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中途半端は大変です!  作者: 平下駄
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表裏一体(6)

「さて、それでは始めようか」

 囲碁部たちが教室中央に机と椅子を並べる。

「君たちも入っていいよ」

 その声かけがあって初めて将棋部たちが自分たちの領土から離れ、中央の席に腰掛ける。


『そうか、あの席に座るのにもいちいち許可がいるのか』

 将棋部の後ろに立つ夢路とソラ。いよいよ彼らの運命を決める大一番が始まる。

「チビ助がこっちにいるなら俺はあっち行こうかな」

 夢路はおもむろに囲碁部の背後に回ろうとする。


「ちょっと! これは大事な勝負なんだから勝手に歩き回らないでくれ」

 囲碁部の小さいメンバーが声を荒らげて、夢路を静止する。

「別にただの見学だぜ? そんな剣幕で怒るなよ。それとも何か、後ろに人がいると困る理由でもあるのかい?」

 夢路はすっとぼけたように尋ねる。向こうの出方はどうなるのだろうか。


「失礼、夢路くん。実は今からやるババ抜きには囲碁部と将棋部のこれからの方針に関わる重要なことを賭けていてね。石野も少し神経質になっているんだ。君が僕たちの手札を覗いて彼らに教えるということも無くはないだろうからね」

 酒井がすぐに謝罪をする。


「でもババ抜きならどうせ交互に座るんだろ? だったら条件は同じじゃないか」

「確かにそうだね。なら何も問題はない。では、カードを配ろう。せっかくだし、今日はギャラリーの方にお願いしても? そちらの方がよりフェアに出来るだろうし」


 あくまで自分たちはフェアにゲームを進めたいということを殊更にアピールする酒井。しかし今は逆にその徹底ぶりが怪しく見えてくる。ソラは他の囲碁部が彼の顔色を窺っているように見えたのが少し気になる。


「じゃあ、私が配りますね」

 ソラが手を挙げてテーブルの上のトランプの封を切り、カードを六等分に配る。それぞれのプレイヤーは手札の中からすでに揃ったペアを整理して、一番手札の多い人物から右回りでゲームが進行していく。


 六人でのゲームのため中々最後の一騎打ちになるまでは時間がかかる。十分くらい時間が経過しただろうか。奇しくも最後は加藤と酒井の、互いに部長対決になった。これまでのゲームの中で、囲碁部がおかしな動きをした様子は全くなかった。それと同時に夢路が動き出す様子もない。ソラはどんどん不安が積もっていく。


『今しかないんじゃないですか、先輩?』

 後輩はプレイヤーではなく対面の先輩に視線を向ける。しかしその当の本人は視線を落としてゲームの様子をしっかり見つめている。


 試合は加藤の手札が残り一枚、酒井が二枚。つまりこの時点で加藤がジョーカーを引かなければ勝ちとなる場面。加藤がトランプに手を伸ばそうとした時、酒井はトランプを目の前に並べるのではなく、それぞれ左手と右手に一枚ずつ置く。まるで両手で何かを受け取るような格好にも見える。


「どうしたんだ? いきなりそんな風にカードを置いて。今までそんなことしなかったのに」

 加藤にとっても初めて見る挙動だったらしく、カードを引く手を止めてしまう。

「今日はそういう気分なのさ。別に運部天賦に任せようとしてるわけじゃないよ。ちゃんとどちらのカードがジョーカーなのは分かっているから、安心して心理戦を仕掛けてくれて結構」


『ふーん、気分ねえ』

 夢路が心の中で小さく呟く。

『これで相手の手の内は全て把握した。あとはこちらからの逆襲だけだな』

 再び笑みを浮かべる夢路。この教室でソラだけがそれに気づく。


『いよいよ動くのかな?』

 ソラは期待の眼差しを向ける。一方勝負の方は、加藤が右のカードを選びジョーカーを引いてしまい、今度は酒井の出番に移る。千載一遇から瞬く間に絶体絶命へ。これもババ抜きの醍醐味の一つか。そして酒井がカードを引く。加藤の手の内に残ったのはジョーカー。つまり、この瞬間に将棋部の敗北が決定したのである。


「では、気の毒ではあるが今からこの部室は囲碁部のものになった。残念だが将棋部の皆さんは荷物をまとめて出て行ってくれ」

 酒井が容赦なく退去を言い渡す。将棋部の三人とソラは呆然としてしまう。

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