パーティ!
――フォルテイス王国歴 百年六月三十日
「さあ、ユーリ出かけるわよ!」
「……ん……うう。…………なに言ってんの……エリノラ姉さん」
「なに言ってんのはこっちのセリフよ!いいから起き、なさい!」
エリノラ姉さんはそう言って、僕の布団を無理やり剝ぎ取る。
布団に張り付いていた僕。その結果として、僕はそのままベッドから落とされ――…
「ギャァァァア!膝が!膝がーー!」
固い床がお出迎えする
「ちょっと!!痣になってないでしょうね!」
……ん?珍しく心配してくれてる……?
なに、今日雨でも降るの?
痣にはなってないと思うけど……。
「……うんこれなら問題ないわね」
なんだか久しぶりに姉らしい所を見れた気がする。
「それじゃあ、これ!着なさい!」
そう言って紙袋から取り出すは、薔薇のように真っ赤なロングドレス。
ふーん…ドレスねぇ…………ドレス?
ド・レ・スだと!?
「なに驚いた顔してんのよ?昨日言ったじゃない。今日、軍のパーティーがあるって……そこで、ユーリ。あんた私の代わりにパーティに参加するのよ?」
「あ、あははははは。面白い冗談だね!エリノラ姉さん!」
「バカねーユーリ。私が今、本気で言ってることぐらい分かるでしょ?ふふふ」
……よし、逃げよう。
問題はどうやって逃げるか、だ。
この部屋で逃げられる場所は一つだけ、エリノラ姉さんの後ろにある窓のみ。
とは言えエリノラ姉さんを振り切って逃げるなど、不可能。
今思いついている作戦は三つ。これで切り抜けるしかない。
作戦その一
隙を付いて逃げる。
作戦その二
むしろ堂々と逃げる。
作戦その三
全速力で走って逃げ切る。
……ふむ。これ全部使うか……。
作戦その一を発動!
「……分かったよ。……着替えるから…その、出ててくれない?……見られるの恥ずかしいんだけど」
「?……やけに聞きわけ良いじゃない?そう言って窓から逃げるつもりじゃないでしょうね?」
作戦その二を発動!
「バカだな、エリノラ姉さん。僕がエリノラ姉さんから逃げられる訳がないじゃないか」
「……それもそうね。分かったわ。分かってるだろうけど、早く着替えさないよ?」
「もちろんだよ。着替え終わったら声をかけるから」
――バタン!
部屋の扉が閉まる。
よし……ここまでは上手くいったな。
作戦その三を発動!
そそそ―――ゆっくりと窓側へと移動する。
窓枠に足を掛け、体を持ち上げる。
そして、また足から外の地面に掛け足をゆっくりと着地させる。
よし……脱出完了。
後は、両手を肩幅に離して地面に。両足を前後に開いて前傾姿勢。後ろに引いた右足を家の壁に垂直に当てて、力が入りやすいようにしてっと……。
準備はいいか?ユーリ・フィリドール。
……ははは緊張で足が震えてる。
でも大丈夫。この日の為にきつい練習をしてきたんじゃないか。
これならきっと、逃げられるさ。
よーーーい…スタート!!
――す、凄い。こんなにも目に映る世界が変化するなんて……。
凄いスピードだ!それに……なんて色鮮やかな世界なんだ。
控えめに言って……最高!!
「………まちな……!」
……最高だ。
「……まちなさい!」
……最高なんだ。
「ま・ち・な・さ・い!」
……最高なはずなんだ。
――ガッシィ!!
「捕まえた!!!!」
………何なの?
何で追いつけるの?
まだ逃げてから10秒も立ってないよ?
早くない?捕まるの?
あと、どんな走り方したら地面が焦げるの?
「おばあちゃん直伝の追いかける術……凄いわね。あっという間に追いついちゃったわ」
何それ!そんなの聞いてない!ずるい!
※爺ちゃんから聞いています。
……最悪だ。
♢
「……前々からもしかしてとは思ってたんだけど、まさかここまで化けるとはね……少し身長が高いけど、靴底を低めのものに変えれば……うん。イケる!」
「……ねえ。欠席しない?」
「はいそこ減点!女性らしい声で話しなさい!裏声よ、裏声!」
「……。」
……新手のいじめですか?
泣くよ?僕……。
「さて、時間は……丁度いい時間帯ね!馬車を頼んであるからそれに乗って会場に向かいなさい。あ、あとパーティーでは、くれぐれも失礼のないように気を付けなさい。軍の関係者だけじゃなくて貴族達も来るんだからね。下手したらクビ飛ぶからそのつもりで」
……ならなぜ自分で行かないのですか?エリノラお嬢様。……謎だよね?
「私は疲れたから寝るわ……じゃあユーリ後はよろしくね」
ふざけているのか?僕に面倒ごと押し付けて自分は寝る?いくら何でも僕をなめすぎだ。
これはガツンと言っておかないと!
「てめえコノヤ「ああ?」」
「何でもないです!いってきます!」
……たまにはエリノラ姉さんのお願いも聞いてあげないとね!
王都は城を中心に円で囲うようにして作られている。故に、城を囲う城門も円形になっていて、城まで行く大通りは全部で4箇所あるり、それぞれに特徴がある。
北は農園や畑が広がっている生産エリア。
西は金貸し店や宝石店などが立ち並ぶ金融エリア。
南は武器屋や防具屋が立ち並ぶ工場エリア。冒険者組合もここにある。
そして現在いる東は飲食店が立ち並び、常に壮絶な争いが起きている食事エリア。 となっている。もちろんどのエリアにも飲食店・武器屋・農場は存在するが、大まかな特徴としてその4つが挙げられるという話だ。
――馬車で揺られること三〇分。
城に近づくにつれ、立ち並ぶ店も一般市民が食べるようなリーズナブルな食事エリアは少なくなり、代わりに貴族や大商会が食べそうな、いわゆる高級料理店が増えてきている。
……そういえば、この馬車どこまで行くんだろう。
行き先、教えてもらってない。
なんだか、今から売りに出される魚の気分だ。
会場に向かうにつれ、生気がなくなっていく。
はぁ……帰りたい。
現実逃避でもして、暇つぶしでもするか。
ひつじが一匹。ひつじが二匹。ひつじが三匹…
「…ユーリ様、ユーリ様!」
「ん?…あぁ、運転手さん」
「ああ!良かった。起きてくださいましたね。パーティー会場の王城に到着致しましたのでお早く準備を!後の方々が…………」
へー、王城ね……。
馬車から降り、地に足をつける。
コツ、コツ。靴底が硬質な地面と当たる音が聞こえる。
目の前には視界に入りきらない大きな大きな建物。思わず見上げれずにはいられないほどの高さを誇る建物はまさに、王の住まう城に相応しい。
……王・城・だと!?
「ば、馬鹿な。そんなはずが……」
エリノラ姉さんめ、王城なんて一言も言ってないじゃないか!!
……よし、逃げるか。
「運転手さ「では、私はこれで!!ご武運を」」
そう言って運転手さんはそそくさと逃げるように馬車を発進させる。
「そ、そんな殺生な!待ってください……!」
……くそ!最悪だ。
「ちょっと、後が詰まってるんだけど、早く進んでくださらない?」
背後から怒ったような声を掛けられる。
後ろを振り向くと、僕を先頭にして長蛇の列を作る女性達がいた。
……先に行けばいいじゃん。
あの時そう口にしなかった僕を僕は絶賛している。
もう、いい!
なるようになれだ!!!!!
僕はやけくそモードに突入した。
♢
「お、おい。パーティかなり女子の数少なくないか?」
「あぁ、もうすぐ開始時間だってのに全然来てないよな」
王城の一角のパーティ会場。七〇平方メートルほどの大きなこの会場は豪華に飾られていた。
それもそのはず、このパーティは王国主催だ。
まず、入り口にて、お出迎えするのは綺麗に咲いた季節の花々。
その花々に歓迎されながら進むと、次に現れるのは季節の食材をふんだんに使った料理の品々。
その近くには、四〜五人で囲えるほどの大きさのテーブルがあり、一定間隔を空けて料理の乗ったテーブルと沿うようにして並んでいる。
中央に見えるのは豪勢なシャンデリアに照らされた混龍ジャバウォックの頭の剥製が展示されている。
さらに奥、会場の一番奥には、壇上をするスペースが設けられている。
誰が見ても一目で分かる。かなり気合の入ったパーティ会場だ。
そして、このパーティ会場は今混乱を見せていた。
女性が極端に少なかったのだ。
例年、軍が参加する理由で、どうしても男性の方が少し多くなってしまうのは仕方ないことだが、それでも例年の男女比が六:四。
それが今回の男女比は九:一。見るからに異常だった。
そして、この異常事態に一番動揺しているのは女性たちだった。
自分が知る限り、自分の後には沢山の馬車があったはず。なのに、その後が入ってこないという現象は、身の危険を感じさせることは簡単だった。
男性は女性よりも早めに集まっているため、外の事情など知るよしもない。
そうして、会場全体が軽いパニックを引き起こしている時、
――彼女は入ってきた。
コツン。コツンと靴の音が響く。
その姿はまさに物語から飛び出したかのような美を持つ女性だった。
艶のある美しい黒髪。同じく黒色のまつ毛に縁取られた瞳は碧の宝石。乳白色の肌に浮かぶ桜色の頬。唇に薄く引かれた赤の口紅。
それらを薔薇色のロングドレスがより情熱的にまとめ上げている。
欠けることのない満月のような美を持つ少女。
誰もが一目で彼女の虜になった。
男性は緊張からか唾を飲み込み、女性はその姿に安堵すると共になんてキレイな人なんだろうと頬を赤く染める。
皆が彼女に見惚れていると、やがて彼女の後ろから大勢の女性が並んでいることに気づく。彼女に続き、続々と会場に入場する女性。
そして、瞬く間に会場が正常に戻る。
それを狙ってやったかのような彼女。
まさしく、最高の登場をした彼女に実力者達は目をつける。
最後の一人が会場に入る。
そのタイミングを見計らったかのように開始時間を知らせる声が聞こえる。
「会場の皆様。本日はようこそお越しくださいました」
そう言ったのは、ロイド・カーペンター・アレクシア。
法律から農業までの規律と生産までを取り締まり、王国の頭脳と呼ばれる右大臣だ。
会場の視線が右大臣人に向く。が、頭の中では彼女のことを考えていた。
その考えはただ一つ。
『どうやって彼女に話しかけるか?』
彼女に話しかけるべく徐々に彼女の元へと移動する男性達。
そこは既に静かな戦場と化していた。
「それでは、皆さん。本日は楽しんでください」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「
一目惚れです!付き合ってください! 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
これは後に都市伝説として伝えられる、百人同士告白である。
ユーリ・フィリドール
「……え?」





