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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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迷える黒(15)

 クロウは、無事に体に戻ることが出来たら宵の国に帰ろうと思った。宵の国で待つヴァネッサのために、そして宵の国の未来のために。柴は言っていた。先代の紅が彼らに残した言葉を。紅は一人じゃない。先代から、脈々と受け継がれている思いがあり、先代の紅への信頼が、彼らの絆を強くしている。その先代が命を落とした理由。想像するに容易い。


――殺されたのか……


クロウは瑞江寿和を思い出した。人を殺したことがある官吏。戦いに生きたクロウが見るのだから、間違いない。瑞江寿和は人を殺したことがある。


――まさかな。


クロウは自嘲した。先代の紅がいかに優れた人なのか、野江や都南、そして柴の話を聞いていると分かる。言葉にしなくても、彼らは先代を敬い、今でも先代の思いに答えようとしている。先代は未来を育てたということだ。

 クロウは火の国に来て、宵の国の未来を思った。宵の国が真の平和を手にするのは、もっと未来の話だろう。宵の国に比べて平和な火の国でも、内部に戦いが存在する。だから、クロウは宵の国に帰ってしなければならない。


――次代のクロウのために。


宵の国を統一したのは、クロウの願いだ。その次のこと。クロウの重責は大きい。少しでも負担を軽くするために、クロウはしなくてはならない。次のクロウが優れた者であることを信じて、次のクロウが宵の国に平和を導いてくれると信じて、クロウは己が死んだ未来を考えなくてはならない。もし、クロウが力及ばずとも、次のクロウがヴァネッサが望む未来を作り出してくれる。


思わず、クロウは尋ねていた。今の紅は優れた女性だ。強く、賢く、覚悟もある。しかし、今の紅が立つための地盤を作ったのは先代なのだ。

「先代の紅は、どんな人だった?」

そんな唐突な問いに、野江が笑った。

「素敵な人よ。穏やかなのに、芯の強い人。あたくしたちを強い術士に育ててくれたのは、先代なの。もちろん、今の紅のことも大好きよ。あの子は、とても強い子だから。年上のあたくしたちが逆らえない強さを持っているから。先代と紅を比べることなんて出来ないわね」

クロウに先代の紅を知る由はない。しかし、赤の術士の先代への思いの深さから、知らぬ人である先代の紅の人となりが分かった。


――国は脈々と繋がっている。


クロウは、宵の国に繋がる未来を夢みた。


「俺が倒れても、次の色神が救ってくれるだろうか?」


そんなクロウの独り言に、都南が突き放すように返答した。

「生きろよ。まだ命があるのに、次の代へ責を望むのは間違っている」

都南の言葉は強く、クロウの背を押す。クロウはヴァネッサを守って戦ってきた。一緒に戦うのではなく、守るために戦っていた。思えば、クロウは孤独だったのだ。信頼できる人もいない。クロウは一人だ。


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