本気を見せてあげよう
深く深く呼吸をする。
息をするたびに僕の細胞が一つ一つが活性化していくのが分かる。
――『勝負は一瞬』
始まりのゴングまであと……十秒。
「いらっしゃいませー」
七…六…五…
「ご注文はお決まりでしょうか?」
四…三…二…
「饅頭屋が作る。特製サンドウィッチセット4つ。あ、お持ち帰りで」
――スタート!!!!
まず始めにパンを斜めにカット。この時にパンの耳は残しておく。
↓
干し肉を炙ったものをパンに乗せ、次に朝一番にとれた新鮮なトマトとキュウリのスライス、ちぎったレタスを順に乗せる。トマトを中央に、キュウリは両端。レタスはバラバラに。
↓
最後にお店秘伝の特性ソースをたっぷりとつけてパンで挟み込めば、完成!!!
作るのにかかった所要時間……2分15秒……
『……クソッ!15秒遅れたか』
「おまちどおさま!サンドウィッチセット4つです」
「てめえ、新入りサンドウィッチセットじゃねー!!饅頭屋が作る。特製サンドウィッチセットつってんだろ!間違えるじゃない!もう一回だ!」
「すみません店長!饅頭屋が作る。特製サンドウィッチセット4つです」
「よォし!良いだろう!ここからが山場だからな!気合い入れていけ!」
「オッス!」
へっ……人気店は忙しくて仕方ねえぜ。
おっと……店長の言葉が移ってしまった。
気を付けないと。
おっさんみたいな口調してるけど、店長……女性だよね?
「饅頭屋が作る。特製サンドウィッチセット二〇個ください」
この声、どこかで、
「…………あ、アリスさん」
僕がアリスさんの名前を呼ぶと同時に、お互いの目が合う。
「「じーーーーーーーーーーっ」」
見つめ合う二人……。
……大丈夫。 言いたいことは分かっている。
なぜ饅頭屋がサンドイッチを作っているのか……そう言いたいんだよね?
そりゃ、僕だって思ったさ……。
なんで、饅頭の人気店がこんなことやっているのかってね……。
店長曰く「饅頭だけで食っていけるほど、この世の中は甘くはねえんだよ。隣のお店を見てみな、凄い行列だろう?ここは王都。しかもお店が集まる激戦区だ。つまり、ここは戦場、生き残るためには、なんだってするさ」
……らしい。
店長が最後に言った「あ~あ、あんこみたいに世の中甘ければ良いのに……」が嫌にリアルだ。
そんな事情があるんだ。
僕も日雇いだし……仕方ないんだ。
そう、これは仕方のないこと。
だから分かってくれ!
僕はサンドイッチを作りたいわけじゃないんだ。
僕はその思いの宿った視線をアリスさんに向け――
「……プイ」
か、顔を背けられた!!?
そ、そうだよね……饅頭作るつもりがサンドウィッチを作ってるなんて格好がつかないよ――
「新入り!いつまでぼさっとしてんだい!さっさと手を動かしな!」
「は、はいいい!」
クソう!考える暇もないのか。
……こうなればヤケクソだ。
「うおおおおおおお!!」
――力尽きるまでやってやる!
――あれから、2時間後。
「な、なんだこれは……なんだってウチにこんなにお客が…………俺は夢でも見てるのか?」
「それと、ユーリだったか?コイツ、時間が経過するごとにどんどん捌くスピードが上がってやがる。饅頭の制作に入ってからは特に。品質も上々も来た……ひょっとするとコイツは……いや、よそう。新入りに何期待してんだ俺は……」
「うおおおおおおおおおおお!!!」
――あれから、5時間後。
「店長!饅頭の材料が無くなりました!!」
「なにい!?今すぐ、近くのお店で買い足してこい!ダッシュで!」
「は、はい!分かりました!!」
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
――あれから、7時間後。
「て、店長…もう腕が……」
「バカ言ってんじゃねえ!新入りがこんなに頑張ってるだ!俺たちが…へばってどうすんだ!!!」
「おっ…オッス!」
「うおおおおおおおおおおお!!!!!」
「へっ……若いってのはいいな。だが、こっちはこの道のプロ。……良いだろう。久しぶりに俺の本気見せてやらあ!!」
――あれから、8時間後。
「はぁ…もう、はぁ…もう…だめ。力…入ら……ない」
やりきった……。
ていうか客!多すぎじゃない?!
これなら普通に饅頭だけで十分じゃん!?
は~でも、確かにこんなに人が多いんじゃ一日従業員でも、饅頭融通するわ。
凄い納得した。
他の皆も、死にそうな顔をしてるし。
「ユーリ!」
店長の雷のような声が店内に響く。
「はっはい!」
ズンズンという音が似合いそうな歩幅でこちらに向かってくる店長。
その顔は……ものすごい笑顔だ。
え?なんで笑ってんの?怖いんだけど。僕、なにかしたっけ?
途中から熱中しすぎて、何も覚えていない。
あ、もしかして熱中しすぎて無視してた……?
あり得る話だ。 昔からエリノラ姉さんから注意されてきた僕の悪い癖。
それが発動してしまった可能性がある。
だが、僕もバカじゃない。
こういう時の対処法は、もう学習済みだ。
「すみまーー…」
「やるじゃないか!!!」」
「……え?」
「おまえの働きのおかげで今日は大繁盛だ!!よーーーくやった!!!それと、ほら!今日の報酬と約束の饅頭だ。それと今回は特別、スペシャルな饅頭も付けてやる!!もってけ泥棒!」
「あっ、ありがとうございます?」
……褒められちゃったよ。
よく分かんないけど、まあ、良いか!
「またきな!おまえならいつでも大歓迎さ」
「はい!ありがとうございます。また機会があればお願いします」
いやぁ。良かった良かった。
目的の饅頭も手に入ったし、今日は大成功だね。
さて、後はこの饅頭をお手伝いさん達に配ってと……スペシャルな饅頭はどうしようかな。
正直、もうヘトヘトで食べる気ないんだよね。
あ、そうだ!!
王女様にも渡しておこう!!
なんだかんだ、お世話になってるしね!
うんうん。我ながらに気が利いているじゃないか。
スペシャルな饅頭だ。美味しい物を毎日食べている王女様の口にもきっと合うはず。
そうと決まれば、さっそく行動だ。
「ベビーちゃん」
「はぁい!」
「ベビーちゃん。この饅頭お手伝いさんのみんなに配ってくれるかな?あと、このスペシャルな饅頭を王女様に届けて欲しいんだ。お願いできる」
「はぁい!」
「ありがとう。じゃあお願い!」
「……あ。エリノラ姉さんの分……忘れてた」
「……まぁ、いいかぁ」
この後、むちゃくちゃボコボコにされました。
……全然良くなかった。
♢
――王城の地下室にて、
「さて、今回の調査の結果を聞きましょうか」
まるで月の光から生まれてきたかのような金髪。海の底を感じさせる碧眼の女性が口を開く。知性を感じさせる凛とした声はとても聞き取りやすく心地良い。
飛輪団副団長 アリス 恩寵 変装
「それに関して一つ報告することがあります。今回、調査対象である銅像とその周辺を調べていましたら、銅像の中心とした半径50mの地面がほんの少し陥没していることを確認致しましたわ。一部ではそのズレからヒビが入っている建物も確認致しました」
色気溢れる紫色の髪と同色の瞳をした綺麗な女性。男女問わず、通りすぎた者が思わず振り返って見てしまう。美貌の持ち主。可愛らしくも理性を感じさせるその声は、聴いている者を癒しながらも、シャキッとさせてくれる。
飛輪団団員 ヴァイオレット 恩寵 記憶
「私からも一件あります。銅像ですが、何者かに何かをなすりつけられ、僅かに動かされた痕跡がありました。その後、銅像の下を魔法を使い調べてみたところ、大きな空間があることを確認、その中に人らしきものの存在を感知致しました。いやはや……こんな簡単なことにすら気付かなかったとはお恥ずかしい限りです。」
オールバックで綺麗に整えられた白髪の細目の男性。歴を感じさせるその佇まいと声。誰もがその意見を無視することができない妙な力を感じさせる。団員の中でも最高齢。
飛輪団団員 セバスチャン 恩寵 音波操作
「…………。」
ピンク色の髪と目をしたド派手な若い男性。その見た目とは反して人と会話するのは月に一回あるかないか。あまりの喋らさにその声を聞いたものは幸運になれるとまで言われる男。
飛輪団団員 ロック 恩寵 硬化
「銅像を中心とした半径50mで陥没する地面に、大きな空間で人型の存在……ね。今回の件で人が関わっている可能性としてどう見るかしら?」
「不確定要素が多いですが、あり得ない話ではありませんわね……ただ、このことを知っているのは一部の貴族と我々暗部のみ…ですが」
「私も同意見です」
「…………。」
『……これは厄介なことになりそうですね』
「このことをユーリ様に、それから貴族に探りを入れます。探りのメンバーは……ヴァイオレット。あなたに一任するわ」
「分かりました」
「ここにいないベビーちゃんには私から伝えておくわ。アイリス様にも私から伝えてきます。……さて、そうときまったらすぐに行動ね。ああ、その前に、ユーリ様からの差し入れの饅頭よ。みんな配るから並びなさい」
「はーい×18」
『……私達が動きやすいように、皆の注意を惹きつけてくれたユーリ様には本当に助けられました。途中、顔を逸らしてしまったのは失態でしたが』
「……どうしました?アリス」
「…何でもないわ。さあ、どうぞ。美味しいわよこの饅頭」
――会合から一時間後 王女寝室
「ユーリ様からの贈り物ですか?」
「はぁい!」
「いったいなんでしょうか……」
「……ふふふ。そうですか。ユーリ様も意外と隅に置けないお方ですわね」





