僕は猫(クリストファー)3
ヤマトイ国は、僕の国ケルリア国の隣の国である。とは言っても、海を挟んで東にあり、近いようで遠い。
僕は遠回りした別の国から、紅茶とワインの乗った船に紛れ込んでやって来た。猫の足は、音を立てずに歩けるので都合が良い。後は少しの魔法で他人の視界を遮断して、楽々乗り込んだ。
船を降り、歩くヤマトイ国は、貧富の差が少なく、清潔な、明るい気さくな人達の国だった。漁師のおじさんが魚をくれたし、子ども達は僕を見ると触ったり抱き上げたりした。小さい頃から学校へ行っているようで、皆お揃いの鞄で楽しそうに帰って来た。
魂が僕を呼ぶ。こっちだよというように。身体が引き寄せられるように求める方向に進み、時には思わぬ横道に外れながらもやっとここまで来た。
この国に、いる。僕の魂と、大切な人が。
僕の中の何かが告げる。もうすぐ、もうすぐだよ。
気がはやりつつも、なかなか辿り着けないまま歩いていたが、ある日お腹が痛くなってうずくまった。
ああ、さっき飲んだ水溜まりの水かな…それともお店の脇に落ちてた揚げ肉の残りのせいかな…子供達がくれた鮮やかな色のお菓子のせいかな…。野良猫生活には慣れたけれど、楽じゃない。
道の脇の茂みに隠れてぐったりして丸くなる。気がつくと、そのまま夜になっていたらしい。
寒い、痛い、暗い。…寂しい。
僕は王子だけど、今は何もない。長い夜だった。銀色の満月が見ていた。
魔法で何とかならないかなと思ったけれど、猫の姿では高度な治癒魔法は使えなかった。
不意に、後の茂みがガサガサと音を立て、黒い何かが飛び出してきた。ビクリとなるが、体が自由に動かない。熱も出てきて、意識も朦朧としていた。
「ちっ、しょうがねえな。」
と、黒い物が言った。