迷える黒(11)
柴は一気に話すと、一つ息をつき続けた。
「そして、都南。都南が気になっている彼だが」
クロウはそっと前に出た。柴は気づいている。クロウが黒の色神であることを。一色を見ることに長けているのなら、クロウが黒の色神と気づいても不思議でない。
「彼は、黒の色神だ。俺が戦った異形の者と同じ色をしている。濃厚で澄んだ黒だ。加工師柴の目を信じろ」
柴の声に力が入っていた。驚愕しているのは野江と都南だ。当然かもしれない。二人にとって黒の色神は敵であり、紅と同様に畏怖すべき存在であるのだ。人であり、人であらざるもの。只の人間にとって、色神とはそのような存在だ。その黒の色神が小さき異形の者に姿を変え、目の前にいる。容易く、その首を折ることが出来るほどの、か弱き姿で。
野江が震えた声で言った。
「柴のことは信じているわ。でも、あたくしは理解できないの。黒の色神は、同類の存在。なぜ、そのような人がこんな……」
野江は怯えているのだ。今の状況に怯えているのだ。都南が刀の柄を握りながら言った。
「どういうことだ?黒の色神は、火の国を狙いここに来たはずだ。悠真を狙い、柴と戦った。なぜ、黒の色神がここにいて、柴と一緒にいるんだ?なぜ、柴は黒の色神を庇うんだ?黒の色神は火の国を喰おうとしていたはずだ」
都南の手は落ち着きなく刀の柄に触れている。必死に不安を抑えているようであった。
クロウは野江、都南、柴、赤菊を見渡した。小さい異形の者と姿を変えてしまったクロウは、彼らがその気になれば容易く命を奪われてしまう。
――迷子の羊は闇に迷う
行き先も分からず闇に迷う
泣きながら闇に迷う
一人で迷って追いかける
影を追いかける
逃げるよ
逃げるよ
迷子の羊は一人ぼっち
迷子の羊は闇に迷う
行き先も分からず闇に迷う
泣きながら闇に迷う
誰も助けてくれないよ
迷子の羊は嫌われ者
逃げるよ
逃げるよ
迷子の羊は一人ぼっち
ふと、クロウの脳裏に宵の国の動揺が思い出された。「迷子の羊」という、少し怖い歌だ。