迷える黒(3)
倒れる薬師と術士、そして傷ついた男はすぐに見けた時、動き始めてからかなりの時間がたっていた。茂みの先の川のほとりで三人は横たわり、冷たい雨に濡れていた。
「こんなところにいたのか」
クロウは一人呟いた。眠っているから彼らに聞こえたりしない。それでもクロウは話しかけていた。
「殺すつもりはなかったとはいえ、怪我をさせてすまなかった。俺が弱いばかりに、このような事態に陥ってしまった」
聞こえる音は雨が森の葉を叩く音だけ。
「答えが見つかると思ったんだ。火の国に来れば、答えが分かると思ったんだ。でも、俺は一時の感情やプライドに押し流されて、大切なものを見失ってしまった。すまない。約束する。誰も死なせたりしないと」
クロウは懺悔を続けた。
「紅は素晴らしい色神だ。そして、紅を守る術士も優れた者ばかりだ。こんな、情けない姿だが、俺は出来ることをする。その過程で命を落とそうとも、俺は負けたりしない」
それは、クロウの決意の意志だ。言葉にすると、成し遂げるのだと力がみなぎってくる。クロウは、負けたりしない。
クロウは野江や都南が彼らの救出に来る前に間に合った。そして、間に合ったことに安堵した。この森の中、小さき異形の者の身体では、都まで戻ることは出来ない。クロウは傷ついた術士の男の横に移動した。火の国の民にしては大きな身体をしている。団子屋で、無色の小猿「悠真」を守るために戦い始めたとき、クロウは驚いた。術士としての力は一流だ。その上、悠真が正体を知らないと言うことは、男も悠真のことを知らないはずだ。赤影とも思い難い。赤影ならば、赤丸も違った行動をとるはずだ。クロウがまじまじと男を見ていると、馬の蹄の音が響いた。地面に近いから、足の響きも伝わってくる。
「来た」
クロウは術士の男の前に立った。立ったところで、小さい異形の者はネズミほどの大きさにしかならない。気づくかどうか分からない。気づいてもらわなくてはならない。しかし、気づかれて、命を狙われる可能性も高い。クロウは異形の者の姿。その上、異形の者は火の国で暴れまわっている。殺されるかもしれない。
だが……
後戻りは出来ない。