない。
でもいつまでもあの状態なのは……
「もう魔封じを施してるんだから魔法は使えない。大丈夫でしょう。放してあげて、ルカ」
カトレアさんはドルソン先生にそう言い、先生はカトレアさんの顔をじっと見てからそっとエルを拘束から解いた。
エルは先生の腕を払いながら腕を軽く回す。そしてキッと先生を睨んだ。
「さあて、大丈夫? エル」
ニコッと笑いながらカトレアさんはエルに問う。
「……あんた、誰」
カトレアさんを睨みながらそう答えるエルに、カトレアさんは目を見開く。
「……は? ……ああ、OK。とりあえず落ち着きましょう、深呼吸よ、さあみんな、吸って……吐いて……はい、OK」
カトレアさんはそう言いながら、深呼吸をして、もう一度エルの方を向く。
「エル、大丈夫?」
そしてニコッとさっきと同じような笑みでそう言った。
「はい? あんたこそ頭大丈夫?」
怪訝な顔でそう返されたカトレアさんはショックを受けた表情で、また何か呟いたが、小さくて聞こえなかった。
「エル、なんかいつもと違うような気がするんだけど……」
そうアルナルドが言うと、エルの怪訝な顔は深まる。
「いつもの僕って……なに?」
その言葉に、アルナルドは言葉を詰まらせる。
「いつものエル……は……」
そう言い、アルナルドは顎に手を当て考え始めた。そ、そこまで深く考えること……。
「まぁそれは置いておいて、エル・カトリーヌ。学院内での人への魔法の危害は禁止されている。今からその説教をさせてもらうぞ」
ドルソン先生は厳しい口調でエルにそう告げた。
「なぜ? 先に邪魔をしたのはあっちの方だ」
「だが、先に危害を加えたのは、カトリーヌの方だ。さあ、来てもらうぞ」
有無を言わせぬその言葉で、エルをまくし立て、エルは先生を睨みながらチラリとこちらを見て、渋々といった表情でついていった。
「ふむ。さて、ちょーっと人の目が多いかなぁ」
なんて言いながら、後ろに目を向けるカトレアさん。
あ……。忘れてた。
ここは食堂。他の生徒がいるのは当然で、騒ぎを起こしたここは注目の的だった。
「よし、逃げるが勝ち、ね!」
カトレアさんはそう言って、私たちを食堂から外へと連れ出した。




