第六十七章 晃と従魔の気持ち キャパシティ
レゼとキャスの従魔が決まった次の日。
レゼとキャスが加わった朝食の風景も慣れてきたと思ったが、今日はそこに白頭鷲と白オウムが追加されている。
白頭鷲には冷凍保存しておいた生肉を解凍させた物を、オウムの方にはリンゴなどの果物と、岩塩の塊が出されていた。
「なるほど。肉を魔法で凍らせると、けっこう日持ちするようになるんだね?」
「ええ、一食分を切り分けてから凍らせておけば、解凍するのも、自然解凍でも半日程度で済みますしね」
「自然解凍?」
「普通に、部屋の中で放っておく事です。無理矢理解かそうとするなら、火で炙るとか、お湯につけるとか有りますが、生肉では無くなってしまいますからね」
「マールにも焼いた肉でいいとかはならないのかい?」
「偶につまむぐらいは良いでしょうが、たぶん、生肉以外だとお腹壊しちゃうかも知れませんね」
「そうなのかい?」
「確か、生肉の中の栄養が、焼いたり煮たりだと失われてしまう筈です。生肉に含まれる血液も同じだったはず。肉その物の栄養は残りますが、生きていく上で必要な栄養はかなり失われるって聞いたことがあります」
「栄養? あまり聞いたことのない言葉だねぇ」
「ああ、済みません。簡単に言うと、骨を作る成分と筋肉を作る成分、皮膚を作る成分や血液を作る成分はそれぞれ微妙に違うんです。そういう成分を全部取らないと、骨が脆くなったり、皮膚がタダレたり、血が薄くなって倒れたりとかいう事になってしまいます。
そう言った成分を栄養と呼んで、栄養を身体が求めるだけ口から食べて補給するってのが食事なんですよね。
ですので、人の場合、肉だけじゃなく、葉物野菜や根野菜、果物や卵やミルクなどを食べる必要があります。どれかを長期間食べられないと病気になってしまいますから」
「そうなのかい? たっぷり肉喰ってれば、そこそこ長生き出来るってもんだと思ったけどねぇ」
「それは酷いですねぇ。肉ばかりで野菜を取らないと、色々な病気になりますよ。イライラして怒りっぽくなるような簡単なのから、血管が悪くなるってのが一番重いかな。
血管が悪くなると、いきなり心臓が止まったり、頭の中の血管が切れて、そのままぽっくり逝っちゃったり、運良く助かっても身体の半分が動かないとかの後遺症を残す場合もありますしね」
俺も、食生活と栄養については、エイプリルのライブラリでちょっとだけ勉強した。人間の身体の機能についてだけは、長い年月が経ってもあまり変わってはいないようだ。でも、それって、進化してないって事なのかなぁ?
「あっ、商人のグラフスさん!」
キャスがいきなり人名を上げてきた。
「誰?」
「あ、すみません。わたしが王都に居る時に近くに住んでた商人のグラフスさんと言う方がいたんですが、いきなり鼻血を出して倒れた後に身体が動かなくなったって事があったんです」
「なるほど。毎日肉をたっぷり食べていた裕福な商人でしたか?」
「食事は知りませんけど、お金持ちでしたねぇ」
「太り気味って感じでしたか?」
「ええ、ぷっくぷくでした」
「痩せていてもなる場合がありますが、太っているとなりやすいとも言われていますから、絶対では有りませんが、野菜不足と肉ばかりの食生活が原因の一つっぽいですねぇ」
「治らないんですか?」
「倒れた直後であれば治療魔法で治すことも可能ではあると思いますが、それでも原因と結果を知っているという条件が付く場合もあります。専門的知識を持っていれば治療可能だと思いますが、持っていなければ判りませんね。
それで、その方はどうしました?」
「何日かして、薬師に頼んだらしいです」
つまり、安楽死かぁ。この場合、誰が頼んだか、ってのは表に出てこない話なんだろうなぁ。
「そうですか。肉ばかりじゃなく野菜も食べることを周知し、なおかつ治療魔法を使える人を増やせば、そういう不幸も減ると思うんですけどね」
「あっ、あんまり親しい方じゃ無かったんですけどね。雑貨屋のミユサおばさんから聞いた噂話程度で…」
「ふむ、それで、あんたの所の食事には、葉っぱをきざんだのや野菜入りのスープってのが出てるんだね」
今度はレゼが聞いてきた。
「ええ、メイには料理を作る際に、栄養という物が偏らないようにするという知識があります。食材が足りないという状況が多いので、毎回完璧というわけには行かないんですけどね」
「ほう、すると、マールにも似たような食事じゃないと拙いんじゃないのかい?」
レゼが気にしてたのは、従魔のマールの事だったらしい。
「食事の取り方ってのは、大きく分けて三種類あります。『肉食』『草食』『雑食』です。
雑食ってのは、俺たちのように肉も野菜も食べないと病気になってしまうタイプですね。
肉食ってのは、生きている他の動物を殺してそのまま食べるってタイプで、草食は牛や羊のように草を食べるタイプです。
まぁ、肉食だからといって、野菜を全く食べないわけでも無いんですけどね」
「ふむ。マールの場合は肉食だね」
「はい。白頭鷲にも皮膚もあれば筋肉もあり、血も流れています。それを維持するには、それぞれの栄養が必要になります。そのために獲物を狩るんですけどね」
「でも、野菜を食わないと病気になっちまうんだろう?」
「血や筋肉を作る栄養が必要ですからね。ですから、肉食の生き物は、他の生き物の血や肉をそのまま頂いちゃうわけです」
「ああ、なるほど」
「肉や血に火を通すと、人にとっては食べやすくなりますが、肉食にとっては必要な栄養が無くなるという事に等しいんです。しっかり焼いて、血の味がしなくなった肉は、美味しいと言って食べるかも知れませんが、血を作る栄養が足りなくなって病気になってしまうでしょうね」
「凄いねぇ。それが知識と言うヤツなんだねぇ」
時々、この程度の知識を披露して、なに偉そうにしてるんだ? っていう自己嫌悪に陥る事がある。それと、義務教育って凄いんだなぁ、って思いも。専門的知識はほとんど無いけど、広く浅く、世の中の仕組みを紹介してる感じだ。
それと、病気だの肉食だのの話しは、食事時にする話しじゃ無かったかな? でも、疑問が出た時に納得出るってのは、しっかりとは行かなくても覚えやすくなると思うんだよねぇ。
そして、朝食が終わりお茶をし終わった後は、大陥没に潜ろうという話しになったが、レゼとキャスの従魔を使った戦闘訓練をしておきたいと提案して全員に了承された。
ぶっつけ本番が洞窟の中で、ってのは怖いしね。
鳥タイプじゃなく、四つ足タイプだったら洞窟内でもそこそこいけたかも知れないけど、空を飛ぶ相棒がどんな動きをするのか、ってのはなかなか想像しにくいと思う。攻撃の手順でも動きが変わるし、どんな攻撃力を持っているのかも把握して貰わないとね。
「判った。なら、また森に入るかい?」
「いえ、その前に。二人とも空飛ぶ魔法のほうきを持ってますよね? それで、従魔と一緒に空を飛んできてください。
見るのは、羽ばたき方や方向の換え方とか、空中で攻撃した時の姿勢ですね。
従魔が何をしようとしているのかは判ると思いますが、それが具体的にどんな動きになるかをしっかり把握してください」
俺が説明をし終わったら、返事もそこそこにほうきを取りに走って行ってしまった。一緒に空を飛ぶ、と聞いたとたんに二人とも目の色が変わってたよ。
そして、ほうきを持って外に飛び出すと、さっさと空に飛んでいった。
ほうきで空を飛ぶというのも凄いけど、大型の鳥と寄り添いながら登っていく姿はなかなか羨ましかった。
自然の状態だと、鳥とかは逃げていくモンだしねぇ。
「俺も飛んでみたいねぇ」
思わず呟いてしまった。
『既に解析は終了しています』
エイプリルの意外な答え。
「あれ? そうだったの? 解析結果は?」
『飛行術は空間魔法の応用と判明しました』
「転移魔法と大元は同じって事かぁ。なら、ここにいる皆が使えそうだって事だね」
『はい。しかも媒体はほうきに限らず、任意の物体が利用可能です。しかも、基本的には魔法力が途絶えない限り落ちると言うことはありません』
「キャスは落っこちてたよね」
『気絶のために魔法力が途絶したためと推察されます』
「そこら辺の安全策は?」
『パラシュートの実装や魔法力供給媒体の付加が考察対象としてあげられます』
「なら行けそうだね。なにか問題点は?」
『空間魔法自体の供給元が精霊樹の加護である事です。ですが、ファイエーさんが魔法水晶への紋章の移行に成功しており、現在は空間魔法の術式を解析中です』
「おお、さすがファイエー。俺たちが空を飛ぶのも近いって事だね。
で、エイプリル? ほうきじゃなくても良いんだったよね?」
『はい。空間魔法ですので、重量は無視出来ると推定されます。影響されるのは大きさの方になると推測されます』
「うん。なら、サーフィンボード型ってのは出来るかな? 二メートルを超えるような物じゃなく、俺の身長よりも若干低いぐらいの」
『安全装置を組み込むためには理想的な大きさになると推測されます』
「なら、そんな感じで試作品を頼むね」
『了解しました』
やったね。これで、空中波乗りが出来る。魔法って便利だねぇ。
小型輸送艇前にテーブルセットを出して、上を眺めながらお茶をしつつレゼたちが飽きるのを待った。
軽く疲れたら戻ってくるかと思ってたんだけど、結局一時間半はかかってしまった。それだけ嬉しかったんだねぇ。
もっとも、戻ってきた二人と二羽はフラフラだったけどね。
疲れた二人には甘くしたアップルティーと、塩が良いアクセントになるビスケット、それに乗せるリンゴのジャムという回復セットで安らいで貰った。
特にビスケットは白いオウムのリーリーが気に入ったようで、キャスが食べようとするビスケットを片端から横取りしていた。
その休憩中にエイプリルからの輸送便が到着。
昨日、レゼとキャスが行ったクリアファイルに入れる作業の完成品と、鳥の足爪から守ってくれる装備品だ。
一枚一枚が薄い金属板並に固くなった透明なプレートの中に入ったレゼのお父さんの資料が、分厚いファイルにまとめられている。
「もう、元の革の板に戻すことは出来ませんが、これならずっと、この状態で保存出来ます。
ウェルザン氏の功績としてずっと残っていく事でしょう。
内容については全て写してありますので、この原本はレゼが持っていてください。元々レゼに譲られる物ですからね」
「そうかい、随分手間をかけさせてしまったねぇ。ありがと。大切にさせて貰うよ」
レゼはファイルを抱きしめながらそう言った。
後は、製本した物や解説本とかを作ったら数冊ずつ渡すだけだね。
そして、エイプリルからの荷物の二つ目。二人の鳥の従魔の足爪が身体に食い込まないようにする装備。
普段使いと探索時用の二種類を頼んでおいた。
普段使い用は簡単な物で、肩パットと腕当てだけの物。細いベルトで固定するだけの簡単設計だけど、使われている革に見える素材はゲンブに積んであった合成素材で、モンスターである二羽の従魔の爪でも穴が開かないという優れもの。しかも、掴まった時の安定感のために分厚く作ってあるので、この世界の剣を受け止める盾ぐらいの働きも出来るオーバースペックだ。
まぁ、女性の腕でそんなことをしたら、腕が折れちゃうだろうけどね。
そして、探索用の物は、同じ素材で胸当て鎧風に作られている。
胸当て、腕当て、そして腿当ての三点セットで、腕当ては肘から手首までを筒状に覆っているし、腿当ては足の付け根から膝までを筒状に覆っている。
簡易アーマーとしての機能ももちろんあるが、座って休憩中に膝の上に乗せておくという行為も出来るようにしてある。
これから、従魔を使った戦闘訓練と言うことで、二人には探索用のごつい方を装備して貰う。
「まるで傭兵にでもなったような格好だねぇ」
「格好いいですよねぇ」
ついでに、小型輸送艇のコンテナにたっぷり入れられている軍用ナイフを一振りずつと、金属繊維で編み込んだ手袋も渡すことにした。
「気をつけてくださいね。下手に握ってしまったら指が全部落ちちゃいますからね」
参考までに、地面に落ちている固い石を拾って貰い、それを四つにすっぱりと切って見せた。
「普段は二人がいつも使ってるナイフにして、やばそうなモンスターと当たってしまったらこのナイフを抜くって事にした方が良いかも知れませんね」
「もしかしてこのナイフは、騎士が持つ剣よりも凄い物なんじゃないのかい?」
「そうかも知れませんね。普通の鉄の剣だったら、このナイフで千切りにできますよ」
ちょっとオーバーだったかな。でも、とりあえず、ナイフは慎重に扱ってくれそうだ。
これで、ブーツ以外は俺たちと似たような装備になった。ブーツは慣れるのに一週間以上かかるからねぇ。しかも、レゼたちにはそこまでする必要もなさそうだしね。
レゼは大陥没以外の探索はするつもりも無いだろうし、キャスについては次がいつになるか判らないしね。
一応、バスケットシューズに近いタイプの丈夫なスポーツシューズだし、予備も一足渡してある。
うん、問題ないね。
そして、森に入り従魔と共に獲物を狩るという練習を開始した。
まず、レゼの相棒、白頭鷲を大きくしたモンスター、スラッシュフェザーのマールの出番。
基本的な戦い方は、マールが先制して一撃を入れ、トドメをレゼが刺す。という形式を教えてある。もし、トドメを刺しきれなかった時は、マールが牽制しながらレゼの呪文詠唱の時間を稼いだり、マールがトドメを刺したりを、臨機応変に行うべし、と伝えてある。それを、どれだけ再現できるだろう。
モンスターが現れた。群れからはぐれた灰色オオカミ。体長は二メートルもある立派なモンスターだ。
「マール!」
レゼのかけ声でマールが飛び出す。そしてスラッシュフェザーの名前に恥じない切り裂き魔法が発動した。
「あ!」
誰とも無しに声が漏れた。
なんと、一撃で灰色オオカミがズタズタ。目の粗いシュレッダーにかけたように切り刻まれて絶命していた。
レゼとの連携なんて存在しない。一羽で行けちゃいそうだ。
得意そうにレゼの前に降りてくるマール。それを受け止め、頭を抱えるように撫でるレゼ。
「相手が弱すぎて連携どころじゃ有りませんでしたねぇ。それに、あれじゃ、売り物にするのも辛い状態ですね。皮なんかズタズタ。切り裂き魔法の線を一本にして、首をすぱっと切るだけって出来ませんかね?」
「出来るかい? マール?」
「ピエー」
まるで、面倒くさいなぁ、って言っているようだ。
そして、二匹目のモンスターと遭遇。岩のようなゴツゴツとした固い身体を持つロックベアー。
「マール!」
再びマールが飛び立つ。そして今度は一直線に真上を目指し、かなりの高さになってから急降下で降りてきた。
そして、弓矢並のスピードでロックベアの前を横切る。
その数瞬後、ロックベアの首がぼとりと落ちた。
また得意げに戻ってくるマール。今度はレゼも褒めまくっている。
いや、凄いけど、連携の練習なんだよねぇ。仕方ないか。マールならゴブリンを捌いてレゼ一人を守るぐらい余裕そうだしね。
「今度はキャスの出番だよ」
白いオウムを人の腰の高さぐらいに大きくしたファントムボイスというオウム型のモンスターであるリーリーの出番。
一人で前に出て構えるキャス。しばらくして、その前に同じロックベアが現れた。一匹目よりも一回りほど大きい感じだ。
「リーリー! 出撃!」
その一言には素直に応じるリーリー。やはり、本物のモンスターを相手にする時はふざけないようだ。
キャスが右腕を振りかぶるようにして、まるでリーリーを投げるように腕を振った。その勢いを殺さずに翼を広げて飛び立つリーリー。
そして、ロックベアの右上に有る木の枝にゆっくりと留まった。
見下ろしながら何かを口ずさむ。
それはモンスターの声だった。驚いて周りを見回すロックベアを確認したリーリーは、あまり音を立てないように飛び立つと、反対側の木の枝に留まった。
そしてまた、何かを口ずさむ。
今度は「ギャッギャッギャッギャ」という、よく判らない声だったけど、それを聞いていたロックベアはどんどんパニックになっていった。
それを見て呆けているキャス。
「あー、キャス?」
「え? あ、は、はい! 何でしょう?」
「リーリーが惑わしているから、さっさと魔法でトドメを刺しちゃってね」
「え? え? え? あ、そうか!」
今更ながらに慌てて呪文を詠唱するキャス。横ではレゼが大きなため息をついていた。
そして、呪文が完成した時、リーリーは枝から飛び立ち、遠回りでキャスの元に戻るルートで滑空を始めた。
もし、呪文が外れてロックベアが正気に戻り、キャスに向かって突進してきたら、それを牽制する為なんだろうねぇ。
けっこう賢い!
キャスが完成した魔法を起動させる。
「フリーズランス!」
キャスが生み出した氷の槍が混乱しているロックベアに向かい飛んでいき、見事に胸の真ん中に突き刺さった。
それと同時に羽ばたき音が聞こえ、リーリーがキャスの頭に掴まるのが見えた。
「痛い、痛い、痛い、頭はやめてー!」
頭の上でどんなもんだい! と胸を膨らませている白いオウムはなかなか頼もしかった。キャスは残念だけど。
「あ、あ、あ、アキラざ~ん。リーリーの攻撃から頭を守る物ってないですか~?」
「頭が無防備だから頭で遊んでるんだと思うよ? 頭を守ったら、別の場所になるんじゃないかな?」
「うう~。なんでリーリーが虐めるか、判りますかぁ?」
「今回で言えば、リーリーの幻惑魔法をただ眺めてて、なかなか攻撃しなかったよね。だからお仕置きじゃないかな?」
俺がそう言ったとたんに「ケー!」っと一言鳴いた。どうやら当たりらしい。
「そんなぁ」
「キャスがちゃんと連携出来るようになったら、痛いことはしなくなってくれるよ」
「ケー!」
「うううう、頑張りますぅ~」
キャスとリーリーの方は、あまり意識交換が進んでいないようだ。まだ、納得しかねない部分が有るのかもね。
とりあえず。本当にとりあえず。一応はやるべき事はやった。
と、思う。
不安はかなりあるが。これだけやったんだから、これで死んでも納得出来るでしょう。
と、強引に思うことにした。
そこで、午後の出発ということで大陥没の攻略の続きを始めることにした。
先ほどビスケットを食べたので、お昼は小さなサンドイッチを二切れとお茶。俺はコーヒーだったけど、皆はアップルティーがお気に入りになったようだ。
アップルティーとは言っても、この世界で飲まれるお茶を使った急造品で、本当のアップルティーではないとメイは残念がっていたが、その方が受け入れはしやすかったようだ。
メイによれば、紅茶リンゴというリンゴが欲しかったそうだけど、前に樽で買ったリンゴで淹れたそうだ。
そしてしっかりトイレも済まし、ハンカチとティッシュも確認。身に着けている装備を一通り取り出して確認し、柔軟体操をして準備が完了した。
今回もファイエーは工房にお籠もり。これから地下シェルターの中核部分に入るには戦力不足を感じたけど、人数的にはオーバーな感じもするし、いろいろ悩んだけどこのまま行くことにする。
俺とグラウ、ジェイとスザク、レイミーとリュウ、ガジェット。ガジェットのシンはお留守番で、いざという時はガジェットの召還魔法で呼び出すことになっている。そしてマールを連れたレゼ、リーリーを連れたキャスの五人と四羽と一体と一機という組み合わせでの出発となった。
転送魔法で一気に前回の位置へ。
拡張工事により作られた部分とシェルター本来の部分との丁度つなぎ目。実質的にはシェルターの本当の入り口という部分に到着した。
これからは鎧を着て魔法を撃ち出してくるゴブリンやオーガが相手になるので、俺たちが中心になって戦うフォーメーションになる。
先頭が俺とレイミー。その後ろにジェイ。更にその後ろにレゼとキャスで、最後尾をガジェットが受け持つ。レゼとキャスには、俺たちの指示がなければ魔法を使うなと指示してある。もちろん、俺たちが目の前にいる状況のみの話しだけどね。
今回は自然で生活してた鳥がいるので、灯りの呪文は明るめで展開する。人数がいるので前方、後方に加え、真ん中に一つ灯し、何かあればどれか一つを空中移動させて対象を煌々と照らす予定だ。目くらましにもなるしね。
もともと、シェルターには発光プレートが壁に貼り付けられていたけど、長い年月でほとんどが機能消失し、残った物も燐光程度の灯りしか残していなかった。
いや、残っているだけでもとんでも無い話しなんだけどね。
薄ボンヤリだけど、夜行性の生き物には充分な光量だったらしく、地上のモンスターが入り込んでいたようだ。
何故か、ゴブリンたちとは争わなかった?
モンスター同士でも食い合うこの世界で、自分よりも弱い者は食い物になるという常識が働かなかったのは、邪霊の『恨み』のせいなのかな?
それも、この後判るかも知れないし、判らないかも知れない。全ては『運』なのかもね。
とにかく、今回はシェルター本体の状況把握が目的。目的地は一番地下の中央、広い集会場のような所というのは判っているので、ワザと遠回りをするルートで進むことにする。
一応の目標は、今いる階層を一回り。夕ご飯前に終わらせる予定。
「ガジェット。完璧にしなくても良いから、ポイント、ポイントで崩落防止の柱を作って行って。どうせ、ここは近いうちに崩落して入ることも出来なくなると思う。そんな場所に手間かける必要は無いよね」
「了解しました」
最下層の邪霊を浄化出来るまで保てばいいという程度の補強で充分。最悪なのは、邪霊が活性化したまま埋まってしまうってのと、邪霊が外へ出て行ってしまうこと。
適当に補強して、まだこのシェルターは安全と思わせる必要はある。
おそらく。おそらくだけど、今は上から精霊樹の結界が押さえつけているため動きにくい状態なはず。精霊樹の力で押さえておける今の内に浄化しないとならないんだったね。
時間はない。だけど焦ってはいけない。
慎重に。だけど迅速に。
皆には、まだまだ余裕はあると思って貰わないとならない。焦った心境じゃ上手くいく物も失敗する可能性が高くなるしね。
そして、俺たちは巨大シェルターの本体へと入っていった。
シェルター本体は球形構造で、外側の圧力は柱によって中心に集まるようになっている。そのため、所々に通行の邪魔になる構造物がつき出しているが、外圧により潰れるよりはマシと考えられているようだった。
拡張工事が進められたのも、この構造によるストレスが大きかったと思われる。
球形構造のため外側は大きく、内側は細かいブロックに分かれるという仕切り方になり、もしも崩壊する場合、外側から内側へゆっくり進行するだろうと考えられていたようだ。
短期間ならともかく、長期間の場合は外側のブロックから切り捨てる予定だったらしい。
そのため構造も大雑把で、一番外側は道も広く、特に何かを置いてあるという作りにはなっていない。
横幅は俺たち全員が横に並んで歩けるほど。天井は十メートルはありそうだ。
「これだけ広ければ、外からモンスターが入り込んでも邪魔にならないんだろうねぇ」
「ここならマールでも楽に飛べそうだね」
「小さいままならば、だと思いますよ」
「そうかい?」
「ピー!」
「おや。マールも飛ぶのに苦労しそうだと言ってるねぇ」
「元々鷲は、高い空で獲物を見つけ、一気に急降下して獲物を捕らえるという形で狩りをするのが普通ですからね」
「ピエー!」
「よく知ってる、って褒めてるよ」
「はっはは。ありがとうございます。
でも、よく意思疎通が出来てますねぇ。これが昼間の野外だったら偵察任務を任せられますね」
「ああ、今は、魔法の灯りに頼ってる状態だから、灯りから離れるのは無理なんだねぇ」
「鳥目というのも有りますからね。でも、もっと切実な理由もあります。鷲とか鷹は飛んでいる時はもの凄く目が良くなるそうです。近くの物がぼやけて見え無くなっちゃうほどに。そのため、こういう狭い場所では飛ぶ前に確認してから、半分は勘で飛ぶことになるでしょうね」
「ああ、それでかい。
いやね、昼前に一緒に飛んだ時、近くに居たあたしを見失っていたからねぇ。
おかげで、飛んでるあたしのほうきに留まるという事が出来なかったよ」
「飛んでる早さを遅くしたり、着地しようと意識すると普通の目になるそうですが、高い空を飛んでいる時は自然に遠くを見る目になっちゃうとか聞いたことがあります」
「そうなのかい?」
「ピーエ!」
「ふふふ。あんたはなんでそんなに知ってるんだ? って驚きを通り過ぎてるようだね」
「昔、鷹や鷲の生き様を調べて研究するという人たちは多くいました。俺はその講釈を聞きかじった事があるってだけです」
正確にはネイチャー番組をゴロ寝しながら、寝る前の暇つぶしで流し見ていたってだけなんだよねぇ。
とにかく、偵察任務が出来ないのならガジェットによる振動探査しかないか。
「ガジェット。周辺で活動しているものはある?」
「推定ですが、二層下に群れで移動している可能性があります。場合によっては一層下という事も考慮してください」
「それ以外は?」
「この階層より上に活動体は確認出来ませんでした」
「下に続く穴とか、階段に注意って事だね。上は崩落さえ気をつければいいって事かぁ。
ガジェット。この階の崩落防止は、少しだけ気合いを入れた方が良さそうだね」
「了解しました」
今までは、偶に柱を一本作り出すだけの作業だったけど、今度は左右に一本ずつ立て、それで橋げたを作り、天井を支えるための柱を追加する。そして次の柱も同じように作り、前の柱とを斜めにした柱でつないでいく。
まるで鉄橋のトラス構造のようだ。
少ない資材で頑丈な箱形構造という事なんだね。
出来るだけ魔法力を温存する為でもあるけど、通路が広すぎて消耗は避けられそうもない。
「ガジェット。七割ほど消耗したら言ってくれ。呼応で補給するから」
「了解しました」
そして、ガジェットの作業に合わせた進行で歩いていく。
敵は未だに現れない。
そして二時間ほどゆっくり歩いた所で土砂に埋まった階段スペースに到着した。
「なるほど。モンスターが使う階段は、シェルターの内側のブロックに有るんだね。だからここを歩いていても出会わなかったって事かぁ」
「まぁ、埋まってれば使えませんしねぇ」
土砂は広範囲に及び、ここから先は壁にでもなっているように見えるほどだ。そこで、土魔法ならガジェットと言うことで、呼応を使って魔法力の回復を行った。
そして魔法力が全快したガジェットの土魔法で、埋まっていた階段スペースが綺麗な状態で露わになっていく。
階段は横幅が十メートルほどで、緩やかな斜面の折り返しが無い一直線構造で下の階層と繋がっていた。
ガジェットが更に掘っていくと、今度は上に続く階段が姿を現した。でも上の階はこの階よりも土砂に埋まっている率が高いようで、見えている通路も土砂で埋まっている。
ほとんど埋まってたら、動いているモノは居ないはずだよねぇ。
「さて、どうしようか? 今回はこの階層だけ、ってつもりだったけど、この有様なんだよね。時間はあるし、下の階の攻略も始めちゃう? それとも戻って休む?」
俺としては進みたい。急いで浄化を始めたい。だけど、俺が焦っている様子を見せるわけにも行かないので、のんびりと聞いてみた。
「まだ今日は戦いらしい事もしてませんし、敵の数も少なそうだって感じなので、この際、削れる所は削っておくのが得策だと思いますが」
「そうだね。せっかくあんたらに鍛えて貰ったのに、出番無しじゃ寂しいモンだよ」
「ええ~? 戦うんですか~? 呪文使うなって言われてたのに~」
「うん。問題ない。行こう」
良かった。問題なく進めそうだ。
「やばそうだったら転移でさっさと逃げちゃうから、その時は直ぐに集合してね」
そう言って下り階段を下りていった。
そして歩いて五分ほどで敵と接触。
鎧を着たゴブリンが三体だったが、ガジェットに報告されていたから落ち着いて対処できた。
しかし、戦闘が終了する寸前にガジェットの警告が続いた。
どうやら、この階層はゴブリンの詰め所みたいな場所だったようだ。次から次へと出てくる。
まぁ、数が居ても、そう危険な状況にはならなかったけどね。
「フォトン!」「フォトン!」「フォトン!」
「アイスクルレイン!」「アイスクルレイン!」「アイスクルレイン!」
俺のレーザーが縦に並んだゴブリンたちを一気に貫き、レイミーのつららの雨がゴブリンたちの頭に降り注ぐ。
「それが、レイミーが水の精霊に頼んだ省略呪文なんだね?」
「うん。便利」
長さ三十センチほどのちょっと太い氷の槍が雨のように降り注ぐ魔法。ただ単に落ちてくるだけじゃなく、速度も加速されているようで、鎧ごと貫いて、二十センチほどが埋まっているようだ。
あの大きさなら、体温であっという間に溶けそうだから、出血のダメージも大きそうだ。頭に当たっている方は即死させてるし、氷の槍を抜いてこちらに投げ返される心配も無い。
呪文を長く唱える暇もない、という時用の省略呪文としては、なかなかに優等生な感じだね。
三十匹ぐらいは居たかな? その全てが俺とレイミーの省略呪文で片づいてしまった。
まぁ、こういう場合の死屍累々状況は、なかなかグロいモノだけどね。
「任せて」
更にレイミーが前に出て、朗々と呪文を詠唱し始めた。
ちょっと長い呪文を唱え終わり、死屍累々に向かって起動すると、目で見て判るぐらいに干涸らびていった。
「これは、水だけを消滅させていったのかな?」
「うん。干し肉を作る時に便利な魔法って話してて、完全に水を消しちゃうと粉になっちゃうからって言われてやってみた」
ゴブリンたちはミイラになって、かなり縮小していた。お湯に入れて三分経てば戻るかなぁ。
「これなら腐らないし、匂いも出さないから処分方法としては良い感じだね。でも、まぁ、ゴブリンなら良いけど、喰うために狩った獲物に使うと、喰うための部分が減りそうだね」
「うん。使い分けが大事」
軽くなったゴブリンのミイラを隅に蹴飛ばし、更に進む。レイミーがいろいろ披露したので、今度はジェイが前衛になって新しい魔法を披露すると息巻いていた。
そして直ぐに十体のオークと接触。
「マグマホールド!」
ジェイが叫ぶと、指差されたオークの足下から、赤く熱せられた溶岩が一枚の布状に沸き上がり、オークに覆い被さるように巻き付いていった。
「マグマホールド!」「マグマホールド!」「マグマホールド!」
ジェイが叫ぶたびに溶岩の柱が出来上がり、その中で動けなくなったオークが炭に変わっていく。
そして、高さ二メートル半の溶岩の柱が十本出来上がった。
「なかなかエグい魔法だねぇ」
「えぇ? そうですか?」
最後のオークなんか、本気で涙目になってたよ? まぁ、炎系の攻撃魔法は元々エグい魔法しか無いってのは判るんだけどね。
「ところで、あの溶岩の柱から熱を完全に奪うってのは出来るかな?」
「あ、なるほど。あのままじゃ普通の人には危険ですね。ちょっとやってみます」
ジェイが炎の呪文を唱え、その中から消滅の命令を選択。消滅の対象は溶岩の『熱』限定。そして起動させると、いきなり溶岩の柱が破裂した。
俺たちに被害はまるでなかったけど、溶岩の柱は半ばから折れて砕けていた。しかも冷気の湯気をたてている。
「あれ?」
ジェイ自身にも意外過ぎたんだろう。どうしてこういう結果になったのかが想像出来ないで居るようだ。
「ジェイ? 大丈夫?」
「あ、はい。僕は、何処もなんともないです。ですが、なんでこうなったのかが」
「ジェイは、溶岩が普通の岩になる程度とか想像してたってわけだよね?」
「はい。溶岩ですから、火山の岩のような穴だらけの固い岩という感じになると思ってました」
「うん、そうだね。でも、ジェイの魔法って、火その物と、熱を支配する魔法なんだよね。
基本的には炎が存在する範囲での熱だけだと思ったけど、氷よりも冷たい熱までも及ぶようだね」
「え? 氷よりも冷たい熱って矛盾してませんか?」
「そうでも無いんだけどね。詳しいことはまた勉強会の時にでも話すけど、冷たさで言えばレイミーよりも冷たくすることが出来るって事だね」
「え? 負けた?」
レイミーが意外そうに言ってきた。
「勝ち負けじゃないんだけどね。レイミーは水の力で、水が凍った氷を扱う事が出来るって事で、ジェイは水を沸騰させることが出来るし、凍らせることも出来るけど、水や氷を自在に動かすことは出来ないって事」
「ああ、つまり冷たさも暖かさって事ですか?」
氷よりも冷たい熱ってのはあまり理解できない言葉だったかなぁ。
「そうそれ。ジェイ自身がマグマの中で平然としているのも、その冷たくなるほどの暖かさをしっかり御しているからって事になるんだろうね」
「実は、今までも使っていたって事ですね」
「サラマンダーが、ジェイを炎で傷つけないように頑張っていた、ってのも有るとは思うけどね」
「なるほど」
「とにかく、さっきの破裂は、熱くなった鉄鍋に冷たい水を一気にかけた時にヒビが入るのと同じ現象だと言うことだね。それが、とんでも無いほどの熱さの岩を、氷よりも冷たい温度したって事で、ヒビだけじゃ済まないで破裂したって感じなんだろうね」
「そうでしたか。あ、それを攻撃魔法で使えば、いろいろ出来そうですよね」
「熱を消滅させるってのは、ちょっと手間取ってなかった?」
「そうですね。熱くするってよりは魔法力を使うし、ちょっと面倒だな、って印象が有りました」
「熱くするより冷たくする方が大変だしね。研究する価値は大きいけど、効率的にはあまり美味しく無い方法みたいだね。
さっきみたいに、熱くなってて危ないって時以外は、当面使いどころがないかな」
「マグマパペットみたいな、溶岩のモンスターが現れたら、一気に倒せそうな感じなんですけどね」
「そうなんだけど、魔法の支配力ってのが有るみたいだから気をつけないとね」
「支配力ですか? 初めて聞くような気がしますが、それはどういうモノなんでしょうか?」
「例えば、二人の火の魔法使いが居て、一本の松明から炎を自分の手の平に呼び寄せようとした場合を想像できるかな?」
「な、なるほど。
支配力が強い方が、より多く炎を取っていくわけですね。魔法の術としての力じゃなく、支配力ですかぁ。今まで、そういう考え方はしてきませんでしたね」
「まぁ、サラマンダーを宿して居るんだから、火に関しては圧倒的な支配力を持っているから考えなくてもいい話しかも知れないけどね。
火と火という力比べになったら、少しは頭に入れといた方がいいかもね」
「そうですねぇ」
レイミーも水と水での力関係を考えているようだった。
そして魔法の考察もここまでにして、さらに進むことにする。
「さらなる振動音が接近。五体のオークと推察されます」
ガジェットの警告から二分ほどして、五体のオークと戦闘になった。打ち合わせの時間もあったので、レゼとキャスにも魔法を撃たせてみた。
でも、ジェイたちの魔法に毒されたのか、やたら繰り返し強化をして強さを増した魔法を唱えようとして、術としては失敗してしまったようだ。
具体的には、ヒョロヒョロの火弾とそよ風の刃だった。
「こういう失敗は初めて見たなぁ」
俺がそう呟くと、レゼとキャスのフォローでオークに攻撃魔法を撃ち込んでいたジェイが言って来た。
「そうですか? 僕たちも前に同じ失敗をしてましたよ」
「あ、そうなの? 俺はそれを見ていないような気がするなぁ」
「そうかも知れませんね。僕たち三人で練習してた時だったと思います」
「で、あれって、どんな理由の失敗なのか、わかった?」
「はい。熱くなれという命令を何度も繰り返すと強化されるわけですが、その繰り返しは個人によって受け入れられる回数が有るみたいです。
それに、元々の呪文が長い場合は、繰り返しの回数も少なくなるみたいです」
「ああ。個人差で、魔法の呪文を受け入れる器があって、その器に入りきらない呪文はあふれて無駄になっちゃうって感じかな」
「ええ、そんな感じに近いですね。でも、慣れてくれば自然と増えるみたいですけどね」
「器が大きくなって入る量が増えるって事だね」
要は、容量と熟練度ってことだろうね。ああ、魔法入門の冊子に付け加える文言が増えたねぇ。
「レゼ、キャス。少し魔法力の無駄遣いになっちゃうけど、どのくらいが限界かを確かめてください」
そこからは再び魔法教室という感じだった。魔法を使うとして恐れられたゴブリンやオークだったはずだけど、投擲してくる火弾や、溜の長すぎる雷撃魔法は敵じゃなかった。
森と街での大規模戦闘とかいう状況なら違ったんだろうけど、狭くて、下手をしたら自分にまで被害が及ぶ攻撃でとなると、ゴブリンやオークの頭には難しい要求だったようだ。
そして二人に疲労が見えてきた所で呼応を使う。
更にレゼとキャスによるゴブリン無双。なんか、以前にもこんな状況を見た気がするなぁ。
しっかりと魔法に慣れたと判断できたところで、一番外側の大きな通路から、内側の一段階狭くなったブロックへ入ってみる。
狭い分、攻撃は前衛のみになるが、現れるゴブリンたちの数も減り、ガジェットの振動探査も正確になって、苦労すると言うことは無くなった。
今までの通路よりは狭い通路を行き、ほどほどの所でドア付きの小部屋を発見。
全員が余裕を持って入れる部屋で、ここなら転送魔法用目標陣を設置出来そうだった。
「今日はここまでにしましょう。明日は邪霊の手前まで、って感じで進みたいと思います」
皆の同意を得て、転送魔法用目標陣を描いてから小型輸送艇まで転移した。皆がこぞって行列を作りに行く。実は半日の探索が限界なのかな。
RPGゲーム的に言えば、冒険の始まりから三~五回目ぐらいに挑戦するダンジョンって感じだ。ただ、最後のボスがラストダンジョンにでも居そうなレベルって感じなんだよねぇ。
ラストダンジョンって言っても、大ボス前に居る中ボスの総出演の更に前に居るって程度だけどね。
その邪霊との詳しい戦い方は不明なままだ。とりあえず、最後に俺の中に取り込んで、闇の精霊で浄化しないとならないのは決まっているけど、いきなりそれを出来るとは考えていない。
生け贄の中に入っているのか、剥き出しで存在しているのか? ジェイたちは邪霊の影響を受けないか? 弱体化させるにはどんな方法が有効なのか?
見てみないと判らない。でも、判るほど接近したら、きっと戦闘になるだろう。
俺だけで行った方がいいのか? 皆のフォローが必要なのか? 全員で生きて帰ることはできるのか?
色々と悩ましい。
皆で一緒に乗り越えると誓った話しだけど、未知の戦いに挑戦する場合には怖くなる。
セーブポイントも、デスペナルティで経験値と所持金が減って、最後に立ち寄った街からやり直しって言うのも無い。
せめて、どんな敵なのか。どんな状態なのか、それだけでも判る方法があったのなら。
…………………。
有った。
「エイプリル! 邪霊の状況をインセクターで確認してくれ」
『既に解析中ですが、インセクターのカメラアイでは魔法的特性が測定出来ませんでした』
「判る所まででいい」
『小型輸送艇のモニターに映しますか? それとも艦長のデバイスのみにしますか?』
「あ、ああ。ちょっと待った。これは皆で見ないとね。皆が落ち着くまで待とう」
『了解しました』
なんてこった。ここぞという時に使えるインセクターを忘れてた。俺が苦痛を覚悟で邪霊を浄化しなければならない、という条件でテンパってたようだ。
その他にも使えそうな装備を思い出してみる。
邪霊は街の真下の位置にいるけど、大陥没の中央まで誘導出来れば対宇宙戦艦用の高熱プラズマ弾や、高圧レーザーというもの使えるかも知れない。ジェイとレイミーに冷やして貰えば、クレーター内の高熱もなんとかなるだろう。
浄化が大前提だから、埋めてしまうってのは論外になるけど、コーキング剤や接着剤とかも有効な捕縛剤になり、崩落防止にも役立ちそうだ。
ガジェットの土魔法で崩落防止の補強をしてきたけど、俺が拘りを捨てれば、使えるモノって多いんだよねぇ。
邪霊の調査結果次第だけど、チート物資を使って安全に対応できそうだ。




