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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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迷える黒(19)

 クロウは思わず、柴の命の危険を伝えそうになった。しかし、伝えたところで何にもならない。自らの命の終焉に気づいている柴が、何も言わないのだから、きっと柴も言わないことを望んでいる。こういうところで、クロウは己が「死」に慣れていることを実感した。

 柴とクロウが出会ったのは今日だ。しかし、クロウは柴の大きさを感じ、柴の強さを知った。クロウが宵の国に欲したのは、野江や都南、赤丸や義藤だけでない。柴もその一人だ。


――柴は死ぬ


クロウは後悔した。この、優れた男を殺すのは柴なのだ。クロウの罪は重く深い。イザベラの暴走を抑え、自らの身体に戻ったとして、クロウは紅や赤の術士に合わせる顔が無い。紅がクロウを許しても、赤の術士がクロウを許しても、クロウは自分を許すことが出来ない。


「九朗」


柴が九朗を呼んだ。その表情は大きく、温かい。


「俺は黒の色を誤解していた。黒の色神に、こんなことを言うのは失礼だろうが、言わせて貰う。自分の色は見えないから、きっと九朗は気づいていないのだろう。九朗の色は、強い黒だ。疾風のごとき黒。きっと、宵の国は変わる。疾風のごとき黒が駆け抜けた大地には、新たな未来が芽生える。俺は、九朗の懺悔の言葉と、その色を見て九朗を信じようと思ったんだ。野江と都南と共に行け。紅のことを頼んだ」


大きく笑った柴はゆっくりと息を吐いた。クロウの言葉を聞いて、何とも言えない気持ちになった。クロウは色神だから色を見ることが得意だ。人が持つ一色が分かる。しかし、己の一色を見られたことはない。


――疾風のごとき黒


嬉しく感じたのは言うまでもない。


――宵の国は変われる


それは、火の国の民である柴がクロウを認め、宵の国の未来を信じてくれたことの喜びだ。柴は優れた術士だ。一色を見る力を持つ。クロウは柴という男に強く背中を押されたのだ。クロウは黒の色神だ。紅は赤の色神だ。決して、歩む道が交わることはない。黒と赤が対立を続ける限り、その器であるクロウと紅の未来は交わらないのだ。敵対し続け、争い続ける。黒と赤は色の覇権を巡り、クロウと紅は国の繁栄を巡って争うのだ。

 火の国にとって敵でしかないクロウ。そしてクロウは火の国でイザベラを暴れさせた。赤の術士を傷つけ、紅を追い込み、火の国を混乱に陥れた。


――宵の国は変われる


宵の国は統一された。これからがスタートなのだ。


「行ってください」


赤菊が言い、都南はクロウを肩に乗せると立ち上がった。野江が静かに都南に続き、クロウは赤の術士と共に外に出た。土砂降りの雨はいつの間にか上がっていた。


 都南と野江は身軽な動作で馬に跨った。ぬかるんだ土の上を、馬が疾風のごとく駆け抜けていった。


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