赤に厄をもたらす色(1)
色の力を持つ者は、誰しも気づくだろう。赤と黒の反発により、官府の建物が軋み、揺れた。それは、合図だ。
――ここに黒の色神がいる。
――ここに、赤の力を持つ者がいる。
放たれた合図は、間違いなく紅と異形の者に届いたに違いない。
「来る」
悠真は辺りを見渡した。反発した赤と黒の力によるためか、赤丸の掌は傷つき、血が流れていた。赤丸が悠真の言葉に反応し、悠真に目を向けた。
濃厚な黒が迫ってくる。それは、異形の者の力だった。
赤丸の持つ一色と、黒の色神の一色が反応した。まるで、黒の色神が赤丸を拒絶したようであった。
真っ先に悠真の耳に響いたのは赤丸の叫び声、そして次に響いたのは建物が瓦解する音だった。
「逃げろ!」
そんな赤丸の叫び声。放たれる赤丸の赤い色。同時に、濃厚な黒が迫り来る。
そこに、異形の者が立っていた。
それはまるで、愛しいわが子を守る親のようであった。異形の者は醜悪な前足を赤丸に振り上げ、黒の色神を狙っていた。防いでいるのは、赤丸の持つ紅の石だ。
「紅、来るんじゃない!」
赤丸の叫び声。
迫る異形の者。
悠真の目に黒い色が写った。濃厚な黒の中には、核がない。異形の者の固体としての核は持つが、色としての核がない。異形の者の黒は、空っぽな空虚な色だ。当然かもしれない。黒の色神から切り離されているのだから。黒の色神の色を喰い、動いている。空虚な穴を埋めようとするかのように、異形の者は黒の色神を求める。