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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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赤を殺した者(6)

赤の赤い目が、何とも言えない輝きを持っていた。悠真は先代の紅を知らない。しかし、紅城には先代紅の色香が残っている。今の紅がそれを嫌わないためか、先代の気配は色濃い。野江や都南、佐久らがふとした拍子に口にする。先代が残したとされる物がある。紅が紅城の中を自由に動き回っているのは、先代が作り出した抜け道によるものだ。時代に恵まれなかったために、命を落としてしまった先代。若い命を育てることに長けていた先代。自然と、先代への崇拝の念が生じるのは自然な流れだ。黒の色神と先代が同じ。赤がそう表現した。赤が黒の色神を気に掛ける。ならば、黒の色神はここで死ぬべき存在でないのだ。

――行け。悠真。さすれば、赤星の生還の道が見つかるかもしれぬ。

赤が悠真の額を人差し指で強く押した。悠真の額を押し、悠真の心の背を押している。


 色が悠真の中を満たし、色が悠真の中を駆け巡る。ここにあるのは赤だ。少しはなれたところに、黒がいる。孤独な黒が孤独の中、渦のような波の中にいる。

(黒)

悠真は心の中で黒を感じた。

 官府の中に黒がある。濃厚でねっとりと絡むような黒だ。これは、異形の者の黒。抑制を失い、暴走している。暴走した黒は答えを探し、暴走した黒は暴走のまま身を滅ぼそうとしている。

 もう一つ、悠真は黒をみた。濃厚だが、澄んだ黒。黒というと、暗澹たる気持ちになる、そんな印象があるが、この黒は違う。黒だけれども澄んでいて、清清しさを覚える。消えそうな黒だ。


 悠真が生まれ育ったのは火の国。赤を高貴とする国で、赤に囲まれて育った。赤を優れた色として、赤を美しい色として、赤と共に生きてきた。赤が満たされた国で、赤の空気を吸って生きてきた。だからかもしれない。悠真はどこかで赤を好んでいた。赤の術士たちは一色に赤を持つ者が多い。だから赤を好む。悠真の心は赤を好んでいる。悠真の心は、黒を疎ましく思っていたのだ。


(赤は黒を思っている)


その事実は、赤の言葉を耳にしていれば分かることだ。黒は悪ではない。赤と黒は同じ色なのだ。黒の色神を助けろ、という赤の言葉は、悠真の耳に残った。


「黒の色神を助けて、黒の色神が紅を襲ったらどうするんだ?」


愚問かもしれないが、悠真は赤に尋ねた。すると赤は妖艶に笑った。


――黒の色神は、そのようなことをせぬ。わらわが保障する。黒の色神の人となりは多少なりとも分かっておるつもりじゃ。珍しく、あの黒が肩入れする色神じゃ。二度と、紅を狙ったりはせぬ。黒は強情で五月蝿い我侭娘じゃが、可愛らしいところもあるのからの。


赤の妖艶な色が濃くなり、赤は扇子を取り出し優雅に扇いだ。


「分かった」


悠真は赤星を床に寝かせた。


――赤星は優れた術士じゃ。簡単に死んだりせぬ。


赤の言葉を聞き、悠真は立ち上がった。悠真の心に赤い花が咲いた。黒い世界で赤く咲き誇る花だ。黒はどのような色なのか。黒の色神はどのような者なのか、悠真の心に黒を受け入れた。


 悠真は先へ進む。黒のために。


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