赤を殺した者(5)
答えを教えてくれる人が欲しかった。悠真は何をするべきなのか、教えて欲しかった。
「赤星」
悠真は赤星の名を呼んだ。何度、名を呼んでも赤星の返答はない。荒い呼吸が今にも消えそうに響いているのだ。
――前へ進め。
突如、濃厚な赤の気配が広がり、悠真の目の前に赤が立っていた。
「星が……」
悠真は赤星を抱きしめた。赤星の目は薄く開いているが、輝きが乏しかった。今にも赤星の命が消えそうで、悠真は辛かった。悠真の心が痛んだ。
――犬がどうしたと言うのじゃ?
赤が言い放った。切れ長の赤の目が、悠真をしかと捉えていた。
――犬がどうしたと言うのじゃ?
再度、赤が言った。まるで、赤は赤星のことなど、どうでも良いと思っているようであった。
「星の様子が変なんだ。俺は……」
悠真が赤星を助けたい、という前に赤は悠真の言葉を遮った。
――小猿がするべきことは、助からぬ命を助けるために泣き叫ぶことかえ?
赤の言葉は痛烈に悠真を追い込んだ。悠真を突き放し、残酷に現実を伝える。
「俺は」
助けたい。死なないで欲しい。その言葉が悠真は言えなかった。赤の濃度が色濃く、悠真は萎縮していたのだ。それに、赤の言葉が真実であると、悠真は分かっていたのだ。
――黒の色神を救え。黒の色神は優れた力を持つ男じゃ。代々色神に恵まれぬ黒が、心から信頼している男じゃ。黒の色神が命を落とすことは、火の国のためにならぬ。黒の色神の力は、きっと紅を救うじゃろう。
赤が悠真の頭にそっと手を伸ばした。赤く塗られた長い爪。赤は人差し指を立てて悠真の額を指した。
――先代の紅は優れた男じゃった。わらわも、先代には長く生きて欲しかったものじゃ。じゃが、先代は不運な男での。あのころは優れた術士が少なかったのじゃ。先々代の紅の暴挙で、赤影の多くが死に絶え、先代の仲間は少なかったのじゃ。当時、野江や都南はまだおらんじゃった。柴も幼かった。惣次も術士として優れた男であったが、どちらかと言えば教育者向き。実践で戦うには向かぬ。悠真、信じられるか?若き柴一人で陽緋と朱将を兼任しておったのじゃから。朱護頭さえおらぬ状況じゃ。信じておった朱護頭が先代を殺そうとしてから、先代は慎重になっておったのじゃ。先代は掛けておった。これからの未来に、未来のために若い術士を育てることに心血を注いだのじゃ。義藤、野江、都南、佐久、鶴蔵、柴、春市、千夏、秋幸、冬彦、そして赤丸。紅と同世代の若者が、紅を信じて戦っておる。何とも頼もしいことでないか。先代が育てたのは、柴、野江、都南、佐久、鶴蔵。先代が紅を救っておるのじゃぞ。先代は不運な男じゃが、希望を未来に繋いだのじゃ。黒の色神も同じじゃ。未だ、仲間に恵まれぬ色神。一人で戦うには辛かろう。じゃが、今の黒の色神は優れた男じゃ。今の黒の色神が踏ん張り、未来へ希望を繋がなければ、宵の国は再びすぐに戦乱に陥るじゃろう。悠真、黒の色神の生死には、宵の国の未来がかかっておる。黒の色神を救え。ここで命を落とすべき男ではあらぬ。わらわには重なって見えるのじゃ。先代の紅と、今の黒の色神がの。