ネプチューン編 治安部隊
第三部 ネプチューン編です。
山の中の夜。焚き火が時折パチパチと弾け炎が踊っている。動物たちも鳴かない静かな夜。空には星が瞬いている。
さくらは景子に貰った塩漬けの豚肉と乾麺を使って、教えてもらったレシピでラーメンを作っていた。
「できた!」
木の器に麺を盛り、竜に渡す。
「おう、サンキュー」
竜は一口すすると、目を見開いた。
「うめえ。さくら、料理できたのか」
「景子さんに教えてもらったの。簡単だったわよ」
二人は焚き火を囲んで麺をすする。
さくらがふと尋ねた。
「竜、景子さんは、マーズさんにどんな手紙を送るんだろうね?」
「さあな、意外と『今度どっちが強いかやってみましょうよ』とかって送ってるかもな」
「まさか、そんなに戦闘狂じゃないよ。『よっちゃん、彼氏できた?あたしは経験豊富だけど、年には勝てないわ』って感じよ……」
さくらは少し考えてから、首を傾げた。
「いや、景子さんは年に勝ってるわね」
「ああ、すごかったぞ」
「え?? 何が??」
竜の箸が止まった。
「あ、いや、せ、戦闘の話さ」
さくらは怪訝な顔をしたが、追及しなかった。
「そうね、マーズさんもジュピターさんも強い。マーキュリー、山城明音さんて、どんな人なんだろうね」
竜は麺をすすりながら答える。
「マーキュリーは、不規則に動く数十枚の将棋の駒ってのを操るらしい」
「将棋の駒?」
「ああ。そしてネプチューンは、超音波を発するって師匠は言ってたな。防ぎようがない」
さくらは焚き火の炎を見つめながらつぶやく。
「魔法少女ってすごいね」
「化け物じみてる」
「そんなすごい能力なら、きっと元の世界に返してくれるよね」
「心配するな」
◇◇◇◇◇◇◇
さくらと竜は、町の入口にある馬小屋に馬たちを預けた。
石造りの建物が立ち並び、大通りにはマーケットが広がっている。野菜、肉、布、金物——あらゆるものが売られていた。
「すごい……こんな大きな街があったんだ」
さくらは目を輝かせた。
「ここは政府の管轄だからな。金が集まる」
竜は周囲を見回しながら歩く。
「まずは銀行だ。仕事を探す」
銀行は街の中心にあった。石造りの重厚な建物で、入り口には武装した警備員が立っている。
内部に入ると、壁一面に仕事の張り紙が貼られていた。
竜が一枚一枚確認していく。
「恐竜退治、報酬百……安いな。護衛、三日で二百……これも微妙だ」
さくらも張り紙を見ていた。
「竜、これ見て」
さくらが指差した張り紙には、護衛としては破格の数字が書かれていた。
「政府の輸送馬車の護衛。報酬、五百……」
竜の目が細くなった。
「高すぎる。何かあるな」
「お腹すいたよ。お昼食べに行こうよ」
「そうだな。飯にしよう」
さくらはキョロキョロとレストランを探しながら歩いている。
「大きな町だね。人が集まってるところって、もっと集まってくるんだね」
「こういう人が多いところのほうが、奪い合いがよく起こる。師匠はこう言ってた。『みんな必死に生きてるから仕方のないことだけど、見るのは辛いって』」
「竜はどうなの?」
「俺はこの世界で育ってる。どうも思わない。そんなことより、ここは豊富な食材が集まるから、いろいろ変わったのが食えるんだぜ」
「景子さんの村も、塩漬けの肉やチーズをここまで売りに来てたって言ってたよね」
一軒の店が外から見ても混雑していた。
「竜!あそこにしようよ。きっと美味しいんだよ」
「よし、決定だ!」
二人は店のメニューボードを見た。
亀のスープ
鮫のフライ
鯉の甘酢あん
ワニのムニエル
「すごいね。見たことないメニューだよ」
「俺も見たことねぇ」
「あたし、ワニのムニエル」
「俺は鮫のフライだな」
カウンターで注文する。
中から、竜を見てシェフが出てきた。
「その帽子、あんたリボンの竜かい?」
竜が嬉しそうに答える。
「ああ、俺がリボンの竜だ。なにかようか?」
「俺の出身の村が困ってる。飯を食って少し待っていてくれ。代金はいらねぇ」
「ねぇ竜、リボンの竜って言ってもらえて嬉しそうだね」
「さくらは勘違いをしている。何百回とリボンの竜と名乗っているんだ。当たり前だろ」
突如、パブレストランに制服姿の四人が入ってきた。
一人は制服の色が白色。
三人は緑色だ。
緑色の背服を着た、顔のパーツが寄った男が説明する。
「ここに反政府の人間がいないか、一人ひとり顔を確認させてもらう」
さくらが小さな声で竜に尋ねる。
「えらく高圧的な態度ね。誰なのあいつら?」
「政府の治安部隊だ。黒が平社員。緑が係長。白が部長。その上が政府の高官直属で社長だ」
「何よその役職みたいな分け方。わかりやすいけど、よくわかんないよ。保安官みたいなこと?」
「政府の直轄地がいくつかある。治安部隊は、主に反政府を捕まえるのが仕事だ」
「あたしのいた世界で言う公安みたいなものね。で、政府の高官って、マーズさんの言ってた、地下シェルターに逃げ込んだ人たちの子孫ね」
「そういうことだ」
緑の服を着た痩せている男が、店の隅々まで聞こえる声量で言う。
「全員顔を上げろ!!」
白い服の男が静かに、だが響く声で客の顔を見渡す。
「俺は部長の木山だ。記憶は完璧なので、似顔絵に近い顔は、全員一緒に来てもらう」
「ねえ竜、アイツら嫌い」
「いいなさくら、絶対に逆らうなよ」
「わかってるよ。元の世界に戻りたいもん。でもムカつく。あいつらにあだ名をつけてやる」
「あいつ、顔のパーツが寄ってるから菊ちゃん。パパが、○○門のことを菊の門って言ってたから」
竜が思わず笑う。
「ブフッ」
「白い服着た人は、顔が整ってるから、王子崩れ」
「ブフッ」
「菊ちゃんの隣の細い人は、糸」
「シンプルだな。」
「最後の、あのゴリラみたいな人は……アホ筋肉」
「自分のこと言われてるみたいで嫌だな」
「竜のは使える筋肉だから、かしこい子」
「余計にバカにされてるようで喜べないぜ」
顔を上げろと言うのを無視して、ご飯を食べてる男がいた。
ゴリラ男の怒声が響く。
「上を向けと言ってるだろ!!」
ゴリラが無視をしていた男の後ろに立ち、髪の毛を掴むと顔をあげさせた。
「部長、こいつは反政府ですか?」
「似顔絵にも写真にもない」
無視して食べていた男が悪態をつく。
「こっちはうまいご飯を食べてんだ。終わってからにしろよ」
男は髪の毛を掴んでるゴリラ男の手に自分の手を載せる。
「離せよゴリラ野郎!!」
ゴリラ男はその男の顔の両側を手で挟むと、半転させて、ゴキッという音と共に首の骨を折った。
ゴリラ男が嬉しそうに言う。
「公務執行妨害罪は死刑だ」
店の後ろから声がする。
「アホ筋肉!!公務執行妨害で逮捕はあっても、死刑は絶対にありえない!!」
店中にクスクス笑いが起きる。
つぶやきも聞こえてきた。
アホ筋肉だってよ。アホ筋肉って上手いな。アホっぽいしな。
さくらは横を向いている。
ゴリラ男がさくらに向かって歩いてくる。




