藤色の守護者(21)
可那は源三を探している。そして、その前に貴重な書物を引き取りに向かい、書棚の下敷きになった。義藤が持っている書物にどれほどの価値があるのか分からないが、それなりの価値があるはずだ。可那は命の危険を知りつつ、探しに来たのだから。
可那と秋幸が前を歩き、義藤は紅と一緒に後ろを歩いた。
「まさか、お前が誰かを連れてくるとは思わなかったよ」
紅が義藤の腕を叩いた。
「連れて来るつもりは無かったが、源三という名に聞き覚えがあったからな。そもそも、俺たちは源三と接触するために、こんな無茶な潜入をしたんだろ。源三がこの官府に残っているのなら、一人にすることは出来ない。ここで死なせることは出来ないだろ」
義藤が言うと、紅は笑った。
「本当にお前は頼りになる奴だな」
紅は笑った。
義藤たちが接触しようとしている源三という男は何者なのか。想像も出来ない。逃げなかったのは覚悟があるからか、一人でいることを望んでいるからか、何も分からないが、とにかく源三が何かしらの強い意思を持っているのは事実だ。
「異形の者が暴れて、源三と接触する機会を持つ。何とも言えないな。現実というものは」
紅が苦笑していた。
「源三が何を思っているのか、俺は知らない。けれども、この官府の中で紅に味方しようというのだから、よほどの覚悟を持っているはずだ。それに、あの可那。ただの五月蝿い官吏ということではなさそうだ。それで紅。赤丸や悠真は大丈夫か?」
義藤は前を歩く可那を見ていた。それでも、心の隅で赤丸や悠真を案じていた。
「問題ない。助けを求める連絡が来ていないからな。そもそも、赤丸は紫の石を持っていないのだが……。戻ったら、悠真にも紫の石を持たせるべきだな。義藤、使い方を教えてやれ」
紅は笑い、ゆっくりと言った。
「赤丸のことは案ずるな。お前が言ったんだろ。あの異形の者に一人で挑んだのだから。――次に、異形の者と対峙しても、首を落とすような策は通用しないだろうから、次の手を考えなくてはいけないな」
紅が当然のように言った。もちろん、義藤がその言葉の内容を理解するのには時間がかかった。
「なぜ、通用しないんだ?」
首を落として押さえつける。それは、異形の者に対抗する唯一の策であった。通用しないということは、異形の者へ対抗する術を失うということだ。義藤は知らないが、下村登一の乱の時のように、追い詰められるということだ。
「術士の存在さ。あの、異形の者は黒の色神から切り離され、暴走しているに過ぎなかった。しかし、本来ならば、異形の者の上には術士がいる。術士がいれば、あんな分かりやすいところに核は無いし、移動させたり、隠されたりして探し出すことは困難に等しいな。異形の者は黒の色神に力を喰って成長している。次に対峙したところで、核は隠されているだろうな」
何とも悠長に紅は危機を伝えた。
「ならば、どうやって戦うつもりだ?」
義藤は思わず紅の手を掴んだ。紅は赤く笑い、そして義藤の手を振り払った。
「何とかする。何とかするさ。ここは火の国。喰われてたまるか」
紅の目が強く赤い光を灯した。ならば、義藤の行動は決まっている。紅を守る。それだけだ。