赤に厄をもたらす色(7)
当然の結果かもしれない。悠真が黒の色神に色を与えているのだから。悠真はその事実に気づき、色の流れを止めようとした。赤丸を見上げると、赤丸の苦痛に満ちた表情が見える。このままでは、赤丸が押し負けてしまう。
「手を止めるな、悠真。黒の色神が死ぬぞ」
赤丸が言った。
「案ずるな。押さえ込んでみせる。――押さえ込んでみせるさ」
まるで赤丸は己に言い聞かせているようであった。赤丸の額から流れる汗は滝のように続いている。悠真は赤丸を見た。不思議なことに、赤丸のことをかっこいいと思ったのだ。
「俺を信じろ、悠真。黒の色神を救え」
赤丸には人を惹き付ける魅力がある。赤丸なら、なんとかしてくれるかもしれない。そう思えるのだ。それは一重に赤丸の才能だ。野江に匹敵する術の才、都南に匹敵する剣術、佐久に匹敵する思慮深さと知性、赤丸が表の世界で生きる優れた術士に並ぶ才を持っているのは事実だ。義藤は努力を惜しまぬ天才。そして赤丸は努力を要さない天才なのだ。その才能が努力により開花するのか、生まれたときから開花しているのか、その違いだ。
悠真は赤丸から目を逸らした。これから悠真は黒の色神に色を渡す。その行為が赤丸を苦しめ、危険にさらす。赤丸と反対のことをしているのだから。そんな悠真の不安さえ見抜いているように、赤丸の優しい声が降ってきた。
「大丈夫だ。もう少しで紅が来る。義藤がくる。彼らがくれば、異形の者を押さえるに容易い。後は、悠真が黒の色神の命を繋げればいいだけだ。黒の色神の魂を、野江や都南が連れてくるまでな」
赤丸は優しい。その痛みも、苦しみも正面から受け止めてくれる。正面から許してくれる。それが赤丸だ。
赤と黒の攻防。悠真の身体の負担が少ない。それは黒の色神の身体を媒体としているためなのか、黒が近くにいるためなのか、悠真の力が強まっているからか、理由は様々に考えられる。悠真は赤丸と異形の者の攻防を見守るだけだ。その時は十分のようにも、一時間のようにも思えた。赤丸の一色は悠真の心を掻き乱し、悠真は逃れるように目を閉じた。