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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
263/785

迷える黒(1)

 雨が降っていた。

 雨の中クロウは立ち尽くしていた。


 かといって、立ち尽くす体がない。クロウは逃げ去るイザベラを見送るしか出来なかった。イザベラは赤丸と悠真と犬を連れて飛び立った。


「イザベラ」


クロウはイザベラを呼んだが、その声はイザベラに届くことはない。クロウは体を失い、小さき異形の者の中に入ったのだ。力が十分に入らない。それは、イザベラがクロウの力を喰っているからだ。


「イザベラ」


クロウはイザベラを呼んだ。このまま、身体と切り離されれば、クロウの命は長く持たないだろう。宵の国を救う道を探して、火の国まで足を伸ばして、結果がこれだ。ヴァネッサにあわせる顔がない。もう一度、顔を合わせることが出来れば、の話だが。


――クロウ。


黒が泣いていた。飛び去るイザベラを身ながら、黒が泣いていた。黒は草むらの中にいるクロウに気づいていない。


――主は十分頑張った。あとは、紅に任せてみぬか?


赤が優雅に言った。


――我らが出来ることは限られる。この人間の世で、主が出来ることも限られる。紅がおる。赤丸もおる。義藤もおる。悠真もおる。何も心配するな。


赤が笑い、そして囁いた。


――安心しろ。共に行かぬか?官府へ。


赤い唇が優雅に言葉を刻み、赤と黒は掻き消えた。小さき異形の者となった、クロウに出来ることは限られている。

 雨に濡れたクロウは、小さき異形の者の身体で動いた。自由にならない手足。それでも、身体を手に入れることが出来たのは、幸運だ。あのまま、命を落としていても可笑しくない。

 クロウは、無色の小猿に感謝しなくてはならない。赤丸にも感謝しなくてはならない。あのまま、暴走を続ければ、きっとクロウは火の国を滅ぼし、宵の国も滅ぼしていただろう。


 しかし……


 クロウは未来を失った。このままどうすれば良いのか、何が正解なのか、クロウには分からない。これまで、クロウは力を持っていた。しかし、今は違う。身体を失い、異形の者を失い、黒の色神としての力を持っていない。



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