赤に厄をもたらす色(2)
――無駄よ!
響いたのは黒の声だった。
――いざべら、止めてちょうだい。九朗を喰らっても、あなたの穴は埋まらないのよ!
黒は叫んでいた。赤と黒がせめぎあう。黒の色神を喰らおうとしている異形の者。そして、黒の色神を守る赤丸。赤丸の持つ赤が濁流のように強さを増していた。
「あなたが、黒だな」
ふと、赤丸の声が響いた。悠真は耳を疑った。赤丸は黒の姿を見ている。声を聞いている。色の姿を見ているのだ。
――あんた、あたしの姿を見ているっていうの?
黒は戸惑ったように一歩後ろに引いた。赤丸は紅の石の力を発動させ続け、異形の者を防ぎ続けていた。
「姿は見えていた。下村登一の乱の時、赤と共に悠真の前に立っていたな。薬師の屋敷で、俺が異形の者と対峙していた時、悠真を黒に染めたのもあなただな」
赤丸は黒の姿を見て、声を聞いて、会話をしている。漠然とだが、悠真は思っていた。色の姿を見ることが出来るのは特殊なことなのだと。しかし、赤丸には見えている。聞こえている。
「教えて欲しい。どうすれば、異形の者を止めることが出来る?どうすれば、黒の色神を身体に戻せる?」
赤丸の声色から焦りが伝わってきた。声が、赤丸の感情を伝えているのだ。しかし、赤丸の焦りを横に、黒は一歩、また一歩と後ろへ下がっている。
――あなた、厄色の子ね。
黒は一つ呟いた。黒の顔色が変わった。
怯えているのだ。黒は赤丸に怯えている。
――なんで、赤は厄色の子を生かしているの!だから、だから九朗は惑わされたのね。九朗がこんな目にあったのは、あんたのせいね!
黒は怯えたように叫んでいた。
(厄色の子)
黒は赤丸をそう称し、怯えていた。悠真には何が何なのか分からない。ただ、赤丸の一色と黒の色神の一色が反発したのは事実だ。赤丸が黒の姿を見ているのも事実だ。そして、黒が赤丸を見て怯えているのも事実だ。