第三十三章 晃と敵 ゲート
第三十三章 晃と敵 ゲート
ガッスの街は異様な熱気に包まれていた。
デルデの街から11匹のモンスターが次々に運び込まれ、親方の兵が50を超えるモンスター軍団を壊滅させたという話で盛り上がっていた。
レギオンコングやファングキャットなどは、討伐はされた事はあるものの、捕獲された事は無く、ひと目生きている状態を見てみたいという野次馬が、他の街からも押し寄せていた。
人が押し寄せれば、宿屋や飲食店などは活気づく。
競技会は3週間ほど先なのに、賑やかさは競技会中の様相だと軽食屋の旦那も言っていた。俺も関わった、あの妊婦もすでに働いており、店と赤ん坊の所を往復しながらやり繰りしているらしい。たくましいねぇ。
おかげで俺たちがゆっくり出来る場所もなくなり、ガッスの街からは離れた所に小型輸送艇を降ろして、ポーション製作装置用の水晶を作る作業に没頭した。
これから、一気に必要になりそうなので、30器分の水晶を作っておく事にする。
いざという時の魔力補給用のアイテムになることも判ったので、もう少し効率良く出来ないかの研究も始めた。
結果は失敗。
込めた魔法力の半分以下の吸収しか出来なかった。一般化して売り物にするにはコスト的にも効果的にも役に立つ物じゃなかった。
もともと、精霊に手伝ってもらわないと吸収できないってところで、破綻してた技術だしね。
なら、俺たち専用で、ってのも、俺の全体回復と同じで、精霊を出して、落ち着いた状態でやらなければならないってのと、一々水晶を破損させるようなやり方にも問題もあった。
傷を付けた水晶はエイプリルに削り直しを頼んでいるけど、基本、鉄よりも固い水晶を削り直すというのも手間のかかる作業だ。
要点としては、水晶のように魔法力を利用できなくてもかまわないから、水晶よりも魔法力を蓄えて置ける物質を探す事。
もしくは、魔法力を発生させる物を探す事。これには、合成により発生させる事が出来る物も含まれる。
人がこれを吸収出来る仕組みを確立する事。
という課題がはっきりした。
つまり、全然進展してないってこともはっきりしちゃった。
そして、うだうだと魔法の理屈を解明しようと言う無駄な努力の果てに、親方との約束の日になった。
「何も判らなかった。」
一生懸命考えているのに、全く進展しないってのは、滅茶苦茶疲れるねぇ。
消沈した気持ちのまま、捕獲牢の対面にある親方の詰め所に入る。
「おう。なんだ? 黒くねえじゃねえか。」
そう言えば、伝言とかで済ませていたから、装備を換えてから会うのは初めてだったかな。
「砂漠で戦うためにこれに着替えてたんで。」
「砂漠用か。なるほど。状況に合わせて装備をきっちり変えるってことも出来るってわけだな。」
いろいろ含んだ物言いだけど、なんかどうでもいいや。
そして、親方の娘に案内されて、街の北にある領主の館に連れて行ってもらう。
屋敷は先代の領主が使っていた物で、親方の趣味では無いけど、公的行事のために仕方なく維持しているそうだ。
いざという時に、国王陛下の接待をしたり、街の兵隊を駐屯させたり、税の接収のためだとか、街の一軒家ではとても賄えない事も多いらしい。
屋敷の中の、かつて魔法使いが使っていたという部屋に案内された。
部屋の中には、大きな壺に入った出来損ないの標本や、モンスターの骨を組み上げた骨格標本、何の為の物か判らない実験器具、そして大量の本が、小さめの本棚に、小分けされて置かれていた。
壁一面の本棚ってのを期待してたけど、そういうのは領主以上じゃないと持って無い物なんだそうだ。もともと、本自体が希少だからねぇ。
実験器具なんてパフォーマンスのはずと諦めて、早速本棚から調べ始める。でも、一応何があるか判らないから、ジェイとレイミーには本以外を調べてもらうように頼んだ。
一辺80センチ程度の真四角の箱を本棚代わりにして、その箱がいくつも積み上がっている。中には1箱だけテーブルの上に乗っかっていたり、裏返して取り出すのが難しくしてあるのもあった。
手がかりは何でもいいから必要ってことで、片端からしらみつぶしと言うぐらい、細かく読んでいく。
そして、始めに手にした本は、絵本だった。
どこかに魔法のヒントが? とも思ったけど、最後まで具体的な魔法も得てこない英雄譚だった。
1冊ぐらいでめげるな、俺!
2冊目は、1冊目の横に並んでいたハードカバーで、角に金属で補強が入っている。これは、期待できそうだ。
読んでいくと、ある貴族の奥方の話で、別の貴族の男と裏庭の東屋で………。
ただのエロ本だった。
親方に教えてあげよう。
気を取り直して3冊目。
明けの空の清らかな色合い、葉からこぼれ落ちる朝露がごとき瑞々しさ、君の美しさはたとえようもなく僕を惑わし、君だけが僕を潤す。
好きな女に宛てる詩の見本だって。これを参考に詩を書いて、好きな女を落とせって………。
がっくり来ているけど、4冊目。
西の夕日が空を覆い、雲が細かく飛んだ日に植えた麦が、豊作を迎えた。
朝焼けが3日続いた後に植えた豆は、不作となり、洪水が発生した。
どうやら、豊作になる日を選ぶための知恵袋的な本らしい。しかも、迷信レベル。
たった4冊で帰りたくなってきた。諦めて試合終了にしていいですか? 先生!
心にムチを入れて、なんとか本を調べていく。ファイエーと一緒に、8割から9割ほど消化したところで、ファイエーが何か見つけたようだ。
「アキラ~。これぇ、読めません~。」
え? ようやく当たりかな? ファイエーの持っている本をのぞき込んで読んでみる。俺には普通に読めるけど、ファイエーには読めないみたいだ。
そうか、この手があった。皆に片っ端からめくってもらって、読めないのを一気にチョイスしてもらうって方法があったんだねぇ。まぁ、この方法だと、翻訳されている物を見過ごしちゃうから、後で同じように1冊ずつチェックするのは変わりないけどね。
で、本を借りて読んでみる。本自体は同じぐらいの大きさの紙を糸で縫ったというだけの、紙の束という感じだったが、特に傷んだ様子はなかった。
全然読めないから、放って置かれたようだ。おかげで、変な落書きもないし、元の文字がそのまま読める。
内容は、大当たりの空間転移魔法!
呪文形式で発動させるタイプや、地面に文様を描いて、魔法力を通す事で起動させる[道具化]についての説明もある。
えっと、こういう場合って、ヒャッホー! って飛び上がればいいんだっけ?
俺たちにとってはたいした意味は無いけど、街と街とをこの空間転移魔法で結んで、いわゆるゲートを作ってやれば、物流や人材の移動も大きく改善する。人と情報の移動は、より多くの情報を作り出す。それは知恵となり、技術となり、人を賢くしていく。それは人の力の大きな土台になる。
人が強くなる。
これはとても大事な魔法だ。本来ならば、道を整備し、鉄道でも造ってやれば出来る事だけど、モンスターの脅威があるからそれもままならない。その脅威を無視できるこの魔法は、人にとっては大きな礎になるはず。
でも、なぜ、こんなに必要度が高く、便利な魔法が埋もれてたんだろう?
本には、この魔法により、国の戦争が大きく変わり、この魔法を持っているだけで人の世の覇王になる事が可能だとかが書いてあった。
もしかして、出し惜しみしちゃって、忘れ去られたとか?
人がこの世界の覇王になるとかならまだしも、人の世だけの覇王ってのも小さな話だねぇ。それを狙いつつ、その魔法の価値を高めるために出し惜しみしてて、世に出すタイミングを失ったとかだと、どんだけ間抜けな話なんだろう。
きっと、この本を書いた人は、自力で空間転移魔法を作ったわけじゃなく、過去の文献から探し出したとかいうタイプに見える。まぁ、俺の勝手な解釈だけどね。
とにかく、この魔法を試して、実用性を確認しないと。
魔法は、目印とした文様の場所に移動するという形式を取るようだ。
つまり、ゲートとして作った場合、移動先が固定で、どの場所にも自由にというわけにもいかない。設定した2点間のみの移動。しかも、受け用、送り用に別れている。
簡単に言うと、2カ所を結ぶゲートでも、それぞれ2つずつ、計4つのゲートシステムが必要になる。これは、受け用と送り用がかち合う事を防ぐためには良いかも知れない。
そして、一番の問題は、起動に必要な魔法力が一般人の4人分。場合によっては5人分は必要になるらしい。安定的動作のためには8人で円陣組んで行うのが理想だとか書かれていた。
「魔法力をぉ込めたぁ水晶でぇ、代用出来るとぉ思いますぅ。」
とりあえずの意見としてファイエーが言ってきた。
空間魔法の属性ってのがはっきり判れば、数が少なくても行けるかも。
で、さっそく、目印用の文様を作って、呪文での起動を試してみよう、と言う事になった。
場所は領主の館の庭。まずは俺一人で、庭の片隅に本に書いてあった文様を刻み、反対側の隅に位置して、文様を思い浮かべながら呪文を詠唱した。
唱えてみた感じではっきりしたのは、文様は設置した位置を思い出すための記憶のスイッチで、本当に覚えておかなければならないのは、その場所そのものだった。位置を知らないで文様だけを覚えていたら、どこに移動するかわかったものじゃない。次元の狭間なんて事にもなりかねない。
そして、ごっそりと魔法力を削り取られたけれども、見事、空間移動が完了した。
空間魔法は、他の魔法とは仕組みも、呪文形式も違っている。これも全員で試して、適性があるかどうか調べないとならないようだ。
俺が感じた注意点を説明してから、一人ずつ魔法を試していった。
興味本位でのぞき見に来ていた親方の娘もやってみたが、魔法力が足りなかったのか起動しないで、魔法力だけを失って目を回していた。
他の3人はなんとか起動に成功。だけど、ほとんど立てない程に魔法力を失ってしまった。
親方の娘を中心に置いて、俺の全体回復を実行する。
かなり、効率が悪い魔法で、実は1人で起動させている事自体がとんでもない事ってのは、しっかり説明しておいた。
それでも、一人で出来るぐらいに魔法効率を高める必要はありそうだけどね。
それからは、俺一人が魔法を発動させて、一緒にいる数人を連れて移動できるか、と言う実験や、どのくらいの範囲で効果があるのか、または無くなるのか、地面に生えている樹木を握っていた場合は? などなど、事前に確認する事は多くあった。
そして、呪文として起動させる場合は、効果範囲をシャボン玉のように設定できる事、地面と靴の裏という曖昧な境界線も、意識の中の常識が自動で補ってくれる事、移動そのものはゼロ距離のトンネルを抜けるようなモノだということが判った。
一応安全には考慮された造りにはなっているようだ。呪文として唱えるのは消費魔力量が
とんでもないから、ほとんどは道具化されたモノでの簡易ゲート的な感じで使うしか無いかも知れない。出来れば、呪文半分、道具半分とかで起動出来れば使い道も多くなりそうなんだよね。
「と、いうことで、ファイエー、頑張ってね。」
俺の言葉で、変なポーズで固まった。きっと、やる気を出して頑張ってくれるってことだよね。
他にも本当の魔法に関した文献が無いか調べてみるが、意味不明な文字の羅列か、実行不可能な呪文もどきを書き殴った、パトロンを騙すための詐欺文献ばかりだった。
まぁ、こういうのは、ルブロンダルやシャシルの魔法師団の所で、しっかり経験済みだったから特にがっかり来る事も無かったけどね。でも、エロ本の占有率は高いと思う。全部で35冊。1カ所にまとめて、タグでも打っておこう。あと、絵本も多かったから、印刷して作る本用にもらっておこうかなとも思った。
次に取りかかるのは道具化した状態での実地の検証。エイプリルに理想モデルを作り上げてもらい、それを実際に置いて使用してみる方向でやる事にした。
テストケースとしては、親方の所で見つけたモノだから、親方の所で行うのが筋かな。
捕獲牢の詰め所に居る親方の所に向かい、ガッスとエンデ伯の領主の街とを結ぶゲートの設置許可をもらいに行く。
親方の言う事には、ガッスの街と王都とを結んで欲しかったけど、まだ、実証試験中ということでテストに協力してくれと言って納得してもらった。
実は、テスト段階で「国」の思惑が絡むのがイヤだっただけなんだけどね。
親方の所から通信機でエンデ伯にも連絡をとり、エンデ伯の領主街、バルカに置く事を了承してもらった。
大きさは、大型の馬車が馬ごと入れ、馬車に山積みした荷物を取りこぼすことなく移動出来る物。装置そのものは自然石を配置しておいても形成できるが、念のために自然石を四角い石柱に加工し、シンボルを乗せる事で物としての区別化を計る。
具体的には、石柱の上にコインを大きくしたような石の円形プレートを置き、そこにしっかりと、ガッスという文字を彫り込んでおく。対になる方にはバルカと彫り込んでおき、利用者の意識も、これはガッスからバルカへの移動ゲートだという意識を持ってもらい、ゲート自体の安定化を図ろうという仕組みだ。
科学的には何の根拠もない、眉唾物の理屈なんだけど、魔法にはそういう外堀から埋める集団意識というのも必要なんだそうだ。
そして、土台となる石の台座に、術の文様を彫り込んでいき、そこに溶かした銀を流し込んで魔法陣を作っていく。さらに、一番外側の円周を8等分し、8個の魔力水晶を配置した。
水晶は盗難防止の観点から、ほとんど埋め込んで、外からは判らないようにしてある。
起動に関しては、スイッチを入れるだけという、ファイエーが考えた文様はめ込み方式を使い、一度はめ込んで起動させると、バネが一定時間戻らないようにして、短時間での連続起動をさせない仕組みにした。
そして、送り出し用、受け入れ用をそれぞれ2つずつ作り、ガッスの街の、領主の館から街中央部へ向かう道の脇に1組みを設置。同じようにバルカの街の、東にある広場にもう1組みを設置した。
ゲートの起動準備が完了した。
ルーノス、エンデの両伯爵の見守る中、お互いに通信機で連絡をとりながら、双方から同時に何かを送る事にした。送る物は内緒にして、到着したらそれを開け、中身を確かめ合うという事で安全性を確認するという作業を公開する。まぁ、利用者に向けたパフォーマンスだね。
特に商人が多く見物に訪れている中、ガッスの街の転送ゲートに、バルカの街から何かが届いた。
届いたのは、馬がついた馬車と、その荷物。荷物は生きたままのイノシシと、酒樽だった。生き物を何の問題もなく転移させられたという実証を作ったわけだ。
そして、ガッスからバルカへは、なんと、親方の娘が一人でゲートを利用して転移した。
向こうに着いた直後に、挨拶をして周りの度肝を抜いた後、エンデ伯を引っ張ってガッスの街に転移させてしまったという予定外の行動に出た。
領主の娘が、と言う所も大きかったのだろう。それで一気に安心感が生まれたようで、次々にゲートを試す者が現れた。さらに、これがどの程度配備されるのかとか、大きさはこれがいっぱいなのかとか、どういった基準で運用されるのか、などの質問まで飛び出した。
質問には親方が答えるかと思ったけど、公の場で俺に振ってきた。仕方ないね。
「これは、あくまで試験運用中の物です。ですので、今は無料で使えますが試験期間が終われば、歩哨を立てるための人件費や、修繕費を目的にした費用の回収もありますので、1回の転移でいくらかの利用料の支払いを求める事になります。
ですが、隣の町に馬車で行くよりも安い料金を考えています。
現在は、ガッスとバルカの間だけですが、将来的には各領地の領主の街と、王都にこのゲートを置くつもりです。
理想を言えば、それぞれの街に置きたいのですが、現状としてはあくまで理想です。このゲートを利用する人たちの意識や、各領地の領主の意識、そして国王陛下の意向により、それが実現するかどうかが決まるでしょう。
本来なら馬車で3日以上かかる距離を、一瞬で移動してしまう魔法の道具です。それがどれほどの力を有するのかよく考えてください。扱いようによっては人を簡単に殺せる程の力を持っている事は明白です。きちんとした使い方をすれば怖がる必要は全くありませんが、そうでなければ、どうなるか判らないと言う事はしっかり覚えていてください。
では、賢くゲートを活用して、便利に、そして豊かになるように、使ってください。」
これで、言っておくべき事は言ったかな。
そして、2つの街を、隣の町よりも近くにしたという記念の祭りが始まった。
要は宴会。
バルカの街の関係者もガッスに呼び寄せ、エンデ伯の送ってきた酒樽を開けて、皆で飲み回した。
いつの間にか煮炊きも始まり、エンデ伯のイノシシも捌かれて簡易バーベキュー大会になっていった。そこで、俺が胡椒を取り出し、焼いた肉に塩胡椒をして振る舞ったら、いつの間にか料理人にされ、食う暇も無く、ひたすら胡椒を砕き、塩と一緒に肉に振りかけ、酒に漬け、焼き串に突き刺すという作業に忙殺された。
煮炊きにかり出された女たちも、初めはいつも通りの、血に漬け込んだ肉を焼いていくとか、香草をすりつぶして肉に擦り込んでいくと言う作業をしていたけど、俺から胡椒の粒の入った袋を受け取った後は、俺の作業を見よう見まねで行い、かなりの量をつまみ食いしながら肉を焼いていった。
胡椒で味付けした肉は、この世界の住人にとっては、美味いんだけど、ちょっと辛いモノらしい。でも、それが酒を勧めるので、どんどん飲めるし、どんどん食えるってことになるようだ。
結局、エンデ伯のイノシシだけでは足りず、ルーノス親方の財布からもイノシシが振る舞われ、
最後の片づけが終わったのは、夜もしっかり暮れてからになった。
細かい事は、あと、あと。
そう言って自分の屋敷に帰っていく両領主の後ろ姿を見送って、先行きにちょっと不安を感じたのは、俺だけじゃないと思いたい。
次の日、ルーノス親方の屋敷で、今後の展開を話し合う。
ガッスの街でも、バルカの街でも、ゲートには歩哨を置く事になり、それらを領主の管理で行い、どうせなら領主の所有物にするか、それとも、俺から領主がレンタルする形式にするかで議論になった。
領主の独占にして、一般利用が制限されるのは問題だけど、俺からのレンタルでもそれが行われるだろう。ならば、独占しない契約なりを結ぶべきとの意見も出たが、俺は全ての提案を却下して、実費プラス手間賃程度の金額での買い取りを申し出た。
なにしろ、設計図から作り方の手引きまで、全部公開するつもりだから、約束しないなら売りませんよ、なんて事も出来ないしね。
もし、領主の1人が独占を考えても、設計図は公開されているのだから、別の場所に別のゲートを作ってしまえば良いだけの話になってしまう。人は便利な方へ流れるしね。独占する旨味自体を無くしてしまえばいい。
城の騎士が、騎士団だけで使用するゲートを作っても良い。商人組織が、自分たちだけで利用するゲートを作っても良い。利用したい者がいれば、俺たちはその設計図をいつでも提供していく。そういうスタンスをとると、しっかり宣言した。
そこで、俺の計画を教える事にした。
この国の北の山の中にある盆地に、国を超え、貴賤無く受け入れる学校組織を作り、こういった魔法知識や、土木技術、製鉄技術、農業技術を教育、研究をする事。傭兵たちを国を超えてつなげ、ゲートや通信機で、自分に見合った依頼をこなせるようにする事を語った。
「要は、国を造るって事じゃねえか。」
「学校という場所は造りますが、それ以外の国土も国民も居ない国ですけどね。
もしも、そこへ、どこかの国の兵隊が攻めてきても、誰もいない建物を壊す事になるでしょうね。」
それを聞いて、ルーノスの親方が大笑いした。心底可笑しそうだ。
「すげえ。こんな面白い話を聞けるなんざ、思ってもいなかった。やっぱ、すげえな。」
「確かに、通信機やゲートがあれば、可能だろうな。問題は周辺国の態度か?」
エンデ伯が、貴族的な立場での問題点をあげてきた。
「おいおい、エンデの。こいつらは初めから言ってたぞ。周辺3カ国では、このワズムルが最後だってな。」
「あ、そうか。」
「はい。ワズムルで許可が貰えたら、早速地ならしをするつもりです。そしてめどが立った所で、ルブロンダルとシャシルからは正式な文書を頂く事になっています。多くの留学生や研究生を受け入れるという条件もありますが、それは、こちらからお願いするモノでもありますけどね。」
「おめえの所で学んだ者が、国に帰ってきて、その知識を広めるのも自由っていうか、推奨するわけだな?」
「はい、当然です。
本当に優秀な方には、教師役として残ってもらいたいんですけどね。」
「なるほどなぁ、これが、国として付き合わなければならない、って言ってたわけか。」
エンデ伯がしきりに頷いている。
「俺もこれほどとは思わなかったがな。
まぁ、こいつら以外が同じ事言っても、夢物語にしかならないが、ゲートや通信機、そして、千のモンスターを手玉にとった実績は無視できねえからなぁ。」
そう言って、ルーノス伯が再び豪快に笑った。
そして、ルーノスとエンデの両伯爵から、1ヶ月待って欲しいと正式に頼まれた。
1ヶ月で国王陛下との会談の場を設けると言う事で、そこで、公式に俺の主張を話して欲しいという。
俺としては今からでもかまわないんだけど、国王陛下に、ともなると、簡単じゃないのは経験済みだしね。
ルブロンダルやシャシルにもゲートの事を言っておかなければならないし、3カ国で情報の均一化を図るためにも1ヶ月という時間は丁度いいかも知れない。
ルーノスとエンデを結ぶ通信機はそのまま置いておいた方が、打ち合わせにも丁度良さそうなんで、別口で俺たちとルーノス親方との間で連絡が取れるように通信機を置く事にした。
そして、適当に周辺をぶらぶらしてきます、と言い置いて、ルブロンダルへと小型輸送艇を進めた。
まずは、ケルス先生の様子を確かめに行く。
実は10日も経っていないんだよねぇ。なんか、数ヶ月経っているような感じもする。
ルブロンダル国のケアイアの街。その東側にある、町医者、ケルス先生の家。その扉はいつも通りの姿をしていて、開けると、いつも通りの風景が、
広がっていなかった。
なんか、妙に混雑。しかも、城の中で見た、魔法師団のような人が大勢。でも、微妙に魔法師団とは違うかな?
なにこれ?
「ケルス先生!」「師匠!」
俺とジェイの声が響く。
「ああ、ここにいるよ!」
姿は見えないけど、声は届く。人波をかき分けて、声の元へと泳いでいった。
「ああ、お帰り、早かったねぇ。なんか、色が変わったかい?」
「あの、これは何の騒ぎですか?」
黒い装備なら、ケルス先生も見ているから、とりあえず話を進めよう。
「この連中かい? こいつらは、皆、あんたに弟子入りしたいっていう魔法使いだよ。」
その言葉で、そこにいた連中が一斉に俺たちを見つめた。なんか、殺気立ってるような。
「弟子入りですか? なんでまた。」
「こいつらは、もともと、領主に囲われてた魔法使いなんだよ。しかも、適当な事を言って金を出させてた詐欺師じゃなく、本物の魔法使いだ。
でもねぇ、いきなり現れたあんたたちに追い抜かれた、哀れな負け犬でもある。」
負け犬って、ケルス先生、言い過ぎでしょう。
「何をもって負け犬とか、勝ちとかが判りませんが。」
「わたしも確かめたが、こいつらはしっかり魔法力を持ってるんだ。でも、今まで呪文を完成する事が出来なかった。それが、気がついたら、誰もが魔法を使えるようになっちまったんだ。その時点で負け犬ってわけだよ。
出来た者、出来なかった者って違いが明確になったわけだね。」
「まぁ、言わんとする所は判りますが、それが、なぜ、俺たちの所への弟子入りって事になるんでしょう?」
「まぁ、簡単に言えば、あんたにくっついて、新しい魔法とか、そう言うのを見つけた件を見て、自分たちも新しい発見をしたいってことだろうね。
あんたを出し抜くために。」
「最後のぶっちゃけは、言わなかった方が良かったのでは?」
「お互い、本音でぶつかった方がスッキリするだろ。」
きっと、端から見ているケルス先生が、ウジウジしてるのを見たくないって言ってるんだねぇ。
「なるほど、良くわかりましたが、それが、なんでケルス先生の所へ?」
「魔法の力を込めた水晶に、並々ならぬ興味をお持ちでねぇ。ここには、ポーション製作用や、水道、コンロ、ストーブもあるしね。同じ物は、まだ、城にしか無いわけだしねぇ。
それに、あんたらが作る水晶と同じ物を作れた魔法使いは、未だ居ないそうだよ。」
「それは、まぁ、判りますけどね。みんな、精霊の力を借りてますから。」
「それも、一因らしいね。
つまり、自分たちも精霊の加護のおこぼれをもらおうって考えなんだろ。
そういう、卑しい連中だよ。」
「卑しいって、もともと、弟子入りとかってそう言うモノでしょう。
この連中、なんか、先生の癇に障るような事しましたか?」
「それがあれば、追い出す口実になったんだけどねぇ。」
「ああ、単に大人の対応するのも疲れて、鬱陶しいってことですね。」
「正解だよ。だから、こいつらを何とかしてくれ。」
これ以上ケルス先生に迷惑はかけられないということで、鬱陶しいと言われた集団を連れて街の外に移動する。適当な広場を見つけて改めて見回す。
魔法師団風の魔法使いたちは全部で8人。それぞれが大げさなコートやローブをまとっているので、体つきも大きく見える、これが鬱陶しかった最大の理由だね。
とりあえず、それぞれが、どの程度魔法を使えるのか聞いてみた。
光、火、水、土、風の属性魔法を、俺たちが広めた術式で知っているのが3人。それを知らなかったのは5人。その5人は、なにか、別の術式での魔法を知っているみたいだけど、それを聞く事は保留した。
そこで、いつもの魔法授業をここで始めて、全員に均一に話が出来るように情報を均した。
魔法入門の小冊子も渡して、まずは、独自の魔法で唯一の魔法使いとして生計を立てていくための方法論を語る事にした。
「今教えた魔法以外にも、俺たちは見つけた魔法を公開していく。そして、それによる犯罪や対抗策を必要とされる事も多くなるだろう。だから、魔法を起動させないという事や、打ち消す魔法は、実は早急に求められる技術でもある。
現在、城の魔法師団にも、そういった魔法技術の開発を目指してもらっている。この技術は、城や各領主の極秘重要技術になるだろう。持っている事を公にはしないだろうし、持っていなければ、是非にとも持ちたいと考えるだろう。
領主お抱えとして、魔法の研究をするのなら、是非ともそういった方面での研鑽を進めてもらいたい。」
さらに、魔法の水晶を作る手順や、魔法力が足りない場合の補い方、例外的な事ではあるけれど、と前置きして、水晶から精霊が魔法力を補給した事例を挙げたり、ドラゴンを倒して、その翼皮膜から魔法のカバンを作り出した事、水晶と銀のプレートで魔法道具を作り出した事を説明していった。
「これで、俺たちが知っている事のほとんどを説明した事になる。これで俺たちを出し抜けなかったら、もともとのセンスが無いってことになるかもな。」
そう言った時の魔法使いたちの顔は、いろんなモノが入り交じった表情をしていて、ちょっと愉快だった。
「俺たちは、まだ場所も建物も無いけれど、学びたいと思う者たちを集めて教えていくという、教育機関を作る事を考えている。教育だけではなく、研究も行い、その研究成果も教育として公開していく方式だ。
そのための、教える情報や技術も収拾している。
だから、俺たちに魔法に関する情報や技術を教えたら、それはそのまま、誰もが知る当たり前の技術になると思ってくれ。
つまり、俺たちについて行く場合、魔法知識や何らかの情報は、全て自分の物では無くなると思ってもいい。」
かなりの失望感を感じる。魔法を大儲けのための道具にしようというのがほとんどだったかな。儲からないどころか、マイナスになるという言葉で、俺たちについてきたいなんて、もうカケラも思っていないんだろうな。
じゃあ、とどめを刺してあげよう。
「つい先日、俺たちは南東にある国、ワズムルに行ってきた。そこでは、砂漠からの侵攻を受けていて、敵は多くのモンスターをワズムルの領地にけしかけるという方法をとってきた。
モンスターは高さ3メートル以上、体長5メートル以上のヘルハウンド、尻尾を伸ばしたら体長7メートルにもなる大サソリ、レギオンコングやファングキャットなどのモンスターが、約千ほど居た。
これが、ルーノス伯領とエンデ伯領の両領地に半数ずつで攻めてきた。
俺たちはこの戦いの初戦に参加し、約3割ほどを倒し、けしかけていた多頭巨人も倒し、モンスターの軍団を分散させる事に成功した。
俺たちについてくる事は、そう言った戦いに巻き込まれる事も多々ある事を覚悟して欲しい。」
かなり過小評価だけど、間違いは無いよね。きっと、過大に盛っている話だと思ってるだろうけど、俺たちには何故か、そういう傾向がついて回るようだし、覚悟の無いのは迷惑になるしねぇ。
「では、しっかり考えて、明日、昼頃、この場所で、覚悟の程を見せてもらいます。」
そう言って解散。俺たちはケルス先生の家に帰る事に。
「アキラ? まぁ、分かり切った話ではあるんですが、弟子として取る気は全くありませんよね?」
「肩を並べて歩く仲間ならいっぱい欲しい所だけど、誰かの面倒を見ながら旅する事が出来るほど、余裕はないからねぇ。
まして、俺の考え方と全く違うってのを一緒になんて、俺の目的からも遠のいちゃうしね。」
ケルス先生の所でも、同じ話になった。
「学校を作ったら、そこで研究するとかの人員も欲しいけど、研究した成果を自分だけの金儲けの為に使うってことも、やらせないようにしないとならないんだよね。」
「具体的な案とかはあるんですか?」
「研究の費用を年間で出すという時に、成果を聞いたり、予定を聞いたりとかかな。あとは、大きな成果を出した研究者には、さらに大きな金額での研究費を認めるとかね。」
「領主に取り入っていた、嘘の魔法使いのように騙されませんか?」
「目的が世間に公表する技術の開発だからねぇ。別の魔法使いが同じようにやってみて再現出来なければ意味がない、って検証の仕方をすれば、嘘の実績は作れなくなると思うんだけどね。」
「なるほど。そう言った評価形式も、募集の時にしっかり告知しておかないとなりませんね。」
「そうなんだよね。ジェイ、よろしくね。」
「え? 今、さらっと、とんでもない事言いませんでした?」
「とんでもない事? さぁ? 心当たりないけどなぁ。」
ドン、ドン
丁度その時に、ケルス先生の家のドアが叩かれた。急患かな?
「はい、今開けます。」
ジェイが素早くドアを開けると、そこには懐かしの商人殿の顔があった。えっと、誰だっけ? あ、アルシンだったけかな?
「エイプリル? なんて名前だっけ?」
『ルブロンダルに本店を持つ商人の子で、修行として行商を行っているアルシン殿です。ドラゴンのカバンの代金、金貨400枚の取引が継続中です。前回、ドラゴンの鱗を数枚渡しています。』
「ああ、お久しぶりです、アキラさん。」
「アルシンさん。お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」
密かにエイプリルに聞いて、だいたいを思い出した。短時間でいろんな人に会っていると、混乱しちゃうんだよねぇ。エイプリルって頼りになるなぁ。
「ええ、おかげさまで、商売の方も順調になりました。なにしろ、モンスターや山賊に襲われる事も減って、安心して街を移動できるので、取引も増えていっている所です。
それで、今回は取引の拡大をお願いしたくて参りました。」
ここで、椅子を勧めて、レイミーたちにジュースを渡してコップやお茶菓子の用意を頼んだ。
「取引はポーションですか?」
「はい。それと胡椒ですね。
ポーションの方は父に全部取られてしまいまして、行商を行っている者たちに配って仕舞ったんです。それでも足りないってことで、どんどん買ってこいと怒鳴られてしまいました。」
「ポーションの製作は、この街の薬師の所と、もう一件の医者の所でも出来るようになりましたから、ここで数が足りなければ、そちらでも買い求めて頂けますよ。
それに、ポーションの製作装置も余分に作りましたので、そちらもお分けできます。」
「そうですか、それはありがたい。ぜひ、買えるだけ頂きたい。
ああ、そう言えば、カバンの代金が未払いでしたね。」
そう言って、腰のカバンから重そうな金貨の袋を4つ取り出した。1つ100枚かぁ。
「ありがとうございました。とてもよい買い物をさせてもらいました。」
「いえ、お役に立って何よりです。実は、シャシル王国でもう1体のドラゴンと遭遇しまして、俺たちが直接戦ったんじゃないんですが、その翼皮膜を手に入れる事が出来たので、またカバンを作ってみました。
こちらも、前の物と同じに、未完成品ではありますが、役立てて貰えるのならお譲りしたいと思います。」
「本当ですか? それは、是非!」
シャシルで作ったブラックドラゴンのカバンの大きい方を1つ渡した。
「こちらの代金は結構ですよ。これからも大切な商売の関係を続けたいと思う俺からの気持ちです。」
「それはありがたい話です。父からも、なんとしてでも手に入れろとクドクドと言われてましたので。
それで思い出しましたが、父が是非とも、アキラ殿たちと話をしたいと申しておりました。
街と街を結ぶ馬車の構想や、商人組織の話をしたいようです。」
「ああ、それですかぁ。その話は、いったん無しにして貰えませんか。商人組織の方はいいですが、馬車の方はあまり現実的では無くなりました。」
なんか、裏切られたって顔をしてる。大丈夫かな。
「実は、魔法による遠隔地との会話が出来る仕組みが見つかりまして、その装置も作っている最中なんです。
さらに、空間転移呪文という魔法も発見しまして、その魔法で道具としてのゲートを作ると、魔法を使えない人や荷馬車も、一瞬で街から街へ移動できる物なんです。」
「そ、それは、前に言っていた、希望的な話でしたよね。」
「はい。通信魔法の方は、こちらのケルス先生の亡くなられた旦那さんが持っていた資料の中にありました。特殊な文字で読めなかったために見過ごしていたようです。空間転移魔法もワズムルのルーノス伯の領主の館にありました。こちらも、読めない文字だったので発見されていなかったようです。」
「では、読めない文字で書かれた文献には、何らかの魔法について書かれている可能性が高いのですか?」
「高いかどうかは判りませんが、縁があるのは確実でしょう。あの文字がどこの物なのかも調べてみたいんですけどね。まだまだ情報が足りません。」
「えっと、通信とかゲートとか言うのは、具体的に見せていただけますか?」
「そうですね。ゲートに関して、ルブロンダルの国王陛下に報告と、実際に設置する許可をもらいたいと思ってたので、一度、謁見の約束を取りたいと思ってましたので。」
そう言って、カバンから、俺たちとルブロンダルを結ぶ通信機を取り出した。
「これが、通信機ですかぁ。」
アルシンさんの感想をよそに、通信機を起動させて呼びかけた。
呼びかけには直ぐに答えが返り、相手の顔を声が現れた。
「こちらはルブロンダルの王城。通信係のメウゼと申します。」
しっかりと通信係を置いて、受け答えの練習もしてあるようだね。
「俺はアキラです。国王陛下への謁見の申請のためにこの通信を送っています。」
「謁見の申請ですね。重要度はどの程度になるか判りますか?」
「緊急性は低いですね。新しい魔法を発見したので、その説明と実際に設置して実行するという試しを行いたいというモノです。
その魔法は、空間転移魔法。街から街、もしくは国から国へと、物や人を一瞬で移動させてしまう魔法です。」
通信係が一所懸命にメモをとっているのが判る。頑張ってるねぇ。
「確認します。
アキラ殿が新しい魔法の発見の報告と、実行の許可を求める為の、陛下への謁見の申請ですね。
その魔法は空間転移魔法で、街から街、国から国の間を、人や物を一瞬で移動させる魔法。
という事で、よろしいでしょうか?」
「はい。確認しました。そのようにお伝えしてください。」
「確かにお受けしました。では。」
通信が終わり、水晶から投影されていた映像が消えた。
「い、今のは、ルブロンダルの王城と言ってましたね?」
「はい。陛下にもこの通信機の片割れを渡してありますので、必要な時に、今のように会話が出来るようになってます。俺たちは、シャシルの国王陛下と話す事も出来ますし、ルブロンダルとシャシルを結ぶ通信機も渡してあります。
普段は、今のように通信を受け取る係が受け答えするようですね。」
「ルブロンダルの城は、ここからでも、馬で2~3日はかかったと思いますが、まるで、直ぐ横に居るように話ができるんですね。」
「はい。両方ともが移動中でも、普通に会話が出来ます。この一抱えの装置だけで、他には必要ありませんしね。」
「こ、これも、」
「はい。今、作り置きが2セットありますので、お譲りできます。」
「ぜ、ぜ、ぜ、是非に!」
そして、俺の装備からの投影で、ルーノスとエンデを結ぶゲートの開通式典を映し出した。
言葉で説明するよりも、実際に目で見た方が早いしね。実際、石の台座に乗った親方の娘が消え、そのあとにエンデ伯と一緒に現れたのを見て、しきりに感心している。
「これは凄い。これがあれば、行商という商売も必要無くなるかも知れませんねぇ。」
「いえ。装置自体が大がかりになりますから、全ての街に設置するという事も難しいですね。それぞれのゲートに歩哨を立てて、変な事をされないようにする必要もありますし。
それに、これも通信機のように対になった関係で、行き先が決まっていますから、1つのゲートでどこへでも、というわけにはいきません。
初めのうちは、領主の居る街と王都を結ぶぐらいでいっぱいかも知れませんね。」
「我々、商人だけで、専用の物を作れればいいんですけどねぇ。」
「できますよ。」
「え?」
「ゲートに限らず、通信機も、ポーション製作装置も、作り方を全て公開しますから、あとは魔法力を持った人に魔法力を水晶に込めて貰えれば、同じ物を作れます。
ただ、ゲートは、強い魔法力が必要なので、それなりに強力な魔法力の水晶が必要になりますけどね。」
「要は、その水晶を作り出す事が出来る魔法使い次第ってことですね。」
「ご存じの通り、俺たちは魔法を広めています。そのせいで、そういった魔法使いも多くなってくるでしょう。
商人の間ででも、魔法を広めて貰えれば、魔法力の水晶を作る事を得意とした魔法使いも自力で生まれるかも知れませんね。」
それから、ポーション製作装置の使い方、通信機の使い方をしっかり覚えて、新しいドラゴンのカバンに入れて帰っていった。
代金はその時の手持ちの金貨200枚を置いていったが、そのうちの100枚を返して、その分で水晶自体を買うという事で話を通した。
水晶も、これから需要が増えるかもね。水晶に変わるモノを見つけるという課題も残ったままだった。磁石が雷系の力の根元になるかも、って所はわかってるんだけどねぇ。
その日は、ケルス先生宅で夕食会。こってりとしていて甘いシチューに先生も喜んでいた。フランは、それを再現しようと真剣に味わってたなぁ。まぁ。ジェイがいつも食べてますって暴露しちゃったせいだけどね。
次の日、アルシンさんに売ったせいで在庫が心許なくなったポーションを皆で補充しながら午前中を過ごし、昼頃になってから約束の広場に出かけていった。
皆も来たけど、目的は誰もいないってのを確認するためだって。
案の定、誰もいないって思ったら、なんか人の気配がする。
木に寄りかかるようにしている男が一人いて、俺たちに気付くと挨拶を寄こしてきた。
「こんにちは。」
まだ青年って感じの、細い男だ。もしかして弟子入り志願者? でも、身のこなしはちょっと武芸者っぽいんだよねぇ。
「全てを投げ打って弟子入りする覚悟のある魔法使いかな?」
「いや、いや、いや。そんなんじゃありません。ただ、そんなのが居るのかなぁ? って覗きに来た野次馬です。」
なんか、裏に含みを持っているような笑い方をするなぁ。どこかの諜報員とか勘ぐっちゃいそうだ。
「なるほど。野次馬かぁ。で、他に誰か見かけたかな?」
「いや、いや。誰も見かけてませんねぇ。誰も来ないんじゃありません?」
「誰でも、危ない橋は渡りたくは無いだろうしね。」
「危ない橋ですかぁ。いや、いや。なんで、そんな橋渡ってるんでしょうねぇ?」
この男に、人のため、皆のためって言って納得するのかなぁ? なんて思っていたら、後ろから足音が聞こえてきた。
一人の女性がこちらに向かって歩いてくる。
20代後半? ぐらいの、出る所は出て、引っ込んでいる所は引っ込んでいるという、なかなか色っぽい女性だ。しかも、美人。
「あら? 遅くなりましたか?」
「あなたは?」
服装的には昨日は見かけなかった、ゆったりとして品のいい感じの服装だ。王女殿下たちが着ていた服装を思い出す。
「失礼しました。わたくしは、ここより北にあります、名も無き村の出身でアインと申します。どうぞお見知りおきを。」
丁寧な挨拶と丁寧なお辞儀。なんか、場違いって感じがした。
「俺はアキラです。」
そう言って近づこうとして1歩踏み出した時、異様な気持ちに襲われた。
冷たい!
凍える。寒い。孤独。寂しい。一人っきり。
なんだこれ? ただ判った事は、アインと名乗った女からそれが流れ込んでくるって事。
飛ぶように後ろに下がって身構える。そしてアインと名乗る女性を睨み付けた。
「何者だ?」
右手は剣に手をかけ、左手は銃を握る。両方とも抜いてはいないけれど、一瞬で抜き放てるようにした。
「あらぁ、怖がらせちゃったかしら?」
ニヤニヤ笑ってる。俺が戦闘態勢で構えた事は判っているのに、なんなんだ、あの余裕は。
遅ればせながら、ジェイたちも下がってそれぞれの獲物を構えた。
「もう一度聞く。何者だ!」
「なんだと思う?」
あの余裕は何なんだ? たぶん、相当の実力があるのは判るけど、底が見えない。たぶん、人間の枠に入るレベルじゃないんだ。あの、ブラックドラゴンに匹敵する力を感じる。しかも、冷たい力だ。
「この冷たさは氷? 力はドラゴンの中級種以上はありそうだ。」
「ふふふふふ。せーかい。凄いのねぇ。そこまで判るなんて。」
ジェイたちの方が驚いてるよ。
「なぜ?」
何故ここに? なんの目的があって? どうして俺たちの前に現れた? そんな疑問を一言の中に込めて聞いた。
「なぜ? そうねぇ、なんでかな? あなたの事が気になってぇ、来ちゃったのよぉ。」
わざとらしい色気を出しながら言ってくる。目が笑ってないから、表情がいびつだ。
「一つだけ、はっきり答えろ。敵か?」
剣を握る手がブルブル震えそうだ。全身からイヤな汗がにじみ出ているのも感じる。気を抜けば、腰から力が抜けそうな、変な脱力感に襲われるのを必死に堪える。
「敵かぁ? そうねぇ、どっちだと思う?」
「………。」
味方になるような種類の力は感じられない。おそらく敵だろうけど、どのレベルでの敵かが判らない。ここで、変に敵対する事を宣言してしまったら、人の世が滅びるなんてこともあるかも知れない。
「あなたは不思議なのよねぇ。あなた自身からは、それほど大きな力は感じないのに、大きな力が集まっていっている。そういう、力の集まる中心って事なのかしら?
それが、とても興味深いの。」
全身が力の入れすぎで固くなっていってる。動かしてほぐしたい。でも、ピクリとでも動いたら、意図しない方向へ事態が動きそうだ。
「興味か。つまり、取り込むか、排除するか、どちらかにする対象ってわけだ。」
「あらぁ。無視する、というのと、ほどよいお友達関係を維持するってのが抜けてるわよ?」
「俺がそこに入る事はないんだろ?」
「まあねぇ。うっふふふふふふ。」
心底楽しんでるという感じがする。そして、笑うたびに周りが冷えていくような気さえする。って吐く息が白い。マジで気温が下がってる。
なんか、雪女とか、そういう妖怪系なのかな?
呪文とか使わずに周りに影響を与えているってのは、存在そのものがそういう系統なのかも。
剣を抜いて、超振動モードをオンにする。出力は押さえて、長時間使える状態に。
「ここでやるか?」
「やぁねぇ、はしたない。でも、そう言うのも嫌いじゃないわよ。
でも、残念ねぇ。あなたのお相手はこの子がしたいっていうのよぉ。」
アインの後ろから、ボロボロの服を着た大男が歩いてきた。
「ば、馬鹿な!」
なんか、悪役のセリフを吐き出しちゃった。でも、出てきたのが、
「ウェァウルフ。」
切り刻んで、心臓と脳の一部を、銀の箱に詰めて、太陽に向かうコースで射出したはず。いや、確実にした。なのに、なんで目の前にいるんだ?
「俺様、ふっかーっつ!
はっはー、久しぶりだなぁ、おめえら。」
その瞬間、銃を握っていた手を放し、背中のテイザー銃を握る。おそらく、銃を知っているウェァウルフは避けるだろう。だから、女に狙いを定めて構えた。
「おっと。」
その一言の、ほんの一瞬でウェァウルフが女の前に立ちふさがる。
その状況にかまわず、引き金を引く。
ギャン!
あっさり引っかかり、スタンガン効果の方で飛び上がった。
一気に後ろに下がり、
「エイプリル! レーザー攻撃! 狼男を殲滅!」
誰が聞いているとかかまわずに叫んだ。
同時にウェァウルフが赤く染まったと同時に破裂した。破裂した肉片もほとんどが消し炭状態。でも、そんな事を確認する暇もなく、俺は剣を構えて女へ突進。
状況に驚いて対応に隙を見せた女の腹を横に薙いだ。
人間の姿をしているモノの腹を横薙ぎってのは、さすがにきつい。手足に力が入らなくなりかけてる。だけど、あの狼男をあの子呼ばわりする存在に手加減なんかできるわけもない。
振り向いて、さらに切り刻もうとした時、女の姿を見て絶句した。
真っ白。
氷だ。氷で人形を作って、操っていたようだ。見た目もごまかす幻術もかかってたのかも。
上下2つに別れた氷の人形が、それぞれ立ち上がり、さらに大きくなって、2人のアインになった。
「いきなりなんて、激しいのねぇ。でも、テクニックはあるみたいだから、悪くはないわ。」
声は1つ。氷の人形に声帯があるわけじゃないから当然かな。だとすると、どこから音を出してる?
「エイプリル。索敵。本体はどこにいる?」
『不明。索敵継続中。』
「チッ!」
舌打ちしてから、灯りの呪文を唱える。闇系のモンスターなら、少しは影響があるはず。
腕の前に作り出した灯りを、氷の人形にぶち当てる。
一時的に氷の人形そのままの姿に見えたけれど、特に影響もなく通過した。どうやら、闇に関わるモンスターとかじゃないようだ。
光を大きくして、周囲の地面にこすりつけるように動かしていく。すると、
ギャギャギャガガガガ!
動物の悲鳴とも、金属がこすれる音とも知れない音が響き渡った。
「ウェァウルフの呪いに反応したか。」
俺のつぶやきに、アインと名乗った女が険しい表情を見せた。
とにかく、ウェァウルフの方だけでもどうにかしないと。
反応があった所に、光を押しつけ、ぼんやりと見える呪いそのものを焼き消していく。でも、強い。1人の力じゃ消しきれないか?
そう弱気になった所に、ジェイたち3人の光が合流した。
ギャーギャーガギギギギ!
聞いているだけで不快になる音を響かせながら、ウェァウルフの呪いが消えていく。
あと少し。
その時、アインと名乗る女の氷の人形が俺に飛びかかろうとしてきた。それに対してはレイミーが反応。光の魔法を止め、水魔法で氷の人形を吹き飛ばした。
さらに水をかけたあと、水を凍らせて人形を単なる氷山の形に変えてしまった。それを消滅させて消していくレイミー。人形そのものが無ければ、どうにも出来ないだろうね。
そして、ウェァウルフの呪いの浄化が完了した。
白く曇る息を吐き、激しく呼吸を繰り返しながら、地面に膝をついて座り込む。
「あーあ。せっかく手間暇かけて復活させたのにぃ。それを、いきなり浄化されちゃうなんて、困っちゃうわぁ。」
ちっとも困ってない感じのセリフが、どこからともなく響く。どうやら、今日の所はここまでにしてくれそうだ。
「お前は、いや、お前たちは、何者なんだ?」
呼吸が落ち着かないから、質問の声を出すのもきつい。でも、これだけは聞いておかなければね。
「ふふふふ。いいわよ、教えてあげる。
私たちはぁ、あなた達がモンスターと呼ぶ者たち。この世界でぇ、幸せに生きていこうと決めた者たち。そのために、人という存在が鬱陶しく感じた者たち。
そう感じた者たちが、願った存在。希望の存在。託された存在。
あなた達がモンスターと呼ぶ存在の代表ではないし、全体意志でもないけどぉ、私たちが未来を担っているのよ。
私たちはぁ、そういう存在なの。」
なんか、俺の事を言われたような気になった。それとも、俺が投下された事に寄る反作用とか?
「つまり、お前たちを殲滅すれば、モンスターたちが人を凌駕する可能性を1つ、消し去る事が出来るって事だな。」
「ふふふふ、その通りね。可能性の1つだけ。
私たちを滅ぼしても、世界は変わらない。私たちを滅ぼさなくても、変わらないかも知れない。
ふふ、どうする?」
「俺たちの壁となって立ちふさがったら、遠慮無くぶち破るだけだ。」
「ふふふふふ………。」
どこからか聞こえていた声が、消えていった。きっと、どこかに去ったんだろう。
俺の心も、もう大丈夫だという確信を持って、力を抜いていった。
その場にへたり込む。
「アキラ! 大丈夫ですか?」「アキラ!」「ふぁうあうあ~。」
ジェイたちが駆け寄ってくる。皆の表情も厳しい。
「こ、こわかった~。」
俺の間抜けな声で、皆の緊張も解けていっているようだ。ジェイたちもへたり込んでしまった。
「あれ? そう言えば、先に来ていた野次馬は?」
「あ、いませんねぇ。」
途中で怖くなって逃げたか、それとも、どこかの誰かに報告に走ったかな。
とにかく、俺たちはアインと名乗った女の集団、闇魔法を使うリザードマン、モンスターをけしかける昆虫人という、3つの勢力と戦ったわけだけど、実は、その3つが同一の勢力という可能性もでてきたわけだ。
周辺3カ国という枠ではなく、「人」という枠で、この脅威を知らしめていく必要も出てきたわけだね。
ああ、前途多難。大丈夫かねぇ。




