赤に厄をもたらす色(5)
このままではいけない。そう思うのに、悠真には何も出来ない。悠真は無力な小猿だから。
――もう少し、持ちこたえるのじゃ。赤丸。黒の色神の魂を、野江と都南が連れてこちらへ向かっておる。
赤が言った。黒は立ち尽くしていた。赤と黒の渦の前で、赤丸は額に汗を浮かべながら耐えていた。
「ならば、赤。紅に伝えてくれ。こちらへ来るなと。――そして悠真。ここから離れろ。俺から離れろ」
赤丸は紅の石の力を使いながら、悠真に言ったのだ。
「俺は色を不幸にする。色を不幸にするということは、色神を不幸にすることだ。俺から離れろ」
赤丸の一色が哀しみを浮かべていた。
「黒の言うことは事実だ。俺は厄色の子と呼ばれる存在。義藤と俺は違う。俺は、色神を不幸にする。悠真は無色の色神だ。無色の色神だからこそ、お前は俺から離れなきゃいけない」
赤丸の一色が苦しみを浮かべていた。孤独の赤い海の中、赤丸は一人で立っている。何が赤丸を追い詰めるのか、何が赤丸を苦しめるのか、悠真には分かっていた。忌み嫌われる存在だと、色を不幸にする存在だと、言われて嬉しい者などいない。色は赤丸を殺そうとする。
それは奇妙なことだ。悠真は赤丸の近くにいる。けれども、何ともない。もちろん、紅も赤丸の近くにいる。しかし紅の何ともない。あの時、下村登一の乱の時も赤丸は戦っていた。義藤の代わりに、戦っていた。しかし、紅は何ともなかった。なぜ、赤丸が忌み嫌われるのか、厄色の子とは何なのか。無力で無知な無色の小猿である悠真には分からない。
だが、分かることもある。
赤丸の強さと潔さ、全ては見て取れる。悠真の中の色がざわめくのは、赤丸の反応しているからかもしれない。
異形の者の力がさらに強まった。異形の者は黒の色神の命を喰っている。このままでは、黒の色神の身体は持ちこたえることが出来ない。
「どうすれば良いんだ」
悠真は呟いた。どうすれば、黒の色神を救うことが出来るのか、悠真は考えた。考えたところで、無力な悠真に分かるはずもない。だから悠真は駆け出した。黒の色神の身体から一色が抜けて、命が抜けることが恐ろしくて、悠真は赤丸と異形の者が放つ赤と黒の力の渦に向かって駆け出した。
――まったく!
悪態をつく黒の色神の声が響いた。
――それこそ、無色の小猿。
赤が低く言った。