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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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藤色の守護者(25)

――火の国の安定のためには、紅と官府の歩み寄りが必要だ。だが今は、その時ではない。官府は力を持ち、紅には優れた術士の仲間が少ない。その上、先の紅の暴挙で、紅の絶対的仲間である赤影が極端に少なく、残った赤影も戦いには適さない。だから今は、官府と歩み寄ることは出来ない。官府は弱った紅を喰おうとし、紅にはそれを凌ぐ力がない。だが、この先は分からない。力を持った子供がいる。野江、都南、佐久がいる。柴は加工師としての才能を持ち、野江についてきた鶴蔵はからくり師としての才覚を示した。これから、未来は変わる。その時、俺が生きているのか分からない。だから、賭けたいんだ。俺が、本意を遂げず死んだ時のために、次の紅にな。次の紅が、俺のように官府との歩み寄りを考えたとき、手助けをして欲しい。もしかしたら身分を隠してくるかもしれない。何せ、紅は命を狙われているから。その時のために、渡しておく。一度だけ、紅に反応する石を。柴が試作したのだが、おそらく間違いないだろう。


源三は色を失い砕けた石を畳みの上に置いた。


「紅は強い色を持つそうで、それに反応する石を持っていただけです」

紅は畳みの上に胡坐をかいて座り、源三と向かい合った。

「先代は優れた男だったと、様々な人から聞いた。生き残った赤影から、野江や都南、佐久らから。それでも、源三の言葉が先代を最も語っている。先代は、優れた人だ。それでも、恵まれなかった部分がある。それに比べて、私は幸福者だ。信頼できる優れた術士に恵まれ、こうやって先代も守ってくれている。この絵を描いたのも先代だな」

紅が言うと源三は深く頭を下げた。

「儂と先代は、彼が紅となる前からの付き合いでした。紅となってからも、会いに来てくれたのだから、彼は儂のことを友と思ってくれていたのでしょう。この絵も、彼が生きていた証。紅となる前の風来坊時代に描いた物、紅となってから公務の間に描いた物、いずれにしても彼が見た世界はここにある」

源三は嬉しそうに笑った。

 義藤は胸をつかまれたような気持ちがした。


――藤


義藤の目に涙が浮かんだ。


――藤月


ここに藤色がある。


――忠藤


――義藤


義藤は藤に繋がる思いを見た。


 そっと、源三の言葉が響いた。


「何度も噂を聞いた。紅の傍らにいる義藤。常に、紅の近くにいて支える。藤色の守護者。きっと、先代が手にすることが出来なかった仲間の一人が、義藤なのだろう」


源三の言葉が温かく響いた。


「藤は赤と対極の色だ。かといって青ではない。紫でもない。藤の花の色。赤を引き立たせ、赤の代わりを務める。奴が、赤を使えぬ火の国で美しさを見出したのは藤の色。藤とともにあるのは、何とも美しい色だ」


義藤の目から涙が零れた。これでは、小猿を馬鹿にすることが出来ない。


――藤色の守護者。


源三から表現されたことが嬉しかった。義藤は、母から与えられた名の意味がようやく分かったような気がした。

 兄の忠藤、弟の義藤。忠義の意味。そして藤の意味。生まれた意味が分かったような気がした。



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