迷える黒(14)
クロウは足を進めた。小さな異形の者の姿となったのは、クロウの罪だ。クロウは小さき異形の者の姿で頭を下げた。
「助けて欲しい。少なくとも、イザベラを止めることに協力して欲しい。イザベラを止めなくては、火の国は滅ぼされてしまう。イザベラを止めた後に、俺を殺すなら好きにすれば良い。もし、俺がそちらの立場なら、迷うことなく命を奪っている。それが宵の国だから」
クロウは続けた。
「火の国は美しい国だ。宵の国とは違う。俺は、この国に来て分かったんだ。この国を滅ぼしたくない。だから、イザベラを止めるのに協力して欲しい。信じられないのは分かる。俺は、火の国の内部で争いを起こした。許されないことをした。赤の術士たちを傷つけた。殺そうとした。己の罪を理解したうえで、頼んでいるんだ」
クロウが言うと、困惑したように野江と都南が動きを止めた。そんな二人を後押しするように、柴が言った。
「怯えるな。野江、都南。受け入れろ。異色も異国も俺たちにとっては、馴染みの無いものだ。だが、異なるからと言って拒絶する理由も無い。これから、黒の色神と友好を築くことも出来る。自分に正直になれ。責任も立場も捨てて、考えろ。野江、都南。お前たちは、黒の色神を殺したいのか?」
野江が俯いた。
「あたくしは……」
野江はそれ以上何も言わなかった。都南も押し黙っている。そして柴は言った。
「先代を思い出せ。俺たちを我が子のように、家族のように接してくれた先代を。先代は俺たちに教えてくれただろ。受け入れることの勇気をな」
都南が刀を鞘ごとはずし、強く床をついた。ドンと鈍い音が響き、クロウの身体に振動が走った。同時に、都南は片膝を着き、前のめりになって言った。
「黒の色神、俺たちに何が出来る?どうやれば、火の国を守ることが出来る?」
都南の声は強い。野江が困惑していた。
「都南、あなた……」
野江は困惑を深めていた。それでも、何かが野江の背を押したようで、野江は一つ息を吐いた。
「分かったわ。あたくしは何をすれば良いの?」
野江は言い放った。彼らは鮮やかな赤い色を持っている。クロウは何も言えずに二人の様子を見守った。都南は言い放った。
「忘れるな、黒の色神。もし、もう一度火の国に害をなすようなことがあれば、俺は迷うことなく、あんたの命を狙う。これが、俺が朱将として斬り捨てることが出来ないことだ。どんなに火の国が平和であっても、俺たちは戦いの中にいる。命を奪うことも、命を奪われることも恐れない。大切な人を守るため、大切だった人が残した言葉を守るため、己の信念に背かないため、俺は戦う。先代との約束を破ったりしない」
都南は決してクロウの心を開いていない。それでも、クロウに力を貸すと言ったのは、火の国のためだろう。それほどまでに、火の国を思う術士たちがここにいる。クロウが持っていないものだ。