第11話 恋のはなし(1)
外か、明るいな。ここは……新校舎の裏手か。何でまたこんなところから始まるんだ? どこかに向かって歩いている。すると、映像が突然途切れた。何が起こったんだ? しばらくして、目が開かれると全身がピンク色で不均一に染まっている。ここで映像は完全に切れた。
これは多分、上からペンキでも落ちて来たんだろう。それが偶然歩いていた夢の主に頭からかかった。そして全身ピンクまみれか。かなり災難だな。
汚れた制服を見た限り、夢の主は男子生徒のようだった。新校舎の裏を歩く時には、注意を呼びかけてやろう。
しかし、まさかペンキが落ちてくるとは。イタズラなのか、それともただ単に事故なのか。事故だったら、それは屋上でピンクのペンキを塗っていたということになるだろうが、一体屋上の何をペンキで塗ろうとしていたんだ? しかもピンクって。中々無いだろ、そういうものは。目立つ色だし。
だが、イタズラなら相当タチが悪い。もしそうなら、少し捜査してみるのもアリかもな。今日はチビ助が補習で部活もないし、仕方がないから自分の足で動くしかないのか。全く、夏休みのくせに全然休める機会がないぜ。
文句タラタラのまま、夢路はようやく体を起こす。そして続けてカレンダーに目をやる。今日は七月二十七日。まだまだ夏休みは始まったばかりだ。
さて、今日はマキも部活でいないって言ってたし、たっぷりと寝れたかな。……待てよ、別に休みだからといって食事の時間が変わる訳じゃないぞ。これじゃあ朝食なしなんてことになるかも。今何時だ?
今度は時計を見る。針は八時三十六分を示している。朝食の時間は八時まで。夢路は完全に寝過ごした形となった。
仕方ない、今日は省エネ運転でいくか。一食くらい抜いても、人は死んだりしないだろう。じゃあ、まあ顔くらい洗って、そっからどうするかだな。夢を聞きに来訪者がやってくる前に少しでも夏休みの宿題を進めておこうと思ったけど、今は気分が乗らないからやめとくか。これで後で、あの時やっとけばよかったと思うのかもしれないが、その時はその時だ。文句があるなら今の俺に言いに来い。
自分自身のことであるのに、無責任に夢路は結論付ける。どうする、寝るか? 休まなければ、何のための休みだか分からねえからな。どうせ今日もやってくるチビ助が来てからさっきの夢については考えるか。夢路は再びベッドに倒れ込む。
「おーい、夢路。ちょっと開けてくれ」
二度寝をしようとしたその瞬間、ドアの外から声がした。来訪を予想していたソラではなく、部屋の前にいるのは男性のようである。
「開いてるから入ってくれ」
「あ、ホントだ。不用心だな、お前」
入ってきたのは、夢路と同じクラスの田上 敏夫。同じクラスでは唯一夢路を見下ろせる身長二メートル越えの巨人だ。その姿から夢路は彼を「ゴジラ」と名付ける。
夢路は名前を最初、タガミと読むと思っていたのだが、本人に聞いたらタノウエと読むと聞いた時は少し驚いた。
「探したぜ。メシの時も見てないって聞いたからどこ行ったのかと思えば、まさか寝坊とはな」
「まあ、俺はいつもそんなもんだ」
「でも、学校だった時はちゃんと起きてただろ?」
それはチビ助やマキがいたからな。俺にとっては自分で起きる方が珍しい。
「それでどうした、ゴジラ? さっき俺を探してたって言ってたけど」
「ああ、実はお前に会ってほしい人がいるんだ」
「何だ、お前さんの婚約者か? 息子との結婚は認めんぞ」
「お前はいつから俺の父親になったんだよ。しかも言うなら娘だろ。……そういうのじゃないけど、まあとにかく会ってくれよ? どうせ暇だろ」
「そりゃ暇だけどよ。ところで何でお前制服なんだ?」
夏休みなのに制服とはな。今それを着ているのは、文化部の生徒か、補習か自習のどちらかで学校で勉強している生徒ぐらいだろう。
もっとも、補習と自習の生徒には大きな違いがあるけどな。勉強しているのと、勉強させられているのと。
「ああ、これか? 今から学校行くからだよ」
ん? 夢路は少し間を置いた。
「まさか、お前さんの会わせたい人も学校に?」
「うん。だからお前も制服に着替えてくれ」
マジかよ、めんどくせえ。まあ、暇だからいいけど。夢路は顔を洗ってから制服に着替える。今日は部活がないからこいつを着ることはないだろうと思っていたのに、まさかこんなに早く着ることになるとはな。
「着替えたけど、どこに行くんだ?」
「とりあえず、ついて来いよ」
こうして、夢路は田上と夏休みの学校に向かった。




