一話 目覚めて森林、服は何処へ
投稿ペースをなるべく崩さないように、一話2000~3000文字を目標に執筆しています。それでもリアルの都合で一週間近く更新できなかったりとご迷惑おかけしますが、末永く見つめていただければ幸いですm(_ _)m
ただ一つ言えること、僕は生きている。
現在進行形で生命力に満ち充ちている。
いったい何が起こったのか、満足に動かせなかった筈の手は、心拍を確かめるためべくと左胸に置き去りにできる程度に回復していて。歩くことはままならずとも、立ち上がる気概を持ち得るまでに両足に活力が漲っていた。
「……」
相変わらず声はでないが呼吸はできる。夢であるなら覚めないでほしいと真に願った。
鼻をくすぐる木々の香りがする。
近くに川でも流れているのか、そう遠くない位置から水の流れる音がした。
ゆっくりと瞳を開く。
数年ぶりに感じた自然の光に眼球が悲鳴をあげたけど、その痛みが嬉しくもあった。そして明るみを取り戻す僕の世界。
あの白い光に包まれて目を覚ましたそこは森だった。
不規則に並んだ大小様々な広葉樹。引き締まった葉の群が太陽光を遮り光合成を繰り返す中で、僕の立つ柔らかな草の上だけが目一杯にスポットライトを浴びている。
もし声が出せたなら、感嘆を漏らすべく声帯が痺れたであろう。健康体へとジョブチェンジした体を蔑ろに、僕は輝く木々を見つめていた。こんなに綺麗な世界があったんだなと、小さく思う。それは単に、死から解放された喜びと重ねていただけかもしれない。でも、綺麗だった。
「くしゅん」
あっ声でた。
驚きと同時に肌を湿らす寒気を覚える。
そこで僕は気付いた。
服どこいった?
そう、真っ裸である。
今年で十八歳の誕生日を迎えるはずの、嫁入り前の僕は服を着ていなかった。まずこんな病弱な僕と、将来の約束を交わしてくれる人がいるかどうか怪しいが……なんて考えて泣きそうになる。これでも女の子だ。やっぱり憧れとか夢はたくさんある。
そんな哀愁漂う僕の耳に、がさがさと草をかき分ける空気の波が肉薄した。
とくに意識することもなく振り返ると。
「……え?」
犬がいた。
その体駆は熊を思わせるほど巨大で、流れる灰色の毛並みはそんじょそこらの羽毛布団を鼻で笑えるくらい柔らかそうだ。唾液をこぼさない上品なその口は、僕の頭を軽々と丸飲みできそうだと確信めいた答えがでるが、優しげに揺れる蒼い瞳のせいかそんな考えが雨散していく。
僕と見つめあったまま彫像のように停止したお犬様。代わりと言わんばかりに森が生命力に溺れていく。
考えなしに手を揺らしてこ招いてみた。
危険察知能力が著しく低下している僕だからこそできたことだと思う。余命という恐怖以外におびえることがなかったせいか、僕の感性は崩壊していると言っても過言ではない。とのことを看護師さんに言われたことを思い出しながら近づくわんちゃんを見つめる僕。
そして後一歩の距離まで近づいたところで手を伸ばしてみた。
正直に言おう。
毛皮をもふもふしたかっただけである。
病院の微妙に堅いベットの上で過ごしてきたことがそれに拍車をかけていた。
「んぬ~っ」
しかし思うように手があがらない。
冷静に考えれば僕の筋力は相当虚弱なものであるため、少し動かしただけでその活動は限界を超えていたのだ。
肩より上にあがらない腕にまどろっこしさを覚えていると、見かねたように大きなわんちゃんがこれまた大きな顔を近づけてくる。
遠慮することなく抱きついてみた。
うむ、もふもふしていやがります。と、もしかしたら僕が食べれるかどうか匂いを確かめるために近づいただけかもしれないが、いっさい考慮することなく抱きついてやった。
素肌にあたる毛並みの柔らかいこと柔らかいこと、このまま成仏しても悔いは残らない。それほどまでに僕の顔はにやけていると思う。そして恥ずかしくなってきた。
いい年してはしゃぎすぎた。
あと服をください。
例え相手が人でなくとも見られるのは恥ずかしいので、熱くなった顔を隠すように俯きながらゆっくり後退する。そして頭を下げた。はしゃぎすぎてごめんなさいと謝ってみせた。これでも昔は近所で謝り上手と賞賛された僕である。その称号が嬉しいか嬉しくないかを答えるとすれば嬉しくない。まっこと堪忍ならん! と声高々に宣告できるほど嬉しくない。なんだかプライドがないみたいじゃないか、世渡り上手は二の次だ。
羞恥に染まった思考を拭うように思考を重ねていると、急激に眠気が襲ってくる。肉体を行使し過ぎたようだ、軟弱すぎるこの体には苦笑しか浮かばない。
何度も閉ざされる意識の中で、僕に寄り添う優しい狼が視界に映えた。
「……て、お……!」
そして覚醒する僕の意識。
ゆとり教育世代からさらに脱線した日々を生きてきた僕にとって、これほど手荒い目覚めは初めてだった。
ゆっさゆさと体を揺さぶられて、強引に脳味噌にシフトを取り組まれていく。欠伸を行おうと躍起になる気力もなく、僕はゆっくりと微睡みから足を踏み外した。
広がる緑。
夢から覚めたはずが現実に差異は生じなかった。変わったとすれば空の色が夕焼けに染まっていることと狼さんが消えたこと、そして僕の頭上で安堵の息を漏らす少女が出現したこと……。
え? 人?
「あ……っぅ、あぅ」
おおよそ人語とは理解できない言葉しか紡げなかった。脳の処理が間にあわない。まさか全裸で寝ている姿を誰かに見られるとは思ってもいなかったので、その現状にぶち当たった僕のか細い精神は、熱膨張を起こして冷静をかける隙間も存在しなくなっていた。
「どうしたのっ、ちょっと!?」
あたふたと僕を心配してくれる少女に服をくださいと言えるだけの度胸は残念ながら持ち合わせているのだが、熱処理に手を焼いている僕の呂律は意志の疎通を計るにはまだ気が重い。
そんな僕の体から微かに布の擦れる感触がした。ふと自身の体を見回すと、日除けのものと思われるマントがかけられている。
滑らかさは背もたれにしている大樹に劣るが人独特の温もりが僕を包み込んでくれていた。
呆然としながら未だに熱っ気が衰えていない顔を揺らして、少女とマントを交互に見つめる。そんな僕の様子に首を傾げた後、優しく微笑んだ彼女から落ち着いた声量でとある言葉が僕に届いた。
「あげる。それより君はどこから来たの?」
「日本」
そう短く答えた瞬間、彼女の表情が笑顔のまま保存された。まるで時が止まってしまったかのように動くことなく、呼吸すら忘れて固まっている。
「どこ?」
数分後。
帰ってきた返事に今度は僕の時間が止まっていた。
文才以前にクオリティーにも問題があるんじゃ……とか考えたけど無視してみる。趣味小説だしね! うん……。




