赤に厄をもたらす色(8)
赤丸の限界は近づいている。荒い呼吸の音が悠真にも聞こえる。薬師の小屋で異形の者と戦った時の傷口からは血が流れている。
はあ。はあ。はあ。
赤丸の呼吸は速く、浅く、それでも赤丸は色を弱めたりしない。
「まだやれるさ」
赤丸の声が聞こえ、悠真は目を閉じた。赤丸は己に言い聞かせているのだ。
「俺を生かすと覚悟を決めた人のために」
赤丸は続けた。目を閉じた悠真の世界は暗い。その中で悠真は赤丸の赤を持つ言葉を聞いていた。
「何が厄だ。何が厄色の子だ」
赤丸の赤を持つ声も翳り始めた。奮い立たせるような言葉も、力を持たない。
「まだ、やれるさ。せめて、この命を与えてくれた恩に報いるまでは」
直後、鈍い音が聞こえた。驚いた悠真が目を開くと、赤丸が両膝をついていた。それでも赤丸は紅の石を使い続けている。赤丸は命を削るように、色を放ち続けていた。
「赤丸、頑張れ」
悠真は思わず口にした。赤丸が悠真に目を向けた。悠真が見た赤丸の表情は強さを持っていた。まだ死なない。その信念が強く見られた。しかし、信念だけでは勝つことが出来ない。赤丸の身体が限界を迎えているのだ。
「赤丸」
悠真は思わず黒の色神から手を離しそうになった。赤丸を追い詰めている原因は悠真にある。
「手を離すな」
しかし、赤丸は悠真を止めるのだ。
「黒の色神を死なせることは出来ない。俺は、厄色なんかじゃない」
赤丸は荒い呼吸の合間に言った。諦めていないのだ。赤丸が諦めていないのに、悠真が逃げることは出来ない。
紅が来る。
義藤が来る。
助けはきっとくる。悠真は信じていた。
「よく持ちこたえたな」
赤い声が響き、直後悠真の横で鈍い音が響いた。