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 はーい、ヤッホー!

 私、マリーナ・アディソンだよ!


 現在道に迷っちゃった!


 もう、カトレアさんを探そうと思ったら私が迷っちゃって私のドジっ子さんっ! って感じ。


 でもめげない! だってきっともうすぐ私の元には私を助けに来た白馬の王子様が来てくれるんだから!



 ……はい。


 現実逃避しようにもその現実逃避の内容も酷すぎて逃避できない……。


 さて、絶賛迷い中の私はとりあえずどこかの廊下の端っこに体育座りをしてどうすべきかを思案する。


 これ端から見るとアホで変な子みたいじゃね? ……いや、気のせいだよね、うん。


 っていうか本当にここどこだ……。


 私これからもうどこにもたどり着けずに野垂れ死ぬんじゃ……


 やだよぉ……死にたくないよぉ……。


 校内で行方不明とかアホすぎてやだよぉ……。


「お嬢様」


 きっと学院の笑い者として語り継がれていくんだ……。貴族の笑い者になるんだ……。


「お嬢様」


 自分の学校で迷うとかどんだけアホすぎるんだ……。


「マリーナお嬢様!」


「はい!!」


 大音量で名前を呼ばれ、思わず返事する。顔を上げると、そこにいたのはルイさんだった。


「え、な、なんでここに……?」


 呆然とルイさんを見て、私はそう呟くように言う。っていうかあ、あのち、近すぎる気が……。


「なかなか帰って来られないので心配で勝手ながら探させていただきました。こんなところでお座りになって誰かに何かされましたか?」


 真剣にそう言われ、私は迷子と言いにくくなる。


「え……っと、何かされたわけじゃないのでご安心を」


「ではなぜ廊下でお座りに?」


「ちょ、ちょっと疲れちゃって」


 えへへと笑う私にはぁとため息をつくルカさん。あの、はい、ごめんなさい。


 私とルイさんは、とりあえず部屋へ戻るためルイさんに付いて部屋へと向かう。


「本当に何もされてないんですね?」


「されてないです」


「……それならよろしいんですが」


 ……という会話を2、3回目繰り返している。


 ずっと黙ってたらこの話何回もありそうだなぁ……。


 ……あ、そういえば。


「ルイさんって精霊使いなんですか?」


 前の朝の出来事を思い出しながら私はルイさんにそう尋ねた。


「え? ……ああ、はい。というか魔法適正がないので精霊しか使えないんですがね」


「へぇ。でも精霊使いって確かお高い職業に就いてたような?」


 私が本で読んだことを思い出してそう言うと、ルイさんは一瞬言葉につまる。


「……そういうのは、向いていなかったので」


 無表情だったが、一瞬だけ悲しそうな表情をしたのを私は見逃さなかった。


 ……聞かない方がよかったかな?


 私は少し罪悪感を抱えながら、次の質問を考える。


「精霊使いのこと、ご存知だったんですね」


「えっ?あ、はい。本で読んだことがあったので。精霊に愛された者が精霊使いになるとか。すごいですね、ルイさん」


 私は気分を上げるようにそう言うが、ルイさんは、


「愛された者がなるものですが、特別な契約をして精霊の加護を受ければ精霊使いになれるんですよ。私の場合は後者です」


 と淡々と言った。

 お、おおう……。またもやミスを犯してしまったっ!!


「着きましたよ」


「あ、はい……」


 なんということでしょう。気分が下がったままお話が終わってしまった。


「あ、あの、ごめんなさい」


 私は言うべき言葉がそれしか見つからず、気まずい顔でそう言った。


 ルイさんは目を見開いて固まる。


「……?」


 えっ、なんかずっと固まってるんだけど……。


「あ、あの、ルイさん……?」


 名を呼ぶと、ハッとしたように動くルイさん。


「申し訳ありません。謝られるとは思わず……お気になさらないでください。よく聞かれていたことなので慣れています」


「でも慣れてるからって嫌な気持ちは変わらないですよね? ズケズケと入り込んでしまって……ごめんなさい」


 私はもう一度謝り、頭を下げる。


 するとルイさんが本気であわてだした。


「ちょっ、おやめください! 私は一介の執事、従者に頭を下げる主人など聞いたことがありません!! どうか頭をお上げください!」


「でも……」


「でももくそもありません! 主人が頭を下げる必要などないのです! どうかおやめください!」


 そう言われ、おそるおそる顔を上げると、焦った顔をしているルイさん。


「……っふふ」


 その顔を見て思わず私は笑ってしまった。


 そんな私を見てルイさんが意味がわからないと言う顔をしている。


 いや、だって、いつも無表情であんまり表情変わってなかったのに急に変わるから、なんか面白かったんだもん。


「ルイさんの焦った表情なんてなかなか見れないと思うと面白いな、って」


 笑ってそう言うと、ルイさんは微妙な顔をした。


「……とにかく夕食の時間が迫っておりますので、用意してください。笑ってないで早く部屋にお入りください!」


 少し怒ったようにそう言うルイさんに、なおいっそう笑みがこぼれる。


 私はルイさんの指示に従い、そそくさに部屋に入る。


 ルイさんの素に近い姿が見れて嬉しいな、なんて思いながら食堂に行く用意をする。


 そんな時、


「……なんなんだ……」


と少し赤みを帯びた頬を隠しながら呟いたルイさんが部屋の外にいたことを、もちろん私は知る由もない。


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