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第四十三章 晃とオマケ クロアロン

 翌日からファイエーは絶好調で、エイプリルが用意した紙、クリップボード、ボールペンで、いろんな図式を描きまくっていた。


 「わたしにはぁ、これぐらいしかぁ出来ませんのでぇ。」


 と言っていた。そこで判った事は一つ。


 「ファイエーって、何かに夢中になってる時の、片手間の会話の時は普通にしゃべるんだねぇ。」


 「なるほど。普段の普通の会話の時には、いろいろ考えすぎて、あのしゃべり方になるんですかね。」


 俺たちのファイエー解析をよそに、クリップボードを片手にブツブツ独り言を言いつつ考え事しているファイエー。


 エイプリルに、クリップボードの追加や、折りたたみ式のテーブル、魔法陣を描くのに適したテンプレートを用意してもらうように頼んだ。


 今はきっと、やりたいようにさせるのが一番なんだろうな。


 俺たちの方は、ワズムルの謁見の予定を聞かないとならないため、まだ動けないということでこの地に留まりながら出来る事をする事になった。


 レイミーは小型輸送艇の近くで剣を振り、俺とジェイはメイの試作料理の味見やアドバイス、ガジェットは森の中で葉物野菜を探す事になった。


 そして、ガジェットの探してきたハーブ類とタマネギで風味付けした羊肉のローストは、なかなかの味になったと思う。

 昼の軽食用にサンドイッチにしたモノは、レイミーとファイエーにも好評だった。


 俺とジェイは、食べ過ぎのために胃の薬のお世話になってたけどね。


 食休みで、ソファーに沈没していた時、ケルス先生からの通信が入った。


 「やぁ、元気でやってるかい?」


 「お久しぶりです、ケルス先生。なにかありましたか?」


 「うん、まぁ、今すぐとか言うわけじゃないんだけどね。ちょっと相談しておきたい事が起こったというか、起こりつつあるというか。」


 ちょっと言葉を濁したケルス先生の報告は、街で薬草が品薄になってきていると言うモノだった。特に数を揃えておかなければならない訳でもないが、常に20個程のポーションと、さらに20個程のポーションを作れるぐらいの新鮮な薬草は確保しておきたいというのが、ケルス先生の診療所の方針ではあった。それが、今はポーションが8、薬草がゼロという有様だった。


 「プランターはどうしました?」


 「それが、夜中に盗まれちまってねぇ。まさか、そんな事を堂々とやるとは、思いもしなかったよ。」


 「あれ? もしかして、今は街の犯罪を取り締まる領主が役に立たないので、そんな状態になっているとか?」


 「いや、もともと、あの領主はそんな事に私兵を使ったりするようなヤツじゃなかったから、それは変わらないんだけどね。」


 「すると、ポーションが値上がりしたという事ですか?」


 「鋭いね。その通り。ポーションの値段も、薬草の値段も、3倍近い値になってる。こっちが元の値段で売ろうとすると、それを買い取って3倍の値段で売ろうとする輩も出ているんだ。」


 「その値段で買い取っているのは誰ですか?」


 「ちょっと言いにくいんだが、あの商人と同じ店に属する行商人という話だった。アルシンと言ったか。」


 アルシンさんは、ポーションの値段を銀貨3枚、プラス輸送費で据え置いてくれると約束してくれた。それなのに、この値上がりを仕掛けてきたと言う事は、どういう事だろう。


 「アルシンさんには、俺の方から直接話を聞きます。でも、ポーションの値段が上がるという事は、収入の少ない人にポーションが行き渡らないと言う事になりますからね。それは許せません。

 こちらの方で薬草を探して、ケルス先生の所へ運びますので、治療に使うポーションは据え置きの値段でお願いします。」


 「ああ、こっちも、ここでの治療は今までの値段でやってるが、街の外へ出る者が欲しいと言われても、それを断っているのが辛い所だ。」


 「本当に、街の外へ出る時の必需品として欲しがるのも判りますが、転売目的もあるかも知れないというのが辛いですね。

 判りました。俺たちの作り置きのポーションと合わせて、こちらで薬草を探しに行きます。今日中には、少なくともポーションの作り置きぐらいは持っていきます。」


 「ああ、悪いが、頼んだよ。」


 俺の直ぐ後ろで会話を聞いていたジェイに、皆を集めて貰うように頼んだ。その間に、


 「エイプリル。ポーションの値上げに意味はあるかな?」


 『必要不可欠な品に、転売価値を見つける事は容易です。特に医薬品に関しては、倫理的な制約のないこの地では、国力にも影響する事案だと推察されます。』


 「小さく見れば個人の投資、大きく見れば国への攻撃かぁ。城の兵士への供給分は、城の魔法師団が専用で造っているけど、問題は街での値上がりだな。そのせいで、城での薬草確保にも影響が出れば、城でもポーション不足ということにもなりかねないか。」


 『国として考えるのならば、価格の統一と価格変更の禁止を法で定める必要があると推察されます。』


 「だよねぇ。ルブロンダルとシャシルには言っておいた方がいいだろうね。」


 そこで、まず、ルブロンダル向けの通信機を起動し、城の通信係に伝言という形で閣議決定して貰った方がいいという事案として報告して貰う事にした。さらに、シャシルでも同じように。ただ、シャシルの方はまだ一般向けにはポーション製作装置が出回っていないので、ルブロンダルよりは閣議決定の早急さは必要なさそうだったけどね。


 2つの国への通信を終えて振り返ったら、皆がじっと待ちかまえていた。


 まるで軍隊。それがちょっと嫌だったんで、皆とソファーに移動してリラックスしてから詳しい事を話す事にした。


 「と、いうことで、皆にはここで薬草探しと、それをケルス先生に届ける役目を頼みたい。ガジェットには、プランターを作りつつ、生きた状態の薬草を届けられるようにして欲しい。

 俺は、ルブロンダルの王都に行って、アルシンさんを訪ねてみようと思ってる。ただ、行商に行っていて、王都に居なかったらくたびれ損なんだけどね。」


 「ええと、ガジェットさんを薬草採取の方にするのは納得できますが、アキラが1人で行動というのは、今までの経験から良くないと思います。ですので、レイミーさんと一緒に行ってもらう方がいいと思います。」


 「さぁんせぇいでぇぇす。」「判った。」『同意します。』


 「あ、あれ? 全員一致?」


 「当然の結果です。」


 思い当たる事しか無いから文句も言えない。単なる無駄足の可能性が高いお使いに、わざわざ付き合って貰うのは心苦しいんだけどねぇ。


 「あー、じゃあ、レイミーには、無駄足になるかも知れない散歩に付き合って貰うとして、エイプリル、2人乗りのファイターを寄こしてくれるかな。速度と小回り優先で。」


 『了解しました。』


 荷物があるジェイたちには小型輸送艇で移動して貰って、俺たちはファイターで移動する事にした。ファイエー工房にしている小型輸送艇もあるけど、それを借りて移動というのも、妙な場違い感があって、なんとなく遠慮した。

 まぁ、ファイターに乗ってみたかった、っていう本音はベッドの下に隠しておいたけどね。


 そして、ファイターを直接見てみたいというギャラリーに見送られ、艦搭載型宇宙戦闘機で俺とレイミーはルブロンダルの王都へ向かった。


 ちなみに、小型輸送艇を長さと幅で考えると、ファイターは似たような大きさになる。いろいろ尖った形状をしているためで、あとは推進器と武装用の弾倉やバッテリーが大半を占め、大きく見える要因になっている。

 今回はミサイル類や電磁波攻撃用のアンテナなどは取り外しており、エイプリルによると、基本装備しかない貧弱な武装で心配だという事だった。でも、3発も撃てば城をも吹き飛ばす実弾の機関砲や、湖さえ蒸発させて消してしまうほどのレーザー類は、過剰装備だと思うんだけどねぇ。


 そして、1分と待たずにルブロンダルに到着。今回は全天モニターのために、移動中の様子も足の下から頭上まで、余すことなく見えていたので、着陸までしっかり判っていた。

 ただ、あまりにも早かった上に、加速や減速のGを感じないので、まるで実感が無くて怖くも何ともなかった。

 たとえるのなら、ジェットコースターだと思って乗り込んだら、テレビゲームの筐体だったって感じ。実際は嫌だけど、せめて加重がかかってれば実感わくんだろうけどね。


 そして、森の中から街道に出て、王都の外壁の門まで来た。


 外壁の門にはゲートに向かう人や、ゲートから出てくる人で賑わっている。ゲートではなく、街道を歩いてくる人もいるため、余裕はあるけれど、暇はないと言う感じだ。


 「ゆっくり立ち話が出来る感じじゃないね。しょうがないから、聞き込みは街の中でしよう。」


 門番の兵士にアルシンさんの店がありそうな場所を聞こうと思ったけど、街の中の商店にでも聞こうと方針転換。街に入って直ぐの雑貨屋で、300グラムぐらいの砂糖を銀貨6枚で買う事で教えて貰えた。

 かなりぼったくられたようだが、今は時間優先。街の中央付近にある商業区画に向かった。


 その商業区画でも、そこそこの店でニンジンもどきの根菜を2束銅貨6枚でぼったくられつつ、細かい場所を聞かせて貰った。


 そこは、商店と言うよりも配送センターの様な感じで、商品はあるが、それをどこに持っていくかでもめているような感じだった。

 身体の大きな男3人が1人の細身の男に怒鳴り散らしている。なにか、手違いでもあったのかな。別の場所でも、似たような感じだ。そこでは細身の男が、大男に怒鳴り散らしている。


 何枚かの木の板を抱え込んだ細身の男が、奥に行くためだろうか、目の前を歩いている。


 「ちょっとすみませんが、いいですか?」


 「はぁ? 急いでいるんですが?」


 「俺たち、アルシンさんを探して居るんですが、知りませんか?」


 「あ、アルシン様? あなた達は、どちら様でしょうか?」


 「俺はアキラと言います。そう言えば判るはずです。」


 「そ、そうですか、ちょっとお待ちを。今確認して参ります。」


 初めは不機嫌そうだったけど、アルシンさんの名前を出しただけで態度が急変した。一応、ここの若旦那ってはずだからねぇ。


 ほどなく、今の男が慌てて戻り、奥の応接室へと案内してくれた。すぐに来るからと、お茶まで出た。


 「アキラ殿、お久しぶりです。わざわざお越し頂けるとは、大変恐縮です。で、本日は何か、新しい発見でもありましたでしょうか?」


 「お久しぶりです、アルシンさん。今日は、町中で売られているポーションの価格の事で、聞きたい事があって来ました。」


 「あ、ああ、その事ですか~。」


 がっくりと力が抜けるアルシンさん。なにかの言い訳が聞けるのかな? それとも、別の理由かな? そう思っていたけど。


 アルシンさんの言う事には、どうやら、この商会の偽物が出回っているらしい。取引相手の所に行ってみれば、すでに売り終わって、品物が無いという事がよく起こるようになったそうだ。さらに、考えられない取引の約束をしているとか、取引予定をキャンセルされていたとか、今までに築いた信用をズタズタにされているという事だった。


 「正直、どのように対応していいかも判らない状態です。」


 「アルシンさんの商会を狙った攻撃でもありますが、はては、この国の商売のあり方を壊そうという攻撃でもありますね。」


 「はい、そうですね。ですから、ポーションの価格に関しては、その申し訳ありませんが、私どもの方ではいかんともしがたく、お約束しておいて、この体たらくという次第で。」


 「いえ、ポーションや薬草の取引価格に関しては、国の存続にまで関わることなので、すでにルブロンダル国王へ、重要議題として取り上げて貰うように頼んであります。」


 「おお、それは素早い。確かに、人の命に直接関わるポーションは、その価格が値上がる事を制限して貰えれば安心ですね。ですが、」


 「はい。他の取引のある物に関しては、値が上がると言う事も商売としての、基本的なあり方ですからね、それが無くなっては商売する意味も無くなってしまいますね。」


 「そうなんです。今回は、そのあり方の逆手を取られて、崩されていったようなものです。」


 「相手は誰なのかは判っていますか?」


 「いえ、荒事は商売にとって損なので勧めては居ないのですが、中には捕まえようとした者もいたらしいのです。ですが、個人の商売人だとか言われればそこまでですし、ルブロンダルのツーロ商会の者だと言わず、ワズムルのツーロ商会の者だと言われたら、反論もできずに、こちらが商売の邪魔をしていると反論されるだけですからね。」


 「まぁ、確かにそうでしょうけど、どう見てもこれは計画的な攻撃ですからねぇ。かならず、裏に誰か居るはずですよね。そこら辺は、なにか情報はありませんか?」


 「はい、あくまでこれは、商売上の事で、本来ならお話しできる事では無いのですが、他ならぬアキラ殿でしたら、内密にと言うお約束でお話します。

 あくまで可能性で、はっきりとした証拠はないのですが、ワズムルの商人、クロアロンという、」


 ガタ!


 アルシンさんのセリフを遮って、レイミーがアルシンさんに詰め寄った。本当に一瞬の事だった。


 「クロアロンはどこに! どこにいる?!」


 本当に目の色が変わったと表現していいほどの、純粋な怒気が溢れている。でも、アルシンさんに向けるモノじゃないね。


 仕方ないので、レイミーの頭に手を置いて、ガシャガシャと撫で回す。ヘッドギアとグローブが邪魔だったけどねぇ。


 かなりの場違いな事をしたんで、呆けた目でレイミーが俺を見てくる。


 「レイミー、落ち着こう、アルシンさんに失礼だろう?」


 「あ、その、ごめん。」


 力が抜けて、うなだれるレイミーを椅子に座り直させて、


 「申し訳ありません、アルシンさん。レイミーも個人的に含むモノがある相手だったようです。」


 「ほ、本当にビックリしました。いやぁ、剣士の方の殺気と言うのですか? 凄まじいモノですねぇ。いや、勉強になりました。わたしも、クロアロンには同じような気持ちを抱いていますから、判りますよ。」


 平静を装って普通にしゃべっているつもりらしいけど、まだ指先が震えているよ。かなり怖かったんだねぇ。これは、お詫びになにかサービスしておいたほうが良さそうだ。


 「アルシンさん。この事に対する対策費はどのぐらい用意できますか?」


 「対策費ですか? 考えた事もなかったですねぇ。なにしろ、どんな対策が取れるか、想像も出来ませんでしたから。」


 「俺の考えとしては、いくつかあるんですが、それには継続的な費用がかかるモノなんで。」


 「と、とりあえず、聞かせて頂けますか?」


 「まず、こちらのお店の印を作るというモノです。」


 この店独自のマークを作って、ブランド化しちゃおうと考えた。ただ、それだけだと真似しやすいから、真似しにくい工夫が必要だね。


 「たとえば、焼き印を作って、木箱や、大事なモノを包む羊皮紙、麻の袋などに印を刻んでおくというものです。この印が無いモノは、こちらの商品じゃないとしっかり宣伝するのも必要ですけどね。」


 「そ、それも真似されませんか?」


 「普通なら同じモノにならないような印にするんです。文字ではなく、文字を元にした絵のような感じで。で、これを真似されたのなら、悪意のある偽造物だと言い張る事が出来るわけです。」


 「あ、あ、なるほど。」


 「行商の方々にも、その印をつけた上着でも着て貰えれば、その印がない者は偽物だと言ってしまえるわけです。

 お得意先には、その印を刻んだタオルとかを無料で配って、印を覚えて貰うようにするのもいいかも知れませんね。」


 「い、いいですね。それは、今後もこの商会を利用して貰うための目印にもなるというわけですね。」


 「はい。ルブロンダルのツーロ商会というのを覚えて貰うのと、他と間違えないというのと、相手から狙って利用して貰えるようにするわけですね。

 ゲートのおかげで、取引相手がいつの間にか死んでしまった、なんて事も少なくなりつつあります。取引する個人の名前の入ったプレートを作って、得意先に渡しておくというのもいいかも知れませんね。」


 そこで、どんな印がいいかと聞かれたので、サンプルとしてと断って、俺のアイデアをカバンから出した紙に書いて見せた。

 まず、この世界の文字でツーロというのを扇形に変形させて描いて、それを逆三角形の枠で覆い、上辺にきちんとした文字でツーロ商会、左右の辺に、ルブロンダル中央商業区画と描いて見せた。


 他にも描こうと思ったんだけど、その1枚目でかなり気に入ったようだ。手にとって、じっと見つめて、時折ニヤリと笑ったりしてた。


 「ちょ、ちょっと、このままお待ちください。」


 そういうと、紙を持ったまま奥に引っ込んでしまった。

 俺とレイミーだけになったので、丁度いいから、ちょっと聞いてみよう。


 「レイミー? クロアロンというのが、レイミーの仇の相手なのかな?」


 クロアロンの名前に身体をビクつかせ、腰の剣を握る手がカタカタと震えた。


 「レイミー? 俺は、じゃないな、俺たちは、レイミーの手伝いをするのに、なんの躊躇もないよ? そして、レイミーがその事を話してくれないってのが、一番悲しいと思っているって事を知っておいて欲しい。」


 俯いて震えている。これは、ファイエーと似たような状態かなぁ? ファイエーと同じ事しても、同じような展開にはならなさそうだけどね。


 「お、お待たせしました。」


 アルシンさんが戻ってきた。なにやら、ニヤニヤしてる。


 「この印を、我がツーロ商会の統一の印にする事にしました。これで焼き印を注文する事になりました。」


 「決断が早いですねぇ。」


 「ええ、うちの父親もかなり懸念していた事案でしたので、やって損はないというお墨付きも貰えました。」


 「あとは、その焼き印の管理ですね。信頼できる鍛冶屋に数量限定で作ってもらって、同じ物を他人に渡さないという約束をして貰った方がいいですね。盗難防止も心がけないと。」


 「ああ、確かに。そこを気をつけないと、意味なくなっちゃいますね。」


 「余裕が出来たら、1~2年ぐらいで、ほんの少しずつ変えるというのもいいですよ。例えば、ツーロ商会という文字の太さを変えるとか、中央商業区という言葉を変えるとか。」


 「それは、どのような意味が?」


 「その印で、いつ頃の物かというのが区別つくというだけですけどね。」


 「なるほど、確かに余裕が出来たらやっておいた方がいいかも知れませんね。

 それと、先ほどの話の中にあった、タオルや服の話なんですが、羊皮紙になら焼き印もいいとは思うんですが、さすがに服に焼き印と言うわけにはいきませんよね。」


 「服の染物屋にお付き合いはありますか?」


 「はい、布地を卸しておりますが。」


 「ロウソクというはご存じですか?」


 「はい、幾らか商いさせて貰っておりますが。」


 「染める前の布地に、ロウで文字や絵を描いておくと、その部分は染まらないと言うのはご存じですか?」


 「ええ? そうなんですか?」


 「焼き印と同じような型を作って、それを布地にあて、そこに熱をくわえて溶かしたロウを塗り込み、冷えてから染めていけば、そこだけ元の布地の色のままという物が出来上がりますよ。

 染料に、滲みにくくするための油を加えて、それで文字を入れるとか絵を描くとかの方法もありますね。」


 あ、アルシンさんが固まった。


 「また、あなたは、そういう事を言うんですねぇ。」


 あれ? 前に何か言ったっけ?


 「それだけでも、商売を立ち上げて大儲けできる程の話ではありませんか。なぜ、そういった商売をしないで、簡単に話をしてしまうのですか?」


 「ああ、そう言う事でしたか、前にも言いましたが俺にとっては目先の利益でしかありません。この染め物の技で、アルシンさんが花畑のような柄の布地を作り出して、利益をあげるとかして貰った方が、俺の利益になりますからね。」


 「一体、どんな利益を目指しているんですか?」


 「前にも言いましたが、人が強くなる事です。簡単に死なないように。そのために動いているだけですよ。今回も、商売というモノの基礎を壊されないようにするのが、人が強くなるために必要だと思っているだけです。」


 ため息をついて、首を振っている。諦めたかな?


 「いいです。いろいろ思う所はありますが、しっかりと踊らせて頂きます。

 それで、他には、なにかありますか?」


 「そうですね。先ほどのタオルと同じようなモノになりますが、商いをしてもらった相手に、ちょっとしたオモチャを付けるとか。ほんのちょっとだけ生活に役立つようなモノを付けるとかですね。」


 「オモチャですか?」


 「本当に簡単なモノでいいんです。壺とかの焼き物に使う粘土で、騎士の人形や馬とか、モンスターの人形でもいいかも知れませんね。木で型を作って、そこに粘土を押し当てるだけでできるような簡単なモノに、ツーロ商会の文字を入れて焼いて作るとかで。」


 「なるほど、そういう子供が欲しがるモノで、親を釣るわけですね。

 それで、生活に役立つような物とは?」


 「そうですね、こちらも何でもいいんですが、これぐらいの、」

 両手を広げて、1メートル20センチほどの長さを示して、

 「真四角の布というのもいいと思います。」


 俺としては、風呂敷包みを想定してみた。


 「もちろん、ツーロ商会の印も入れますが、目立たないようにして、花柄でも入れておくのもいいでしょうね。

 基本は物を包むという使い方をして貰うわけですが、あて布にしたりとか、いろいろ用途はありますので、欲しがる人は多いでしょうね。

 もちろん、売り物にしてもいいでしょうが、たくさんの物を買って貰った人に、無料で包んで差し上げるという形にすると、評判も売り上げも上がると考えます。」


 「これは、うち独自の商品を作るという感じですね。値段のない商品で、ツーロ商会の名を売り、固定客を掴むという商売ですね。」


 「売り上げを圧迫しないようにする事が重要ですね、ですが、今は非常時ですので、行うのなら一気に素早くというのが望ましいと考えます。」


 「はい、出来ましたら、染め物と焼き物のオモチャは、アキラ殿に実際に指導して頂きたいのですが。」


 「そうですね。俺も専門家というわけでは無いんですが、ある程度は指導できると思います。それで、いつにしますか?」


 「今日と言いたいのですが、さすがにそう言うわけにも行きませんね。ですが、明日には、この都にある染物屋と焼き物屋に時間を作らせます。」


 「判りました。明日は、昼前からと言う事にしましょう。」


 「はい、それでお願いします。」


 ここで、密かにエイプリルにサンプルになるような試作品を作ってもらうように頼んだ。忘れないうちに言っておかないと、言うタイミングを逃しちゃいそうだからねぇ。なにしろ、これからの会話が一番重要かも知れないから。


 「では、販売促進用のオモチャの詳しい話は明日という事にして、クロアロンに関して知っている事を全て教えてください。」


 「あ、はい。とはいえ、わたし自身もあまり詳しい事は知りませんので、そこの所はご容赦ください。」


 「ええ、かまいません。なにしろ、俺なんかは始めてクロアロンという名前を聞いたぐらいですから。」


 そして、アルシンさんが語ってくれた事によると、

 クロアロンは個人の名前なのか、集団の名前かも判らず、全くの別人がクロアロンを名乗ったという噂もあるらしい。

 ここ、ルブロンダルの国だけではなく、シャシルやワズムルにも勢力を伸ばしているようだが、活動の内容が他の商人の名を語ったりしているので、どのくらいの人数かも把握が難しくなっている。

 主な活動は、勢力を伸ばしてきた商人や活動家を潰す事らしいが、その意図は不明で、その活動の利点さえ判らないままになっている。

 そして、ゲートの出来る前の時でさえ、広範囲で活動していた形跡があるという噂も存在した。


 「今わたしが知っているのはこんな所ですね。実際、わたしが攻撃されるとは夢にも思いませんでしたから、このような噂はあまり重要には思ってなかったのが、少し悔やまれます。ですので、クロアロンの事は、本格的に調べてみようと考えています。」


 「あ、出来たら、信用できる商人仲間から噂を聞くと言う所で留めてください。」


 「え? ですが、それだと、しっかりとした話が聞けませんが。」


 「これからアルシンさんは、クロアロンに対して反抗を行うわけです。その状態で、しかも秘密を暴こうと動いていると知られたら、命の危険も考えられます。情報収集活動は控えて、周りには信用の置ける人物のみにして、ポーションも肌身離さずに持ち歩くようにした方がいいですね。」


 「あ、そこまでするでしょうか?」


 「商売の上で競ってくるのであれば、向こうは身を引けば、自分の秘密が守られるわけですから、いつも安全圏にいるわけですよね。

 その秘密を暴こうという相手は、本当に危険な存在として排除する行動にでると考えられます。

 ですので、それは俺たちの方でやります。」


 「わかりました。とにかく、わたしの方は、店の印を作って広める事に専念します。」


 そして、明日という事で俺たちは店を出た。


 少し気になったので、ヘッドギアの通信機でメイを呼び出し、ルブロンダルの城の通信係にこれから会えるかどうか確認してもらった。


 結果は、直ぐに来て欲しいというものだった。


 実際、ルブロンダルの城へはフリーパスになってるけど、国王陛下と謁見するためには、やはり複雑な手続きが必要になる。毎度、毎度、気軽に予定を変更して貰って謁見というわけにはいかない。けど、毎回、会うのは非常事態なような気がするし、どこまで許されるかは実感が無くて判らないんだよねぇ。


 とりあえず、友達の家に遊びに行く感覚で訪ねるのはやめておこうと自重しているのが現状。


 それでも、直ぐに来いと言われたら、行かなくちゃならないんだよね。


 「と言うわけで、参上しました。」


 「なにが、と言う訳なのかは判らんが、ご苦労だった。」


 今回も、謁見の間ではなく、各大臣たちとの打ち合わせを行う会議室。しかも、ほぼ全員の大臣たちが揃っている。


 「まずは、街で起こっている不穏な動きというのを聞かせてもらおう。」


 まだ、俺も全貌を知ったわけではないが、という前置きを置いて、ポーションと薬草の値上げ工作から、アルシンさんの所の商いの妨害、信用取引の崩壊から来る物の値段の乱高下の発生、それが直接城の兵力の減退にまで影響する事を説明した。


 これも、一種の国盗りの攻撃手段であることを伝えると、実武力を束ねる騎士団の大臣が唸り声を上げた。武力ではなく、価格操作で国力を減らされるという戦争では、役に立たない訳だしね。


 「ですから、人が生きるために最低限必要な、塩、麦、薬は、その価格を国が管理して、他の物の値段を調べて、適正な価格を維持し続ける必要があります。その価格が適性でないと、国民の生活が荒れ、国が傾く事にもなる重要な仕事になると考えます。」


 「なるほど、確かに、城の薬草やポーションを、外に持ち出して、小遣い稼ぎをしているような輩も出ております。この状況が続けば、城は自らの兵士によって傾いてしまうでしょうな。」

 「確かに、塩の調達が滞れば、兵だけではなく街の人々全てに影響がでるのは必至でしょう。」

 「だが、どこがそれを行うのだ? 主計長の領分を大きく超えた権限になるぞ?」

 「確かに大きな権限だな。それに失敗すると、国力に大きく関わるとなると、下手な采配をするわけにも行かないぞ。」


 それぞれの大臣が、それぞれの立場で言いたい事を言い出した。


 まぁ、それぞれの言い分は、個別に聞くともっともなんだけど、どんどんまとまらない方向に行っているような感じがする。


 そして、しばらくは言わせたいようにしていた陛下が、トン、っと王笏で床を叩いた。


 「うむ、大臣たちの意見はもっともである。それで、アキラ殿は、どうする事が良いと考える?」


 うわ、まとめを丸投げしてきやがった。面倒なのは判るけどねぇ。


 「まず、国の住民が行う商取引の監督を行う部門の大臣職を用意して頂きたいと考えます。そこで、先ほどの塩、麦、そして薬関連の価格を決定、制限し、それ以外の物品の価格も調査、その情報をしっかりと記録に残す事を求めます。

 さらに、奴隷も含めて、その店で働く者が10名を超える場合は、国への登録を義務づける事を考えます。登録の際、通し番号でも付けて、国がその商人を保証するという確認できる番号にするわけです。

 もちろん、登録には登録料を徴収しますし、金属類の大量取引の禁止や、塩や薬の価格を厳密に守る事、それ以外の商取引でも、詐欺的な手法を使わない事、使用した分以外の返品を受け付ける事などの規則を守る事を宣誓してもらい、誓約書を残して貰うようにします。

 その代わりに、商取引に詳しい兵士による、問題解決や、不心得者に対する逮捕や護衛で登録した商人たちを守る事にします。

 商人が安心して商売できる環境を作る事によって、街は活発になり、人は増え、豊かになっていきます。それを、しっかりと管理できる国が、賢い国と言われるでしょう。」


 俺としてはまだ言い足りない事があるけど、一気に言っても、頭に入らないだろうから、ここで一旦息をついた。


 「いつもながら、アキラ殿の話は面白いな。

 今までは、兵士の力が国の力と言われてきた。だが、それでは国は育たず、ただ、目の前にある食い物を食い散らかしてきただけというのも、さんざん言われ続けてきた事だ。言われ続けてきたにもかかわらず、我らはそれを改める事が出来ないでいた。

 それは、どこへ向かえばいいかという、道が見えなかったせいでもある。

 だが、アキラ殿には、その道を照らし出して貰っているように感じる。

 確かに、その道が本当の正解である保証はない。しかし、我らには、大きく、進むべき道だと感じられる。

 アキラ殿、改めて礼を言わせて貰う。我らが良き友である事は、大きな幸だと感じる。ありがとう。」


 国王陛下の礼に、周りの大臣たちも頭を下げてきた。こ、これは、なんか恥ずかしい。ちょっと、居たたまれないよぉ。いつも通りのセリフでごまかすしかないね。


 「俺は、好き勝手な事を言っているだけです。実際に国を動かし、その幸を手に入れるのは、その役割を持った陛下であり、その臣下です。陛下の礼は、臣下の方々へのモノであるべきです。俺もまた、この国が強く、豊かで、幸のあふれる国になる事を期待しています。その姿を見る事が、俺にとっての大きな礼になると思っています。

 どうか、とても良き国の有り様を見せてください。」


 そこで、何となくまとめが出来たという感じになって、俺の役割は終わったようだ。あとは、大臣たちが、いつ終わるとも知れない会議で細かい事を決定していくんだろうな。


 兵士の1人に案内されて部屋を出て、帰る事にした。ケルス先生の様子も見たいから、さっさとファイターの所に戻りたいと思っていたが、案内された先は城の入り口横の小部屋だった。


 小部屋の中には、もう、お馴染みになった、金貨の詰まった宝箱。


 そうだった。ゲートの礼があったんだねぇ。


 金貨はおおよそ8千枚。細かくは数える気も起きない。ブラックドラゴンのカバンに入れて、ちょっとげんなり気味に城を出てファイターに向かった。


 俺たちが城を傾けさせないか心配だよ。


 そして、ファイターでさくさく移動。王都とケルス先生の居るケアイアの街だと、ファイターへの乗り降りの方が、移動時間よりもかかっている気がする。


 ジェイたちが乗ってきた小型輸送艇の近くに降りて、ファイターにはゲンブへ帰って貰った。


 ケアイアの街に入ったので、出来ればツーロ商会の偽物にも会ってみたいと思ったので、少しうろつく事にした。


 そして、中央広場で、薬草買い取りを行っている商人を見つけた。なんと、薬草1束、銀貨5枚で買い取るとか。それじゃポーションはいくらになるんだろう。少なくとも金貨1枚はする事になるね。それじゃ、一般人には手が出なくなるぞ。


 「そこらで、銀貨3枚でポーションを売っているのが居るから、それを買って持ってくれば、銀貨8枚で買ってやる。それだけで、銀貨5枚の儲けだぞ。」


 なんて言ってる。よし、潰そう。


 「失礼ですが、どちらの商人様ですか? 始めて見る顔ですねぇ。」


 ニコニコと営業スマイルで近づいていった。


 「わたしですか? わたしは、ツーロ商会と申しまして、いろいろ手広くやっている者です。薬草があれば高く買い取りますよ?」


 「ツーロ商会? ツーロ商会と言えば、ここら辺はアルシンさんの担当地域では無かったのですか?」


 「いえいえ、同じ場所でも、何人もで担当していますよ。」


 「そうですか。いえ、アルシンさんとちょっと大きな取引をしていましたので、気になって声をかけた次第です。そう言う事でしたら、アルシンさんとの取引は、アルシンさんとした方がいいですね。失礼しました。」


 会話を切り上げ、帰ろうとしたら、案の定呼び止められた。アルシンさんとの取引を潰そうとするんだろうな。


 「いえいえ、わたしはアルシンの上司になりますので、そういった取引も管理していますよ。それで、どういった取引でしたかな?」


 いきなり自爆ってくれた。若旦那の上司なんて、父親さんしか居ないのにねぇ。こいつはクロアロンか、似たような事をしている商人もどきだろうな。しっかり潰させて貰おう。


 「そうですか、芋を樽で80、新玉を樽で50の取引なんですが、約束の日取りまであと10日ありますので確認したくて声をかけたんですよ。さすがに金貨50枚の取引ですからね。こちらも慎重になりまして。いえ、10日後には確実に用意出来ますので、ご安心ください。」


 「ああ、その事ですか。大変申し訳ありません。実は、その取引は中止になったのです。アルシンは、その責任をとる事になって、店を辞めてしまいましてな。本当に申し訳ありませんが、その話は無かった事にして貰えませんか?」


 「はっはは、何をおっしゃるのか。中止という事は有り得ないと、仰っていましたよ? 直接の上司の方とも書状で確認して、もし、中止とあらば、約束事を違えたとして、金貨30枚を持ってこれに当たる、という書状まで用意してあったのに、ここで中止ですか?」


 「え? 金貨30枚?」


 「おや? 違うんですか? 金貨50枚の取引ですから、いきなり中止という事になったら、こちらも大きな損をしてしまいますから、ツーロ商会さんの方から提案された話だと思っていましたが?」


 「そ、そうでしたな。普段はそういう取引をしていないので、忘れていました。はい、金貨30枚は後で届けさせましょう。ですので、その取引のモノは、どこか、他の場所に売り渡して頂きたい。」


 「あ、あとで、って、本当に商人ですか? このご時世、後で金貨を渡すなんて約束が通用すると思っているんですか?

 おかしいですね。 本当にツーロ商会の方なんですか?」


 「も、もちろんツーロ商会の者ですよ。もちろん。」


 「ルブロンダルの?」


 「え、ええ、ルブロンダルのツーロ商会です。」


 「中央商業区にある?」


 「はい。ルブロンダルの中央商業区にある、ツーロ商会です。」


 「で? 金貨50枚の取引で行くんですか? それとも中止するんですか?」


 「金貨30枚。この場でお支払いしましょう。」


 「はぁ。まさか、この約束が本当に行われるとは、思っても見ませんでした。大きな取引だったんですけどねぇ。」


 「物は有るわけですし、他に売り渡せばいいだけですよ。」


 「ほとんど強引にかき集めてきたのに、今更どうしろと言うんですか。もともとあった取引相手との縁を切ってまで集めたんですよ。もう、誰も俺を信じてくれませんよ。いったいどうしたら。これもあなた方ツーロ商会のせいですからね。」


 「判っております。すぐに新たな取引を持って、優遇させて頂きますよ。」


 「では、金貨30枚を。これで、どこまで立て直せるか。」


 「はい。では、ご確認ください。」


 そして、3つの小袋から出された金貨をじっくり数えて受け取った。


 「じゃあ、今ある芋をどうにかすることにします。」


 そう言って、肩を落としてその場を離れた。少し離れた家の陰から広場の様子を伺う。


 「まさか、こんなに上手くいくとは思わなかったよ。」


 横でレイミーも頷いてる。


 「後は、あれがどこの誰で、他には誰と接触するか確認するだけだね。金をかなりむしり取ったから、資金調達に動くとかも考えられるか。エイプリル、インセクターで追跡をお願い。」


 『了解しました。』


 下手な尾行するより、エイプリルに任せた方がいい結果がでるのは目に見えている、ってことで、俺たちはケルス先生の家に行く事にした。


 エイプリルの記録映像で金貨30枚をむしり取った件を見て、ジェイたちは大笑いをしていた。


 笑いすぎでしょう。


 「はっはー、偽物とはねぇ。商人も商いが上手くいくと叩かれるモノなんだねぇ。」


 ケルス先生にとっては、ここの所のストレスが一気に発散できたって感じだ。通信で会話していた時の険しさが無くなっている。


 「それでジェイ? 薬草はどのくらい集まったのかな?」


 「だいたい、ポーション150個分ですね。ここに50個分、西の医者と薬師の所に50個分ずつ渡してきました。ガジェットさんの作ったプランターは別の場所に置いてありますが、ポーション100個分はあります。」


 「けっこう収穫してきたね。それだけあれば、国王陛下の方からの通達が間に合うかな。」


 「薬の値段を国に管理して貰おうなんざ、良く出来たモノだねぇ。」


 「国の兵士も、ポーションが無ければ門の外に出るのが怖い訳ですしね。国にとっても、高すぎる薬は迷惑ってことです。」


 「そりゃそうだ。」


 それから一度小型輸送艇まで戻り、レトルトとメイの料理を持って、久しぶりにケルス先生たちと夕食を一緒にした。




 翌日は皆でゾロゾロとアルシンさんの元へ。染物やオモチャというのを見てみたいそうだ。


 まず、昨日の取引の様子を見てもらい、しっかりと尾行を続けていると安心して貰おうとしたが、それよりも、契約の保証金の方に感心が高かったようだ。


 昨日の戦利品の金貨30枚は、アルシンさんに渡した。もともと、アルシンさんの被害だしね。


 ちなみに、昨日のゲートの礼は、皆と相談の上、1人、金貨千枚ずつ渡してある。残りは俺たちの拠点用。


 で、早速、エイプリルの作った染め物用の型枠を持って染物屋に。


 染める布をピンと張って、木で出来た枠を上下から合わせると、ツーロ商会のブランドマーク部分だけが見える状態になる。そこに、コンロで暖めて溶かしたロウを刷毛で塗って、冷めたら枠を外して次の場所へ。

 そして、それをいつものように染めて貰い、出来たらいつものように洗ってくれと言っておいた。


 それまでは時間がかかるので、壺を作っている焼き物屋へ。


 こちらもエイプリルが用意した、王様、姫様、騎士、槍兵、ドラゴン、ヒュドラ、ヘルハウンド、サイクロプスの、8つの木型を渡した。


 そこに薄く油を塗ってから粘土を押しつけ、その背中にツーロ商会の文字の入った木枠を押しつけて名前を入れ、出来た粘土を楊枝のような棒で裏から刺してほじくり出す。


それを繰り返し作業してもらって、ある程度出来上がった所で、まとめて焼いて貰う。


 枠からほじくり出した粘土の人形を見ただけで、アルシンさんを始め、まわりの男たちはニヤニヤとしてた。けっこう皆の喰い付きがいいようだ。


 「これは、一通り欲しくなりますねぇ。」


 「王様やモンスターは1つでいいかも知れませんが、騎士や槍兵はたくさんあった方が迫力あるかも知れませんね。」


 「おお、確かに。」


 今度は焼き上がるのに時間がかかるという事で、再び染物屋に。


 ちょうど、1度目の染色が終わった所で、試しにと言う事で1枚だけ、その場で洗って貰った。


 結果は成功。


 染めが煮込むタイプじゃないので、しっかり下地の色が残っていた。そこにツーロ商会の印を見て、アルシンさんは感動してたようだ。


 これで、どんな服を作るのかという話が出たが、俺からエプロンスタイルを提案した。


 胸の所から腰まである前掛けで、胸の所と腰の所に大きなポケットを作って、そこにしっかりと印が来るように縫いつけるというアイデア。


 大きめに作ればサイズも関係なく使えるし、なによりも簡単に作れるということで直ぐに採用された。ポケットは小銭を入れておけば釣り銭の対応も簡単になるし、防衛の為の武器を隠し持っていても気付かれないという利点もある。


 余裕が出来たら、もっと丈夫な布地で、と言っておいたが、今は早急に広めるべきなので、一応これで良しとなった。


 アルシンさんに、そろばんをプレゼントしようかという気持ちが沸々と沸いてくる。あと必要なのは、すててこパンツだろうか?


 エイプリルは大、中、小の焼き印も用意していたので、これはアルシンさんの所で実験する事にした。


 コンロを最大出力にして、焼き印を赤くなるまで熱し、酒樽、木箱、麻布の袋、羊皮紙に押しまくった。


 羊皮紙や麻の袋には一瞬で、木に焼き付ける時はしっかり長時間。という加減が必要だったけど、なんとかこれも成功。ただの麻の袋が、ブランド品に変わった。


 それを見て、はしゃぎまくっているアルシンさん。まるでオモチャを与えられた子供のようだ。自分の店のオリジナルグッズが出来て、ちょっとした誇りでも感じているようにも見える。


 火の取り扱いや、盗まれないようにという、今更ながらの注意をして、あとは頑張れと言う事でツーロ商会を後にした。

 アルシンさんには言わなかったけど、あの偽商人を締め上げるつもりだ。


 ルブロンダルの街にある仕立て屋で、4人分のフードのあるマントを作ってもらう。ガジェットには留守番して貰うという事で無し。

 エイプリルにファイター搭乗者がかぶるヘルメットを出して貰い、その上からフードをかぶって身元をわからせないようにしようというつもり。


 たぶん、かなりのホラーになると思う。


 使い捨てにするつもりで、適当な剣も4本買った。俺たちの独特の武器や魔法を使うわけにもいかないからね。


 拘束用のロープや大きな麻袋など、全ての用意をルブロンダルの王都で済ませ、ケアイアの街へ移動。


 問題の商人は、別の仲間と合流してケアイアから隣の街への街道を歩いている。


 「エイプリル、少し先行した位置に俺たちを下ろしてくれ。」


 『了解しました。』


 「グラウ? 敵に秘密を話させるとか、話した内容が嘘か、本当かって調べる魔法とかはないかな?」


 「あるぞ。精神魔法で、相手を意のままに操ったり、相手の記憶そのものを入れ替えたり、消し去ったりも出来るぞ。」


 「そ、それは禁術とかいう話じゃないの?」


 「良くわかったのぉ。そのとおり、使えば破門されたり、魔法を使えないようにされたりする禁術じゃ。使ってみるかのぉ?」


 「禁術を使った事を責められるとかは問題ないけど、使ったら自分の気分が悪くなる気がするから、嘘か本当かだけが判るのを教えて。」


 「ほっほほ。ずいぶん欲が無いのぉ。」


 そして呪文を教えて貰って、試しに唱えてみた。これも俺だけが使えて、他の皆には適性が無かった。念のためガジェットやメイにも唱えて貰ったが、起動しなかった。


 「おぬしは、ずいぶんと、適性を持っておるようじゃの。全く不思議なもんじゃ。」


 「まぁ、それはどうでもいいけど、後で、魔法を使えなくするとかの方法も教えて。」


 「いろいろあるぞ?」


 「うん。いろいろ有って欲しいんだ。

 じゃ、グラウやスザク、リュウ、ライもここで留守番しておいて。」


 そしてヘルメットをかぶって森の中に出た。少し離れた街道に、件の商人が通りかかるはずだ。


 フードをかぶって待ちかまえる。

 ファイター用のヘルメットは、外からの見た目はゴチャゴチャしているけど、中から見た感じでは、ヘルメットをかぶっていないように感じるぐらい、広い視野が内部モニターに映し出されている。目の焦点も通常状態に合わされ、明るく光量も調節されている。


 暗くなり始めた森の中なのに、ほとんど影を気にする必要もない。おそらく、真夜中でも明るいまま見えるんだろうな。


 そして、直ぐに偽商人が歩いてくるのが見えた。フードを深くかぶり、顔が見えないようにして偽商人の前に出る。


 剣を抜き偽商人の前に突き出して、悲鳴を上げて脅える男2人を森の中に誘導する。


 なんか素直に従い過ぎてるなぁ。なんでだろ? なんか企んでる? そう思っていたら、レイミーが無言で自分のフードをつまんでから俺を指さした。


 あ、勢いよく飛び出したからフードがめくれてた。昆虫人間に近い頭を見て、脅えてたんだねぇ。


 まぁいいや。


 脅えてくれているのなら都合がいいね。さらに森の奥にまで歩かせて、街道からは気づけない位置にまで移動させた。


 もう、ここら辺でいいだろう、と言う場所で、剣を左手に持ち替えて、右手で思い切り殴り倒した。すぐにもう一人も。


 倒れた所で、両足を縛り、右腕だけを縛って、木の上の方から吊り上げる格好にさせた。左腕は自由に動かせる。


 そして、嘘発見魔法を唱えて、1人の頭の上に小さな白い光を浮かび上がらせた。


 ヘルメットの外部スピーカーにボイスエフェクトをかけて貰い、変音させた声で偽商人に語りかける。


 「オレのコトバがわかるか?」


 気分は、ワレワレハウチュウジンダ。扇風機エフェクトというのは、エイプリルには通じなかったのが悲しい。


 偽商人はコクコクと頷いて返してきた。


 「おマエはオトコか?」


 さらにコクコクと頷く。


 「コトバにしてイってみろ。」


 「わ、わたしは男だ。」


 「おマエのアタマの上のヒカリはナニイロだ?」


 「え? 白い、が?」


 「おマエ、わたしはオンナだ、とイってみろ。」


 「? わ、わたしは女だ。」


 すると、頭の上の光が赤く変わった。そして、ゆっくり白に戻っていく。


 「これは、おマエがウソをつくとアカくなるとイうモノだ。そして、」


 俺は王都で適当に買った剣を振り上げ、偽商人の太ももを突き刺した。


 「うわああぁぁぁぁぁ!」


 「オレは、このヒカリがアカくなるたびに、おマエをツきサす。」


 「そんな、言わせておいて。」


 「ヒカリをアカくしなければいい。」


 「ひぃぃぃ。」


 そこで、この2人が持っていた荷物を漁り、中からポーションを放り出す。


 「これはおマエたちのモノだな。スきなだけツカっていいぞ。」


 左手は自由になるから、急いでポーションを掴んで一気に飲み干した。とたんに太ももの傷が癒えていく。


 もう一人の方の男が、その事に疑問を持った。


 「な、なぜ、ポーションを使わせるんだ? 何を考えている?」


 「シツモンはまだまだツヅく。その、キズをナオしてしまうドウグと、おマエたちがウソをつくカイスウは、どっちがオオいだろうな。」


 「あっ。」「うぅ。」


 これで、無駄に嘘をつく事も少なくて済むだろうね。面倒は嫌いだよ。


 「コタえろ。おマエたちのソシキのナは?」


 「………。」


 答えなかったので、もう一人の方の男の足を、剣で突き刺した。思いっきり。


 「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 叫んで半泣きになっていた男は、ほぼ貫通していた剣を引き抜くと、急いでポーションを飲み干した。


 「おマエたちのソシキのナは?」


 また、元の男の方に質問を繰り返す。今、足を突き刺された男が、恨みがましい目でこちらの男を見ている。


 「………。」


 迷っている風だったが、直ぐに答えなかったので、また、隣の男の足を突き刺した。


 今回は少し我慢したようだったが、直ぐにポーションに手を伸ばして飲み干した。


 「キズをナオすドウグが、ヘったな。」


 このオレのセリフに、ようやく気付いたようだ。2人とも青い顔をしている。


 「コタえろ。」


 また、元の男に聞く。今度は無言で済ませようとはしないみたいだ。


 「ま、待て、わたしたちは、組織という訳じゃ無いんだ。」


 その時点で光が赤く灯った。すかさず、嘘を言った男の足を貫く。ポーションは握っているけど、直ぐには飲まない。これからもまだ嘘をつくつもりのようだ。


 「コタえろ。」


 冷徹に、なんの感情も入れずに質問する。こっちの方がビビってるなんてのは、知られちゃマズイよねぇ。


 で、今度は答えない。というか、そろそろ出てきた痛みに耐えていて声が出せないって感じかな。


 答えなかったので、隣の男の足を貫く。


 「ぐわぁぁぁ!」


 こっちの男は、簡単にポーションを飲んで治癒させた。それを見たこっちの男がポーションの残りを見て、慌てて手の中のポーションを飲み込む。


 ポーションの残りは3つ。さぁ? どういう引き算をするのかな?


 「コタえろ。」


 「わ、わたしたちの組織は、クロアロンと言われている。」


 光は白いまま。嘘はついてないね。


 「クロアロン? ヘンなナマエだ。だが、ウソではないようだ。」


 クロアロンという名前さえ、今、始めて聞いたという感じにしておく。向こうがこちらを特定出来ないように、少しずつ偽情報を教えて、こいつらの組織を混乱させないとねぇ。


 「コタえろ、そのソシキはナニをモクテキにしている?」


 名前の次は、組織の目的という本命情報。組織の名前だけで済むわけ無いよね。


 「そ、それは。」


 言い淀んだんで、隣の男の足を串刺し。

 そしてポーションが1つ減った。


 「コタえろ。」


 「よ、よく判らないんだ。わたしたちは言われたとおりに動いているだけなんだ。」


 頭上の光を指して、赤く光る嘘の印を見せる。そして、足を串刺し。


 ポーションは残り1つになった。2人は、手を伸ばして自分がポーションを確保するかで迷っているようだ。


 「コタえろ。」


 「わ、わかった。組織の目的は、邪魔な商人を働けないようにして、その利益を横取りすることだ。」


 その後は、比較的簡単にしゃべるようになった。


 それによると、まず、相手の店に従業員として仲間を潜り込ませ、組織の弱点をさぐり、頭の切れる者を排除してから、店の主人を殺して、組織そのものを引き継ぐというものだった。


 かなり回りくどいし、稼げる金も大したことないはずだと聞いたけど、トップのクロアロンの指示はそれでいいと言う事だった。


 完全にその店の利益を奪い取るのが目的ではなく、店の権利を奪い取って、それを二束三文で売り払う事が目的のようだと感じているらしい。そこら辺は、部下であるこいつらも、真意を測りかねている所だそうだ。


 でも、目的の店を潰した時の報酬として受け取る金額がいいので、美味しい仕事としてやってきたと言っていた。


 「イマ、ツブそうとネラっているのは、どこのミセなんだ?」


 「ルブロンダルのツーロ商会だ。」


 「そのミセにセンニュウして、コロしのキカイをウカガっているジンブツのナとトクチョウは?」


 「ホダルという名で、細身の男だ。特徴はアゴの下に小さなひっかき傷がいくつかあって、それをいつも気にしてる。それから、ーー」


 良く聞いてみると、俺たちを店の中で案内してくれた男だった。あの男が潜入工作員だったのかぁ。


 そして、次は今までの罪状を吐いて貰うことにした。余り古い話だと、ぼんやりとしか覚えていないとか言っていたけど、その言葉に嘘の反応は出なかった。


 そして、2つ前の仕事にレイミーが反応した。


 ワズムルの商家に潜入して、商売を妨害、適当な所で主人を殺して、婦人と娘を奴隷としてルブロンダルで売り払って、家を燃やしたということだった。あまり実入りが無かったので美味しい仕事じゃなかったそうだ。

 しかも、わざわざワズムルのグイイトと言う大臣と繋ぎをとって、そうとう裏金を使ったらしい。


 その仕事で、なにか懸念を残していないかと聞いた所、下の娘が出かけていて、奴隷に売り払う人数が減った事ぐらいだと言っていた。


 最後に、クロアロンを動かしているクロアロン自身がどこにいるかと聞いた所、ワズムルのグイイトと共謀して、片手間にグイイトの仕事が上手くいくようにもしているので、そこら辺にいるだろう、と言う事だった。


 もう、これ以上会話もしたくなかったので、2人の間に落ちていたポーションを拾い上げ、その場にこぼして捨て、2人の縛っていたロープを切って解いた。


 そして、隠し持っていた超振動ブレードを取り出し、超振動モードで、少しだけ安心の顔を見せた2人の両足を、一気に切り落とした。


 2人の悲鳴が響く中、俺は震えているレイミーの肩を掴んでその場を後にした。

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