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傾国の姫  作者: 安田鈴
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第十六話

 スリファイナではどんな身分で、家での立場がどうなのか、が家名として入る。しかしユーリトリアではその広い国土を持つためか、どこで何をしているか者なのかを重要視する。

 レオヴィスの名前を例にとって説明すると、ラウは「治める・統治する・領主」などの意味を持ち、ルは「次期」、シーグィは土地の名前、つまりユーリトリアのシーグィ地方次期領主のレオヴィス、という意味だ。

 まだ5歳で、世界の地理の勉強など大してしてはいないが、大方の有名どころは押さえている。

 特に主国であるユーリトリアの三大地方は一番初めに教わった。

 首都があるアイシア地方は言うまでもなく国王直轄地、次に第二王子が治める鉱山などの資源が豊富な北のフィヨル地方、そしてユーリトリアで最も商業の盛んな南のシーグィ地方だ。

 第一王子は国王直轄領であるアイシア地方で次期領主…つまり王太子として暮らしており、第三王子はまだ年齢が幼いためシーグィ地方の次期領主という地位になっている。だが、このシーグィ地方は別名玉座の地方と揶揄されるほど、他の地方とは別格の権限と財力を持ち、ほぼ独立状態と言っても過言ではない。

 ではなぜここに王太子や、第二王子を置かないのか。

 その答えは第三王子の出生とシーグィ地方独特の決まりが関係している。

 王太子と第三王子は同じ正妃から生まれ、第二王子は愛妾…ユーリトリアでは側室と呼ばれる女から生まれた。スリファイナでは継承権が実質ない存在だが、ユーリトリアでは第三位の継承権がきちんと与えられている。

 つまり……

 同じ正妃から生まれた第三王子が第二位の王位継承権を持ち、首都に匹敵するほどのシーグィ地方を任されたというわけだ。

 そしてシーグィ地方はその豊かさゆえに、国の財政を最も負担するため、魔力の高い領主を必要とする。魔力が高いということは、知能が高いということと比例するからだ。


 だから、レオヴィスが選ばれた。

 魔道の普及をするため、スリファイナに来るほどの魔力を持って生まれた王子だったから。




「……お初にお目にかかります。ユリフィナ・エール・ユン・ダ・スリファイナと申します。持病で伏せっており、御挨拶申し上げるのが遅くなりまして失礼を致しました」

 まだ10歳前後だと言うのに魅力的に見えるレオヴィスの赤い目を見つめ、恥じらったように視線を落として微笑む。

 これくらいの演技、なぜか体に叩き込まれてるから完璧よ!

 ……五歳児にして乙女の演技を体に叩き込まれてるなんて、私を教育した人はいったい私をどうしたいのか、なんて考えちゃダメ!

 どう考えたってまだ早いなんて言わないでほしい!

 一応今役に立ってるんだから、いいのよこれで!うんうん!

 自己暗示は大事。無理矢理葛藤を納得させて、この人生を生き抜く大事な格言を心に刻んだ。

 レオヴィスとリィヤは、営業用です、と言わんばかりの微笑みを崩すことなく一つ頷き、国王様に向き直る。

 さすが美少年王子様。営業用だとわかっても、その笑顔は必殺技すぎるわ。

「確かに、魔法省からの通達通り魔力にあふれています。少し強すぎると思うほどです。……彼女を本国へ連れて行かざるを得ない、と申し上げるほかありませんね」

「そう、か……残念だが、仕方ないことだろう。だがどうか……信じていないわけではないが、ユリフィナは私にとっても、この国にとっても、重要な娘。どうか、無体な真似だけは……」

 穏やかに笑っていた顔を苦渋に染めて、国王様がレオヴィスに言い縋る。

 言われたレオヴィスが重々しく頷くと、幾分かほっとした顔をした。

「重々承知しております。ご安心を。……俺としても魔法省にやすやすと渡すのは腹立たしいからな」

「レオヴィス殿?何か……?」

「いえ、何も。では早速このことを本国へ連絡をして、王女殿下の準備ができ次第ユーリトリアへ向かいたいと思います」

 そこまでレオヴィスが言ったところで、ため息交じりの国王様が私に顔を向けた。

「……ユリフィナ、お前は魔力が高いのだそうだ。ユーリトリアがぜひお前を魔法省に呼び入れたいと言っている。偶然にも、今この王城にレオヴィス殿とリィヤ殿がいらっしゃっていた。明後日にはユーリトリアへお帰りになる予定だったが、今回お前を連れて行くことが決まり、急遽その帰りの道中にお前を含めることになった。慌ただしい出発になるが……明日の夜までには支度を整えておくように」

「私が……ユーリトリアへ!?そんな……」

「ユリフィナ、我が愛しい娘。継承権の高いお前を外に出すなど前代未聞。だが、我が国は属国。人材を提供することに不服を申し立ててはならない。……辛いだろうが、行ってくれるな?」

 ちょっと俯いて精一杯悲しい顔をする。

 こんな時私の顔は最大限いい方へ働いてくれる。美少女が悲しげな顔をしていれば、誰しも可哀想にと同情してくれるのだ。

 可哀想でしょう、弱弱しいでしょう、儚げでしょう!?

 見よ、この威力!

 ……まあ、同性の王妃様にはあまり効果がないかもしれないけど。むしろ小賢しいとか思われそうだけど。それでも、私は弱いことを印象付けなくては。

 私は無力で無知で弱い。いつでも殺せる存在だと思わせる。

 私の存在は脅威ではないと、思わせなくては。

「……わかり、ました……。陛下の下知をお受けいたします」

 震える声で一礼する。

 これで完璧よ……よもや五歳児が保身のために涙声まで出すなんて、さすがの王妃様も思わないだろう!

 よくやった、私!

「うむ。……そうだ、ユリフィナ、此度のユーリトリア行きの前に、お前の願いを一つ叶えておこう」

 さあこれで終わりだと思っていたところに、国王様が思い出したと言わんばかりに言いだした。

 ……願い?

「はい……?」

「二人をここへ」

 国王様が近くに控えていたフィリップに合図すると、フィリップは小さく一礼してその視線を私……を通り越して、私の後ろへ向けた。

 なんだろう、と振り返る前にその姿は現れる。

 二人は私の前で片膝をつき、忠誠の礼をする。一人は私をここまで連れてきてくれた、あの使いの人だった。

 そしてもう一人の男の人が顔を上げ、私の顔を見つめる。

 この人、使いの人に似てる……っていうか、あの丸い眼鏡がなくてちょっと硬い感じの顔をさせたらまんまだ!

 双子?双子なの?前世の時でさえそうは見かけなかったのに、転生したらあっさり双子に遭遇できるのか!

 ちょっとした双子フェチの私にはたまらんわぁ。

 それに、使いの人の時も思ったけど、こうして眼鏡なしできりっとした顔をさせるとやっぱりカッコいい顔をしてる。美形は美形だけど、好青年って感じの美形だ。

 何歳くらいかな……うーん、24くらい?でもこういう西洋系な顔の人って、東洋の人間からしたら大人びてるし……もっと若いかもしれない。

 金髪、淡褐色とも呼ばれるヘーゼルの瞳に白い肌……どちらかというと、この人は健康的に日に焼けた肌をしてる。あの使いの人は間違いなく白かったけど。

「私はアーサー・エール・サリ・ユグナー。隣が私の弟でランス・イル・サリ・ユグナーと申します」

 ……うん、できたら名乗るよりどうして紹介されたのかが知りたいんだけど。

 ユグナー、ユグナーね、うーん……

 悩む私を救うかのように、彼は自分たちが何者なのかを的確に私に示してくれた。

「王女殿下の筆頭侍女でありました、マーサは私達の母でございます」

「っ!」

「ユリフィナ、この者たちを従者に、と望んだそうであったな?本来はいかにお前の頼みといえど、侍女が付くところだが……お前はこれからユーリトリアへ行くことになる。彼の国へ行くのに、あまり騎士の類も、侍女もそう多くは付けてやれん。だがそれでは心配だからな、従者であれば騎士の代わりもでき、ある程度の身の回りの世話もできる。その二人ならば十分に事足りよう」

 と言うことは……

 マーサの家族を救えたわけよね!?ユーリトリアに行くことになったけど、とりあえずは、城で働く名誉は守られたってことになるわよね?王女の従者になったんだから。

 心底ほっとして、息を吐いた。

「わがままをお許しいただき、ありがとうございます、国王陛下」

「では下がるがよい。……レオヴィス殿、どうかユリフィナをよろしく頼む」

「お任せください。失礼いたします、スリファイナ国王陛下」

「失礼いたしました」

 レオヴィス、リィヤ、そして私が出ていく。私の後ろには新しく従者になったアーサーとランスが静かに続いた。

「……では王女殿下、申し訳ありませんが私どもは身の回りの整理と、明後日の支度もございますので、こちらで失礼させて頂きます」

 アーサーがきりっとした顔のまま機敏な動きで私に一礼する。それに慌てて続くランスを少し面白く思いながら、こくんと一つ頷いた。

 ホントはマーサのこと、謝りたかったんだけど……

 ちらりと周りを見、ここだとまずいだろうと諦めた。

「……はい。これからよろしくお願いしますね」

「いえ。不慣れなことが多いと思いますので、ご迷惑をおかけするばかりかと。ですが、精一杯お仕えさせていただく所存です」

「ぼ…私も、精一杯がんばります!」

「はい。じゃあここで……おやすみなさい」

 くすくすと笑いながらランスを見上げ、小さく手を振った。

 きりっと一礼するアーサーと、どこかのんびりしたランス。

 二人は外見がそっくりなだけに、その言動がまったくの正反対に見えてしまう。


 仲良くなれるといいな……


 希望を込めてその後ろ姿を見送った。

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