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ぐうたら天使の戯言  作者: クロア


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2/2

第2話 月曜日は敵です

 日曜日の夜だった。


 時計の針は午後九時を指している。


 テレビはついている。


 スマホも見ている。


 好きな動画も流している。


 なのに、楽しくない。


 理由は簡単だった。


「明日、月曜日か……」


 その事実がすべてを台無しにしていた。


 休みはまだ終わっていない。


 あと数時間残っている。


 それなのに心はすでに会社へ連行されている。


「なんでだろうな……」


 ため息が出る。


 金曜日の夜はあんなに輝いていたのに。


 土曜日はあんなに自由だったのに。


 日曜日の夜になると、世界は急に色褪せる。


 その時だった。


「こんばんは」


 聞き慣れた声がした。


 振り向く。


 ソファの上で白い羽の天使がポテトチップスを食べていた。


「また勝手に入ってきた」


「お邪魔しております」


「お邪魔だと思うなら帰って」


「嫌です」


 即答だった。


 ルナはポテトチップスを一枚食べながら言う。


「今日はずいぶん元気がありませんね」


「そりゃそうですよ」


「なぜですか?」


「明日が月曜日だからです」


 ルナは真顔になった。


 そして静かに頷いた。


「それは大変ですね」


「わかってくれるんですか」


「もちろんです」


「天使も月曜日嫌いなんですか?」


「嫌いです」


「天使なのに?」


「天界にも会議があります」


「あるんだ……」


「しかも長いです」


「天界も大変なんだな」


 ルナは遠い目をした。


「先週の会議は四時間でした」


「地獄じゃん」


「天界です」


「そういう問題じゃない」


 少しだけ笑ってしまった。


 ルナは満足そうにうなずく。


「ところで」


「はい」


「まだ月曜日ではありませんよ」


「え?」


「今は日曜日です」


「それはそうですけど」


「なのに月曜日に攻撃されています」


「言い方」


 ルナはテーブルを指差した。


「見てください」


「何を?」


「ポテトチップスです」


「うん」


「美味しいです」


「そうですね」


「でもあなたは今、その味を半分しか感じていません」


「なんで?」


「心が明日にいるからです」


 言われてみればそうだった。


 動画を見ても集中できない。


 テレビも頭に入らない。


 まだ来ていない月曜日のことで頭がいっぱいだった。


「人間は未来を考えられる素晴らしい生き物です」


 ルナは言った。


「でも未来ばかり見ていると、今が消えるのです」


 静かな声だった。


 少しだけ胸に刺さる。


「じゃあどうすればいいんですか」


「簡単です」


「簡単なの?」


「今日は日曜日だと認めましょう」


「認める?」


「はい」


 ルナは大きく頷いた。


「月曜日の心配は明日のあなたに任せてください」


「丸投げじゃないですか」


「未来の自分は意外と優秀です」


「根拠ある?」


「ありません」


「ないんだ」


「でも今日のあなたよりは、明日のあなたの方が月曜日に近いです」


「それはそう」


「なら担当部署が違います」


 意味がわからない。


 でも少し面白かった。


 ルナはソファに寝転がった。


 天使とは思えない姿勢だった。


「私、人間を見ていて思うのです」


「何を?」


「皆さん、月曜日を恐れすぎです」


「だって嫌ですから」


「もちろん嫌です」


「否定しないんだ」


「私も嫌ですから」


 ルナは真剣だった。


「ですが、金曜日も来ます」


「まあ……」


「お昼休みもあります」


「ありますね」


「帰宅もできます」


「できます」


「そしてまた休日も来ます」


 当たり前のことだった。


 当たり前なのに、少しだけ気持ちが軽くなる。


「人生の大半は思ったより何とかなっています」


 ルナは天井を見ながら言う。


「月曜日も、大体何とかなるのです」


 部屋に静かな時間が流れた。


 時計を見る。


 午後九時三十分。


 さっきより少しだけ気持ちが落ち着いている。


「まあ……」


 深呼吸する。


「考えても仕方ないか」


「その通りです」


「月曜日は明日考えます」


「良い判断です」


 ルナは立ち上がった。


 そして窓の方へ歩いていく。


「帰るんですか?」


「はい」


「今日は飛んで帰るんですか?」


「いえ」


 ルナは振り返る。


 そして、にっこり笑った。


「私も明日の会議が嫌なので、今日はもう寝ます」


「天使も現実逃避するんだ」


「専門です」


 そう言い残し、ルナは夜空へ消えていった。


 一人になった部屋で、もう一度時計を見る。


 午後九時三十五分。


 月曜日は確かに来る。


 でもまだ来ていない。


 今はまだ日曜日だ。


 なら、もう少しだけ休日を楽しもう。


 そう思えた。


 その時、窓の外から声が聞こえた。


「もし眠れなかったら、体調不良という最終兵器もありますよー」


「駄目だからそれ!」


 夜空のどこかで、天使の笑い声が聞こえた気がした。

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