第八十六章 晃と運営準備 守護の星
「よーし、お前ら! 今夜の夕食分の食料の運び出しと、料理の準備に分かれて始めろ!」
丁度、日が沈みきった頃に、闘技場前の広場にセリトの声が響く。一番始めに催眠を解いて、意識も体調も整ったセリトに、とりあえずの仕切りを任せている。
奴隷たち。いや、元奴隷たちは、体調的に問題無くても、長い催眠状態だった者は意識の回復が遅いようだ。
そういう、催眠から解放されても意識のない者たちに、セリトが細かく指示を出して働かせている。そのうち、徐々に自我を取り戻す事に賭けるしかない、というのがエイプリルの診断だった。
こちらの命令に応えているんだから、回復の可能性は高いそうだ。ただ、中には廃棄予定の奴隷、という扱いだった者も居て、仕事が終わったというような判断が出来なく、黙々と同じ作業の形だけを繰り返す状態になっていると、自我の回復は難しいらしい。
海岸で、バケツリレーをしていた、あの連中の事を思い出す。
自我のない、単純なプログラムで動く作業ロボットになり、エネルギーが尽きるまで作業を続ける事になる。
そういった重傷者も、今は死霊の街へと送る事はせず、雄志により介護が行われている。
「餓死寸前の連中は、心を操られたままにしておけよ。いきなり多くの肉を喰わせるな。肉入りスープ作ってるから、それ飲ませろ!
ミヤドの街と、コナの街は、とりあえず放っとけ! 今日、明日はいつも通りの毎日ってやつで問題ないだろ」
命令を出すために馬車の荷台に乗っていたセリトが、一通りの作業を終わらせて荷台から降りてきた。
「お疲れ、セリト」
「いや、ほんと疲れるぜ。でも、俺たちがまともに戻るための事だからなぁ。はは、やりがいはあるぜ」
セリトの後ろでは、セリトの奥さんと息子が、セリトの助手として働いている。セリトが笑えるのも、二人が無事だった事が大きいようだ。その二人の額には、催眠魔法阻害用のシールが貼られている。
もう必要ないと言っても、不安は残っているようで貼り続けている。
闘技場前の広場では、炊き出しの準備と、俺が転移して持って来た大型猪や大雄牛を捌く作業が続けられている。
それを特権階級用の食料庫に有った野菜と一緒に煮込んで、今夜の食事にする予定だ。
夕食の準備を横に見ながら、俺とセリトは今後の事を相談する事にした。
まず、奴隷たちの前職から、農業従事者、漁業従事者、生活必需品の製作者、医者、兵士などは、そのまま、その作業をしてもらい、最低でも三ヶ月以内に自給自足出来るようにしなければならない。
それまでは、この半奴隷状態で作業を続けて貰うしかない。問題は、通常の社会生活形態、つまり、働いて、稼いで、買って、喰う、という流通の約束事が適用される切り替えだね。
今は、全体で一つの家族のように役割分担をしているけど、家族単位で独立したら混乱する事も予想される。
「なるほどねぇ。確かに、ここに来れば飯が食える、って状態になるわけだ。それが突然、自分で稼いで喰え、って言われたら、どうしようも無くなるってわけだなぁ」
「まぁ、いつから、そう言う形態に切り替えるよ、ってあらかじめ言っておけばいい、って話しではあるけどね。でも、野菜作ってるのとかは、野菜が育たなければ売るモンが無い、って事になるから、生活が成り立たなくなるよねぇ」
「おぅ。その通りだ。なんか、野菜育てるのと、もう一つ、仕事が有ればいいんだけどな」
「奴隷解放された人がいっぱい居るからね。仕事も取り合いになりそうしねぇ」
「だなぁ」
「問題は山積みだけどね。でも、誰か一人が決定して指示するんじゃなく、皆の事をしっかりと考えられる人が何人も集まって、知恵を出し合って解決していく、ってのが理想だと思うよ」
「ああ、じゃねえと、今までの二の舞になりそうだしな。
ところでよ、あんた、どうやって奴隷たちを解放したんだ? いや、特権階級の豚どもをやっつけた、ってのはわかるんだけどよ」
「う~ん、言っても信じられないと思うから、なんか、凄い力でやっつけた、って事にしない?」
「なんだ、そりゃ? 確かにあんたが魔法を使うってのは判ったけどよ、一通りの顛末ぐらいは教えておいて欲しい、ってもんだぜ?」
「まぁ、ここの連中には、知る権利があるはずだよねぇ。じゃあ、夢物語か、おとぎ話のつもりで聞いてくれるかな」
そう言って、俺が体験した事の顛末を話し始めた。周りには、料理の準備作業を終えた者たちも集まってきた。
まず、この地には十二の神が居た事から話し始めた。
太陽神と夜の神が、邪龍にそそのかされて邪に染まり、特権階級に催眠魔法を与えた。いつしか、特権階級も神に祈りを捧げるだけの道具にされ、最終的にはブヨブヨの粘液状のモンスターにされていた。
そして、太陽神と夜の神は、他の十の神を裏切り、切り捨て、特権階級の祈りを自分たちだけのモノにしていた。
消えかかっていた十の神を俺が使役する事になり、十の神は、神をも討ち滅ぼす一本の槍に姿を変えた。そして、太陽神と夜の神を追いつめたが、そこに邪龍が現れ、俺にドラゴンブレスを放ってきた。
太陽神と夜の神は、その攻撃のあおりで消え、俺は十の神の槍で邪龍を追い返す事に成功した。
しかし、邪龍は倒れてはいないので、また、別の場所で悪さをするかも知れない。
それでも、邪龍が去り、太陽神、そして夜の神が消えた事で催眠魔法の支配が消えた。
「めでたし、めでたし。っと、言うわけ」
俺の説明が終わっても、拍手喝采は起こらなかった。スタンディングオベーションでもいいんだよ?
「その、なんと言うか、えっとだな。あ~、そうか、大変だったんだなぁ」
なんか、残念な雰囲気が周囲を支配している。
「ねぇねぇ、アキラさん。その神をも討ち滅ぼすっていう槍って、今もあるの?」
セリトの息子が聞いてきた。
「ガンナー」
俺がそう言うと、俺の横の空間が歪み、そこに、空中に浮かぶ一本の槍が現れた。
「「「おおぉぉ」」」
ガンナーは、精霊たちのように俺の中にも入れるけど、基本的には俺の直ぐ横で姿を隠して警護してくれている。俺としては、中で休んで貰って、必要な時に出て来てくれればいいと言ったんだけど、精霊王の武器という性質だから認めてくれと言われて仕方なく自由にさせている。
「アキラさん。この槍に十の神が入っているの?」
「いや、元々、信仰が無くなって消えかかっていたんで、十の神が一つになって力を補ったんだ。そして、神の器を捨てて、この槍という器になったんだ」
「器?」
「例えるなら、ヴァーレという女神が、自分の姿形、名前、神としての性質を捨てて、神の力だけになってから、新しい槍という形に生まれ変わった、って事。だから、元々はヴァーレという女神だったけど、この槍はヴァーレじゃないんだ」
「な、ならば、女神ヴァーレ様は?」
一緒に話しを聞いていた老人が聞いてきた。
「残念だけど、この世界に、女神ヴァーレという神はもう存在しない。皆を奴隷に貶めていた神を討つために女神では無くなったんだ」
「おお、なんということだ」
崩れ落ちちゃった。あんなんでも、一応は信仰されてたんだねぇ。あれ? かなり失礼?
「では、エスル様は?」「ヴァイドーア様は?」「カーシャ様は?」
他の人たちからも質問が飛び込んでくる。
「うん。十の神が一つになって、この槍になってる。もう、十の神は居ない。この槍は『ガンナー』という力有る槍でしかない。この土地を守る神では無くなったんだ」
崩れ落ち、泣いている者が大勢出てしまった。あの時は仕方ないとは言え、こう泣かれると罪悪感も出てくるなぁ。
「ねぇねぇ、アキラさん、その槍ってそんなに凄い力持ってるの?」
凄いぞセリトの息子。雰囲気ぶち壊しだ! おかげで罪悪感も少なくなった。
俺は槍を見て、精霊王の力を注ぎ込んだ。すると槍は金色に輝き始め、そして、空の彼方へと飛び上がった。
暗い夜空に、金色の線が引かれていく。時には一直線に、時にはジグザグに。そして、その勢いのまま俺の横に戻ってきた。
皆、目を丸くしてその様子を見ているだけだった。
「狙った敵は外さないし、こうやって自分で戻ってくるし、指示すれば勝手に戦ってくれるんだ。神にも通用する力を持っているし、普段は姿を隠して俺の周囲を守ってくれている」
「すっげぇ。俺にも出来るかな?」
「魔法を使いこなして、精霊とも友達になり、困っている神様を助ける機会があったら、できるかもね」
「え~? 俺にもやらせてよ~」
「危ないよ。下手に握ったら、腕の一本ぐらいズタズタにされちゃうから」
ちょっと手を出し始めたセリトの息子は、急いで腕を引っ込めた。
「神をも討ち滅ぼす、ってほどの力を持っているからね。その力を抑える事の出来る力が無いと、あおりを喰らってボロボロにされちゃうんだ。
重い武器は、それだけ大きな破壊力を持つけど、その分、重い物を持ち上げる強い力が必要になるからね。
コレも、強い魔法力と神力を持っているから、それを扱える魔法力と使いこなす技が必要になるんだ。わかるよね?」
たぶん、よく判ってないとは思うけど、危険である事は判ったみたいで、コクコクと頷いている。
「あ、あの~、それで、エスル様は?」
一人の老人が改めて聞いてきた。土地神のエスルが槍になった、というのは判ってはいるが、自分たちが信仰していた神が居なくなったという事が受け入れられないんだろう。
「エスルという神は、この土地の神としての役目を捨て、俺の槍としての役目を選んだんだ。だから、もう、エスルという神はこの世には居ないよ。
それは、あなたたちを奴隷にしていた邪龍から守るためだったんだ。もし、この槍になる事を選ばなければ、あなたたちは奴隷から解放されなかっただろうし、エスル自身も消えてしまっただろうね」
「そうですか。エスル様は、我々のために御身を犠牲にしてくださったのですな」
「そう言う事だね」
「あのぉ、その槍は、我らが神のもう一つの姿という事でよろしいのですか?」
「それは違うよ。あなた達の神だったけど、それを辞めて、俺の槍になったんだ」
「は? 我らが神が、その槍になったわけですよね?」
「はっきり言っておくと、この槍はあなたたちの神じゃないんだ。もう、あなたたちの祈りにも応えないし、願いも聞かない。もしも、俺の敵になるようだと、この槍は遠慮無く敵を滅ぼす事になるよ」
乗り出してきた老人が一歩引いた姿勢になる。あの様子だと、この槍をご神体として奉るつもりだったんだろう。でも、器を変えてしまった事で、性質も変わってしまったはずなので、俺の警護と攻撃を主任務とする「性質」になっているはず。精霊王の宝珠を持っているから奉られる事も必要ないし、信仰してくれる信徒を守ろうとする「性質」はなくなったんじゃないのかな?
試しに槍を握り、声に出さずに質問してみた。槍としての器を捨て、この土地を守る土地神の器を取り戻すか? と。
でも、その答えは「願わくば、このまま精霊王の御身を守る爪牙となる事をお許しいただきたく存じます」と言うモノだった。
「この槍も、この地の神に戻るつもりはないようだよ」
その俺の言葉に、周囲の数名が肩を落とすのが判った。
「なぁ、セリト? ここの人たちには、この土地の神はそんなに大事な物なのか? どちらかというと、神の被害者だろう?」
「被害者、って。まぁ、そうなのかもなぁ。でも、生まれたら、生まれた事を神様に感謝して、朝になったら神に感謝して、飯が喰えるのも感謝して、一日が終わるのを感謝して、って生活だったからなぁ」
「それは、信仰として正しい感じだねぇ。で、神の力不足で奴隷に落とされ、神が己の器を捨てて奴隷状態から解放したって事だから、まぁ、感謝するのも有りなのかなぁ。
俺としてはトントン、って感じなんだけどね」
「お前は神に感謝してないのか?」
「俺の知ってる神って、この世界全ての神なんで、山や川や動物たち全ての神なんだ。だから、神からしたら、オオカマキリもファングキャットも、人間も、石ころも、全てが同じ愛すべき存在、って考えみたい」
「なんだそりゃ。そんな、全ての神ってのがいるのか?」
「俺からすればその神以外は、神もどき、って感じなんだよね。人だけを守る神、とか、その土地に住む者だけを守護する神、ってのは、神のほんの一部を切り取っただけの小さな存在、って感じなんだよねぇ」
「モンスターも、人も、山も、海も愛する神の、人を愛する所だけを切り取った、ってことか?」
「うん、その通り。でも、そんな存在も、全てを愛する神にとっては、その全てに含まれる事みたいだけどね」
「はぁ。なんか、そんなんじゃ、居ても居なくても変わらないみたいだな」
「人間にとって都合がいいのが神様、って考えならそうだろうね。でも、太陽も、大地も、海も、風も、全ては大元の神のおかげなんだよね。そして、世界が存在していたからこそ、土地を守る神が生まれたんだ。
だから、俺の信じる神ってのは、その場にいる人だけのための神じゃなく、大地や太陽や夜空に輝く星々全てという、世界そのものの事なんだ」
俺にこの仕事を依頼したアレの親神様って、そうだったはず。……たぶん。
「ふうん。なんか、それじゃあ、その神に感謝しても、俺たちは幸せになれないような感じだな」
「それはそうだよ。でも、人が生きていける場所は作ってくれたわけだしね。そこで、どんな生き方をするのかは、その人次第、って事だね。人をも愛してくれる神だけど、小さな国だけじゃなく、全ての人を愛してくれている、って存在だから、贔屓も妨害もしないわけ」
「つまり、神にとっては戦争も兄弟げんかにしか見えないから、何もしてくれないんだ?」
「正解! でもまぁ、その神には、神の作った世界をより良くするための使徒がいっぱいいて、その内の一つに、人が賢く、幸せになれるように強くなって貰いたい、と願う、人のための天使もいるけどね」
「へぇ、じゃあ、その天使に祈れば、幸せになれるんだ?」
「まさか。祈っただけじゃ、祈りました、っていう結果しか残らないよ。幸せになりたければ、幸せになるための行動を起こさないとね」
「じゃあ、その天使は、なんのために居るんだ?」
「幸せになるための行動で、もし、右か左か迷った時に、ほんの少しだけ、後押しをしてくれて、より良い方へ導いてくれるって感じかな。本当に少しだけで、何となくこっちがいいかなぁ、って気がする、って程度だけどね」
「もっと、はっきりしたのはないのか?」
「はは、それじゃ、天使が右に行け、左に行け、そこで仕事しろ、って指示を受けたい? どんな幸せかは知らないけど、それじゃあ、昨日までの奴隷状態と同じだよね。
幸せになるか、不幸になるか判らないけど、その選択は自分でしたいとは思わないかな? 自分で選んだ事だから、結果は自己責任だけどね。でも、それが、自分が生きてる、って事だよね」
「そっか、神様に祈って、お願いして、どう行動すればいいかお伺いを立てる、って事は、昨日までと同じって事かぁ。確かに、言われてみればそうだよなぁ」
「神様にお願いしただけじゃ、大抵は叶えられないしねぇ」
「豊作を願っておいて、畑の手入れをしないようなモンだな」
「特に何をしろ、とは言わないけど、応援してるよ、って事だね」
「はは、いいねぇ。そのぐらいの方が、こっちとしては気楽でいい、ってもんだ」
「でも、賢くなって、幸せになれるように努力してもらいたい、って願ってるんだよねぇ」
「賢くなれば、幸せになれるのか?」
「まぁ、生きるための知恵をいっぱい持ってれば、色々役に立つだろうね。
例えば、同じ畑で何度も作物を作り続けると、どんどん、畑が痩せてきて、作物が育たない畑になっていくよね?」
「おう。新しい畑を切り開いても、その畑が作る物に適しているかも判らないしな。けっこう、生きるか死ぬかの問題なんだ」
周りの男たちも強く頷いている。かなり無理して生きてるんだねぇ。
「うん。原因は、作物が土の中の栄養を取っていっちゃう事なんだよね。人だって、獣だって、何かを食べないと成長出来ないよね。作物も食べるものが必要なんだ。それは土の中に含まれている、人や獣には食べられない物なんだけどね」
「そうだったのか。土が黒く微かに油っぽい感じが、その栄養がある、って状態なのか? 作物が育たない土地は、土が白っぽく、あまり固まらないって感じの所は、その栄養がない、って事か?」
「一概にそうとも言えないんだけどね。確かに黒っぽい方がいいかも知れないけど、白いサラサラの土地を好む作物も存在するしねぇ」
「そうなのか? 黒っぽい土なら、何でも育つと思ってた」
「森の中で、落ち葉が地面に分厚く溜まっているのを見た事有るかな?」
いきなりの質問で、ちょっととまどってたみたいだけど、何人かが森に入ったら、大抵の地面はそんなもんだ、と言ってくれた。
「その落ち葉は、腐って、焦げ茶色のぐちゃぐちゃした物になって、やがて地面に消えていく、ってのは判る?」
腐って、ぐちゃぐちゃした物が地面に消えていく、ってのは、皆が何となくだけど知っている、って感じだった。自然状態でそれを見て、いつの間にか無くなってるな、って感じだったんだろう。
「実は、落ち葉がそういう風に腐ると、作物が成長するための食べ物になるんだ」
「「!」」
「だから、森ってのは、同じ土地でずっと成長し続ける事ができる、ってわけだね」
「木の葉ってのは、そのために生えてるのか?」
「それは、ちょっと、言い過ぎかなぁ。まぁ、有効活用してるって事だろうけどね。
元々、木や作物には、水と太陽の光が必要でしょう? 土の中の栄養と同じように、水と太陽の光も、食べ物なんだ。その太陽の光を食べるために、葉っぱがあるんだ」
「ああ、日の光がないと腐っちまうもんな。水も当然だな」
「森の木は、気温が低くなる冬には、太陽の光も弱くなるから、葉っぱを落として余計な力を使わないようにするんだ。その時、地面に葉っぱが積もると、地面に服を数枚、着せたのと同じようになるから、冬の冷たさから根っこを守ることにも繋がる、ってことだね。その葉っぱも腐って、木の食べ物になるから、無駄のない賢い事をしている、って思わない?」
「なんてこった。畑は何度も使えない、ってのは判ってたのに、森がずっと茂っているわけなんざ、考えた事もなかった」
「仕方ないよね。森の方は木が中心だし、作物は毎年植える所から始まるわけだしねぇ」
「まぁ、仕方ねぇ、って言って、飢えてたら笑えねえけどな」
「で、森に出来た、腐って土に帰る寸前の落ち葉を持って来て、種を植える前の畑の土に混ぜたらどうなると思う?」
「そ、そうか!」
「これが一つの知恵だね。これを実践して、問題点が無いか、有ったら、どう解決するかを考える力が賢さってヤツ」
「すげえなぁ。賢ければ、生きるのも楽になりそうだな。でだ、畑の方は、それ以外にも問題あるのか?」
「うん。まず、森から腐葉土、その腐って土になりかけの葉っぱを取って来ると、今度は森が痩せていく事になるよね。二~三年で目に見えるほどの影響は出ないけど、それでも確実に痩せていっちゃう。それで森が枯れたら、虫たちも居なくなるし、それを食べる小さな獣たちも居なくなる。小さな獣を狩って食べてる獣ってのは、狩人の獲物だろう? だから、腐葉土を取りすぎて森を枯らしたら、肉が食えなくなる、って事に繋がるんだ」
風が吹いたら桶屋が儲かる、ってのじゃ無いけど、それよりは確実な連鎖だよね。
「そっか、それは困るな。そう言う時はどうしたらいい?」
「それを考える賢さがあれば、幸せになれる、ってことだね。まぁ、正解は、全部を取りすぎない、って事と、葉っぱ類を集めて、風通しの悪い日陰で腐らせればいい、ってだけだから、いざとなれば自分たちで作る、って事もできるよね」
「なるほど。スゲエなぁ。馬鹿な俺にでもしっかりと理由がわかるぜ」
「腐葉土を使う、森から取りすぎない、とか言うのは、知恵、ってヤツだね。その知恵を、考えて作っていく事が賢さ。賢くなって、知恵をどんどん作れば、飢えなくなるという強さを持てるよね」
「それが、あんたの言う神の使徒が願う事なのか?」
「そう。神の使徒が人に求めている事だね。腕力を付けて、他人の物を奪い取って、自分だけが幸せになる強さ、ってモノじゃなく、争いという無駄な事をしないで、賢く、皆で幸せになれる方法を考える努力をしてくれ、って言ってるんだ。もちろん、モンスターと戦う強さも必要だけどね」
「俺の国の神は、豊作をもたらす女神様、ってのだった。それも、ただ、祈れ、収穫に感謝しろ、ってぐらいでよ。賢くなれ、知恵を付けろなんて言われなかったなぁ。侵略される寸前なんざ、あと少し収穫が減れば、飢え死にも出るだろう、って言われてたぐらいだからなぁ」
それって、神様に頼り切って、自分では何もしてこなかった、って言っているんじゃない? でも何故か、周りはウンウンと頷いているのが多くいて、共感を得ているようだ。
「まぁ、腐葉土を活用しようとするとかは、確証がないと出来ないような大きな事になるからねぇ。試しにやってみよう、っていう生活の余裕もなかったんだろうね」
「確かになぁ。失敗したら家族全員飢え死に、って事は出来ないしな。そういうのが神託で下ればやれない事もないんだけどな」
ああ、そう言う背景があるから、神様に頼っちゃう性質になるのかぁ。
「俺の言っている神の使徒は、神託なんか出さないけどね。賢くなれ、って言ってるのに、一方的に指示を出すなんて、逆効果だから。何かをして失敗し、多くのモノを失ったとしても、自分が選んだ結果として、自分自身で受け止めろ。って感じ。それと、失敗を教訓にしろ、って言うだろうね」
確か、そうだったよね? 違うかな? まぁ、違っててもいいかぁ。
「随分厳しいなぁ」
「子供扱いしたままにするか、自立した大人として扱うか、って感じだねぇ」
もう、周りは完全に暗くなってる。炊き出しのための火もいくつかは消えて、残ったモノはかがり火代わりにされている。
夜空には、びっしりと星が瞬き、銀河の光の川もはっきり見える。
火の近くだと見えにくいけどね。
「その、神の使徒ってのは、どんなのなんだ?」
抽象的な聞き方だけど、色んな意味を含めた質問なんだろうね。
「姿形としては人に近い。ただ、金色に輝いていて、はっきり見る事は出来なかった。あと、背中に翼を持っていて羽ばたかせていたけど、その翼で空を飛ぶとかという事では無さそうだった」
「空飛べないのか?」
「いや。翼を使わなくても空中に浮かんだり、一瞬で色んな場所に移動したり、心だけで遠くの人と話をする、とかも出来るんで、なんのための翼なんだか判らないんだけどね。
あと、大きさも自由自在。人と同じ程度の大きさから、巨人並みになったりとかもしてたよ」
「そんなに凄い力ある神の使徒は何処にいるんだ? 神殿とかあるのか?」
「人を応援するために、人のための守護の星を作ってるよ」
そして、俺は空に向かって指差した。そこには、俺の感覚で月の一割程度の大きさで、やや歪な丸形をした明るく輝く一つの星があった。
「なんだ?」「あんな星あったか?」「あんなのは初めて見るぞ」
周りからのざわめきが大きい。
「お、おい。俺はあんな星、見た事無いぞ」
「うん、人の守護の星にするために、ちょっと遠くにあった小さな星の欠片を、近くにまで持って来たんだよね。えっと、六日、七日前だったかな?」
「あんなデカイ星を作くっちまったのか?」
「正確に言うと、遠くにあった星の欠片を近くに持って来て、神の使徒が人の守護星としての力を宿らせている最中なんだけどねぇ」
ホントは正確じゃない内容だけど、そこまで正確にする必要もないよね。
「すまねぇ。もう一度聞きたい。その神の使徒と、守護の星ってのは、俺たちにどんな事をしてくれるんだ?」
「基本的には何も。人が賢く、暴力ではない強さを持って、幸せになる事を望んでいるだけ。人が愚かな暴力に溺れて不幸になる事を嘆き、賢く幸せになる事を喜ぶだけ。
そして、人が迷った時は、ほんの少しだけ後押ししてくれる事も有るかもしれない、ってぐらい。
例えば、右か左に行くのに迷った時、迷った時は右に行く、って決めている人を左に行かせる力は無いけどね。なんとなく、今日は左がいいかなぁ? って思わせる事ぐらいはできるかな」
「はぁ。俺が聞いた所では、一番まともな神様だな」
「そう?」
「この国の主神は太陽神、ってのは知ってるよな。なのに、この国のする事は侵略戦争ばかりだった。なにが太陽神だ、ってんだ。しかも、聞けば、人の心を操る魔法を特権階級に授けた、って? ふざけすぎてるだろ」
「確かに」
「そんなのと比べて、俺たちの幸せを応援しているだけ、って神様の方が、どんだけ嬉しいか、って事だな。
なぁ、俺も、その神様だか、使徒様だかを奉ってもいいんだろうか?」
「自分が頑張るために、応援して貰いたい、ってのは良い動機だと思うよ。そして、自分が頑張れた事を使徒に感謝出来る余裕が持てたのなら、きっと喜んで貰えると思う。
その時は、これを使って」
カバンから命のシンボルのコピーを渡した。
「これは?」
「命のシンボルというもので、神の使徒との繋がりがほんの少し強くなる、って感じのモノ。まぁ、今まで、神の像を崇めていたのと同じ感じでね。
上の丸いのは光を象徴していて、下のは闇、左右のは海と大地を象徴している。そして真ん中のは樹木を表していて、全体で命を象徴していると言う事で、命のシンボルと呼んで居るんだ」
「あ、アキラさん。俺も欲しい!」
セリトの息子が言ってきたのをきっかけに、何処かで見たバーゲンのおばちゃん現象が始まった。
まぁ、ここにいるのは炊き出しに協力してくれた五十人ぐらいだったけどね。
「これは、別にこれじゃないといけない、って事じゃないんだ。これと同じ形で絵を描いても良い。光と闇、大地と海に育まれた樹木、ってイメージが有ればいいんだ」
ああ、また布教活動してしまった。
ここの連中は、奴隷にされてたのに神への依存が強かったからねぇ。神様が自分たちを助けてくれる、って思わないと、生きていくのも辛い世界なのかも知れないね。
それから、明日以降の予定を話し合った。支配階級が居なくなったんで、この国を元奴隷たちの国にしてしまう事も決めた。元の国に戻っても、何も残ってないだろうしね。ただ、それでも帰りたいというのも居たし、農作地を広げたいというセリトの意見もあったため、この国の街に拘らない広い国にしてしまおう、という希望が話し合われた。
俺も、奴隷解放が終わったら、全員に魔法を教える事を約束。熟練すればモンスター相手でも、一人で戦える、って所は、大人さえ子供のようにキラキラとした目で見つめてきた。
それからの数日は、頭は使うけど、忙しいというわけじゃない、という毎日だった。
翼人たちの所と違って、生活施設はしっかり有るし、食料も特権階級用のモノが倉庫にたっぷりあった。まぁ、元奴隷たち全員分の食料としては不安があるので、農作業と漁、そして牧畜の方を優先して作業させ、装飾品や家具作りの職人たちには、農機具や漁のための船を作ってもらう事でまとまっている。
飢餓状態で枯れる寸前でも、催眠魔法で動いていた奴隷たちは、半分ほどしか救えなかった。
催眠魔法で、スープを飲んで休めという指示を出しても、スープを飲む事も出来ない体だった。俺が治療魔法で診察してみたら、既に内臓の半分が壊死していて、何故動けているのかが不思議なほどだった。
魔法での治療や、修復魔法でも直す事が出来ず、催眠魔法にかけたまま、痛みも感じず、苦しみも感じる事なく眠るように命令した。
人としての生活が取り戻せてきた所で、今度は税金の徴収の話しが出てきた。これは、避けて通れない道だよね。
そこで、まずは、治安維持のための警邏もする兵士の採用と、国をまとめるための代表者たちによる議会の発足を促した。
ほとんどの住民から、俺にやって欲しいという声が出されたけど、それはきっぱり拒否。俺には他にまとめないとならない国がある、って言ったら、すごすごと諦めてくれた。
アカデミーも国みたいな構成だから、嘘じゃないよね。
議会は、議会自体をとりまとめる議長、最終決定権を持つ首相、農業省、漁業省、牧畜省、商業省、工業省、生活省、治安維持軍を設立。それぞれの代表者を国民全員の投票で決める事を決定した。
首相に選ばれたのは、二十代後半の青年だったが、議会の設立案が出た時から、熱心に俺に政治の仕組みや問題点を聞きに来ていた姿を認められて、皆の総意で決まった。実は、本人は首相をサポートする参謀役をやりたかったみたいだけどね。
セリトも農業省の下っ端役人になる事を宣言していたけど、やっぱり、省長に選ばれた。
まぁ、初めのうちは堅苦しいお役所という感じでも無いだろうから、セリトも気楽にやってくれるだろう。
そして、皆に魔法を伝授。
いつも通りに基礎の四種類と、光魔法と治療魔法を教えた。これも、まぁ、いつもと同じような感じになった。
更に、文字や計算を教える事を義務にしろと言う、俺からのお達しをくわえて、俺はこの国を離れる事にした。
未だ食料の乏しい時期だからと宴会は断ったよ。
お別れは闘技場前の広場。けっこうな数の人が集まってくれたけど、その内、ちょくちょく様子を見に来るつもりの俺としては、これはちょっと恥ずかしかった。
アカデミーの事も言ってあったんだけどねぇ。
まぁ、ここまで人が集まったのなら、ちょっとだけサービスしようかと、転移で一瞬で移動せず、フェザードラゴンのゼンを呼ぶ事にした。
思った通り、ちょっとしたパニックになったのは、狙い通りだったけどね。
フェザードラゴンの柔らかな羽毛をモフりながら、新生パラヴェルトを後にして、俺はアカデミーへと向かった。
ゴメン。嘘です。
パラヴェルトからは見えない位置で降ろして貰い、小型輸送艇と合流。ゼンには幻獣界へ戻って貰い、小型輸送艇でアカデミーに戻った。
何しろ、この星の裏側だからねぇ。昼夜が逆転していたのも忘れていた。如何にドラゴンの翼でも、十日ぐらいは掛かりそうだ。小型輸送艇なら成層圏外を経由する航路で二時間程度なんだけどね。
小型輸送艇の中での二時間は、ジェイたちの様子を聞く事に終始した。
ジェイたちはターナの街で、簡単な日曜学校を作る事に成功し、文字の読み書きと簡単な計算は出来るようにするという事の義務化も、なんとか形になったそうだ。
まぁ、個人で拒否するのも多いけど、それは、後々困るのは本人たちだ、という立場を公言している。
道徳の方は、道徳の具体的な話しを書いた看板を至る所に設置し、文字が読めるのなら、その意味もしっかり擦り込まれるようにしたようだ。
洗脳の一種だね。
今までの卑怯な人間関係を改めるのなら、これぐらいしないと変われないんだろうね。
そして、町長監修の元、日曜学校や道徳看板の維持組織がしっかり出来上がった時点で、ジェイたちはターナの街を離れる事にした。
街の住民の意識が変わったら、アカデミーに参加して貰うという約束と共に。
ジェイたちがターナの街を発つ時には、ジェイの元に三人。レイミーの元に三人、そして、ファイエーの元に一人の弟子が付いていたそうだ。
戦争している獣人たちの砦に行く。という状況を話しても考えを変えず、例え命を落としても教えを受けるために付いていくと、鼻息も荒く宣言したそうだ。
俺の方からはエイプリルに話してあったんで、ジェイたちも、渋々ではあったけれど追従を許したそうだ。
ジェイたちに付いて行けるような優秀な人材は、たくさん欲しいからねぇ。
俺としては、昼夜逆転生活を直したら、アカデミーからジェイたちをサポートしてみるつもり。
アカデミーでやらなければならない事が押してるから、たぶん、直接は行けないとは思うけどね。
で、十人を乗せて改造版小型輸送艇は、翼人たちの故郷の更に南にある獣人たちの砦へと向かったそうだ。
それも、昨日。
完全に行き違いだけど、ジェイたちには俺の顔色を窺いながら行動する、ってのを止めて貰いたいから丁度いい事なのかもね。
そして、真夜中のアカデミーに到着した。
人の居ない所には灯りが点いていないんだけど、道路の街路灯はしっかりと灯っており、それが、何故か幻想的な雰囲気に見えた。
ここに人が多く住むようになったら、また違った景色に見えるんだろうな。
感傷に浸りつつ、中央の役所塔にある自室に向かった。
部屋では、突然の俺の帰還に、アカデミー式簡易ゴーレムの小さいメイドさんたちが、慌てて部屋の取り繕いを始めた。
留守にしていたため、ソファやベッドにカバーを掛けていたらしい。
部屋の方は小さいメイドさんたちに任せて、俺は執務室へと入る。きっと、決済を必要とする報告書が山積みだろうからね。
それを片付けていれば、直ぐに眠くなって、生活時間も少しは直るかも、っていう算段。
案の定、小型輸送艇の改造や、命のシンボル作成、催眠魔法阻害シールから、捕獲した無人艦隊の改造、ポーリーへの施設の設置などなど、艦長としての最終認可を必要とする案件が次々と出てきた。
それを、片端から認可していく作業が続く。一応、一通りに目を通して、認識プレートに手の平を置いて「認可」と言うだけなんだけどね。
そして、その報告の中で、ゲンブに積まれている資材の大半が使用されてしまった事が判った。
とは言っても、無人艦隊の戦艦三隻分の改修を行ったためなんで、当然と言えば当然なんだけどね。しかも大半は鋼材で、宇宙に漂う星くずを集めれば生産が可能だと言う事だ。
そこでエイプリルは、無人艦隊の戦艦のうちの一隻を、資材作成と原材料回収のためのファクトリーシップにする事を提案してきた。
いつ来るか判らない敵を警戒するよりも、当面の敵である資材不足に対処しないとね。
「ファクトリーシップもいいけど、ポーリーにも精錬施設とか、精密部品工場を置いた方がいいんじゃないのかな?」
『はい。移動が完了するまでは、潜在的な危険を考慮していましたが、安定した現在はポーリーに大規模施設を建設する事も計画に入れる有効性があると推察されます』
「ポーリーで賄えれば、ゲンブが自由に動けるようになる、ってのもあるからね。その方向で行こう」
『了解しました』
そして、ゲンブの業務としての認可作業が終わったら、今度はアカデミーの進捗状況の報告を聞く事になった。
作成する建物や、この世界でも違和感のない工作機械の製作も終わり、エイプリルの作った物全ての設計図も数部ずつ印刷して、役所塔の隣に建つ大図書館に保管されているそうだ。
アカデミー式簡易ゴーレムの小さなメイドさんと、同じ簡易ゴーレムで印刷所や溶鉱炉で働くロボットさんたちの設計図も同様で、このゴーレムは作り方が失伝しないように、簡易ゴーレム製作工場を造って、その設計図や作業の流れ、注意点などをまとめた冊子をかなりの部数、図書館に保管してあるそうだ。
同じ図書館でも、地下に耐火、防湿、盗難防止、入場規制、損壊防止、自動メンテナンスの処置を施した極秘の図書室が有るそうで、有資格者しか入れないように作られているらしい。
どうやって、そんな魔法みたいな部屋が作れたのか聞いたら、全部、簡易ゴーレムの応用だと言っていた。確かに、ゴーレムと言えど、人型や手足で動く必要もないんだよね。空調を自分で判断して制御できるエアコン型ゴーレムや、そう言った特別なゴーレムを修理出来るゴーレム、ってのも有りだよねぇ。
それと、簡易ゴーレムはシステム的にアカデミー以外では使えないようになっている。
通常のゴーレムは、術者による制御で動いたり、ある程度なら自己の判断で行動できるが、あくまで術者が必要な構造になっている。熟練魔法使いなら、一人で十数体のゴーレムを扱えるだろうけど、だいたい、そこまでが限度になる。
でも、簡易ゴーレムを戦争に使われたら、簡易ゴーレムを多く持っている国が世界を支配する、なんていう間抜けな事にもなりかねない。
自爆魔法を胸に秘めた簡易ゴーレムが、敵陣に向かって数万の進軍をする、ってのは不気味だよねぇ。
簡易ゴーレムを多く作れる国が他国を攻め落とすなんて、頭の悪い戦いが続いたら、人の未来は真っ暗だ。
人の命の消耗を抑える、という目的だけが達成出来るのならともかく、この、剣と魔法とモンスター、という世界で、人自身が戦わなくなって弱くなるなんて、一番マズイ展開だ。場合によっては、簡易ゴーレムが有るせいで、人がパラヴェルトの特権階級と同じになる事も考えられる。
アカデミーの簡易ゴーレムはアカデミーでしか動かないようにしても、簡易ゴーレムに使われている技術を、他国の人が研究するのはかまわないけどね。
エイプリルが作ったような簡易なんだけど、自己判断が出来る器用なゴーレム、ってのは、やっぱりとことん便利だからね。
井戸水の汲み上げを、人が来た時だけ、とか、池の水位が減った時にだけ行うとか、馬車や船の自動運転、もし空を飛ぶ道具が作られた時は、緊急用の装置を自動で展開する、とかも考えられる。
モンスターとの戦いでも、大きな怪我をした時に自動で回復魔法やポーションを使う道具、ってのも便利そうだしね。
だから、この技術を研究してもらい、色々な物を作るのは推奨したい。
『では、この技術を研究する者たちには、始めにそれを訓辞するように、教科書と、研究所に提示しておく事を義務付けます』
「うん、それでお願い。まぁ、長く研究していけば、軍用ゴーレムっての出来るだろうけど、長く研究されたなら、その対抗策も出来ているかも知れないからね。
そこまでの心配はする必要ないだろうね」
『了解しました。簡易ゴーレムに関する事項で、艦長の判断を必要とするモノがあります』
「え? なに?」
『アカデミー式簡易ゴーレム二種の識別名を設定してください』
「ああ、そっか、一々アカデミー式簡易ゴーレムとかいうのも非効率だしねぇ。
うん。
あー。
安易だけど、小さなメイドさんをミニメイ。各作業所で働く方はワーカーと呼ぶ事にしよう」
『了解しました』
色んな名前の候補が出たんだけど、名前からその働きの内容が連想出来ないのは、後々混乱を招くだろうからね。
アカデミーの施設に対する認証が終わったんで、今度は運営に関する相談になった。
まず、どうしても必要なのが会計だよねぇ。それと、最終決定権を持つ学園長。全学園の総括的維持を担当する総務。人材確保から、人の出入りまでを管理する人事担当。輸出入の管理に、治安維持。各教師や助手と教材製作。
「なんか、辞めたくなってきた」
『食料品の一時的な輸入を行い、教師に対する教育と、料理、及び、雑用を担当する人材から適応させていく方法を提示します』
「ああ、まずは教師だよねぇ。それと食事が摂れれば、一応は生徒を入れられるかぁ」
『治安維持には、ワーカーを改造したポリスシステムを、一時的な代用として提案します』
「うん。まぁ、とりあえずしょっ引いて、警察署で話しを聞く、って事にするだけでも、ある程度は抑止力になるよね。まぁ、ホントに一時的な処置で、やっぱり対応は人がするべきだよねぇ」
『各施設の清掃業務には奴隷を買い、給料制にして自分を買い戻す事が可能なようにする事を提案します』
「自分を買い戻したら、それからは給料の全額が自分の稼ぎになる、ってなったら、それからも頑張ってくれるかも知れないしね。故郷に帰りたい、ってのも認めるけどね」
『最低限の提案は以上です』
「ありがと。まず、しなければならないのが、アルシンさんに一時的な食料の調達だね。こっちは冬になったから、これから食料を集めるのも大変かなぁ」
『南半球の豊かな国から仕入れるという方法もありますが、該当地域とは未交流なため、交渉が可能かの判断は出来ません』
「現地で使えるお金も無いしねぇ。いずれアカデミーに参加して貰うとしても、今は周辺三カ国で手一杯なんだよねぇ。ターナの街も保留だし、翼人の所やパラヴェルトも、実はちょっと待ってて貰ってるような状態だしね」
『肉類の確保ならば、翼人の所で行った方法を考慮出来ますが、野菜類の確保は、どの地域でも課題になっているようです』
「見渡す限りの麦畑、なんて、この世界だと実現できないもんねぇ」
『失礼します』
「え? どうしたの?」
『…………』
いきなりエイプリルが押し黙ってしまった。マルチタスクも得意なエイプリルが押し黙るなんて、一体何が起こったんだ? とりあえず、戦うための準備でもしておいた方がいいのかな?
『申し訳ありません。アカデミーよりも南東の位置にある草原が、一種の麦畑である事を確認しました』
「もしかして野生状態で残ってた?」
『推測になりますが、大規模農園の跡地である可能性があります。
しかし、土地は痩せ、手入れも無かったために、品種自体が大幅な変化を経ているいるようです。現在、サンプルを採取に向かわせました』
「さっき、押し黙ったのは、それを調べてたんだ?」
『申し訳ありませんでした。衛星軌道からの画像観測では、品種不明の植物群との認識で、調査の必要が認められませんでした。ですが、艦長のお言葉で大規模農園の可能性を推測出来、品種の経年変化を考慮して、麦種であると推定出来ました』
「上手くいけばいい話だね」
『野生化し、同一の土地で飼料の補充も無かった事から、充分な栄養価を持たない可能性が高いと推測されます』
「まぁ、無いよりはマシだよねぇ。とりあえず、その畑が誰かの管理物とか、いつもアテにしている人が居ないかはチェックしてる?」
『はい。周辺二百キロ圏内に集落はありません。現在、発見している集落は、該当地から八百キロ離れた場所に存在します』
「精密調査は必要だね」
『現在調査中。推定になりますが、獣以外の生物は発見出来ない可能性が高いです』
「うん。わかった。後はサンプルの程度次第だね。結果はどのくらいで出る?」
『栄養価、毒性、アルレゲン、遺伝子を調査しますので、約三日かかります』
「口に入るモノだからねぇ。調査は念入りにね。もし、疑問があるようなら、何度も調べる、って姿勢でよろしく」
『了解しました』
「もし、その麦が充分に確保出来たなら、それと交換で野菜類を仕入れて貰う事も出来そうだね」
『通常の麦と形質が変化している場合も想定されます』
「その時は、こっちで調理するか、調理法を確立するかして売れて、喰える物にしないとならないかぁ」
『調理が必要な場合、新たな調理ラインが必要になると推定されます』
「保存が利く形式に出来る調理法なら、色々役に立ちそうだからいいとは思うよ。まぁ、とにかくサンプルの結果待ちだね」
『了解しました』
「まぁ、それは、それとして、やっぱりアルシンさんには食料の調達をして貰わないとならないね」
『同意します』
「それから、まずは教師を教育しないとならないけど、やっぱ、三カ国からそれぞれ数名ずつ出して貰った方がいいだろうね」
『各国とも、アカデミーの教育が強力な武器になると認識していると推定されます』
「うん。募集したら、出来るだけの人数をねじ込んでくるだろうね」
『募集人員は、各教科ごとに一人ずつ、各国八名から十名程度が適切かと推察します』
「三十人かぁ。確かにそれ以上は手に負えないね。まず、基礎を全員に受けて貰って、集団での学力試験というのも経験して貰おう。成績が数字で出る、って事を知って貰って、次は自分たちで試験問題を作る、って事も経験して貰わないとね。
それが済んだら、各教科ごとの専門学習として三人ずつで教育プランを作ってもらう、って感じでいいかな」
『基礎学習に掛かる時間が、今後の目安になると推定されます。実際に覚え、応用出来るかの確認のために、範囲試験を頻繁に行う事を推奨します』
「うん。必要だね。そして、あまり全体の成績が良くなければ、もう一度違う形式で教える必要もあるだろうね。
でも、小テストを頻繁にかぁ。俺が生徒だったら、嫌な先公だと感じるだろうなぁ」
『申し訳ありません。せんこう、という単語の意味が推定出来ませんでした』
「ああ、ごめん。先生。教師の事を、余り良くない言い方しただけ。
それと、三カ国に教師を派遣して貰うとしても、教師それぞれに助手や弟子とかも付いてくる場合もあるだろうね」
『随行員の制限も行う必要が有ると推察します。ある種のスパイ活動に特化した人員という場合も想定されます』
「スパイに知られてマズイ情報ってあったっけ?」
『現状ではミニメイとワーカーのシステムが相当しますが、現在の科学技術では仕組みを推定する事も不可能であると推察します』
「ゆっくりと、ではあるけど、それを勉強させてあげよう、っていう立場なんだけどねぇ」
『三カ国の首脳が賢明である事を祈ります』
「はは。誰に祈るのかも問題だね。
さて、後は料理人と奴隷だね。料理人は定住型で募集するか、料理の出来る奴隷を探して買ってくるか、って感じでいいのかもね」
『メイにより、かつての料理方を伝授する事になると想定した場合、比較的若い料理人の方が柔軟に対応出来る可能性が高いと推察します』
「あぁ。それに、練習用で消費する食材もあるって考えないとならないね。定住するなら、家族の食料とかもどうするか考えないとねぇ。
奴隷の方は寮に入れて、一括で、ってのでいいだろうけどね」
『料理人の家族は、厨房付近の部屋を割り当てるように想定してあります』
「ああ、さすがエイプリル。うん、それでいいね。朝晩、そして昼の軽食、って感じでいいのかな」
『生活に潤いを持たせるための、菓子類は、未だ供給出来ない状況です』
「まぁ、必要では有りそうだけどねぇ。養鶏が軌道に乗って、新鮮卵でも取れるようになったら、メイにプリンでも作ってもらおう。
必要なのは、卵、牛乳、砂糖にゼラチンだっけ?
砂糖は甜菜でも出来るけど、サトウキビって残ってないのかな?」
『赤道付近での探索を密にしますか?』
「暖かい所なら、色々残っててくれそうだよね。南半球はこれから夏だから、探しやすい事になるのかな」
『まずは衛星軌道からの観測を密にします』
「うん。よろしく。
で、始めにする事は、まずアルシンさんに食料を調達して貰う事と、料理人と奴隷に、この街の維持に慣れて貰うって所からでいいのかな?」
『まず、ツーロ商会が、アカデミーに移動出来るようにするため、アカデミーへのゲートが必要になると推察します』
「あ、それがあったねぇ。三カ国にアカデミーと繋がるゲートを置いてもかまわないんだけど、受け入れ準備が出来ていないうちに行き来されても困るよねぇ」
『一時的なツーロ商会専用のゲートを設置しますか?』
「正式なゲートが設置出来たら、一時的な方のゲートはアルシンさんにプレゼント、ってすれば、それなりに融通してくれるかなぁ?」
『艦長の交渉力が頼りです』
「設置はガジェットが居なくても可能かな?」
『吊り上げ搬送に適した強度を持たせられるので、組み立て済みをファイターで搬送する事も可能です』
「うん、それで行こう。それで、食材が集まったら、メイに来て貰ってどんな料理が出来るか、サンプルとレシピをリストアップして貰おう。
料理人たちへの伝授もメイに頼めるかなぁ?」
『メイは、ジェイさんたちの食事環境維持に多忙だと報告されています』
「あ~、十人だからねぇ。初めのうちは食材も上手く集まらないだろうしねぇ」
『メイと同型のドロイドを用意して、メイのデータをコピーする事も可能ですが』
「今のメイみたいに柔らかい対応ができるかな?」
『現在のメイは、システムに無い「先読み」を行えるようになっています。システム的には人間の行動を先読みする機能は有りましたが、人間の意識レベルでの「先読み」も可能になっているようです。それは、データのコピーで再現が可能かの判断が計算不能です』
「メイの一つの知能システムで、二つのボディを操る、ってことって、できるかな?」
『ある程度の負担は存在するとは推測出来ますが、不可能では無いと推論します。現在、メイに確認しました。メイによれば、同一データをコピーした頭脳システム付きのボディに指示を与えるという事で、同様の対応が可能になるとのことです。これは、カタログスペックにも掲載されている機能だそうです』
「ああ、メイドなんだから、複数のメイドが別々の仕事をしてても、情報は共有する、って事だね」
『アカデミー内用の料理指南用メイボディの作成を始めます』
「うん。認可。念のため、三体ぐらい作っておく?」
『メイの対応が出来なくとも、本来のカタログ通りの対応は出来るはずですので、無駄にはならないと推察します』
「それじゃ、それでお願い。ってか、認可」
テーブルの認可用プレートに手の平を置いて「認可」の言葉を言う。
「えっと、じゃあ、アルシンさん用ゲートはどのくらいで出来る?」
『現在完成している譲渡用のゲートに補強材を取り付けるだけですので、三時間以内に完成予定です。今後の事も考慮し、残りのゲートにも同様の処置を行う予定です』
「アルシンさん用のアカデミーでの建物って、完成してたっけ?」
『はい。ルブロンダルにあるツーロ商会の約二倍の敷地面積になる店舗型住居を用意してあります』
「奴隷として買ってくるわけだけど、アカデミーの清掃や学生療の管理人とかを頼む従業員用の宿舎は?」
『学生が入寮するまでは、従業員には従業員用男子寮、女子寮、家族寮に入寮して貰う予定です。学生寮への入寮が始まる前に移動するという事で、それまでは同一箇所の寮にて教育、指導を行う事が効率的と推察しました』
「確かに、従業員にもいろいろ教えないとならないんだったねぇ。あ、奴隷として買ってきた場合は、着る服も無いんだったっけ? どうせなら、アカデミーの従業員用制服でも作ってみる?」
『艦長が翼人たちとの交渉で、衣類の提供を行った経緯から、ゲンブにて、一般人用の下着を含めた衣類の製作に着手しました。
下着類、制服、コート、簡単な靴のセットを、従業員用の寮へと配布してあります』
「さすがエイプリル。学生の方の制服ってのは、どう考えてる?」
『私服の上に羽織るジャケットと、ポンチョコートタイプを想定しています。空中と、着ている者の若干の魔法力を動力に、温度調節機能を取り付けたサンプルが出来ています。
同時に防御結界魔法も組み込みましたが、これには多くの魔法力を必要としますので、個人によっては起動出来ない可能性もありますので、考察する課題になっています』
なんか、やたらと凄そうなんだけど?
「学生服用に取り付けた機能、って、どんなのがある?」
『温度調節、防御結界、灯り魔法、空間魔法、催眠魔法阻害紋様、翻訳魔法システムです。可能であれば、通信魔法か位置情報通知システム、ライフレコーダーなどが装備出来ればと考察しています』
「いや、それ、やり過ぎ。
正直、そこまでする必要はないよ。必要な機能だとは思うけどね。そういうのを開発するのは、これからのアカデミーの生徒や研究者にお任せしておいた方がいいと思うよ」
『了解しました』
アカデミーの研究者の、研究課題を奪ってしまう事にもなるからねぇ。
「教師や従業員の制服にも、いろいろ必要かな?」
『教師には、教師専用のポンチョコートを配布予定です。従業員の制服にも夏服には冷却、冬服には微熱発生の魔法的機能を織り込み済みです』
「文字通り、織り込んだんだね。その機能を止めるとか、強めるとかの調節って出来るのかな?」
『はい。左肩にボタンを五つ付けました。その五つをすべて留めれば最大。全てを外せば機能停止になります。これは、夏冬共通です』
「今度、ジェイたちの服にも付けてあげてね」
『艦長の物には取り付けませんか?』
「ああ、俺、今は、熱いのも寒いのも関係無くなってるからねぇ。たぶん、火山のマグマの上で昼寝出来るし、北極辺りで裸で熟睡しても問題無さそうなんだよねぇ」
『艦長の魔法力なら、全ての機能が最大の効率で発揮出来ると推察したのですが』
「なんか、いろいろ、本末転倒だねぇ。とりあえず、他人から奇異に見えない程度には周りの環境に合わせた服を選ぶつもりだけどね」
俺たちの野戦服自体が奇異だ、という意見は無視する事にした。あれは機能美なんだよ。
『了解しました。各教師用、従業員用の制服は大、中、小の三種類のサイズを用意し、入寮する個人に合わせた配布を行います。同時に従業員には下着類と、大、中、小の三種類のサイズのタオルを四枚ずつ配布。小さい物はハンドタオルとして、常に携帯して貰うように要請します』
「あ~、タオルと下着類と靴は教師用にも配ってあげて。それと、学生が入ってきたら、制服と一緒に、同じようにタオルと下着と靴もね」
『了解しました』
まだまだ、この世界の清潔感の意識は低いからねぇ。ここで、潔癖性にでもなって貰って、地元の環境を変える努力をして貰いたい。
「生徒を入れる前の、従業員や教師たちの食事はどうしようか?」
『学生寮には、管理人用の住居スペースが確保されていますが、学生が居ないので学生用の厨房は稼働しない事になります。ですので、学生が入るまでは従業員寮専用の食堂に料理人を置き、そこで食事を摂って貰う事にする予定です。
教師役には、教師用の寮に料理人を置き、教師寮の食堂にて食事をとって貰います。
当面は人員不足を理由に、食事時間を厳密に設定する事を推奨します』
「うん、それでいいね。あっ、教師予定の人たちに来て貰うわけだけど、覚える側に居るんだから、学生寮の方に入って貰おうか?」
『家族連れで来訪された場合の対応が不十分になると推測されます』
「ああ、それがあったねぇ。教師専用棟の間取りって?」
『家族用、単身用で異なりますが、家族用で4LDK。単身用で2LDKです。主に寝食用スペースと書斎という組み合わせになります』
「冷暖房完備、風呂、トイレ、水道、コンロ付きキッチンだっけ?」
『はい。それと、洗濯スペースと冷蔵庫も設置されています』
「この世界の人たちにとっては未来都市だね。実際は過去都市ってのが正解だろうけど。
でも、この環境で、さらに給料が出る、なんて言ったら、帰りたがらないだろうなぁ」
『教師役の確保には理想的であると推察します』
「あ、始めに教師役を連れてくる時に、王族も付いて来そうなんだけど、王族用の宿泊施設ってどうなってる?」
『各国用に、部屋数三十五の独立した館を用意してあります。最低限の維持用にミニメイを配置し、それ以上の対応は各国の従者にお任せする形式にしました』
「王族用の寝室や居間、執務室から、大会議室や従者用の部屋、荷物置き場って感じかな?」
『はい。各国の城内の配置を参考にしました』
「一応、その館に、本国と通じる通信機を置いた方がいいだろうね」
『了解しました』
「あ、あと、馬車で来るだろうから、厩舎とかはどうなのかな?」
『設置済みです。馬車を格納、修理が出来る小屋と、馬番の者用の宿泊施設、馬用の自動給水施設も設置済みです。
馬用の飼い葉は確保出来ませんでしたので、ツーロ商会に依頼する事になりそうです。ただし、これも、牧畜用の施設が成熟した場合、自給できる可能性が高いと予想されます』
「教師に渡す教材も出来ているし、もう、食材と料理人さえ居れば何とかなりそうだね。
問題があるとすれば、王族たちがアカデミーの館に入り浸るぐらいかな」
言ってから気付いたけど、マジな話しだ。きっと、館と城を結ぶゲートを作れと言い出すかも知れない。
作っておこうか? それとも拒否する? それが問題だ。
『遊技関連はいかが致しましょう?』
「遊びかぁ。確かに、人が生活するのなら、遊びという息抜きが無いとストレスが溜まるだけになるよねぇ。簡単に出来そうなモノ、って、何かある?」
『モンスターからアクリルに似た素材を得ていますので、それを塗料として使ったカードを提供出来ます』
「ああ、カードはお手軽に色んな遊び方が出来るからいいよね。後は、ビリヤードとか、ダーツが簡単に出来るかな。たしか、ダーツって、弓矢を手で飛ばして的に当てて遊んだ、ってのがルーツだって聞いた覚えがあるし、受け入れられやすいんじゃないかな」
将棋やシミュレーションゲームもいいかもと思ったけど、この世界は人同士の大規模戦闘は現実的なモノではない。
パラヴェルトのような侵略戦争自体が珍しく、戦争準備で雑多な人たちが多く集まっていると、モンスターが襲ってくるのが現状だ。
戦争のための陣形をとっていても、いつ、横からモンスターが来るか判らない戦場、ってのも面倒くさい話しだよねぇ。もし、他国を強奪する戦争を行おうとしたら、小規模の部隊をチマチマと街や砦に送り込む事を続ける、って事になるだろうね。その小規模の部隊を送るために、周囲のモンスターを警戒する部隊が多く必要になるだろうし。
ということで、将棋関係は保留だね。
他に遊ぶモノと言ったら、日本の正月に遊ぶようなモノしか思いつかないなぁ。
凧については、空力関係を説明するのに実例として体験させるのもいいから、簡単なカイトか、和凧で本格的に、とか、立体凧で複雑に、とか、いろいろ考えられるね。
まぁ、絵を描く事や、音楽を楽しむ事も教えるから、そう言うモノでストレスを発散して貰うのも有りだよねぇ。
とりあえず、遊びってのは、その場にいる人が生み出していくモノってした方が自由であり、本物であると、綺麗事を言って、お任せしちゃおう。余程、危険な事じゃない限りは許可するという感じでね。
「スポーツ関係は、そんな事する余裕があるなら、剣の一つも振ってろ、って言われそうなんだよねぇ。俺も言いたくなるタイプだと思うけどね。せいぜい、乗馬ぐらいなら推奨されるのかな」
『専用ではありませんが、騎士の訓練用グラウンドは乗馬を主体とする訓練が可能になっています』
「早馬の扱いとかも、ここで練習させた方がいいかな?」
『アカデミーには防御結界が張られていますので、外敵を考慮せずに練習出来るスペースは重要と推定できます』
「ああ、そうだった。その防御結界って、各領地に売れないかな?」
『メンテナンスもほぼ必要ないですし、破損した場合は、そのユニットだけ交換するだけで済みますので、導入は比較的容易に出来ると推測されます』
「アカデミーの運転資金がやばそうな時はそれを使おう」
『了解しました』
「まぁ、紙やガラス、各教科の教科書や教材も、地味に売れていくとは思うんだけどね」
『印刷技術の模倣は、比較的早い段階で始まると推測出来ますが、紙に関しては時間が掛かる可能性が高いと推測されます』
「紙が出来上がる歴史をすっ飛ばして、いきなり中性紙だもんねぇ。でも、モンスター素材を使っているんだから、同じ歴史を辿らなくてもいいよね。
アカデミーで作り方教えて、それぞれの国が真似する時には、冒険者ギルドに素材買い取りの依頼も発生するかも知れないしね」
『基本的に、アカデミーでは知識と技術を秘匿する事は無い、という立場を表明するわけですね』
「本当は、エイプリルが持っている技術のほとんどは教えないんだけどね。でも、アカデミーで作って使っている物は、全部オープンでいいと思う。そうじゃないと、余計な敵作るだけだからね」
『我々の関与が途絶えた後の運営で、秘匿主義が台頭してきた場合はいかがする予定ですか?』
「そこまでは面倒見きれないね。一応、それぞれの管理者向けの教科書を作って、因果を含めておいた方がいいだろうけどね。でも、アカデミーの基本方針は、誰でも、いつまでも見る事が出来るように、でかでかと書き残しておくつもりだしね」
『モニュメント、もしくは石碑を作成しますか?』
「いっそのこと、チタンとかで作って、撤去出来ないように地面に深く埋め込もうか」
チタンって、腐食に強いから、特別な事をしない限りはそのまま残り続けるはず。
『艦長の金属魔法で、チタンは精製可能でしょうか?』
「チタンって、珍しい金属だっけ?」
『鉄鉱石よりは少ないと想定されますが、特に珍しい物ではないと記録されています』
「なら、金属の精霊にはしっかり覚えて貰おう。
あ、金属の精霊もそうだけど、鍛冶屋関係の受け入れも考えないとね。ドワーフの一部に来て貰って、アカデミーで仕事してもらおうか? 場合によっては、金属の精霊と一緒に勉強して貰う、って事で」
『鉄鉱石等の資材の必要性から、艦長がゲートを提供したドワーフの村と、新たに、アカデミーと繋がるゲートを設置する事を提案します』
「ドワーフたちには、色んな金属加工の先駆者になって貰って、後から受け入れる鍛冶屋たちに教えていって貰いたいんだよね。だから、是非とも来て貰いたいから、ゲートは必須だね」
これで、当面の打ち合わせは終わったと思う。細かい事を言えば、まだまだ決めなくちゃならない事は多いんだけど、ぶっちゃけ、俺が決めなくても、その担当者に決めて貰えばいいわけだしね。
後は、その担当者をさっさと決めちゃえばいいだけ。
明日は、アルシンさんの所と、奴隷商の所に行く事にしよう。




