幻と言葉の火矢(10)
無事、古民家のエクソシストが成功して数日後。宮乃はこの件を聞いて、さっそく動画にしたいと言ってきた。数日で台本を書き、撮影、編集も完了しアップされていた。
「やはり、悪霊が一番怖がるのは神による愛の言葉だけ。そう、愛よ、愛。わたしたちに必要なのはそんな言葉だけなのかもしれない」
そんな言葉で動画は終わっていた。だいぶ脚色されているが、唯子も尋人、それに歩香も納得の動画だった。
ちなみにセクシー霊媒師のレオはなぜか活動が不定期になり、今はバイトをしながら生活しているらしい。髪も黒く染め、言葉遣いもバイト先で矯正されているというが、なぜそうなったのかは誰も知らないという。
そうして季節は初夏から夏へと変わっていた。梅雨も明け、日差しも強い。礼拝堂の窓からも眩しい日差しが降り注ぎ、明るく照らしていた。猫の毛玉はすみの方で寝っ転がり、あくびもしていた。
「わぁ、毛玉ちゃんが落ちてるじゃない」
そこへ歩香が久々にやってきた。元気そうだ。唯子はさっそく歩香を迎えた。
「歩香さん、日焼けしてますね」
「ええ。最近は古民家の周りの畑仕事を手伝っているの。これ、近所の人からもらった梨。どうぞ」
「え、いいんですか? すっごい瑞々しいいい匂いがしますよ?」
「どうぞ。もうわたしも毎日梨を食べ飽きちゃっているのよ」
そう笑っている歩香は元気そうだ。あれ以来、霊現象は一切ないという。それに近所の人たちともうまくやっているらしい。
「ありがとう、歩香さん」
「いえ、こっちこそありがとうね。唯子さん」
歩香はその後、理想的な優等生になるよりも、目の前の小さなことを一つ一つやっていくことが大事だと気づいたらしい。古民家の周りのゴミ拾いもやっていたら、いつのまにか近隣住民とも打ち解け、親しくなったらしい。
「あれ以来もう世間体とかもなぜか気にならなくなってね。あ、カフェインもグルテンもお肉も食べてるわ。毎日美味しいもの食べられて幸せよ」
そう笑顔で語る歩香は何にも縛られてなさそうだった。
「それはよかったです」
「ええ。尋人さんみたいな変な人もいると思うと余計に気が抜けるわよね」
「ですよねぇ。やっぱりり歩香さんも尋人さんのことは変人って思いますよねー」
尋人の噂をしていただろうか。本人が登場してしまった。しかのめざとく梨をみつけ、キッチンで切り分けてくるとシャクシャクと食べていた。
「何この梨! めっちゃ甘くてシャリシャリ感すごい。果実界隈の王様じゃんか。シャーベットよりもシャーベットみたいだ!」
相変わらず尋人は甘いものに目がないらしい。梨を食べると目を輝かやかせ感動していた。
「ちょっと尋人さん、食べすぎですよ?」
「うっさいな、リス子。うまいもんはうまいんだよ」
梨を食べ尽くす勢いの尋人だ。唯子は呆れてものもいえない。
「はぁ。本当この人、マイペースねぇ。こんな人でも牧師を名乗っているのか。だったらわたしももう一回神学校行きなおそうかしらね」
「おぉ、歩香行ったらいいよ。そんなことより梨をもっとくれ。実にうまい。さすがだ」
歩香はもうすっかり呆れていたが、なぜかノラや宮乃も登場し、礼拝堂はさらに賑やかだ。
「尋人さん、わたしにも梨ちょうだい!」
ノラが笑ってる。
「尋人さん、さあ、さっそく都市伝説の動画つくるから取材とか協力して!」
宮乃も騒ぎ、礼拝堂の中は明るい声に満ち溢れていた。
「ミャーオ!」
猫の毛玉の鳴き声も響き、唯子は笑顔で頷いていた。
ご覧いただきありがとうございます。完結です。
もう少し書いても良かったかなぁと気がします。実は夏のホラー用に本作のスピンオフ連作短編も書きました。事故物件エクソシスト〜霊と音のお悩み、お聞きします〜という作品で同時期にアップされているはずです。こちらは尋人が主役ですが、同じ雰囲気です。よろしくお願いします。
また新作ですが、オカルトホラーから初心に戻り、異世界カフェコージーミステリシリーズの予定です。あと昭和レトロな自販機ライト文芸などなど書き溜めた作品も複数あります。夏から職場が変わるので、はっきりと連載予定は言えないのですが、水面下では色々書いてます。今後ともよろしくお願いします。




