「お姉ちゃん~、沖縄いかない~~?」
「お姉ちゃん~、沖縄いかない~~?」
夕食後、リビングでくつろいでいた静に、乙羽がのんびりと声をかけた。
「行くわよ? 引率のことでしょう?」
静は特に驚くこともなく答えた。
学校の全国大会に向けた合宿では、沖縄へ行く予定になっている。静も引率を兼ねて参加するつもりだったため、妹から誘われても不思議ではなかった。
「それもあるけどぉ、今回は下見だよぉ。ティンカーベルで、強いダンジョンを攻略しに行くんだぁ」
「……下見?」
静は少しだけ興味を引かれたように顔を上げた。
「合宿の前に、実際のダンジョンを確認しておくということね?」
「うん。どんなモンスターがいるのかとか、地形はどうなってるのかとかぁ。先生と一緒に調べておこうと思ってねぇ」
乙羽が隣に浮かぶリーゼロッテへ視線を向ける。
「先生、沖縄には強いダンジョンもあるんだよねぇ?」
「ええ。もちろんありますよ。ただ、どのダンジョンを選ぶかは、目的によって変わってきますね」
リーゼロッテはそう答えてから、静にも説明を始めた。
「ティンカーベルの皆さんは、すでにレベル75以上です。静もレベル100を超えていますから、一般的な学生向けのダンジョンでは、十分な経験を積むのが難しいでしょう」
「そうね。今の私たちなら、相手の強さも考えて選ばないといけないわね」
静は納得したように頷いた。
「それで、今回はどのくらいのダンジョンを探すつもりなの?」
「ティンカーベルのレベルに合った場所を探す予定ですよ。静も一緒なら、多少難しい場所でも問題ないでしょう。ただし、実際にどこまで攻略するかは、現地で確認してから決めます」
「なるほど。面白そうね」
静の表情が明るくなる。
もともと冒険者としての活動が好きな彼女にとって、普段とは違う土地のダンジョンを探索する機会は魅力的だった。
「それなら、私も行くわ。沖縄のダンジョンを攻略できるなんて、なかなか楽しそうだもの」
「おぉ~! お姉ちゃんも一緒だねぇ!」
乙羽は嬉しそうに笑った。
静が加われば、攻略の幅も広がる。何より、姉と一緒にダンジョンへ潜れるのは乙羽にとっても楽しみだった。
「ところで、先生。今回の下見は、学校の合宿とは別に考えているのよね?」
静が確認する。
「はい。今回の下見は、乙羽たちと静だけで行う予定です。合宿に参加する生徒たちとは、目的が違いますからね」
「やっぱり、そうよね」
静は頷いた。
「合宿では、11人で1つのパーティーを組んで、連携を練習する予定でしょう? 私たちと同じ基準でダンジョンを選ぶわけにはいかないわね」
「そのとおりです。合宿では、全員が協力して戦える環境を用意する必要があります」
リーゼロッテが説明を続ける。
「生徒たちのレベルはおおむね50前後ですから、その実力に合ったダンジョンを別に探さなければなりません。敵のレベルだけでなく、出現数や地形、移動のしやすさなども確認しておく必要がありますね」
「なるほど。11人で連携を練習できる場所が必要なのね」
静は腕を組み、少し考えた。
「なら、今回の下見ではティンカーベルの実力を基準にして、攻略を楽しんでもいいわね?」
「もちろんですよ。今回の目的は、私たちが攻略できるダンジョンを探すことですからね」
リーゼロッテが頷いた。
「ただし、合宿では話が別です。私たちだけで敵を倒してしまっては、生徒たちの練習になりません。11人全員が協力して戦える環境を用意する必要があります」
「そっかぁ。今回は私たちが楽しむための下見だけど、合宿ではみんなで連携できる場所を探すんだねぇ」
「そういうことです。目的を分けて考えれば、問題ありませんよ」
静も満足そうに頷いた。
「わかったわ。今回は私たちに合ったダンジョンを攻略しながら、合宿に使えそうな場所についても情報を集める。それなら一石二鳥ね」
「うんうん。せっかくだから、いろんなダンジョンを見てみたいねぇ」
乙羽は楽しそうに声を弾ませた。
そして、ふと思い出したように手を叩く。
「あっ、そうだぁ。コラボ配信もしようねぇ~」
「そうね。雑談配信はしたけれど、攻略配信は一緒にやっていなかったものね」
静は楽しそうに微笑んだ。
「せっかく沖縄まで行くのだから、ダンジョン攻略の様子も配信してみたいわね」
「でしょぉ? 沖縄のダンジョンも紹介できるし、視聴者さんにも楽しんでもらえると思うんだよねぇ」
「いいですね。普段の攻略配信とは違って、静も一緒ですから、戦い方の違いも見てもらえるでしょう」
リーゼロッテも賛成した。
「それに、ダンジョンの様子を配信すれば、現地の環境やモンスターについて知ってもらう機会にもなります。ただし、公開して問題のない情報に限りますけれどね」
「そこは気をつけるわ。攻略情報を何でも公開していいわけではないものね」
静も冒険者として、その点は理解していた。
「じゃあ、今回は攻略配信をしながら、合宿の下見もするんだねぇ」
「そうですね。ただ、合宿用のダンジョンは別に探すことになりますから、そこは忘れないでくださいね」
「はぁい」
乙羽は素直に返事をした。
それから、何かを思いついたように目を輝かせる。
「でもぉ、沖縄に行くなら、観光もしたいよねぇ~」
「ふふっ。そうね。せっかく沖縄まで行くのだから、ダンジョンに潜るだけではもったいないわ」
「おいしいものも食べたいです!」
リーゼロッテがすかさず口を挟んだ。
「先生、そこが一番楽しみなんじゃないのぉ?」
「何を言うのですか。下見も重要ですよ。もちろん、沖縄の食事にも興味はありますが」
「ふふっ。先生らしいわね」
静がくすくすと笑う。
「じゃあ、ダンジョンの下見をしたあとは、観光も楽しみましょう。私も沖縄の名物料理を食べてみたいわ」
「やったぁ~!」
乙羽は嬉しそうに両手を上げた。
ダンジョン攻略に、コラボ配信。そして沖縄観光。
下見という名目ではあるものの、楽しみな予定が次々と増えていく。
「それじゃあ、行く日を決めないといけないわね」
静がそう言うと、リーゼロッテが頷いた。
「日程については、皆さんの予定を確認してから決めましょう。今回はティンカーベルと静だけですから、大人数の合宿よりも調整しやすいはずです」
「うん。私も大丈夫だよぉ。学校の予定も調整できるし、横浜のダンジョンじゃなくてもいいんだもんねぇ」
「そうね。いつもと違う場所で攻略するのも新鮮だし、観光もできるなら楽しみだわ」
静はそう言って、乙羽に微笑みかけた。
「ただし、下見に行く以上は、確認すべきことを忘れないようにね。楽しむのはいいけれど、目的はきちんと果たしましょう」
「はぁい。ちゃんと調べるよぉ」
乙羽は元気よく頷いた。
こうして、沖縄への下見旅行は、ティンカーベルと静によるコラボ攻略配信を兼ねたものになりそうだった。
強敵との戦闘を楽しみながら、合宿に向けた情報も集める。
そして、調査が終わったら沖縄の観光も満喫する。
乙羽にとっては、どれも楽しみなことばかりだった。
「ふふっ。沖縄、楽しみだねぇ~」
乙羽の言葉に、静とリーゼロッテも頷いた。
まだ日程も行き先も決まっていない。
それでも、三人の沖縄旅行は、少しずつ具体的な形になり始めていた。




