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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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赤を殺した者(3)

 悠真は倒れて動かない赤星に目を向けた。赤星は深手を負っている。赤菊と葉乃が赤星に施した手当て。赤星の身体に巻かれた包帯は雨と泥で汚れ、赤い血が滲んでいた。

 初老の官吏は、まだ瓦礫を振り回している。振り回され、凶器と化した瓦礫であるが、悠真にはその動きがはっきりと見えていた。あんなもの、都南が振り回す竹刀に比べれば、大したことない。女性の野江のそれよりも遅い。ならば、傷ついていたとしても、赤影の一員である赤星ならば避けることが出来たはずだ。ならば赤星は避けなかったと考えられる。


――何のため?


答えは容易い。赤星は「犬」なのだ。只の犬だから、避けなかった。悠真はどうするべきなのか。赤星に頼ることは出来ない。悠真自身で答えを見つけなくてはならない。


 探し出すのは、黒の色神の身体。目の前には、初老の官吏がいる。初老の官吏が敵なのか、味方なのか分からない。秋幸は官吏の中にも紅に近しい考えを持つ者がいると言っていた。全員が敵のはずがない。初老の官吏が敵か、味方か。想像するに容易い。下村登一と似ているのだから、敵のはずだ。悠真は根拠のない理由で信じていた。

 何かの嘘をついて、初老の官吏から逃げるが良いか。相手は初老の官吏。戦って赤星を連れて逃げるが良いか。悠真は考えた。それは、一瞬の思考だ。

 初老の官吏は瓦礫を振り回している。激昂し、暴れている初老の官吏を言いくるめるような嘘を、悠真は考えることが出来なかった。

「待てよ」

思わず、悠真は言った。

「俺は術士だ」

悠真自身、何を言っているのか分からなかった。

「術士に俺に勝てるのか?」

何を言っているのか、悠真に考える余裕はなかった。官吏は敵だと、赤星に言われた言葉は覚えている。術士であることを明かすなと、言われたことも覚えている。けれども、悠真の口が勝手に動いているのだ。

「異形の者が官府で暴れていると連絡を受けて、ここまで来たのみ。今、ここで俺に武器を向けるのなら、遠慮はしない」

初老の官吏は目を見開いていた。

「官吏だからと言って、敬ったりしない。今はそんな事態じゃないからな。それに、今、ここで俺があんたと戦ったとして、俺が勝つのは明らかだ。何か責められれば、言い訳をすればいい。異形の者があんたを殺したってな。今は、戦場だ。この戦場で、礼儀が通じると思うか?」

悠真は紅の石を取り出した。これは、誰の石だったか。はっきりは思い出せない。悠真は紅の石を持っていないのだから。しかし、そんなことが初老の官吏に分かるはずがない。ここに紅の石を持つ者がいる。それだけで十分なのだ。

「瓦礫を置け」

悠真が初老の官吏に言うと、彼は瓦礫を落とすように捨てた。初老の官吏の表情は険しい。沸々と湧き上がる怒りを必死に抑えている。そんな印象だ。とりあえずは、ここで戦うつもりはない。悠真はそう信じた。


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