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結婚したのに6年間無視され続けた私、本当の理由 〜原作にいない貴族令嬢は世界を変える〜  作者: 唯崎りいち
第三章 静かなる聖地、それは光

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湖上の聖地と転移の決断

 俺、ギリアムは、アイゼル様との聖都ヴァティウスでの買い出しを終えて、荷物を一旦宿に運にこんだところだった。


「アイゼル様、レオンハルトが言っていた通りに湖の上にある聖地に向かいますか?」


 当然、アイゼル様は、クレア様とレオンハルトを二人っきりで——侍女のミアもついているが——ボートに乗せようとは考えていないだろう。


 そう考えていたから、アイゼル様の言葉には驚いた。


「いや……ボートには、ギリアムとミアで乗ってくれ」


「はい……?」


 俺は主君の前にあるまじき間抜けな声を出していた。


 クレア様を溺愛しているアイゼル様が、クレア様と他の男がボートに乗る事を許すなんて!


 しかも、二人の邪魔をしてくれるはずの侍女のミアを二人から引き離して、俺と二人で別のボートに乗れと言うなんて!?


「……どうされたんですか、アイゼル様」


 俺は内心の怒りを隠して、落ち着いて聞いた。


「……ミアが乗っていたら、クレアのボートに僕の乗る場所がなくなる」


 アイゼル様の回答にまた驚く。


 アイゼル様はクレア様を近くの別のボートから見守るのではなく、同じボートに乗り込んで完全にレオンハルトとの接触を断つつもりだったのか……。


 ホッとすると同時に少し呆れてしまう。


 それでこそアイゼル様だが。


「……はぁ……」


 俺は思わずため息をついてしまう。


「ちょっと待て、別に僕はクレアちゃんが心配だからレオンハルトのボートに乗り込もうとしてるんじゃない。僕とギリアムで一緒にボートに乗るのが不可能だから言ってるんだ」


 何故か言い訳しようとするアイゼル様。


 理由は不明だが、俺とボートに乗れない事で堂々とレオンハルトとクレア様の邪魔が出来る事に嬉々としている事は確かだろう。


「どうして、アイゼル様と俺とではボートに乗れないんですか?」


 ここで言うボートと言うのは、櫂を手で漕ぐ推進方式のもので、漕ぎ手が一人と他に二、三人が乗れるものだ。


 クレア様とレオンハルトなら、漕ぐのが身体の大きいレオンハルトだとして、他に乗れるのはクレア様とあと一人だけだろう。

 アイゼル様が乗り込むならミアが乗れないのは必然だ。


 しかし、俺とアイゼル様の二人で乗るには特に不都合がないと思うが……。


「昨日からずっとこの聖都ヴァティウスの警備を見ているが、大聖堂の奥の秘密の資料室まで行っても警備は手薄だった」


 アイゼル様が盗み出した“教会関係者の魔力の形をまとめた記録”は大聖堂の奥にあった。


 レオンハルトの協力で、結界の中でも動けたと聞くから、警備がされていなかったわけではない。

 ただ常時結界で守られている事に慣れている態度が手薄に見えたのだ。


「湖の上に行くものの警戒はそれとは全く違う。ただの観光客でも少しでも怪しく見えるものはボートの利用を断られているようだ」


 買い出しで街を歩いている時に商人の男が別の同じような商人と話しているのが聞こえてきたが。

 せっかく聖都に来たからと、使用人とボートに乗って聖地を見に行こうとしたら断られたと二人ともが話していた。


「男同士だとのれないんでしょうか……?」


「湖の上に漕ぎ出しているボートには男だけしか乗っていないものもあったから、ボートの乗船を拒否する条件はいくつかあるんだろう」


 アイゼル様は買い出し中にも観察していたらしい。


 ずっと気にされている事があるとは思っていたが、それは湖上の聖地に関することで、教会が警戒している事なのか。


「どんな条件で乗船を拒否されるのかはわからないが、明らかに僕はおかしいだろう」


 アイゼル様が自分の姿に呆れたようの呟く。


 今のアイゼル様は本来の自分を偽ってルークになりすましているわけだが、ルーク自身もアイゼルにそっくりで目立つ容姿をしているが、その容姿で目立ってしまうのは避けたい。


 顔を隠すフードとマスクをして、ルークと同じ黒髪のカツラをつけている。


 旅人としては、機能性を重視してこういう格好をしている者もいるから、外部の人間が多くいるように聖都ヴァティウスのような街中で特別に不審がられるような事はない。


 ただし、警戒している場所に行くなら、間違いなく怪しまれる。


 俺と一緒にボートに乗れないというのは納得だ。


「聖都以外の船着場からボートもあるんじゃないですか?」


 湖の中にある聖都とは別に大きな湖の周りには、宿や小さな村が見えた。


 今から急げば午後までにボートに乗り込む事は出来る。


「聖都以外のボートも湖の上にはいくつかあったが、かなり警戒されていて湖上で止められて聖地までは辿り着けないようだった」


「そこまで見ていたんですか!? 聖地には何があるんですか、アイゼル様」


 アイゼル様はまだ話してくれるつもりはないようだった。


「……別の場所からもボートに乗れないのだったら、アイゼル様はどうするんですか? 俺がミアと別のボートに乗っても、クレア様とレオンハルトのボートには乗れませんよ」


「船着場から直接乗るのは無理だが……。聖地に直接行くよりはボートを経由した方が警戒は薄くなるか……」


 俺の疑問にアイゼル様は直接は答えずに独り言のように呟く……。


「まさか、魔法を使うつもりですか!?」


 陸地から湖上のボートへの転移魔法……。


 アイゼル様ほどの魔力があれば出来ない事はないだろうが……。


 この世界では魔力というものは常に監視されている……。


 辺境の地とは言え転移魔法のような強大な魔法を使えば、必ず見つかる。


 皇帝の弟でありながら、辺境の地で隠れて暮らしていたアイゼル様には、転移魔法を試すなんて事は出来なかったはずだ。


「教会側に見つからないようにしなければならないのに、そんなはじめて使う転移魔法なんて無謀ですよ!」


 俺は抗議した。


「はじめてじゃない、辺境で子供の頃に何度か試した事はある」


 アイゼル様がサラッと言う。


「え!? 転移魔法を試した!?」


 辺境の城砦でアイゼル様の安全を最優先に考えて使用人たちが日々動いていたのに……。


 当のアイゼル様が外にバレるような魔法を使っていたなんて……!


 側近の俺が気付かなかったなんて……。


「そんな顔するなギリアム。魔力を隠すための魔法の効果を見るために転移魔法も使ってみただけだ。隣の部屋に移動するだけだったから、ちゃんと魔力は隠せた。あれ以上の距離を移動したら隠せなかっただろうけど、今の僕なら、もっと長い距離の移動ができるはずだ」


 アイゼル様の無謀な過去に驚いたが。


 今は、その経験があって良かったのかもしれない。


「ギリアムはミアと別のボートで、クレアとレオンハルトのボートに注目が集まらないように誘導してくれ」


 俺はうなづいた。


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