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11、試練開始

「もうやるって決めてある」

「……ブレませんね、あなたは」


ハルリアナが少し呆れたように眉間に皺を寄せると、彼は覚悟と自信を湛えた目で頷いた。


「兄さんは第103大隊だった。ということはそこで戦い、戦場で死んだ兄さんは、その試練をクリアしたってことになる」

「ええ、そうですね。さすがオルティシア家です……オルティシア中尉も上位の魔力量保持者でした」

「兄さんを超え、いずれはお前も超えるのを目標にするだけじゃなく、浄化魔法式を会得しようとしてる俺が、ただ『優秀なだけ』ってだけじゃだめだ」

「……そういう上昇志向なところは、オルティシア中尉とはちょっと違いますね」


彼はあなたよりは少し気が弱かったように思います、と言って肩を竦めると、ハルリアナは擬似【怪魔】に目をやった。

……本物の【怪魔】はこれよりももっと禍々しい。意味をとれない呻き声はまるで地底から這う悲鳴のようだし、地上を占拠し、一斉に啼き犇めく黒い人型の塊を見ると、ハルリアナですらも吐き気を催すことがある。


だが、擬似でも構成要素は邪素。

触れたものに苦痛をもたらし、聖なるものとは対になる、穢れている魔力の塊。


(……禍々しいのは同じなら、戦場で【怪魔】を見ても……怯むことは少なくなりますし)


これに打ち勝った時のメリットはやはり大きい。最前線になる軍人としては、本当に。

レオンハルトならばきっと短時間での攻略が可能だろう。


「レオン、聞いてください。……邪素に感染中は苦痛のあまり何も考えることができなくなるので、試練中のあなたには厳密に言うと関係の無いことなんですが……、この試練のタイムリミットは3日です。それ以上はどのような聖素も抗う力を失っていきます。3日を過ぎてしまうと、あなたはもう……この世界に戻ってくることは無いでしょう」


地獄のような3日間。……永遠のように感じたと、部下は皆言った。試練を受けたことを後悔したと。

しかしこの試練が、【怪魔】討伐に多大な影響を及ぼすのだ。

それに、これを乗り越えると多少の怪我や痛みをあまり気にしなくなるので、強くも危うい戦争狂の出来上がりなのだが……それは置いておくとしても。


「あなたは最年少での挑戦です。3日どころか2日もつかわかりません。

……地獄ですよ。本当にいいんですね?」

「ああ。オレが決めたことだ」


レオンハルトの目は最後までブレなかった。

それを見てハルリアナはわずかに微笑むと、【怪魔】を留めていた右手を掲げた。





「ハルリアナ」

「オルティシア副大統領閣下、」

「お義父様でいい。……どうだね、レオンハルトの様子は」


合衆国の副大統領の職務を急いで終わらせてきたのか、慌てた様子で屋敷に駆け込んできたラッセル=オルティシアに、オルティシア夫人が駆け寄る。

……彼が帰ってきたのは夕餉を終わらせた矢先だった。よほどレオンハルトを案じていたのか、顔色が悪い。

ハルリアナはそれに対し多少の意外さを覚えて両眉を浮かせたが、少ししてからすぐにいつもの無表情に戻り、目を伏せた。


……軍事、政治面ともに冷徹かつ俊烈な才能を振るうラッセル=オルティシア副大統領でも、やはり1人になった息子のことは誰より大切なのだろう。

彼を、息子が死んだばかりにも関わらず、末息子を戦場にやろうとしている冷血漢だと思っていた時期が僅かにでもあったことを、少しだけ反省する。


「……通常なら3日かかる修行です。レオンハルトお義兄様が」

「普段はレオンと呼んでいるのだろう。別に私の前でもそうで構わない」

「……レオンがいくら優秀だとは言っても、まだ半日も経っていません。試練を乗り越えることは当然、できていません」

「では、レオンハルトは」

「ええ、今も……わたしの邪素に苦しめられています」


自分で言って、ハルリアナは眉を寄せた。

……彼の父であるオルティシア副大統領が許可を出し、レオンハルト本人がそれを切に願ったとはいえ、彼はまだ、10歳。

選り抜きの軍人たちにすら『二度とやりたくない』、『地獄の方がマシだろう』と言わしめたあの試練を、与えるべきではなかったという気持ちはまだある。


少なくとも。ハルリアナがもしレオンハルトだったなら、そこまでの覚悟は出来なかっただろう。


(わたしには……いいえ誰であれ、彼の決意を、覚悟を否定することはできませんから、いずれにせよ試練は結局やることになったんでしょうが……)


……レオンハルトは今、夕方ごろにハルリアナの邪素を体内に取り込み倒れ、待機していた召使いたちに運ばれて自室でその邪素と戦っている。

故に魔法士としての素養を持たないものが、あの部屋に近づくことは許されていない。

彼から溢れ出ている魔力にあてられて気分な悪くなるだけでなく、漏れ出ている邪素に触れたら__体内に取り込むわけではないので皮膚がひどく痛むだけだが__大変なことになるからだ。


ハルリアナとラッセルの信頼によって、彼は今軍人にとっても最大にして最難関の修行を受けていることになるわけだが____。


(どうなることやら……)

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