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Kiss 《キス》

 矢が飛び交う中、かつては栄えていたであろう表通りをブラックは走っていた。4車線の広い通りには商業向けのビルが立ち並び、闇夜の空を縦長に縁取っている。ビル群の上階からは、人影がブラックめがけて矢を放ち続ける。ブラックはその人影を一体、一体、拳銃で撃ち倒しながら状況を分析していた。


「ったく……多いな……

 この規模の集団が近くに居たとは、運が悪い」


 この荒廃した世界のアウトフィールドで、残存する人類同士が鉢合わせする可能性はそう高くない。コミュニティに属せない偏屈のはみ出し者や、アウトフィールドを行き交う同業者はそれなりに存在するが、ブラックはそういった者たちの気配や痕跡には気を配り、余計なトラブルを避けるため、接触しないように行動していた。

 これだけの武装集団の縄張りに入っていたなら気づきそうなものだったのだが。


「こいつらコソコソと、なんでこんな場所にいた?」


 ブラックは打ち捨てられて錆びまみれの車体の陰から、向かいのビルの人影をまたひとり撃ち倒した。人が、獣が自身の存在を隠す理由は多くない。逃げる時か、狩りをする時だ。


「こいつら何を狙っていやがったんだ。おっと」


 近くの車のフレームに矢が突き刺さる。その矢が飛んできた方向から、敵の位置を予想し、探し出し、撃ち倒す。通常、死角が多い場所かつ、視界も悪い夜間において、発射音や発射炎の無い弓矢での襲撃は厄介極まりないのだが。


「やはり所詮はメスガキに操られているザコザコお兄ちゃんだな。

 的当てゲームより簡単だ」


 そしてまた一人返り討ちにする。普通ならなるべく身を隠して狙撃してくるのがセオリーだが、この襲撃者たちは棒立ちで姿を晒しながらこちらを狙ってくる。操っているメスガキ星人は、人間の戦い方などは知る由も無いので、動きがど素人になるのは必然だった。

 それでも油断できないことがある。どれだけ遮蔽物を利用して移動しても、あらゆる方向から矢が飛んでくる。それこそ死角になっているはずの方向からもこちらの位置がバレているのだ。


「ザコザコお兄ちゃんの間で情報が共有されている?

 というより観測者がいるな。やはりあのメスガキ星人が見ているのか」


 可能性が高いのは上からなのだが、こう暗くてはどこに潜んでいるのか見つけ出すのは至難であった。


「考えても仕方ねえな。

 とりあえずザコザコお兄ちゃんを全滅させればいいだろ」


 思考を放棄したブラックは呼吸を整えて物陰から飛び出す。相手に矢を撃たせて反撃で倒す、ザコザコお兄ちゃんサーチ&デストロイを続けるのであった。



☆彡



 かつて商業施設だった廃ビル一階、でかいテーブルの陰に身を隠すユウリは、通りに響く銃声を聞きながらだらけていた。


「ひま」


 ホットパンツのメスガキ星人に襲撃され、白ゴスのメスガキ星人が隣にいる非常事態なのだが。ユウリは何も解決できない自分の無力を痛感していた。だが一方で痛感するのにも飽きていた。ジタバタしても始まらないなら、ジタバタできる時が来るまでは体力を温存する。人類のヒエラルキーが著しく低下したこの世界で生きるために必要とされる図太さをユウリは持ち合わせていた。


 とはいえ、完全にだらけている訳ではなく、これから取れる行動は一通り考えている。

 まず戦闘に参加するのは論外。一応射撃の心得はあるが、武器も無いし矢が飛び交う戦場では生き残れる気がしない。

 だからと言って、ひとりで逃げるのも嫌だった。ブラックはよくわからない黒ずくめのだせえ男だったが、何度も助けてくれたことに恩も感じている。

 軽く周囲の探索もしてみたが、こんな目立つ場所にめぼしい物は何も無い。とっくの昔に、良い物は取りつくされている。探索範囲を広げることも考えたがどんな危険と出くわすか分かったものではない。とりあえず安全が確保されているこの場から動かないほうが良いだろう。

 それに下手な行動をすると、隣にいる白ゴスのメスガキ星人がどう動くか予測もつかない。という訳で、ブラックの言いつけを守り、この場に隠れ続けることを選んだのだった。


 ユウリは状況に変化があるまでどっしり構える心づもりで居たのだが、その変化はすぐ間近で起きた。


「ねぇユウリ♡ あそぼぉ?♡」

「それは想定外だったわ」


 ユウリは目をまんまるにして驚く。


「いやなんでだよ? ていうかなんでオレと?」

「だってぇ♡ ユウリも暇してたでしょぉ♡」

「それは……そうだけど。

 何考えてんだよお前……」


 こちらを覗き込んでくるメスガキ星人はぷぅと頬を膨らませる。


「お前じゃないよぉ! リリィだよぉ♡」

「わ、わかったって。リリィ」


 ユウリが名前を呼ぶと、リリィは「よし♡」と満足げに頷いた。

 そういう仕草だけを見ればただの可愛らしい少女なのだが、その正体はメスガキ星人しかも名札付き(ネームド)だという現実に、ユウリは頭を抱えてため息をついた。


「じゃあナニしよっかなぁ?♡」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

「なぁに?♡」


 ユウリは、人差し指を唇に当てながら思案するリリィを制止する。


「だからなんでオレと遊びたがるんだ?

 その、リリィはあいつに用があるんだろう?

 だったら、あいつを助けに行けばいいだろ?」

「んー?♡

 だってリリィはできるだけお兄ちゃんの言いつけを守りたいしぃ♡

 それにユウリにも興味出てきたからぁ♡」

「えええ……なんでだよ……」

「だってぇ♡

 お兄ちゃんったらユウリの事ずっと気にかけてるんだもん♡」

「あいつが? オレのことを?」


 確かに何度も助けられはしたが、それは成り行きだろうし、言われるほどなのかと、ユウリは首をひねる。


「そうかなあ……?」

「そうだよぉ♡

 それにリリィもユウリとなら仲良くしてあげてもいいよぉ♡」

「そ、それはどうも……」


 微妙にありがたくない言葉にしどろもどろに答えるユウリ。その手をリリィが握った。唐突な行動にユウリの鼓動が跳ね上がる。


「んなっ!?」

「じゃあ行こっか♡」

「行くって!?」

「探検♡」


 リリィはそう言うとユウリを立ち上がらせた。


「いや、探検って。さっき言いつけは守るって言ってたじゃないか」

「でもリリィはお兄ちゃんの役に立ちたいのぉ♡

 だから、こそっとね♡」

「オレを共犯者にしないでよ……」

「んふふ♡ いいからぁ♡ いいからぁ♡」


 ユウリは手を引かれるまま歩こうとしたが「痛っ!」と足首を庇ってうずくまってしまう。


「どうしたのぉ?♡」

「ひねった所が腫れてきて……」

「わぁ♡ ぱんぱんに膨らんでるぅ♡ 痛そぉ♡」


 昼間に怪我した所が悪化してしまっていた。先ほどまで全く気にしていなかったのに、一度気づいてしまうと、じわじわと痛みが広がってくる。痛みに悶絶するユウリに、リリィは興味津々といった様子で声をかける。


「ねぇ?♡ 痛い?♡ 痛いのぉ?♡」

「痛いに決まってるじゃないか!」

「じゃあ治してあげよっかぁ?♡」

「えっ?」


 想像していなかったリリィの提案にユウリは顔を上げた。そして唇を奪われる。

 ぷっくりと柔らかなメスガキ星人の唇がユウリの口を完全に塞いでいる。


「んっ……んん……ッ!」


 ユウリは知っていた。ザコザコお兄ちゃんがどのようにして作られるのかを。

 メスガキ星人は口づけによって人間の精気と理性を奪い、人の意志を自分の支配下に置いてしまう。完全に精気を奪い尽くされて枯れ果てるのか、ザコザコお兄ちゃんと化し動くだけの肉塊となり果てるのかはメスガキ星人の匙加減ひとつだが、メスガキ星人の口づけは確実に人類の尊厳を破壊する。助かった事例はひとつも存在しない。


 それでも、ユウリは全力で抵抗を試みた。だが、触れ合う唇の感触が意志の隙を作り、侵入を許してしまった舌がうごめく蛇のようにユウリの舌と歯茎を蹂躙する。ざらざらとした()()()()()が脳神経を過剰に刺激し、電気のような激しい痺れは脊髄を辿って全身へと伝搬する。肉体の制御を完全に麻痺させられ、四肢の感覚すらも奪われたユウリの意識は体内の器官に移っていった。とりわけ、跳ねまわる心臓、浅く収縮拡張を繰り返す肺臓、そして緊張に強張る()()()()と甘くて切ない下腹部の疼き。未知の感覚がユウリの脳神経を焼き焦がし、見開かれた目からは感情の分らない涙がこぼれ落ちた。


 ユウリにとっては永遠とも感じられた行為はすぐに終わりを告げる。解放されたユウリの体は支えを失い、ゆっくりと地面に崩れ落ちる。力なく横たわった華奢な体を見下ろすリリィの瞳が無邪気に笑った。


「ごちそうさまぁ♡」


 暗がりの中、赤い瞳が妖しく煌めいていた。



MESUGAKIX

続くかもしれない。

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