迷える黒(16)
クロウは野江と都南、そして柴らを見た。火の国に来て、何度溜め息をつけばよいのだろう。何度、赤の色神紅を羨ましいと思えば良いのだろう。クロウが持っていないものを紅は持っている。クロウが欲している仲間を紅は手にしている。
――迷子の羊は闇に迷う
行き先も分からず闇に迷う
泣きながら闇に迷う
一人で迷って追いかける
影を追いかける
逃げるよ
逃げるよ
迷子の羊は一人ぼっち
迷子の羊は闇に迷う
行き先も分からず闇に迷う
泣きながら闇に迷う
誰も助けてくれないよ
迷子の羊は嫌われ者
逃げるよ
逃げるよ
迷子の羊は一人ぼっち
クロウは歌を思い出した。まるで、クロウは迷子の羊。だから、クロウは歌の続きを考えた。クロウの権限で、続きを流行させても良い。
――迷子の羊は闇に迷う
行き先も分からず道に迷う
一人ぼっちで闇に迷う
迷子の羊がもう一人
おいで
おいで
一緒なら一人じゃないから
迷子の羊は闇に迷う
行き先も分からず闇に迷う
仲間と一緒に闇に迷う
皆で一緒に歩いていく
明るい
明るい
一緒ならどんな道でも大丈夫
クロウが火の国で見たのは、仲間を思う強い紅と、強く紅を思う仲間だ。これが火の国の強さの秘訣。国を閉ざした小さな島国が強くあれる理由。クロウは答えを見つけた。
「それで、あたくしたちは何をするの?とりあえず、紅に今の状況を報告しましょう」
野江が紫の石を取り出した。クロウは野江と都南に頭を下げた。
「イザベラが暴走している。俺の支配を潜り抜け、俺の力を貪り食いながら暴走している。このまま、イザベラを放置できない。もう一度、支配下に置かなくてはならない。連れて行ってくれ。俺の身体の元へ。そこに、イザベラもいるはずだ」
クロウが頼むと、柴が大きく笑った。柴の笑いには力がある。辺りを明るくする力だ。きっと、この力が紅を支えている。クロウは柴を見ていると、温かい気持ちになった。
「黒の色神の身体はどこにあるんだ?」
柴がクロウに尋ねた。クロウの身体は官府にある。クロウは答えようとしたが、言葉が出なかった。自分と赤の術士の間に大きな距離があるように思えるのだ。生まれた国が違う。使う色が違う。しかし、それだけではない。
「クロウだ」
思わず、クロウは言った。戸惑っているのは赤の術士らだけではない。当の本人のクロウの困惑している。なぜ、名を告げようと思ったのか、その理由は分からない。名を伝えることで、赤の術士との距離を縮めようと思ったのかもしれない。
――赤と黒
決して合い慣れない存在だ。合い慣れないのに、クロウは距離を縮めようとしている。彼らは紅の仲間だ。クロウの仲間ではない。仲間でないクロウは、彼らに何を伝えようとしているのだろうか。仲間でないと分かっているからこそ、寂しさが深まった。