Extra:ある日の休日
これは、僕がまだ高校に入る前の、"ソードロード"に出会う前のお話。
ある日曜日の午後、家で暇そうにしていた僕は親父から店番を頼まれる。
僕の家は代々続く剣道用具専門店で、オーダーメイドで武器や防具を作っている。
リピーターが多かったり、お得意さんが来るのをちらほらと見るので腕は確かなのだろう。
ただ、初めて見るお客さんなんてほとんどいない。
まあ、剣道に関したものしかないから仕方ないのか。
だから、僕でも簡単に店番が務まってしまう。
普段なら、美子やサルとかクラスの友人達と遊びに出かけることが多いのだがその日は何もなかったのだ。
僕は、少し嫌そうな顔をしつつもお駄賃と引き換えにその仕事を引き受ける。
店にある椅子に座ってボーっとしているだけでお金がもらえるというのだ。
僕にとって、こんなにいい仕事は中々ない。
それに、どうせ人など来ないし気楽なものだ。
親父は急用で隣町まで行かなければならないらしく、夕方までには戻ると言って出かけて行った。
どうせ、客など来ない。そう思った僕はとりあえずお茶とお菓子でも持ってきて一人の時間を満喫するため立ち上がる。
ちょうど僕が立ち上がった時だ、"カランカラン"というドアにつけられた鈴の音が客の来訪を知らせる。
誰だろう?
僕は以前からよく店番を頼まれることもあったので、常連の顔は少しわかる。
しかし、来訪者は僕が初めて見る人だった。
それも、こんな場所に似つかわしくない女の子だ。
中学生の僕なんかよりももっと幼そうな顔をした、綺麗な黒髪の女の子。
その子の眠そうな瞳からは、まるで剣道をやっているような覇気は感じ取られなかった。
そんな、剣道からは遠く離れているような女の子はどうやら親父に用事があったらしい。
こんなに小さいのにオーダーメイドを作ってもらうなんて、実は剣道の実力者だったりするのだろうか?
女の子は親父に製作を依頼するつもりだったらしく、運が悪いことに予約やアポイントメントのようなものは一切取っていなかったらしい。
そこで、僕はその子に親父が夕方まで帰ってこないだろうということを告げる。
普通の人なら、伝言を頼むか別の日に出直すだろう。
しかし、その女の子は「……ここで待ってもいいですか?」と一言。
どうやら、まだ昼過ぎだというのに、夕方までここで待つことに決めたようだ。
どうせ、お客はこの女の子しか今日は、来ないだろう。
そう思った僕は、「別にいいよ」と言ってしまう。
しかし、すぐに僕はこの言葉を後悔することになるのであった。
女の子は、熱心に店の中に飾っている剣道用品をじっくり眺めていた。
僕も、彼女がそれを眺めているのをぼーっと見ていた。
だが、すぐに二人の間に流れる沈黙に僕は耐えられなくなる。
何か、話題を。
そう思うが、僕は彼女の事を何も知らないので何を話せばいいのかわからない。
何を話せばいいのか考えるうちにいつの間にか時間だけが過ぎて行った。
女の子は、沈黙に気まずさなど、感じないのか先ほどから店の商品をずっと見ていた。
何を話せばいいのか悩んでいるうちに、彼女がずっと立ちっぱなしであることに気付く。
とりあえず僕は、椅子をもう一つ持ってきて、よかったら座るか?と聞いてみる。
女の子もどうやら立ちっぱなしは辛いのか、コクリとうなずいてこちらへやってくる。
僕は女の子が、商品のほうに椅子を持って行くのかと思った。
しかし、女の子は椅子を動かさず、僕の近くにチョコンと腰かけた。
近くにいることで、ますます気まずくなってしまう。
こんなことなら、あの時断っておけばよかったと少し後悔してしまう。
まあ、断ったところでお客さんなど来ないのだから、暇なことに変わりはないのだが。
どうにかして、この気まずさから脱却しようと、まずは名前を聞いてみる。
お互いにぎこちなくも、名前や年齢、通っている中学校などを教えあう。
その女の子の名前は真田幸。
初めて見たときは、僕よりも絶対に年下だと思っていたが、驚くことに彼女は僕と同い年の中学生だった。
しかし、お互いに情報を交換して会話は途切れてしまう。
彼女は口下手なのか、沈黙を嫌った僕が、色々と話題を振っても途切れてしまう。
もしかしたら、寡黙な人間で、しゃべるのはあまり好きではないのだろうか?それとも、つまらなかったのだろうか?
そう思い、僕はしゃべり過ぎたことを謝る。
けれども、彼女から帰ってきた言葉は僕が想像している正反対の言葉だった。
「……面白かったです。……私、こんなんだから人と話すのは苦手で、友達だっていないんです。」
彼女はきっと、顔に気持ちを出さないタイプなのだろう。
さきほどからのやり取りで、この子は口下手なだけで本当はすごい心が優しい人なのだなと僕は理解する。
彼女は、その言葉を言った時に少し悲しそうな顔をしていた。
それは、今日彼女がここに来てから、僕に見せる初めての表情だった。
「じゃあ、幸。今日から僕が友達だ」
その言葉を聞いた幸は、顔を真っ赤にして俯いてしまう。
そんなにいやだったのだろうか?
でも、すぐに彼女は顔をあげ、にっこりと笑いながら「ありがとう」と呟いた。
そのあとは、僕がする何気ない話を、彼女が相槌を打ちながら聞いているという時間が流れた。
僕も彼女もその会話を心底楽しんでいたのか、すぐに夕方になり親父が帰ってくる。
親父は、僕が知らない女の子と仲良く話していたり、お客さんがお店にいることなど、いっぺんに驚いていた。
幸が親父に何か製作を依頼していたようだが、すぐに終わる。
そうして、彼女は今日の目的を終え、帰路につこうとする。
「……剣太郎、今日はありがとう。………また来てもいい?」
「もちろんだ」
「…ありがと」
そう言って、にっこりと笑った彼女の笑顔は後ろに見えた夕焼けなんかよりも全然鮮やかで美しかった。




