試合に向けて
あの、誘拐事件から数日後、無事ソードロード部へと入部できた僕たちはあれから、各々戦闘の技術を磨いていた。
でも、あの日なぜ剣皇が偵察に美子を誘拐したのかとか、真田幸はなぜ昔からソードロードをやっているはずなのに、ソードロード部に入部しないのかとか、僕の周りには解決していない謎が沢山あった。
前者は、部長曰く、「私が解決するから気にしなくていいぴょん!」と言われ、真相を知ろうにもはぐらかされ続けていた。
後者は、少し後になって判明するのだった。
「しっかし、あれから普通に練習ばっかで少し退屈になってきたな」
「おいおい、サル物騒なこと言うなよ。でも、確かに少し退屈だな」
そんなことを言いながら、僕たち二人は思わず美子を凝視してしまう。
すると、それを察したのか少し遠くにいた美子が苦い顔をしながら、くぎを刺す。
「私はもう攫われるのは嫌なのですよ?」
そういわれ、僕たち二人は乾いた笑いと共に、そんなこと思っていないと一応弁解する。
まあ、確かにサルの言ったことは事実だ。
現にあれ以来事件という事件は何も起きていない。
起きたと言えば―
「うおおおおおっ。危ねぇっ、避けろ剣太郎!」
それを聞き僕はとっさに身をかがめる。
すると、大きな鉄の塊が僕の頭があった場所をかすめていく。
ワンテンポ遅れていたら、事件になっていたかもしれない。
まあ、これがここ最近で変わったことだ。
あの事件以来、サルは制御出来ないものの、鋼を生み出す能力に目覚めたらしい。
「おいおい、サル。いくら防具つけて練習しているとはいえ、流石に当たったら痛いんだから気を付けてくれよ…」
「悪ぃ悪い。ただ、次になんかあった時までにはこれを身に着けておきたくてな」
正直に言って、僕は超能力が使えるようになった、サルがすごくうらやましかった。
サルにできたんだから、僕にもできるだろうと毎日お風呂上りにそれっぽいポーズをとってはみているが、一向に超能力らしきものなど出てはこなかった。
先輩方は、焦らずともすぐにできるようになるとは言っていたが、これが焦らずにいられるだろうか?
しかし、焦っても何もできないのがとてももどかしかった。
「その心がけはいいことだぴょん!」
すると、どこから現れたのか、先ほどまで練習場にはいなかったはずの部長が現れる。
まるで、幽霊がでたかのように僕たちは驚いてしまった。
「ふふ、君たちはもっと驚くことになるぴょん。君たちに朗報だよっ!」
「朗報?何かあったのです?」
「聞いて驚かないでよ?なんと、新入部員同士で練習試合をしないかって申し込みがあったぴょん!」
「本当ですか?」
「本当だぴょん」
最近は少し退屈気味だっただけに、試合というイベントがあるならばモチベーションが上がるな。
思わず竹刀をギュッと握りしめてしまう。
「ただ、受けるかどうかは考えておいて欲しいぴょん」
「…?なんかわけありなんすか?」
「向こうは大会規定の最小人数における団体戦である5vs5で申し出てきたんだぴょん」
その言葉に、僕と美子は「あっ…」とその訳を理解する。
しかし、サルの頭の上にはその理由が理解できないのか、はてなマークが飛び交っていた。
「それがどうかしたんすか?」
「サル君。私たち新入部員は何人いるのです?」
そこまで言われて、サルがやっと事態の深刻さに気付き始める。
「そうなんだぴょん。このままじゃ人数が足りないまま試合に臨まなくちゃいけないんだぴょん」
「人数足りないのに試合して大丈夫なんですか?」
「まあ、練習試合だし、少ない分には構わないとおもうぴょん」
「戦ってみなければわかりませんが、流石に3vs5では分が悪いと思うのです…」
美子の言うとおりだ。
それは流石に分が悪いようにも思える。
まだ、団体での試合をしていないから何とも言えないが、部長が即答で返答を受け入れず、僕たち当事者に判断を仰ぐということはそういうことだろう。
でも、実戦経験が欲しく、何より退屈していた僕たちは練習試合を受け入れることに決めるのだった。
「これじゃ、ますます超能力を使えるようにならなきゃな」
「私も頑張って予知を多少使えるようにはなっておきたいのです」
「そういえば、美子は杖で参加するのか?」
「まだ、私も攻撃に使えるような超能力は無いので、今回は弓を使うことにするのです」
「お、流石は弓道経験者」
「確かに、美子はなぜか弓道だけは昔から得意だったよな」
「弓道とは全然違うのですが、試合までには何とか形にしておくのです」
そう言って、僕たちは試合に向け各々練習に戻ろうとする。
けれど、僕だけ部長に呼び止められる。
なんだろう、呼び止められるような心当たりなんて僕にはないぞ?
「剣太郎君。このままじゃ試合は確実にぼろ負けしちゃうぴょん」
「本当ですか?でも確かに、人数的につらいものがありますよね」
「もう一人欲しいと思わないぴょん?」
「欲しいですね」
すると、何故だか、部長がニヤリと笑う。
まるで、僕にその言葉を言わせたかったかのような笑い方だ。
「もしかしたら、君ももう知っているかもしれないけれど、君のクラスに昌君の妹がいるぴょん」
「ああ、もしかして、幸のことですか?」
「おおーっ。知っているなら話は早いぴょん。あの子、中学の時もソードロードやってたから即戦力になるはずだし、勧誘してきてほしいぴょん」
幸とは、そんなに話さない仲ではないので、僕はその依頼を快く引き受ける。
この時の僕は、部長が自分で行けばいいのに、なんて微塵にも思っていなかった。
それは、幸は頼めば部活に入ってくれると勝手に思い込んでいたからだ…。




