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第五章 晃と女性剣士 レイミー

 目をつけた一つの街に向かって、小型輸送艇で降りていく。

 街の近くの、森でも街でも畑でもないという、空き地の丘という感じの場所に着陸した小型輸送艇から降り立った。


 「冒険の始まりだ。」

 俺の冒険はここから始まる! ってのは打ち切りエンドだな。縁起がよくないから言わないでおこう。


 見た目は皮の鎧に見える胸当てをつけ、腕当て、足当てが鎧部分、あとは黒い野戦服を着て、腰には2丁の銃。背中には黒いリュックと腰の位置に軍用ナイフ。リュックの横にはエイプリル特性の剣。そして、ごつい軍用ブーツを履いた状態が、今の俺の姿。


 この世界では銃は武器に見えないだろうけど、剣はあまり使いたくは無い。なにしろ、俺自身が上手く使えなくて、下手をしたら敵以外も切ってしまうから。だから、はじめから隠さずに、銃で攻撃するつもり。剣はまぁ、飾りぐらいのつもりだ。でも、必要なら使うよ。エイプリル特性のとんでもない機能付きの剣だから、必要な時ってのがなかなか無いかもしれないけどね。


 そして、前準備が長かったけど、ようやく降り立って冒険が始まるわけだ。エイプリルに通じる隠しカメラが鎧部分にたっぷり付いてるとか、真上からしっかり見られているとかいう、首輪をつけられた犬みたいな感じとかは、一応言わないでおく。身の危険さえなければ、何も言ってこないはずだしね。

 だから、あんなことも、こんなことも、基本的にOK。まぁ、たぶん、映像記録として残されるんだろうけど、それを見るのも俺一人ってことになるはずだから気にしない!


 「気を取り直して、もう一度! さぁ、冒険の始まりだ。」


 丘を降りて街に向かう。

 街は全体を壁で覆われており、要塞都市というか。城砦都市といえる感じになっている。門は開いていて、門の周りに門番みたいな兵士がいる。この門番が見ているのは、犯罪者とモンスターのみ。一般人がいくら出入りしても関係ないようだ。


 こういう城砦都市とかは、門を通る時に通行税を取ったりする場合もあるけど、ここでは壁の周りにある畑を耕す農民の家とかが多くあり、いちいちその出入りで金を取っていられないってことで、出入りに関しては犯罪者以外無制限になったらしい。

 外壁で囲える範囲で食料生産とかは、基本的に無理だったようだ。仕方なくこの街では、騎士団が定期的に街の周囲を巡回し、畑が被害にあうのを防いでいる。

 それでも、まぁ、強力なモンスターが現れた時は、外壁の外は諦めて、門を閉じるらしいけどね。


 門番に軽く手を振り、外壁の中に入る。

 赤レンガの土台に木造の骨組み、土壁を塗りたくった家が立ち並ぶ、古い西洋風の町並みだ。それだけだと、異国に迷い込んだだけという感じだけど、人間のほかに、ドワーフや獣人の姿も見えるので、やっぱ異世界って実感。エルフは見えないな。この街にはいないのかもしれない。


 さぁ、探すのは冒険者ギルド。エイプリルの調査では報告されてないけど、どこにあるのかな。見つからなければ、NPCに聞いたり、酒場で聞いたりが基本だね。NPCなんていないけど。


 「ちょっとすみません。この街に冒険者ギルドはありませんか?」

 横を通り過ぎようとした街人Aに声をかけてみた。天使に通じるようにしてもらっているはずだし。


 「冒険者・・・ぎるど? ぎるどってなんです?」


 なんてこった~~~~~~っ!!!


 ま、まさか、ギルド制が存在しないとは。いや待て、冒険者を支援する組織が別にあるのかも。


 「すみません、えっと、冒険者を支援する組織ってありますか?」


 「さぁ? 効いたこと無いですね。冒険者ってのは一人で無謀な旅をする旅行者ですよね? それを支援するのは一部の商人だけなんじゃないでしょうか?」


 ファンタジー世界でモンスターもいるのに、冒険者ギルドがないなんて、なんたる手落ち。神が、天使が許しても、俺は許さないよ。


 「えっと、外のモンスターと戦う仕事している人たちっています?」

 ちょっと涙目になりながら、逃げようとする街人Aを押さえ込んで聞いてみた。


 「傭兵ですか? 酒場で討伐とかの依頼をすると、その場にいる誰かが受けてくれるとか。」


 「そ、それだーーーー!」

 あっ、走って逃げやがった。

 まぁいいや。とりあえず、傭兵が酒場で依頼を受けるってのはわかった。それが発達すれば、傭兵ギルドになって、そしてゆくゆくは冒険者ギルドになるのかもしれないね。

 それじゃぁ、聞き込み再開。


 「すみません、傭兵の集まる酒場ってどこにあるか知りませんか?」

 なぜ、皆、走って逃げるんだ? 道の真ん中で俺一人がポツンと取り残された。

 外の人間に、あまり親切な街じゃないみたいだねぇ。


 それでも、ようやく傭兵の集まる酒場に到着した。安っぽい酒の匂いと料理の匂いが混じってしてくる。

 扉を開け、中に入る。予想だと、傭兵になりたがってる坊やか、ここはそんな甘い所じゃないぜ、さっさと家に帰って、ママのオッパイでもしゃぶってな。って来るはずだよね。


 4人がけのテーブルを縫う様に避けて、カウンター席に座り込む。


 「いい仕事はあるかい?」

 うん、決まった。あとは、後ろのゴロツキが因縁をつけてくるのを待つだけだ。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 でも、誰も何も言わないのは辛いよ。イジメでも無視が一番心を壊すんだよ。カウンターの向こうにいるオヤジに向かって、また同じセリフを言う度胸もないよ。


 どうしようと思って回りを見回したら、自分の前には何も無かったことに気づいた。


 「酒とつまみを頼む。」


 「酒は銅3枚、つまみは銅3枚、食事なら銅4枚」

 オヤジのセリフにほっとしながら、銅5枚分に相当する大銅貨1枚と普通の銅貨1枚を、

カウンターの一段高くなっている所に置いた。ちょっとボリ過ぎじゃね? とか思ったが、ここは素直に出しておく。お金そのものは、映像からエイプリルが作ってくれたものだしね。

 そしたら出てきた大ジョッキ。けっこうでかいよ。つまみも腸詰めを茹でただけっぽいけど、皿に山盛り。フランクフルト並みの黒っぽい腸詰めが8本。


 酒を飲んでみる。なんか、気の抜けたビールのような。これがこの世界の酒造の限界なのかな。腸詰めは、食べるためのフォークとかも無かった。熱いけど手づかみで口に入れた。

 これも、なんか味気ない。なんだろう、素材はいい感じなんだけど、パリっとはしていないし、薄味で、肉の臭みもけっこう残ってる感じ。これを8本ってのは、ちょっとした拷問かも。

 これは、ここのオヤジがダメなのか、それともこの世界がダメなのか、判断しにくいな。


 本日2度目の涙目になりながら、フランクフルトを咀嚼していると、扉が勢い良く開かれて、ちょっとだけ身なりのいい、ひげ面の男が入ってきた。


 「領主さまの依頼です。報酬は金貨一枚の頭割り。南の畑に現れたゴブリンの集団を討伐してください。」

 初仕事キターーーーー!

 って、焦らない、焦らない。周りの反応を見よう。


 金貨一枚なら、確か10日ぐらいは暮らしていけるぐらいの額だったよなぁ。でも、それを頭割りってことは、10人でやったら一人銀貨1枚。一日分の暮らしだね。でもそれじゃ、割が会わないと感じそうだな。せめて、5人以下で出来るものじゃないと、意味が無さそう。5人以下でゴブリンの集団を討伐できるかな? 退治と言わずに討伐と言ったからには、全滅を成功条件にしてるってことだよね、ゴブリンの数も問題か。


 案の定、誰も立候補しないようだ。もしかしたら、ここの領主は依頼を出してから完了条件を盾にごねて、報酬を値切るタイプなのかな。


 「どなたか。依頼を受けてはくださいませんか。報酬は金貨1枚の頭割り。ゴブリンの集団を討伐してください。」

 なんか、ひげのおっさんが泣きそうになりながら訴えてる。中間管理職の悲哀を感じるよ。

 2度、3度と同じセリフを言いまくるおっさん。いい加減じれた傭兵の一人が声をかけた。


 「おいっ! ゴブリンの集団っていってるが、具体的に何匹いるんだ?」

 そう、それが肝心だね。


 「そ、それは私にはわかりません。ただ、集団としか・・・。」


 「なら諦めるんだな。そんな依頼を受けるやつなんて、ここにはいねぇよ。」

 うん、俺もそう思う。


 「なら俺が受けよう。」

 他の傭兵と比べると一回り小柄で、皮鎧を付け、長剣を下げた剣士が立ち上がった。一人だけが受けるのなら、報酬も独り占めとか思ったのかな。確かに一人で金貨一枚なら、そこそこの報酬っぽいよねぇ。


 ちょっと気になってエイプリルに調べてもらう。帰ってきた答えは思ったとおり、あの剣士は女性だということ。お約束だね。顔つきもハンサムって感じだけど、美人には違いない。それと、南の畑のゴブリンも調べてもらった。南の畑に巣を作ろうと穴を掘ってるらしい。数は20。でも、少し離れた所にも15ほどいるらしい。一人じゃやばいんじゃない?


 そう思っているうちに2人は出て行ってしまった。あの条件で一人でも見つかっただけでもよしとして、さっさと連れて行ったって感じだな。

 まだ4本も腸詰めが残っていたけど、未練もなく、そのままにして酒場を出た。


 エイプリルに地図を出してもらい、鉢合わせしないようにしながら南の畑に先回りする。

 先ずは見物。ゴブリンがどんな感じか、あの女性剣士がどんな戦いをするのか、いろいろ知りたい。


 望遠鏡がないと、ほとんど見えない距離の木の枝に座り、鎧のカメラの望遠映像を目の前に出してもらう。暫らく待っていると、あの二人がやってきて、ひげの男がゴブリンの巣の方を指差して、逃げるように走っていった。いや、あれは逃げたんだな。


 そして戦闘が開始された。


 始まってから5分ほどで、先ずは一匹目を倒す。二匹目も5分ほどかかった。三匹目は1分ほどでいけた。4匹目は苦戦、8分ぐらいはかかったようだ。かなり息が上がってるようだ。剣の振りも弱くなったように見える。

 一匹一匹はそれほどでも無くても、向こうは集団。常に5~6匹で取り囲んで、さらにその外側から投石してくるのもいるようだ。けっこう頭いい?

 押せば引き、背中を見せたら襲い掛かってくるというゴブリンの攻撃をかわしているが、そろそろ限界っぽい。10匹倒した所で、剣があがらなくなったのか、剣先を地面に付けている。

 残り10匹。何とかなるか? なんて考えていそうだ。

 エイプリルから、離れていた15匹が、合流しようと移動し始めたという報告を受けた。


 「ちょっと、頭良すぎでしょ。」

 俺は焦りながら木から下りて、女性剣士の下へ走った。



 「残り9匹! どうやら私の・・・、いや俺の勝ちだな。」

 自分自身を勇気付けようと、虚勢を張って声に出してみた。

 深い呼吸で、体力の回復を願いながら、剣を持ち上げ、肩に担ぐ。元々、他の長剣に比べて軽い物だが、重さが無い分、切り付ける力は弱い。しかし、これ以上重いと振り回せない。体力の無さのジレンマに悩まされつつ、手数を持って切り刻んでいく。

 人間相手ならこの剣でもなんとかなるが、モンスター相手だと野生の頑丈さに負けてしまうことも多い。

 どうして、こんなに力が無いんだ。

 力を付けようと鍛えてはいるが、その成果が出ているとは感じない。まるで無駄なことをしているという思いだけが、さらに焦りを呼んでいた。

 でも、きっと何とかなる。この戦いを終わらせたら、強くなっているはずだ。だから、全力で戦い、勝つんだ。

 肩に担いだ剣を振り下ろして、ゴブリンの頭をかち割る。上手く命中して命を刈り取った。


 「あと、8匹!」

 無理矢理笑って、ゴブリンをにらみつけた時、ゴブリンたちの後ろの茂みが揺れた。

 10匹以上のゴブリンが現れて、剣を握る手から力が抜けた。

 足にも力が入らない。諦めて、倒れてしまえという絶望感が手足の先を冷たくしていった。

 何が間違っていたのだろう? 慢心? 自分の都合のいい状況を想像して勝手に納得してた? 騙されたのか? 誰が悪い?

 頭の中の無駄な考えがグルグルと回っている。考えることも無駄なのか?


 ニヤニヤと笑っているようなゴブリンが近づいてきたのを、ぼんやりと眺めていたら、左端のゴブリンの頭がいきなり弾けた。

 額の真ん中が赤く染まっていて、前のめりに倒れたら、後頭部が吹き飛んでいたのが見えた。

 さらに左側にいたゴブリン2匹が、同じように倒れた。

 なんとなく、左後方に振り向いたら、黒っぽい影が走って近づいてくるのが見えた。



 けっこうあたるもんだ。練習したかいがあるね。弾倉の弾は9発。5発撃って3匹倒したから、残りは4発。リロードした方がいいのかなぁ。残りのゴブリンは20匹だっけ? なら弾倉の交換しておいた方がいいよねぇ。残りのカートリッジの心配より命の心配だよ。


 弾倉を固定している金具のボタンを押したら、弾倉がバネの力で飛び出した。残り4発残っているけど、回収はあとまわし。急いでベルトから予備弾倉を取り出して銃にはめ込む。スライダーを引き、撃鉄を起こして、再び構える。


 女性剣士の左に立ち、ゴブリンめがけて乱射。今度は9発全部を打ち込むつもりで引き金を引いた。

 命を奪えたのは3匹。3匹には当たったけど、致命傷にはなっていない。残り3発は外れたようだ。ぜんぜん当たらない。さっきのはまぐれだったようだ。泣きそう。

 弾を打ち尽くしたら、弾倉が勝手に落ちた。


 新しい弾倉を詰め込むか、他の武器にチェンジするか、一瞬迷う。本来なら命取りになるような迷いだけど、それ以上にゴブリンたちが何をされたのかわかっていなくて、少しだけ余裕が出来た。

 だから、再び弾倉を詰め込み、今度は落ち着いて狙いながら引き金を引いた。今度は全弾命中、6匹倒して、3匹は致命傷を外した。

 残り11匹。そろそろ、俺が何かしたという事ぐらいはわかったようだ。

 武器をスタンガンに切り替え、大雑把に狙って引き金を引く。ある程度近くで撃たなければならないけど、範囲攻撃が出来る優れもの。実は節操の無い欠陥武器。

 ドン! という鉄製の扉を思い切り強く閉めた時のような音が重低音つきで響き、5匹が痺れて倒れていた。さらに残ったゴブリンに向けスタンガンを打ち込み、3回ほどですべてが倒れた。痺れているだけだから、銃に切り替え、弾倉を入れなおしてとどめを打ち込む作業は、ちょっとだけ鬱だった。いや、かなり。


 「大丈夫か?」

 地面に撒き散らした空の弾倉を回収しながら、呆けている女性剣士に声をかけた。

 はじめは自分にかけられた声だとは気づかなかったようだ。

 もう一度、

 「大丈夫か?」

 と声をかけたら、驚いたように反応した。


 「あっ、私・・・」

 まだ、呆けているようだ。


 「ゴブリン討伐の依頼、達成おめでとう。」

 と言って、その場を離れた。領主とのやり取りを想像したら、ひたすら面倒になっただけなんだけどね。


 ファンタジーの世界で拳銃で無双してきたあと、同じ酒場に戻って、今度は夕飯を頼んだ。しかも、これも同じだった。肉入りのシチューと固くなったパンだったけど、肉の臭みが口の中に残るけど、全体としては薄味で、かなり残念な気持ちを引きずった。

 なぜだろう、と思ったら、胡椒が効いていないって事に気がついた。

 エイプリルに言って、テーブル胡椒でも届けさせるか? などと考える。

 あまりにも場当たり的過ぎるかな。この世界に胡椒ってあるのかな。地球でははじめ、インドにしかなくて、その取引は金や銀と同価値とか言われたらしいけど、ここの世界でもごく一部にしかないのかもしれない。

 エイプリルに調べてもらおう。インド的な気候じゃないと出来てないかもしれないけどね。


 結果。ありました。そこら中に。日当たりのいい茂みなんかによくある雑草っていう感じで生えてるらしい。実は胡椒よりも小さく、辛くて毒だと言われていたみたいで、厄介な毒草扱いだったらしい。

 明日にでも実を集めて乾燥させ、砕いてから腸詰めに振りかけてみよう。

 これって、独自の商売になりそうだけど、食生活改善ってのも強さになりそうだから、独占はマズイかな。


 明日の胡椒付き腸詰め肉の味を想像しながら、今日の夕食の味気ないシチューに凹んでいたら、酒場のドアが開き、例の女性剣士が入ってきた。


 そして俺を見つけると、睨みながら近づいてきて、テーブルの上に金貨一枚を置いた。


 「借りはつくらん!」

 と、男口調で言ったセリフがなんか可愛いくて、腹筋が痙攣する。


 「何がおかしい!」

 あ、なんか怒らせちゃったかな。いやらしい悪戯心がムクムクと。


 「ちゃんと領主様から報酬貰えたのかな?」

 きっと、値切ってきたと思うんだ。彼女の性格からしたら、自分だけでやったわけじゃないっていう負い目から、値切られちゃうと思うんだよね。


 「・・・」

 あ、歯を食いしばって、何かを耐えているような・・・。やっぱ、値切られたか。その分は自分で出して金貨一枚にしてるんだな。正直っていうか、律儀っていうか。いい性格なんだけど、この世界では生きにくそうだ。


 「いい勉強したろ?」

 そう言って、テーブルの上の金貨を取って、彼女の皮鎧の胸元にねじ込む。金貨が胸を押し込んだせいで、吃驚した彼女が思い切り後ろにのけぞった。

 女だってことをわかってますよ。という感じのいやらしい笑顔を浮かべて立ち上がる。


 傭兵の酒場に初めて入って、たった一日目の俺が、何ベテランの振りしてるんだか、って自分に突っ込み、酒場を出た。

 さて、なんか引っ込みが付かなくなったな、船で寝るか、どこかに宿をとるか。どうしよう。


 「待て。お前に話がある。」

 後ろから、あの女性剣士が話しかけてきた。なんか、フラグが立ったかな?


 振り返って、彼女を見つめる。丁度日が沈み、ぼんやりとした暗さが彼女の輪郭をにじませる。何も言わずに見つめていると、それに我慢が出来なくなったのか、後ろを向いて、門の方へ歩き出した。


 「こっちへ来てくれ。」

 ぶっきらぼうに言うが、そこは、ちょっと面を貸せ、ってのが定番でしょ。


 門を出て、暫らく歩く。そして女性剣士が立ち止まったのは、奇しくも俺が初めてこの地の土を踏んだ丘の前だった。


 「先ずは礼を言う。ゴブリンを前に力尽きていた俺を助けてくれて、感謝する。」

 あ、また腹筋が痙攣する。普段はどうなのか知れないけど、自分の言葉を無理矢理男言葉にしている無理が出てるよ。


 「まぁ、そこん所は本当だね。その感謝の言葉は受けよう。どういたしまして、命を落とさなくてよかったね。」

 最後の所は、小さな子供に言うような感じにした。

 そしたら、やっぱ反応した。素直だねぇ。


 「貴殿は・・・。貴殿は俺の事を知っているのか?」

 探るような目で睨みながら言ってきた。気持ちはわかるけど、何のことを言っているのか判らないよ?


 「なんのことだか? 俺は男の振りした美人さんが、身の丈に合わない戦いに挑み続けているように見えるだけ、だけど?」

 言って気づいた。思いっきり表面的な事しか知らないねぇ。


 その言葉に、安心したような、期待を裏切られたような、複雑な顔をしたかと思ったら、力尽きたかのように、その場にひざをつき、そして座り込んでしまった。あ、アヒル座りだ。


 「すまない、気にしなくていい。緊張が解けただけだ。」

 ゆっくりと身体を起こして、立ち上がってくるのを止めて、座って話そうと言うと素直に座りなおした。今度は体育座り。


 「俺の名は晃。特に拠点を持たない流れの傭兵だ。」

 一度も依頼を受けたことが無く、ゴブリンとも今日初めて戦いました。でも、定義も免許もないから、言ったもの勝ちだよね。


 「アキラか。ちょっと不思議な感じの名前だな。俺の名は・・・、私の名はレイミー。元は商人の娘だったが、訳あって傭兵をしている。」

 レイミーかぁ、偽名の確立5割ってところかな。


 「訳ありね。まぁいいや、それで、俺に話しってのは?」

 余計な詮索はしませんよ、俺は紳士ですから。ってのをセリフに込めたけど、俺の世界だと、詮索しないのも酷い行為だとか言うのもいるんだけどね。


 「貴殿は先ほど、ゴブリンを倒すのに魔法を使ったな? その魔法は私にも使えないだろうか?」

 きっちりと消音しまくったサイレンサー付きの拳銃を、魔法と思いましたかぁ。銃口からガスが抜ける音と、弾丸が風を切る音は消音できなかったから、風の魔法でゴブリンを倒したんだと思ったんだろうな。


 「残念だけど、あれ魔法じゃないんだ。」

 拳銃を引き抜いて見せる。渡さないよ、いろんな意味で危ないからね。


 「これは鉛の弾を目に見えない速さで打ち出す道具なんだ。打ち出す弾は小指の先よりも小さいから、狙ってもなかなか当たらないけどね。何度も訓練して、ようやく、少しは当たるようになってきたんだけどね。」

 目を見張って拳銃を見つめてくる。驚いてるねぇ。そして、諦めたように目をそらした。

譲ってくれとか、強引に奪うとかは考えてないみたい。いい子だねぇ。


 「私は強くなりたい。私は弱いんだ。力を付けようと鍛えても身体のほうを壊してしまう始末。ゴブリンとの戦いでも、結局体力が尽きて何も出来なくなった。」


 「それで、魔法かぁ。魔法もまぁ、自分の力だね。こいつなんかだと、単なる道具の力だし、弾が無くなれば力尽きたのと同じだもんなぁ。」

 結局そういうモノか、という目で拳銃を見ている。本当に強くなりたいんだなぁ。


 「で、魔法は俺も知りたいんだが、どうすればいいとか、何か知らないか?」

 あ、吃驚してる。それともあきれたのかな。


 「あ、あぁ。魔法は、その、普段なら魔法を使えるものに弟子入りして教わるものらしい。腕のいい魔法使いに師事できるかは、ほとんど運まかせらしいのだが、腕を認められた魔法使いは、貴族に召抱えられたり、騎士団の上位の役職にも付くことが可能だということだ。」


 「あぁ、やっぱ師弟関係による技の伝授なんだねぇ。だから、一般には魔法が普及しないんだ。」


 「あ、あぁ、そうだが?」

 それが当たり前、何を言ってるんだ? という感じで返してきた。

 でも、魔法学校とか作って、学年ごとに覚える魔法を決めて教えていき、習得したそれぞれの学生が、魔法を持って一般社会に出たり、研究者になったり、魔法を教える教師になったりという方が、絶対に理想形なはずだよね。

 あ、でも、敵対する可能性のある者に、自分の技が伝わらないように、って一部の弟子以外には秘匿している、って状況もあるか。まぁ、それだと、技は伝承されずに忘れ去られる運命を持つんだけどねぇ。

 技を公にすることを嫌がらない魔法使いを探すか、誰にも因らないオリジナルの魔法を生み出すかして、それから魔法学校を作るとかいうのが、天使からの依頼どおりって感じになるな。


 「どうした?」

 あまりにも考え込んでたからか、心配してレイミーが覗き込んできた。


 「あぁ、ごめん、ごめん。考え事してた。それじゃ、一緒に魔法使いを探さないか?」


 「なんだって?」

 いきなりの提案に面食らった顔を見られた。鳩が豆鉄砲を喰らった。という表現もできるな。


 「君も魔法を覚えて、魔法の力を上乗せした力が欲しいんだろう? 俺も魔法を覚えて、いろいろな魔法を使ってみたい。俺はけっこう世間知らずな所があるから、一緒に行動してくれたら非情に助かるんだよ。ゴブリンぐらいなら何とかできるってことは知ってるだろうし、損な取引じゃないとは思うけど?」


 「そんな簡単に魔法を教えてくれるとも思えないが、まぁ、やってみる価値はあるとはいえる。だが、探そうと思っても、あてはあるのか? 王都や都の貴族の所の魔法使いには紹介状が無ければ会えないし、弟子入りはさらに難関だということだぞ?」


 「それなら、ここから北東にまっすぐ行った山の麓の村で、ゴブリンを燃やしていた魔法使いを見たよ。まずは、その彼に話を聞くってことから、やってみないか?」


 「あてがあるのなら、いいのだが、いいのか? 本来なら貴殿一人で行って、一人だけ習得できれば、いろいろと都合がいいのではないか?」

 きっと、生き残るために他人の足を引っ張り合うっていう世界なんだねぇ。そんな世界だと、未来には全員が底辺っていう惨めな地獄に堕ちちゃうよ。


 「一人では困難なことも、二人でなら容易い、ってこともあるでしょ。」


 「それは、そうだが・・・。」


 「じゃ、そういう事で。」

 煮え切らない感じを、無理矢理納得させちゃった。正直、自分一人の方が移動とかは楽なんだけど、コミュニケーションとかだと、俺のボロが出るって事がありそうだから、その緩衝材代わりになってもらおう、っていう腹積もり。


 「う・・・む。判った、二人で魔法使いに会いに行こう。それで、何時出発する?明日にでも出るか?」


 「ちょっと、この街でやりたいことがあるから、2~3日待ってくれ。」


 「依頼か?」


 「いや、たいしたこと無い個人的な用事。暇なら手伝ってくれると嬉しいけどね。」

 翌日の朝に宿屋の前で会うことを約束して別れ、俺は船に戻った。船のベッドと風呂の方が快適だからという理由だけだけどね。

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