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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と来訪者
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藤色の守護者(23)

 義藤が絵に目を奪われていることに気づいたのか、源三がゆっくりと笑った。

「美しき絵だと思わないか?赤を使えない火の国で、赤の代わりに藤色を使い、見事な芸術を作り出した」

義藤は絵の中に引き込まれそうであった。女性の絵の他に、火の国の自然を描いた美しき風景もある。きっと、この絵を描いた絵師の目に見える世界はとても美しいものなのだろう。そう思えるほどだった。

「この絵が描かれたのは、二十年ほど前のことだ。世間に無頓着な男でな。それでも、確かな未来を見ていた。儂がここまで道に迷わず、己を信じて歩んでこれたのはその男のおかげだ」

義藤は思わず源三に尋ねていた。

「その絵師はどうなったんですか?」

源三に対する不信感も、何もかも消えてしまう。そのような魅力が絵にあった。芸術に興味が無くても、芸術の価値が分からなくても、この絵は義藤の心を強く握り締めるのだ。

「儂より遥かに年下の若造だったのだが、良い奴でな。儂にとっては良い友じゃった。だが、突然姿を消してな。風の噂で死んだとされたが、何度か姿を見せたのだから、死んだというのは嘘だろう。姿を見せるときは、その絵に描かれた女性と一緒だった。美しい女性だった。絵師の癖に、未来を見ていた。官吏の儂に、面と向かって文句を言うほどだ。絵と美しきもの以外に興味を示さず、世界に無関心だと思っていた男が、誰よりも火の国と火の国で生きる者の未来を案じて追ったのだから、儂が触発されたのは言うまでもない。儂は、奴に負けぬようにここまで歩いてきたのだから」

源三は穏やかな目を義藤に向けた。

「その話、私も初めて聞きました。源三様、決して話そうとしませんでしたから」

可那が不満そうに言った。

「そう、これは秘密なことだ。誰にも話すことが出来ない秘密だ」

源三は穏やかな目で絵を見ていた。

「だったら、なぜ……?」

可那が問うと、源三は笑った。

「そこの方、よく似ておる。儂の友とな。思い出させてもらった。友との思い出を。友が描いていた未来を、友が持っていた強い覚悟を。他の官吏からの軋轢に負けそうな儂を振るいたたせてくれる、その強さを」

源三が義藤を見て笑った。そして、源三はゆっくりと立ち上がり、書卓の下から木箱を取り出した。

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